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不適切会計の手段 -利益操作(1)東芝、来月に新経営陣 不適切会計、歴代3社長が辞任 外部人材で刷新委 より学習開始

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 不適切会計か会計不正か粉飾か

会計(基礎編)

マスコミの報道では、財務諸表の虚偽記載の事実をどういう呼称で表現するか、微妙な言い回しのルールがあるようです。刑事告発される前は「不適切会計」、その後は「粉飾」。ただし、日本公認会士協会が出している文書では、会計数値の作成者に、何らかの数値操作の意図があった場合は、「不正」「粉飾」と呼称することになっています。

⇒「柔らかい言葉を使うこと 「不適切会計」とは?

この日の日経新聞(朝刊)は、東芝の一連の不適切会計の記事が14個と目白押しでした。

2015/7/22|日本経済新聞|朝刊 東芝、来月に新経営陣 不適切会計、歴代3社長が辞任 外部人材で刷新委

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「東芝は21日、不適切会計問題を受けて経営体制の刷新を正式に発表した。田中久雄社長(64)をはじめ歴代トップ3人が辞任し、室町正志会長(65)が暫定的に社長を兼務する。8月中旬に新経営陣を発表する。記者会見した田中社長は「創業140年の歴史の中で最もブランドイメージが毀損された。心よりおわびする」と話した。信頼回復へ、企業統治(総合2面きょうのことば)の立て直しや事業のリストラが避けられない。」

筆者は、個別の企業の不始末をことさら三面記事的に取り上げることを良しとしません。これを機会に、会計不正の手口を皆さんと学習するいい機会としたいと思います。財務会計の基礎知識のおさらいになればと思い、この投稿連載を始めたいと思います。

 

■ それでは参考図書の紹介とこれからの学習の見取り図から

この連載投稿のベースに使用するのは、次の書籍「会計不正はこう見抜け」です。

いつもの通り、筆者ならではのサマリ方法で分かりやすく読者へ趣旨を伝えると共に、常にどこの話をしているのか、立ち位置を明確にし、今後の会計学習の指針をお示ししたいと思います。

それでは、「会計不正」「不適切会計」の類型からご紹介します。

経営管理会計トピック_不適切会計の類型

会計トリックは、主に、
① 損益計算書(P/L)の利益表示をコントロールする
② キャッシュフロー計算書(C/S)の営業キャッシュフロー表示をコントロールする
③ 財務指標をコントロールする
意図を持って行われます。

P/Lの操作は、利益の過大計上だけでなく、過少表示も経営者の置かれた状況から発生することがあります。その動機は、有名なところで「節税」(利益が少なれば、課税所得も小さくできる傾向があるため)ですが、それ以外に、順調な収益・利益の成長を演出したい、将来のビジネスリスクの増大に備えるため、計上できる利益額をストックしておきたい、という意図も出てくるのです。

それでは、利益操作の一番最初から解説を始めていきたいと思います。

 

■ 利益操作(1)ミッション:期間利益を大きく見せよ!

会計数値が外部のステークホルダーに公表されるのは、定期的なサイクル(月次、四半期、年度)で行われます。そこで、企業経営者が意図を持って、限られた期間の利益(今四半期だったり、今年度だったり)を大きく見せたり、小さく見せたりしたくなった場合、採り得る手段は次のように類型化できます。

① タイミングの調整
② 架空取引の計上

①は、どうしても会計報告が定期的に行わざるを得ないことから、収益や費用を計上するタイミングを意図的にずらすことで、ターゲットとする期間の利益表示額をコントロールすることができます。
(ここで「できます」と言っているのは、法の網の目をかいくぐってできるという意味ではなく、一義的な会計の計算手順としてそういう数値の表示が可能になるという意)

②は、そもそも財務諸表に掲載できないものを乗っけてしまう、というものです。いわゆる「でっち上げ」です。

では、このような操作を会計的な勘定科目の動きで再整理してみます。

(1)収益の早期計上
(2)架空収益の計上
(3)一時的または持続不可能な活動による利益の水増し
(4)当期の費用を翌期以降に繰り延べ
(5)費用または損失を隠蔽

 

■ (1)収益の早期計上

いわゆる売上の先食いの手法です。

その為の収益(売上)の早期計上するための会計テクニックは、
① 契約上のすべての義務を完了する前に収益を計上する
② 契約上の完成高を上回る収益を計上する
③ 買い手の製品の検収前に収益を計上する
④ 買い手の支払い義務が不確実または不必要な場合に収益を計上する

① 契約上のすべての義務を完了する前に収益を計上する
通常は、収益を認識する基準として、
・契約の証拠が存在する
・製品の引き渡し、または役務の提供が完了している
・価格が固定している、または決定可能である
・対価の回収可能性が合理的に確保されている
の4要件がすべて満たされるまで、収益の計上は見送られなければなりません。

通常は、不正を働く者ほど、勤勉なので、これら4要件を満たすように、売上伝票や検収票の日付を操作(ターゲット期間内に収まるように前倒しするように修正)をなんとかしようと努力します。実際に、その努力が結実して、日付の変更に成功することもあり、その不正がばれないことも少なからずあります。

しかしながら、これらのちまちました努力をしないで済む簡単なやり口もあります。
それは、会計期日(期末日)を延ばすこと!

2日延ばせば2日分、30日延ばせば30日分の収益が今期の売上高として計上することができます。でも、こういうトリックは一過性のものであることがお分かりでしょうか。次の期の売上を前倒しして今期に食っているので、今度は来期の売上が足らなくなるのです。そこで、一度この手口を使ってしまうと、やめられなくなり、自ずと毎期繰り返されることになります。

会計期日の変更はそんなに頻繁に実行できませんが、伝票日付の前倒しは一度手を染めてしまい、やり口の旨味を知ってしまうと、毎期毎期繰り返してしまう常習性があります。

② 契約上の完成高を上回る収益を計上する
今度は、売り手が契約に基づいて引き渡しを始めたが、経営者がその対価をより多く計上するような状況における手口を説明します。

●長期ライセンス契約の先行認識
始めのテクニックは、長期契約による収益認識基準を変更すること。例えば、あるソフトウェアライセンスの使用契約があったとします。その使用許可期間は7年だったとすると、ライセンス使用契約が成約した期から7年にわたって分割して売上高が計上されるのが通常です。しかし、すぐ果実が欲しい経営者は、この種の長期契約に基づく収益の計上ルールを契約が成約した期に契約金額の全額を売上高にするように操作します。

●工事進行基準により長期請負工事契約の収益を計上する
会計期をまたぐ、何年もかかる工事や大型機械の製造契約の場合、完成を待って収益を計上するのではなく、毎年毎年の工事や製造の進捗度をある指標でもって計測し、その進捗度に比例して、毎期の収益を認識する方法が、「工事進行基準」として認められています。この基準を逆手にとって、進捗度を測る基準値を操作して、早め早めに進捗が進んでいるような計測値をでっちあげて、収益を早い年度で計上してしまおう、というやり方です。このやり方には、もう一つ手口があって、全体の工事や製造を通じて、契約金額より原価が上待ってしまうことが分かった場合、その額を分かった時点で費用(損失)としなさい、というルールがあるのですが、その費用(損失)認識を完成まで目をつぶってやらない、ということもできます。
(何度も言いますが、この「できる」というのは計算上そうできるということで、会計規則で認められているのではありません)

●顧客へのアセット・リースによる収益の計上
リース会計は、工事進行基準と同様、経営者の見積りに依存するところが多々あります。何年にもわたるリース契約の場合、リース料の現在価値を「割引率=今持っている現金の価値、利息みたいな形で理解可能」で評価して、毎年の収益計上額を決めるのですが、この割引率を不適切に低く設定することで、先行利益を上げることができるのです。

●時価主義会計を適用する公益事業についての収益の認識
これは、かつてのエンロンが採った手法で、かつ当時の米国で認められていた基準の悪用です。エンロンは、顧客と長期の商品渡し契約を結んでいましたが、その契約から得る収益は、その契約期間にならして認識する(7年から7分割)のが適切な処理です。エンロンは、この商品引き渡し取引を、金融証券の売買取引と認識し、金融商品の売買価額は、時価で決まる、だからこの種の契約をした時点の契約金額まるごとを証券化してその時価の変動分(当然値上がりすることが前提)も収益認識していたというもの。しかも、その時価を判定するこの証券の取引市場はエンロンが作った代物。そりゃ、勝手に価格を高くつけて、時価評価すれば、思い通りの値上がり益を「収益」とできますよね。
(今は、この手法はダメ!禁止されました!)




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