本格的リニューアル構想中のため、一部表示に不具合があります m(_ _)m

日銀がマイナス金利 緩和政策、新局面に 物価2%目標先送り

経営管理会計トピック 経済動向を会計で読む
この記事は約13分で読めます。

■ 「アナウンスメント効果」狙いのマイナス金利 - 実質的なインパクトは薄い!?

経営管理会計トピック

政府・日銀や企業が世間に政策・戦略の変更を発表する場合、実態的な変化をもたらす(であろう)施策の公表によってステークホルダーの協力を仰ごうとする場合と、印象付けによりムードに変化をもたらし、その果実を得ようという場合があります。今回は後者であると推察しています。そういうのは、株価政策にも多用されるのですが、「アナウンスメント効果」を狙ってのことです。

2016/1/29|日本経済新聞|夕刊 日銀がマイナス金利 緩和政策、新局面に 物価2%目標先送り

「日銀は29日開いた金融政策決定会合で、マイナス金利政策の導入を5対4の賛成多数で決めた。原油価格の下落や中国経済への不安で世界経済の先行き懸念が強まり、国内の景気や物価に悪影響が及ぶリスクが高まったためだ。銀行が日銀に預けるお金(当座預金)の一部に2月からマイナス0.1%の金利を適用する。2013年4月に導入した量的・質的金融緩和(異次元緩和)は大きな転換点を迎えた。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

では、マイナス金利導入を含む今回の日銀の政策変更がいったいどれくらいのインパクトを持つ(というイメージを持つ)のか、内容を関連新聞記事や日銀のホームページから簡単にまとめてみましょう。

● 日本銀行の金融政策の概要-2%の「物価安定の目標」と「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」より
http://www.boj.or.jp/mopo/outline/qqe.htm/

日本銀行では、2016年1月28、29日の政策委員会・金融政策決定会合において、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を決定した。

⇒日本銀行のプレスリリースはこちら(PDF形式)
 (http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160129a.pdf

(1)「金利」:マイナス金利の導入
金融機関が保有する日本銀行当座預金に▲0.1%のマイナス金利を適用する。
(筆者注:今回の政策変更の目玉がこちら!)

(2)「量」:金融市場調節方針
マネタリーベースが、年間約80兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。

(3)「質」:資産買入れ方針
1)長期国債について、保有残高が年間約80兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。ただし、イールドカーブ全体の金利低下を促す観点から、金融市場の状況に応じて柔軟に運営する。買入れの平均残存期間は7年~12年程度とする。

2)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約3兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。

3)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。

(4)金融政策運営方針:「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の継続
日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を継続する。今後とも、経済・物価のリスク要因を点検し、「物価安定の目標」の実現のために必要な場合には、「量」・「質」・「金利」の3つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じる。

以上から、日銀はこれまでの「量的」「質的」金融緩和策に追加して、マイナス「金利」政策も導入するというさらなる緩和策を採用したことを公表した、ということになります。これを受けて、日本経済新聞は、日銀の金融政策の内容と効果を次のようにまとめています。

 

2016/1/29|日本経済新聞|夕刊 日銀がマイナス金利 緩和政策、新局面に 物価2%目標先送り

日銀の決定内容のポイント
○「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入
○民間金融機関が日銀当座預金に預けたお金に対して支払う金利(付利)をマイナス0.1%に引き下げ、今後、必要ならさらに金利を引き下げる
○日銀当座預金を3段階に分割し、それぞれプラス・ゼロ・マイナス金利を適用する
○マネタリーベースを年80兆円増加させる金融市場調節方針を維持
○ETFやREITなどの資産買い入れ額を維持

 

2016/1/30|日本経済新聞|朝刊 背水のマイナス金利 日銀、異次元緩和を強化 総裁「必要なら追加措置」

(同記事より黒田総裁の写真転載)

20160130_記者会見する日銀の黒田総裁_日本経済新聞朝刊

「日銀は29日に開いた金融政策決定会合で、銀行から預かる当座預金に付けている金利の一部を初めてマイナスにする新たな追加金融緩和策を決めた。原油安や中国不安による市場動揺で企業や家計の心理が悪化し、物価上昇の基調が崩れかねないと判断した。黒田東彦総裁は記者会見で物価2%目標の達成に向けて「必要な場合は追加的な金融緩和措置を講じる」との考えを示した。」

(同記事より黒田総裁の発言まとめを転載)

20160130_日銀の決定内容のポイントと黒田総裁の発言_日本経済新聞朝刊

 

2016/1/30|日本経済新聞|朝刊 日銀、緩和の選択肢広げる 量・質・金利 合わせ技 デフレ心理転換狙う

29日の黒田総裁の記者会見から発言を拾っていきます。

「従来の量的・質的金融緩和の限界を示すものではなく、むしろそれを含めて、3つの次元でさらに金融緩和を進めることができる」

「企業心理の改善や人々のデフレ心理の転換が遅延し、物価の基調に悪影響を及ぼすリスクが増大している。それを踏まえて決めた」

「金融政策の詳細を国民が理解しないと効果がないということではない。重要なのは物価目標に向け、必要なことは何でもやると示すことで人々のデフレ心理の転換を進めることだ」

人々の心理状態(デフレ心理)を劇的に転換させないとデフレ脱却はできない。その起爆剤として、「黒田バズーカ」を2発撃ちましたが、その効果も薄れてきたところに、米国利上げ、中国景気減速、原油価格低迷が影響し、日銀が未経験のマイナス金利政策を導入(これまでの政策の転換)と大々的に発表し、新聞もそういう論調で報じています。

(同記事添付の日銀政策の変遷図を転載)

20160130_日銀は金融政策を大きく転換する_日本経済新聞朝刊

つまり、記者会見の黒田総裁の発言にもあるように、人々の心理状態(デフレムード)を壊すことが政策目的。実際のマイナス金利政策がどれくらい実態経済に波及効果なしに、直接効果として影響するか、そういう分析は二の次なのがよく分かります。

■ 「マイナス金利」の実態的効果が薄いと判断する根拠とは?

筆者が「マイナス金利」の実態的な影響が薄い(実は金融のプロ達に与えるインパクトですらそれ程無いのでは)と考える根拠は、2つあります。

1.
筆者の知る限り、実は日本経済でマイナス金利が発生した(する)のはこれが初めてではありません。

● 東洋経済 ONLINE
日銀トレードが生む、マイナス金利の異常さ 短期金利のマイナス化は終わらない?(2015年02月15日)
http://toyokeizai.net/articles/-/60244

「マイナス金利は終わるのか──。金利市場が揺れている。日本の短期国債の金利は2014年秋からマイナスが続いたが、1月下旬以降、プラスに浮上しつつある。」

「みすみす損をする取引のように見えるが、このような価格でも国債を買いたいというニーズは大きく三つある。まず、日銀トレードだ。日本銀行は13年4月から「2年で2%のインフレ目標を実現する」として、異次元緩和政策を採り、大量の国債を買い上げている。これに期待して、国内大手銀行・証券の債券ディーラーが、マイナス金利となるような高い価格でも国債を購入。数日以内に、より高い価格で日銀に売却し、利ザヤを稼いだ。

二つ目の理由が、海外投資家による買い。ドイツ、フランス、スイスなど、欧州の短期国債の多くがすでにマイナス金利となっている。欧州中央銀行(ECB)やスイス国立銀行(SNB)が、マイナス金利政策を採用しているからだ。民間銀行が中央銀行に資金を預ける際の金利をマイナスとすることで、企業や個人により多くのおカネを回そうという政策である。

海外投資家は金利通貨スワップ市場で、ユーロやドルを円に転換して日本国債を買うが、このときの円調達コストが大幅なマイナス(=ユーロやドルを円に換えれば利益が出る状態)になっているためだ。円の調達コストがマイナスなのは、利上げ時期が近いとの観測から、ドルの需要のほうが圧倒的に強いことが背景にある。」

すでに、日本経済は、①日銀の大量国債購入(異次元量的緩和)、②欧州のマイナス金利、③米国の利上げ観測(これは実現した)という要因により、短期国債のマイナス金利を2014年に経験済みなのです。その時に、これほど大騒ぎになりましたっけ?

2.
今回のマイナス金利を採用するのは、民間金融機関が日銀にお金を預ける「日銀当座預金」にマイナス0.1%の金利を適用するというものですが、それは「日銀当座預金」のほんの一部(今はね!)に過ぎない、ということです。

● 日本銀行ホームページにある「「(参考)本日の決定のポイント」(2016年1月29日公表)」(PDF形式)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160129b.pdf

(ここから下図を転載)

20160130_マイナス金利導入イメージ_日本銀行

結論から言うと、マイナス金利が適用される「「日銀当座預金」は対象が限定的だということなのです。これについては、この図入りで日本経済新聞も掲載しているのですが、前章でご紹介した記事の派手派手しい見出しに比べて、政治面の最下部にひっそりと載っています(ご参考まで、その説明記事を下記に転載しますが、読者の皆さんはここまでで本質を見極められたと思いますので、次章までスキップいただいても結構です)。

2016/1/30|日本経済新聞|朝刊 政策決定の内容 日銀に預ける金利、3段階に

【日銀が導入するマイナス金利の仕組み】
民間金融機関が日銀にお金を預ける「日銀当座預金」の金利を3段階に分ける。それぞれプラス金利、ゼロ金利、マイナス金利にする。

1 3段階の構造
(1)プラス金利適用部分
日銀がこれまで実施してきた「量的・質的金融緩和」のもとで、各金融機関が預けてきた残高はこれまでと同じ扱いにする。具体的には15年の平均残高までの部分はプラス0.1%とする。

(2)ゼロ金利適用部分
以下の部分はゼロ%の金利とする。

 (1)民間金融機関が預金保護のために日銀にお金の預け入れを求められている「所要準備額」にあたる残高
 (2)経済成長のために民間金融機関の貸し出しを増やすために日銀が実施しているお金を供給する手段である「貸出支援基金」や、東日本大震災の被災地にある民間金融機関へのお金の供給手段である「被災地金融機関支援オペ」によりお金の供給を受けている場合には、その金額
 (3)民間金融機関が日銀に預ける残高が増え続けることを考慮して、タイミングをみてゼロ金利適用部分を増やしていく。

(3)マイナス金利適用部分
 各金融機関が日銀にお金を預ける残高のうち、(1)と(2)を上回る部分にマイナス0.1%の金利とする。

■ 「マイナス金利」の実態的効果(波及効果含む)も考察しておきましょうか。

「マイナス金利」は「デフレ」脱却のための気分転換のための刺激剤。と一刀両断してきましたが、言いっぱなしほど楽なものは無い。一応、その政策効果の功罪について、こちらは新聞報道中心に分析しておきます。

経済政策は、実態を伴うものと伴わないもの、直接効果と波及効果狙いのもの、メリットもあればデメリット(マイナスの効果)、いろいろあるのですよ。

2016/1/30|日本経済新聞|朝刊 マイナス金利 影響両面 企業や家計、恩恵先行 金融機関、収益厳しく

「日銀が29日に導入を決めたマイナス金利政策は、市場金利の低下を通じて企業向け貸し出しや住宅ローンの金利を押し下げる効果がありそうだ。個人や企業の預金金利までマイナスになるとの見方は少なく、ひとまず恩恵が先行しそうだ。もっとも、運用難が深刻になり金融機関の収益が悪化する面もある。マイナス金利の影響を探った。」

(下図は同記事添付のマイナス金利政策のプラス効果を並べたものを転載)

20160130_マイナス金利のプラスの政策効果_日本経済新聞朝刊

<プラス効果>
1.貸出金利の低下による消費や投資の活性化
 29日の東京市場では10年物国債の利回りが0.1%を下回り史上最低を更新した。銀行は日銀にお金を預けるよりも国債を買うだろうとの連想が働いたため。国債の利回り低下がさらに進めば、より高い金利収入を稼ぎやすい民間向けの融資競争が活発になる可能性がある。住宅ローン金利や企業向けの貸出金利が一段と下がるとの見方がある。

2.為替市場において円安誘導し海外輸出増と貿易収支改善
金利はその国の通貨の交換価値を左右するもの。その通貨を保持しているだけで付加される通貨の価値。FXでも、「スワップ金利(2つの通貨の金利差)」を用いた取引があるくらい。金利が下がると、通貨の保有価値も下がるので、通貨安につながる。円安になれば、輸出企業を中心に企業業績の回復(改善・伸長)が期待できる。

3.株価上昇に貢献
金利低下の恩恵を受ける不動産株や、円安に連動した自動車株の上昇がけん引する。
金利が下がれば株式の配当利回りの相対的な魅力が高まる。

<マイナス効果>
1.銀行の収益力の低下
民間の金融市場での金利も低下する。銀行にとっては日銀預金の一部にマイナス金利が入ることよりも、市場金利の低下で貸し出しの利ざやが縮む影響が大きい。ドイツ証券の試算では、利ざやが0.05%縮むと、3メガ銀行の純利益は5%減る。国内業務に依存する地方銀行の影響はより深刻だ。ある関東の地銀頭取は「金融機関の経営に計り知れない影響がある」と話す。

2.中小企業への融資の減少
上記1.のマイナス影響に伴い、金利低下で銀行の収益力が悪化してしまうため、銀行が積極的にリスクを取れず中小企業向け融資などが逆に減る懸念もある。日銀はすでに銀行が積み上げている預金の部分にはマイナス金利を適用しないなどの配慮をしているが、副作用が大きくなる可能性も否めない。

3.日銀の量的緩和政策の効果を減殺するリスク
日銀が金融機関の預金から金利を取るようになれば金融機関は収益を圧迫され、日銀への預金を避けようと国債にしがみつく。日銀が国債を買いづらくなる恐れもある。このため、異次元緩和とマイナス金利の相性は良くない。つまり、マイナス金利の影響で減額せざるを得ない「日銀当座預金」を民間への融資に回せば景気刺激策になるが、同時に日銀が大量購入している国債買い入れにその資金が向かう可能性が高い。また、貸し出し増につながるより、結局は株や不動産などのリスク資産に向かう可能性も高い。
(マッチポンプというべきか、底の抜けたバケツに水を入れているというべきか、、、)

4.特定の金融機関(ゆうちょ銀行)の経営に影響を及ぼす
約150兆円を日本国債などの有価証券で運用して収益を稼ぐゆうちょ銀行も、影響を受けそうだ。ゆうちょ銀は業務規制があり融資をできない。4月から貯金の預入限度額が1000万円から1300万円に上がり、さらに貯金が増える公算が大きいからだ。ゆうちょ銀内部からは「(有価証券で)買えるものは何でも買うしかない」との声が漏れる。

5.一般にもなじみが深い金融商品の販売が停止される
大和証券投資信託委託は29日、2月1日から短期国債などで運用する3つの公社債投資信託の新規購入の受け付けを中止すると発表した。短期金利のマイナス幅が拡大する結果、お金を預かっても収益があがらない逆ざやに陥る懸念が強まったためだ。

どうですか? 別段、筆者がマイナス金利政策に否定的な立場をとっているのではなく、新聞報道を中心に、プラス効果とマイナス効果に言及されたものを整理してみましたが、マイナスの方が項目は多く上がりました。

「マイナス金利」政策は実体経済に与える影響は少なく、「アナウンスメント効果」狙い。その副作用がこれだけあっても、諸手を挙げて賛成できる金融政策なのか? 日銀審議会でも5対4の薄氷での決定。この政策への賛否を言明した各審議員の卓見のどっちが正しいか、もうしばらく観察しておくことにしましょう。物価上昇2%は「17年度前半ごろ」に先送りになったことですし。。。

コメント