ビジネスモデルケース(2)ブランド品ネット販売 - ブランド価値守る選択的流通 米化粧品大手コティ

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■ 「ビジネスモデル」への3つのアプローチ

筆者が分析する、ビジネスモデルへのアプローチには次の3つがあります。そして、それらは排他的選択ではなく、分析者の都合でいくらでも併用が可能であると考えています。

① フレームワーク至上主義者
自身が主張するフレームワークに世の中のビジネスモデルとか経営戦略と呼ばれているものをばっさばっさと当てはめていくアプローチ

② モデリング至上主義者
実在する経営や企業活動を独自の着眼点から汎用的モデルに昇華・抽象化してモデリングして示すアプローチ

③ ビジネスケース至上主義者
ひたすら個別の事例を集めて、帰納法的にそれらをある特徴で分類していくアプローチ

⇒「ビジネスモデル入門(1)ビジネスモデルの教科書の読み方① フレームワークが先かビジネスケースが先か。それが問題だ!

とりあえず、このシリーズでは、「③ ビジネスケース至上主義者」として、目に付いた、興味深いビジネスモデル類型をひたすら集めてご紹介する、というものです。筆者は、ヘンリー・ミンツバーグ氏の「経営は創発的なクラフティングである」という主張に傾倒しているので、数多くのビジネスケースを観察し、自分自身の中にあるビジネスモデル・フレームワークを常に再構築し続けるアプローチを好んでいるからです。

 

■ ITの進化と柔軟な法制度適用が新たな公正取引の在り方を世に問う

アマゾン、ゾゾタウン、メルカリ、楽天市場と、多種多様なECサイト、ネット販売にかんする商流ビジネスが百花斉放の勢いで大きく花開いています。これに、AIやIoTといったテクノロジーの進化がその変化のスピードを増して、企業の栄枯盛衰の展開の速さを倍速させています。当然、それを取り締まる側の当局や法整備についても、時代に即して変化していくことを要請するのは当然のことです。

2017/12/25付 |日本経済新聞|朝刊 (リーガルの窓)ブランド品ネット販売 欧州で一定の制限「合法」

「欧州連合(EU)の最高裁に相当する欧州司法裁判所は12月6日、メーカーが一定条件の下、高級ブランド品について米アマゾン・ドット・コムのような通販サイトでの販売を制限できるとする判決を出した。取引制限を巡ってはアマゾンによる米グーグル製の人工知能(AI)搭載スピーカーの販売拒否が注目されたが、今回は逆に、メーカーが販路を制限する行為だ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は、同記事添付の「欧州司法裁判所は高級ブランド品のネット販売を禁じられると判断した」を引用)

20171225_欧州司法裁判所は高級ブランド品のネット販売を禁じられると判断した_日本経済新聞朝刊

メーカーが流通に対し、販売チャネルや販売価格に関して口を出すことは、一般消費者に適正価格でかつ便宜的に製商品を手にする機会を奪うとして、各国の独占禁止法。・競争法では厳しい縛りがあるのが伝統でした。

本事案の背景として、欧州では近年、メーカーが商品価値の維持す目的で、卸・問屋・代理店などに対して、ネット販売や安売り店への転売を禁止するなど「選択的流通」に厳しい判決が続いていました。合理的理由がないままメーカーの口出しを放置すると小売価格が高止まりする、消費者が欲しいときに欲しいものを手に入れる機会損失を生じかねないと、消費者保母の観点から競争法(日本の独占禁止法)違反をたびたび問われてきたのです。

当然、米化粧品大手のコティとドイツの販売代理店が争った今回の事案では、コティが代理店に対し、アマゾンなどの第三者プラットフォームでの商品販売を禁じることが、消費者保護の観点から競争法違反に当たるかどうかが争点となるかと思われました。

 

■ 巨大な影響料力を持つプラットフォーマーへの対応手段を司法が用意した

しかし従前の予測を覆し、下った判決は、条件付きで「高級品のブランド価値を維持するための制限は競争法違反ではない」でした。

その条件は次の3つ。
メーカーによる販路(ここではネット販売経路)に対する制限は、
(1)商品の質や正しい使い方を担保するために商品の性質上必要
(2)非差別的であること
(3)過分でないこと

が証明されれば、許されるというものでした。この事案の争点となった「高級感というイメージ」というブランド価値も商品の「質」にあたるとして、上記(1)に該当し、メーカー側(コティ)の勝訴となったのです。

この判決に至った経緯が大変興味深いので、本記事から下記に引用して整理します。

「欧州司法裁判所は2011年、ネット販売を全面的に禁じたメーカーを競争法違反とする判決を出していた。それ以降、オンライン販売の制限は難しいとの認識が広まった。日本やドイツの靴メーカーが独禁当局に審査された例もある。」

「その結果「メーカーが自社の実店舗やサイトだけで直販するようになり、かえって消費者の利便性が下がった」と競争法に詳しい山田香織弁護士は指摘。今回の判決は「揺り戻しの面があるのでは」とみる。」

つまり、それまではネット販売を制限するメーカーの姿勢は消費者保護の観点からはNGとされていました。その結果、時代の攻勢に抗えず、ネット販売の便利さに慣れた一般消費者を取り込むとともに、ブランド価値を毀損しないように、各メーカーは直営店中心のリアル店舗や直営サイトによる限定販売を加速させることになり、かえって一般消費者の不利になると、バランス感覚を維持したと思われる判決がでたと解釈できるのです。

最近富にその影響力を増した、グーグルやアマゾンなど、プラットフォーマー企業の利益の取り分とメーカーの取り分のリバランスに司法が心を砕いているようにも見受けられます。

「独禁法に詳しい多田敏明弁護士は「『高級品』の定義は何か、どこまで禁じたら『過分な制限』なのかがまだ曖昧。加盟国ごとに運用のバラツキも出るのでは」と話す。販路を制限する際は合理的な説明も重要になりそうだ。」

というコメントで本記事は締めくくられています。ブランド価値を形成するのに、販売価格自体が高価であることは、一般に「シンボリックな消費財」の代表事例です。

経営管理会計トピック_顧客価値の考え方

⇒「日立、営業2万人増員 コンサル重視へ転換 AIなど駆使、課題解決(後編)- ハードウェアを持ったままでコンサルティングサービスが可能か?

そうした値付けは、よりいいものをより安く、ITの力を使って消費者の元にお届けする、というネット販売(EC)の世界の理屈とは正反対の姿勢です。数年前に、国内大手化粧品メーカーも、百貨店などの対面販売される商品がドラックストア経由のもので値崩れを超すとすったもんだした事案がありました。対応手段として、各メーカーは、販路別のマルチブランド商品戦略を採るのが当たり前となっています。

スラオウォツキー氏の類型化によれば、「製品ピラミッド利益モデル」が該当するものと思います。

 

■ (参考)日本の再販制度をかんたんにおさらい

独占禁止法は自由な価格競争を促進する立場から、商品の製造業者(供給者)が販売店に対してその商品の小売価格を指定することを、不公正な取引方法として禁止しています。ただし、言論の自由や文化の保護という見地から、

①書籍
②雑誌
③新聞
④レコード盤
⑤音楽用テープ
⑥音楽用CD
の6品目については例外的に、1953年以来、再販売価格の指定が認められてきました。これを、「著作物再販制度」といいます。

ただし、現在のネット販売形態、デジタル化されたコンテンツ販売に十分に対応しきれているとは言えず、音楽ソフトでも法令に明示していないパッケージソフト(Super Audio CD・DVD-Audioのみで構成される単体ソフト)、コンピュータソフト(「ソフトウェア」と呼ばれるもの)、ゲームソフト、インターネットのダウンロード形式により販売される電子データ・音楽配信・電子書籍はこの制度対象外になっています。

さらに、冒頭の化粧品についても、日本は規制緩和をしてきたという経緯があります。

かつては1953年から1959年にかけて、おとり廉売(いわゆるダンピング販売)からブランドを守る目的で、化粧品、毛染め、歯磨き、家庭用石けん・合成洗剤、雑酒、キャラメル、医薬品、写真機、ワイシャツの9商品が指定され、次の3要件に当てはまり、公正取引委員会に契約内容を届け出れば再販売価格維持ができました。

① 品質が一様であることを容易に識別することができるもの
② 一般消費者により日常使用されるもの
③ 自由な競争が行われているもの

しかし、60年代以降、物価高騰が大きな社会問題となり、その原因のひとつとして再販制度の弊害が指摘され消費者から批判を浴びたため、1966年以降徐々に指定が取り消されていきます。そして1997年3月31日に最後まで残った化粧品と医薬品の指定が廃止されているのです。それから10年経ちました。10年ひと昔。10年あれば、IT進化のスペードからすれば、市場環境が変化し、規制の在り方もまた変容されねばなりません。

ビジネスモデルは、世の中の流れと、競争状態と、当局の規制、すなわち社外のマクロ環境の影響も考慮しなければならない。この好例として本件を取り上げてみました。ご参考ください。

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小林 友昭
小林 友昭
現役の経営コンサルタントです。経営管理の仕組み構築や経営戦略の立案、BIシステムを中心としたIT導入まで手掛けております。
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