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ビジネスモデル入門(3)ビジネスモデルの教科書の読み方③ TOC(制約理論)は本当にオペレーショナルエクセレンスの極みのゴールに到達したのか。それが問題だ!

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ ビジネスモデル(入門)
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■ まずはビジネスモデルへの取り組み姿勢の3類型から

このシリーズは、筆者の経営コンサルタントの実体験と筆者の関連図書の読書遍歴から、「ビジネスモデル」というものをどう考えていけばいいのか、どう捉えればいいのか、どう生かしていけばいいのか、現在進行形で考え続ける筆者のビジネスモデル考の逍遥の様を記録するものです。その逍遥を皆さんと共有することで、新しく実用的なコンセプトが閃くことを期待して。

下記は筆者独自の分類方法なのですが、ビジネスモデルを扱う人々のアプローチを大胆に3類型に分けてみました。

① フレームワーク至上主義者
自身が主張するフレームワークに世の中のビジネスモデルとか経営戦略と呼ばれているものをばっさばっさと当てはめていくアプローチ

② モデリング至上主義者
実在する経営や企業活動を独自の着眼点から汎用的モデルに昇華・抽象化してモデリングして示すアプローチ

③ ビジネスケース至上主義者
ひたすら個別の事例を集めて、帰納法的にそれらをある特徴で分類していくアプローチ

⇒「ビジネスモデル入門(1)ビジネスモデルの教科書の読み方① フレームワークが先かビジネスケースが先か。それが問題だ!

偉大な先人たちを筆者の愚考でまとめて論じるのも大変失礼にあたるのですが、誰がどういう立場で書籍をまとめているのか、読者の立場から参考になればと思い、敢えて類型化しております。(^^;)

 

■ 製造業における生産管理から生まれた3つの偉大な革命

筆者の稚拙な発想かもしれませんが、ものづくりの歴史が、家内制手工業→問屋制家内工業→工場制手工業(マニュファクチュア)→工場制機械工業と進化した後、3つの革命があったと認識しています。

ひとつが、少品種大量生産を前提としたマスプロダクションの世界に、徹底した分業とベルトコンベア方式による流れ作業で飛躍的に高い生産性とコストダウンを同時達成したフォード生産システム(フォーディズム)。

⇒「経営戦略概史(3)大衆社会を生み出した「フォード生産システム」

ふたつが、顧客ニーズの多様化の進展から多品種中量生産を強いられたとき、かんばん方式と混流生産を実現して徹底的に在庫削減をおこなった大野耐一氏のトヨタ生産システム(TPS)。

みっつが、モノが世の中に満ち溢れ、供給過剰が常態化し、かつ顧客ニーズの更なる多様化が進み、多品種少量生産が大前提となったとき、会社内の至る所に発生するボトルネックを起点として最大スループットを目指す「制約理論(TOC:Theory of Constrains)」。

⇒「生産性分析(1)生産性分析とは - 制約理論(TOC)で生産性の本質を考えよう!
⇒「KPI経営入門(1)適切で分かりやすいKPIを設定する - 経営目標への達成水準と貢献度から経営ボトルネックを探る!

そして、現在、4つの目の改革が進行中。顧客が個客になり、マスカスタマイゼーションとエクスペリエンスエコノミーに対応できるものづくり。ドイツのインダストリー4.0、米国のインダストリアル・インターネット、日本のインダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブのどこが覇権を握るのか必見です。

⇒「文系にも分かる! インダストリー4.0、インダストリアル・インターネット、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブの違い(1)

本稿は、「② モデリング至上主義者」(実在する経営や企業活動を独自の着眼点から汎用的モデルに昇華・抽象化してモデリングして示すアプローチ)として、TOCでオペレーショナルエクセレンスを極めたと筆者が信じる、エリヤフ・ゴールドラット博士及びその関係者著の一連の著作をご紹介していきたいと思います。

 

■ 著名なビジネスモデル著作の読み方(PART3)

(4)ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か

本書は、内容に入る前の2つの逸話で有名です。ひとつは、米国での出版から15年もの間、日本での出版が認められなかったこと。著者のゴールドラット博士によれば、「部分最適の改善にかけては世界一の日本人に全体最適化の手法を教えてしまうと、貿易摩擦が再燃して世界経済が大混乱に陥る」のがその理由だとか。ふたつは、博士が創設した会社の部下たちも出版社の人たちも、生産スケジュールのお話を小説仕立ての本にして売れるはずがないという大反対に遭ったこと。

内容については2つのメインメッセージとして理解した方が頭にスッキリ入ると思います。個々の工程の効率より、全体の流れに経営者の注力を集中させる生産マネジメント手法として、制約理論(TOC)を世に大々的に送り出した嚆矢となりました。

1)ドラム・バッファ・ロープ(DBR:Drum Buffer Rope)
2)バッファ・マネジメント(BM:Buffer Management)

1)ドラム・バッファ・ロープ(DBR:Drum Buffer Rope)
軍隊でもボーイスカウトでも行進する際に、一番足の遅い人がボトルネックになり、その人の歩調に合わせるようにドラムを叩き、全員をロープでつなぐことで隊列が伸びることを阻止し、ロープの長さが歩調を合わせる余裕率という生産管理手法です。

2)バッファ・マネジメント(BM:Buffer Management)
各工程の不確実性を考慮し、各作業から必要日数と安全余裕日を分けて後ろに集約し、「バッファ(安全余裕)」として配置するスケジューリング手法です。会社全体のSCMのどこにブラックスワンが潜んでいて思わぬ納期遅れを生じさせるか分かりません。そのためにもボトルネックの前に在庫を用意して、ボトルネックで仕事を滞留することを非常に恐れるのは、ここに起因します。

このままだと、TOCの紹介に終わってしまうので、ここから得られたインサイトを。ゴールドラット博士は元々物理学者であり、自然科学では不確定要素が4つでは大変多い部類に入るということ。ビジネスの世界では、経営課題は大抵の場合、4つ以上存在するのが常です。

つまり、
① 課題(ボトルネックとも言い換えることができる)はできるだけ一つにして集中管理した方がよい
② 会社や工場におけるボトルネックは大抵の場合はシステム的なもので皆が分かりやすいものにする
③ 一度決めたボトルネックはいたずらに変えずに、集中管理して運用すれば会社(システム)全体が安定稼働する

というのが「ザ・ゴール」で示された新常識なのです。

(5)クリティカルチェーン なぜ、プロジェクトは予定どおりに進まないのか?

前著で明らかになった「バッファ・マネジメント」をプロジェクト管理に応用したのが本著です。従来から、PERT(Program Evaluation and Review Technique)とかクリティカルパス(Critical Path)という手法やコンセプトは存在していました。それらと、バッファ・マネジメントを組み合わせて、下図のようなプロジェクト管理(スケジュール管理)手法を世に問いました。

ビジネスモデル(入門編)クリティカルチェーンにおける3つのバッファマネジメント

まず、各工程でサバ読みされていたバッファをすべて吐き出させて、プロジェクトバッファとして一番後に配置します。複数の作業ラインが合流する際に、発生する手待ちを合流バッファとして置きます。複数の作業ラインが共通して利用しなければならない経営資源をリソースバッファとして、その余裕率・稼働率を集中管理します。

ここで言いたいのは、目新しいプロジェクト管理手法であるとの主張ではなくて、生産管理スケジュールの手法が汎用的に、一連の作業を時間の流れとして捉える(プロジェクトにおいて納期は最重要項目の一つ)ことで仕事を進める際の強力な管理ツールになる、ということです。

(6)ザ・クリスタルボール 売上げと在庫のジレンマを解決する!

本著では、ダイナミック・バッファマネジメント(DBM:Dynamic Buffer Management)が紹介されており、当たるかどうかわからない需要予測より、現実に起きている変動する需要に、経営者の注力を集中するSCM手法です。かんばん方式(ブル方式)で売れ筋のSKUで在庫補充する、在庫は集中管理で、ブルウィップ効果の影響をなるべく少なくし、機会損失をできるだけ回避する手法です。

ポイントは3つ。
① 従来は製造業のための生産管理の一手法と思われていたTOCが小売業にも適用可能であることが分かったこと
② 在庫と利益の関係を時間で明確に計測することで、改善活動の成果を見える化することに成功した
③ TOCは一つの会社内で閉じた管理ではなく、サプライヤーや顧客まで巻き込んだSCM(もしくはDCM)全体でも有効であること

 

■ 自分にとって一連のゴールドラット博士とその仲間たちの書籍とは

前章でご紹介していない一連の書籍にも一通り目を通しています。その中でこの三冊をチョイスしてご紹介しました。

ゴールドラット博士が残したものは、単なる生産スケジューリング手法ではないと思います。よく、TOCは全体最適のためのツールである、という声を耳にしますが、では、実際にTOCを使って全体最適化に成功した事例をいくつご存知でしょうか?

博士も、「皆は部分最適より全体最適の方がいいと口をそろえて言うが、実際にやっている行動は、全体最適のためではなくて、部分最適のためになっている」とおっしゃっています。

博士の全体最適にかける論述を筆者なりの視点で次のようにまとめさせて頂きました。

① 物事の原因はいたってシンプル。全体最適を妨げる問題は必ず1つ2つに収斂させることができる
② 人々は元来、善良である。コンフリクトを真摯に解消しようとすれば必ず協力し合える
③ 問題がどうしても残る? じゃあそれをボトルネック認定して、その前に在庫(余裕時間)を積んで、全体のスループットを上げることに集中しよう

このほか、管理会計オタクの私としては、
・スループット会計
・スループットダラー・デイズ(Throughput-dollar-days)
・インベントリーダラー・デイズ(Inventory-dollar-days)
という各種計数管理手法もご紹介したかったのですが、メインテーマはビジネスモデルということで別機会に解説したいと思います。

ゴールドラット博士は、「ザ・ゴール」発売後に大変興味深いことをおっしゃっています。

「そもそも『ザ・ゴール』は生産スケジューリングソフトの『OPT』を世の中に広めるために出版を企画したのだが、この本の読者が原理だけを知って人間系で実行しただけでも同じ効果が出ることが分かった」

AIとかIoTとか、ソサエティ5.0とかいろいろ喧伝されていますが、結局は人の知恵だということ。そして、TOCが業種業界と一法人の枠を超えて、極めて汎用的なオペレーショナルエクセレンスのための画期的で実用的な手法であること。この2点を最後に強調して本稿を締めたいと思います。

ビジネスモデル(入門編)ビジネスモデル入門(3)ビジネスモデルの教科書の読み方③ TOC(制約理論)は本当にオペレーショナルエクセレンスの極みのゴールに到達したのか。それが問題だ!

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