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ビジネスモデル入門(4)新しいビジネスモデルを生むために必要なことと実現することの間になるリーガル要素が大事 - アスクル、ビル地下活用 都心に倉庫、効率配送

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ ビジネスモデル(入門)
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■ 新しい物流体制の構築は社内に蓄積された情報の有効活用を起点に

能書きをたらたら書かずに、事例から読み取れる参考になる知見を拾っていきたいと思います。新しいビジネスモデルを生み出すためには、新奇的なアイデアと技術の双方が必要になります。既存の技術でもその組み合わせ次第では新しい技術に生まれ変わります。それをイノベーションとも呼べると思います。そして、一歩踏み込んで、そうして生み出されたビジネスモデルを現実のものにするには、リーガル面の安定性が最後に止めを刺すといっても過言ではないほど、重要な価値を持つものだと考えます。

2018/7/4付 |日本経済新聞|朝刊 アスクル、ビル地下活用 都心に倉庫、効率配送

「アスクルは3日、ビルの地下にある荷物集積場を、コピー用紙などオフィス用品の一時倉庫に転用する実証実験を始めると発表した。従来は自社の物流拠点から直接運んでいたが、注文の多い品目は配送先の近くで在庫を持ち物流の無駄を省く。三井不動産グループもマンションの共用部に荷さばきスペースを設け、宅配を効率化する。点から点の配送だけでなく見過ごされてきた「面」も加えることで物流網を再整備する。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「アスクルが始める物流効率化の仕組み」を引用)

20180704_アスクルが始める物流効率化の仕組み_日本経済新聞朝刊

商用ビル内に物流拠点を構えて、効率的なオフィス用品の配送体制を構築するこのビジネスモデルは、アスクルと佐川急便がタッグを組み12日から「東京ミッドタウン」(東京・港)の地下で試行実験を開始し、今秋にも物流拠点として活用を予定するものです。

1)アスクルが物流拠点からビル内の倉庫までの配送を担当
2)佐川急便が届いた荷物を台車などでテナント企業へ運搬

「これまでアスクルは企業から注文があるたびに全国に9カ所ある自社の物流センターから運んでいた。注文の数量によってはトラックの荷物が満載にならないこともあり、配送コストがかさむ要因となっていた。」

これまでの物流体制ではトラックが満載にならないため、輸送効率が悪くコストが高くつくのが問題でした。他社における、3PLや共同配送など、会社の垣根を越えて、規模の経済狙いの新しい物流体制の構築構想が目立つ中、パートナー企業を用いたものですが、あくまで、アスクルは社内の物流ラインの維持にこだわったものになっています。

「新たな仕組みでは注文履歴などから安定した需要がある品目や量を予測。あらかじめビルの地下などに保管しておく。」

これは、別の機会にアパレル業界を取り上げたいと考えている矢先のニュースだったのですが、物流企業は、情報流企業でもあるわけです。つまり、社内に蓄積された注文履歴というビッグデータを活用して、高効率の配送システムを構築し、他社との差別化を図ろうというものです。過去の購買履歴情報をどうやってビジネスチャンスに活かすか。それは小売りに属するどんな業種であろうと、喫緊の課題であると言えます。

「ビル内の配送を担当する佐川にとっても、トラックからの荷下ろしの頻度が下がり余分な人手をとられないなどメリットは大きい。テナント企業にとっては一部の商品が最短1時間程度で受け取れるようになり、遅配の心配がなくなる。」

これは、現代の物流業界が直面する深刻な人手不足の解消案のひとつにもなります。いわゆる、届け先までの最後の区間となる「ラストワンマイル」問題。宅配業者やインターネット通販企業は知恵を絞ってこの問題の解決にあたっています。

 

■ あたらしいビジネスモデルを現実のものにするために最後に必要なこと

こうした物流の新しい動きは他にもあります。

「三井不動産子会社の三井不動産レジデンシャルは、大型分譲マンションの共用部を荷さばきスペースとして使う「マンション内物流システム」を導入する。複数の宅配業者からの荷物を共用部に集約して各戸に届ける。」

「ヤマト運輸は再配達を減らそうと、18年度末までにドラッグストアや駅構内など5000カ所に宅配ロッカーを設置。楽天は日本郵便と組み、全国2万カ所にある郵便局で荷物を受け取れるサービスを始めた。」

これら、新しい物流システムの在り方は従来とどこが違うのでしょうか?

「従来は倉庫業法により登録した業者でなければ商品を保管できなかった。今回、企業からの要望に応じ官庁側が法規制や運用を変更する経済産業省の「グレーゾーン解消制度」を利用する。」

つまり、従来は、倉庫業法に登録された業者でなければ、上記のような商品の保管と受け渡しはできないことになります。

倉庫業法|国土交通省

倉庫業法施行規則等の改正について

1.改正の背景
近年、荷主ニーズの多様化等を背景に、倉庫業者が自社所有以外の倉庫(借庫)を借りて事業を行う割合が増加しています。一方、借庫を用いて倉庫業を営む場合、倉庫業法に基づく手続(変更登録)に一定期間を要するため、倉庫業者が波動に応じて機動的に施設を運用することが困難な状況にありました。
こうした状況を踏まえ、倉庫業法施行規則及び倉庫業法第3条の登録の基準等に関する告示を改正し、倉庫の所有者が、当該倉庫が倉庫業法に基づく施設設備基準に適合しているか予め確認を受けることができる「基準適合確認制度」を創設するとともに、時代の変化等を踏まえた倉庫の施設設備基準の見直しを行います。

2.改正の概要
(1)基準適合確認制度の創設 本制度に基づき基準適合確認を受けた倉庫を用いて倉庫業を営むにあたっては、確認を受けた時点から変更がないことを示すことで、当該倉庫が施設設備基準に適合しているものとみなし、変更登録において必要となる書類の一部を省略することを可能とします。これにより、変更登録に係る処理期間が短縮され、倉庫業者による機動的な施設運用が可能となります。

規制緩和が叫ばれている昨今、当局もこのように、規制緩和による新ビジネスの立ち上げを支援しているのは十分に理解しているのですが、それでも素早いビジネスの動向については、さらに「グレーゾーン解消制度」の積極的活用が機動的な新事業立ち上げには重要になってきます。

つまり、新しいビジネスモデルを生むためにまず必要なことは、新しい商用アイデアとそれを可能にする技術(全くの新技術か既存技術の真新しい組み合わせ)の2つです。そして、そのビジネスモデルを現実のものにするために必要なことは法的安定、つまりリーガル措置なのです。ここで、ベンチャー企業や既存企業における新事業開発で法務スタッフ(知財権含む)の拡充が勝負を分ける岐路になるという論議も頷けます。

 

■ 一度痛い目に遭ったITベンチャーの法的事例

「録画ネット事件」として有名になった判例があります。

エフエービジョンというベンチャー企業が、海外在住の日本人に日本で放映されたTV番組の録画情報の提供サービスを考え付きました。

1)ユーザはテレビチューナとキャプチャカードを搭載したパソコン(一般に「テレビパソコン」と呼ばれている市販の製品)をエフエービジョンから購入
2)ユーザは自分が購入したテレビパソコンをエフエービジョンに預け、同社はこれを松戸市の自社施設に保管
3)パソコンは地上波を受信し、NHKや民放の番組をHDDに録画
4)海外在住のユーザは、手元のパソコンからインターネット経由してこのテレビパソコンにアクセスし、iEPG(電子番組ガイド)を使って番組の予約や受信、録画を行う
5) インターネット経由で手元のパソコンから録画したテレビ番組を実際に視聴する

この方式は、このままでは著作権法の公衆送信権に抵触することが事前に分かっていました。

そこで、
① 市販されているテレビの約8割がテレビ放送の受信・録画機能を備えている
② パソコンに標準搭載されているOSにリモートデスクトップ機能があり、遠隔地からパソコンを簡単に操作できる

これらを組み合わせれば、日本国内に置かれているパソコンに放送番組を録画させ、それを海外から視聴することは簡単に実現できるわけです。

しかし、これでは、国内に設置されたとした場合のパソコンがフリーズなどした場合に、復旧・再起動させるサービスが必要になります。そこで、エフエ―ビジョンは、上記1)~
5)に加えて、6) パソコンのハウジングサービス、「地上波放送を受信するテレビパソコンの所有者はユーザ本人であり、電波を受信している主体はあくまでユーザ本人ということになる。エフエービジョンは、そうしたユーザが所有するパソコンをあくまで保管しているにすぎない」という建付けのサービスとして事業を開始したわけです。

しかし、この事案を扱った東京地裁での判決の立場は下記の通りでした。

著作権法30条1項は「私的使用のための複製を、複製権侵害の例外として適法として」おり、「それが第三者により業としてなされる場合であっても、適法行為の『幇助』にすぎない。例えば、ビデオデッキや本件のようなテレビパソコンを製造、販売する行為を違法と解することはできないし、さらに、それらの機器を使用した複製ができるよう、機器の設定や接続等を行うことも、それ自体は適法というべきである。」とした上で、「他方、私的複製と認められるためには、使用者自身が複製行為を行うことが要件であるから、第三者が複製を行う場合は、例え使用者に依頼され、その手足として複製を行う場合であっても、そのものが家族、友人など『個人的又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内』の者である場合を除き、私的複製とは認められないことになる。」

つまり、エフエ―ビジョンが行ったハウジングサービスは、著作権法が認める私的複製としては認められないから、違法である、とされたわけです。

(参考)
ネット上の録画サービスの違法性 | isologue – 磯崎哲也事務所
あるベンチャーがテレビ業界に潰された――録画ネット事件(iNTERNET)

新しいビジネスモデルにはリスクはつきものです。しかし、法的リスクは十分なリーガル要員による入念なチェックがあればある程度避けられるものかもしれません。そのちょっとした配慮は、こうした、情報とかネットとか無形物を取り扱い、その無形財産そのものの価値や偏在性・便利性による価値が増大している現況において、ますます必要なものとなっていると考えますが如何でしょうか。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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