■ GWに家族で行きたい! いま注目のテーマパーク
今や絶好調のUSJ。しかし、数年前までは苦しい経営が続いていた。2001年3月31日、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン開業。初年度入場者は1000万人を突破したものの、翌年から不祥事が続く。
2002年7月:
・客が飲む飲料水への工業用水混入が発覚
・賞味期限切れ食品の提供が発覚
立て直し策の手も打てずに、700万人台にまで客足が下がるようになった。
■ どん底から奇跡の大逆転! USJを復活させた仕掛け人
窮地のUSJを再建した男、ユー・エス・ジェイ執行役員:森岡毅(43歳)。
もともとテーマパーク事業とは無縁だった森岡だったが、消費者ニーズを読む力には定評があった。それまで、P&Gに勤め(1996年入社)、シャンプーなどヘアケア製品で数々のヒット商品を手掛けてきた。その実績を買われ、2010年、ユー・エス・ジェイへ転職。しかし当時のUSJに新しいアトラクションを作る余裕は全くなかったという。
「僕らも非常に追い詰められていたが、今あるアトラクションをどう改善するかに絞り込もうと考えた。」
金をかけずに客を呼ぶ。森岡は一体どんな改造をしたのか?
● 森岡流アイデア改造1 家族で楽しめるテーマパークに!
まず森岡が取り組んだのはUSJの現状把握から。そしてある日、家族を連れてUSJを訪れた。客の目線でUSJを見ようというのだ。それは目玉のアトラクション、ジョーズでのことだった。恐怖のあまり、4歳の娘が泣き叫び、収拾がつかなくなってしまった。この時、森岡は気付いた。USJは映画の世界にこだわり、映画好きの大人しか楽しめない。
「恐竜もいれば、サメもいれば、殺人ロボットまでいる、大人向けのスリルはあるが、子供にとっては怖い。家族連れで来た時に、心置きなく、小さいお子さんもほんわかするものが欠けていた。」
そこで森岡が作ったのが、ユニバーサル・ワンダーランド(2012年3月開設)。それまでパーク内に分散していた子供向けの乗り物や、キャラクターなどを1ヵ所に集約し、小さな子供でも楽しめるエリアを作った。
「今まで取りこぼしてきた小さな子供連れの家族を持ってきた。それが大きな変化を起こした。」
このわずかな変化で入場者数を160万人増やした。
● 森岡流アイデア改造2 イベントで客を呼べ!
イベントで客を呼ぶ。そのひとつが今ではUSJの大人気イベントに成長した秋のハロウィンイベント。コスプレをしてやってくる客をさらに楽しませるようにあるサプライズを仕掛けた。夜になると園内に叫び声が。スタッフが扮したゾンビがお客に襲いかかる。この人を使ったサプライズが話題を呼び、閑散期だった10月の入場者が1.5倍に増加した。
● 森岡流アイデア改造3 古いアトラクションを再利用
「バックドロップ」という名の後ろ向きに走るジェットコースター。元々前向きに走っていたジェットコースターを後ろ向きに走れるように改造した。この話題性が人気を呼び、なんと待ち時間9時間40分という日本記録を作った。
「考えて、考えて、それでも考えつかず、考えて。アイデア1つで苦境が乗り越えられることもあるという。我々の記憶に刻まれたプロジェクトだった。
こうした不振に陥っていたUSJは森岡就任後、見事V字回復を果たした。
(筆者注:入場者700万人台から1400万人台へ2倍!)
今年開園15周年を迎えたUSJ。USJを甦らせたのはアイデアだけじゃない。森岡はもうひとつの武器を持っている。周りはそれを魔法というが。
「魔法ではなく、マジックだが「手品」の方。タネも仕掛けもある。」
■ スタジオでのインタビュー開始
「テーマパークはこの仕事に就く前から大好き。小さい子供から年配の人まで、皆さんで訪れてもらって、最近は非常に賑やかになっている。これまで、高速コースターで“うしろ向き”は、我々が理解している限りなかった。後は、一度“前向き”で作ったものを“うしろ向き”に走れるように認可を取り直す。そういう前例がなかったので大変だった。」
後ろ向きに走らせようと思った時、技術の人に反対されるとは思わなかったのか?
「正直に言って「反対されるだろう」と思った。これは本当にギリギリで、追い詰められないと出てこないアイデアだった。今、考えると「あっそうだ」と思うが。こういうようなコロンブスの卵のようなアイデアは意外とシンプルで、誰かが気付きそうなもの。後で考えると「そうだ」ということが、あの時は、本当に困っていた私を哀れんでアイデアの神様が降りてきて、夜中の2時34分にひらめいた時は、昼間に見たコースターの映像が“うしろ向き”に走っていた。その時に飛び起きて「何か見たぞ、何を見たんだ」と。」
どうして2時34分って分かるんですか?
「メモをつけていて、枕元にアイデアノートを置いているので。」
(村上氏)
僕も小説を書くためにアイデアを考えるが、大抵の人は何の前提も無しに、ぼんやりと考えていてアイデアがひらめくと考えがちだが。
「アイデアを考える前に、どんなアイデアが必要なのか。そのアイデアが満たすべき“条件”や“枠組み”を先に考えないといけない。あまりにも考えるべき範囲が広すぎると焦点が定まらなくなって、すごく時間がかかって、砂漠の中でダイヤモンドを探すようなことになる。そうじゃなくて、求められているアイデアは、「A・B・Cの条件を満たす」ことが分かれば、“それは何か”と考えればアイデアにたどり着くスピードが圧倒的に速くなる。」
(村上氏)
「森岡さんの言葉で好きなものが、「アイデアこそが最後の切り札であって、お金やコネが無くても、アイデアだけは平等に全ての人の頭の中に眠っている」というものがある。」
「好きなことじゃないと考えられませんもんね」
(小池さん)
「好きじゃない仕事に就いている人はどうすればいいんですか?」
「好きな仕事に移った方がいい。やはり、本当に好きなものだったら、とてつもない馬力や粘りが出て枯れない。疲れるし、落ち込むが、また立ち上がり、気がついたらまた考える。言葉にできないパワーを感じられる。それがUSJに来て初めて分かった。」
「正直に言って、“才能 センス 頭の良さ”とは、次元の違う一番大切なことは、どれだけ情熱を持って、頑張り続けられるか、考え続けられるか。はっきり言って、努力を通り越した瞬間にアイデアが出てくることが多い。その途中で諦める人にはアイデアは降りてこない。」
■ テーマがない? 何でもアリ? 映画専門を捨てたUSJの狙い
ミッキーマウスとその仲間たちを再現した東京ディズニーリゾート。かわいいキティちゃんを中心としたメルヘンの世界ならサンリオピューロランド。そしてとくかく絶叫マシンに乗りたいなら富士急ハイランド。テーマパークのほとんどは明確なコンセプトを持っている。ところがUSJは、不気味な巨人(進撃の巨人)に、可愛いアイドル(きゃりーぱみゅぱみゅ)、ヱヴァンゲリヲンとなんだかごった煮。そこにUSJ復活の秘密があった。
2001年に開園したUSJ。開園当初はハリウッド映画がコンセプトだった。しかし、進撃の巨人に、きゃりーぱみゅぱみゅ。スヌーピーがいるかと思えば、ライバルのはずのハローキティまでいる。更にゲームの世界(モンスターハンター)のモンスターまで。今やUSJは映画だけの世界に留まらない、ごった煮戦略。しかもUSJにはその分野のファンなら絶対買いたくなる限定グッズがある。ヱヴァンゲリヲン初号機型のポップコーン入れに、進撃の巨人に出てくる立体起動装置の再現レプリカ(筆者注:107,700円は果たして安いか?しかし、細部まで精密に作り込んであるなあ)は、USJのオリジナル商品で、ここのショップでしか買うことが出来ない。
森岡は映画一辺倒だったUSJをあえてごった煮に変えたのだという。
「テーマパークといえば、1つのテーマできっちり作り込むイメージだが、それはたまたまディズニーのやり方。あのやり方は、ディズニーのように強烈なコンテンツを使えるからできる。同じゲームを戦ってもしようがない。僕らには、僕らのやり方がある。」
そのやり方は、「森岡マジック」とも呼ばれる理論に裏打ちされたもの。ある日の朝、急に、森岡が今日の入場者数を当てると言い始めた。
「きょうは突発的なことが起きなければ、2万5655人に近い数字になる。」
季節や曜日、天候などから割り出すという。その結果は、2万5747人だった。誤差はわずか92人。ほぼ毎日、誤差5%の範囲で予測。こういう予測は各部署で生かされている。例えば、ビバリーヒルズ・ブランジェリーというレストラン。この春登場した新スイーツのクロワッサン・ブリュレ。この商品は出来たてを提供するのが売り。表面に砂糖をふりかけ、バーナーで焼き目をつける。できてから3時間以内に売れなければ廃棄となるが、この予測のおかげてほとんど売れ残らないという。
(金島店長)
「入場者予測から、お客の数を予測し、商品の数を割り出している。」
この日、準備数:610個、販売数:608個で廃棄はたったの2個。
実は森岡、この数字のマジックを使って入場者数をアップさせてきたのだ。そのひとつが去年から始めた「UNIVERSAL COOL JPAN」。今年はあるものを追加した。それが日本の「カワイイ」の文化を代表するきゃりーぱみゅぱみゅの世界。実はこれには明確な考えがある。
「小中学生が好きで、親も好き。「それは何だ」とブランドを検証した。その中で外国人にも人気のある“きゃりーぱみゅぱみゅ”は合っていた。去年と今年の年齢別入場者数をイベント期間中で比較してみると、10代の子供とその親世代の入場者数が伸びていた。
「「よくUSJは何でもあり」と言われるが、「何でもあり」ではなく、必要な集客の目標に合うように、ブランドを組み合わせていく。それを計画的に計算してやっている。」
一軒ごった煮に見えるUSJ。しかし、その裏には幅広い客を呼び込む確かな戦略があったのだ。
(村上氏)
「アメリカの親会社は、ごった煮戦略をやることに反対はしていないのか?」
「親会社は許可してくれていますね。お客は”映画がある“から来るのではなく、”アニメだから“来るわけではない。お客は”好きなものがある“から来ている。お客が喜ぶものがあれば、ユニバーサルの高い技術力で提供するのがUSJのスタンス。」
元々、映画が好きなお客はUSJに足を運ぶし、従業員の中にも映画をテーマにしたテーマパークであることに誇りを持っている人もいると思う。“脱・映画専門”に社員の反発は?
「方針転換を明確にした時、風当たりはあった。みんな情熱を持って仕事をしているので、100人いたら100通りの意見がある。それは当然のこと。ただ、「消費者はどう思っているのか」「どうすればUSJに来たい人が増えるのか」「満足する人が増えるんだろう」という点については、いろいろな思いを持つ人がいても、その1点では手が握れる。「その1点が何か」を理解しようと。USJ(我々)は誰(消費者)に対して、どんなものを提供していくのかを、できるだけ冷静に、合理的に判断していく。それが全社員が“理解できる”“やる気になれる”共通項。みんな考えは違うが”消費者が求めること“であれば「それが正しい」と手を握れる。様々な戦略には様々な正解があるとは思うが、”一神教のブランド“があってもいいし、”多神教のブランド“もあっていい。”多神教のブランド“は日本の文化としても「許容されるだろう」という考えだった。」
■ 情熱を完全に制御できるだけの冷徹さ
森岡はゲームやアニメもとことん楽しむ。ガンプラも自分自身で夜中の2時3時までかけて、彫刻刀で溝や傷を作り塗装も行う。
「やり始めると面白くなって、趣味が広がっていく。時間が足りなくて困る。」
こんなマニアたちが会社にゴロゴロ。ヒット連発の開発集団! アイデア発掘の秘密とは。
マーケティング担当部署のオフィスはまるで子供部屋のよう。フィギュア、漫画、おもちゃが雑然と各社員のデスク周りを埋め尽くす。アトラクション担当の近藤さんは、「仕事は半分趣味。楽しくてやっている」。芸能担当のコンテンツ開発室長、中嶋さんは、AKBのライブに、古典芸能、街歩きも欠かさない。マルチな趣味を持つ。
(中嶋室長)
「ありとあらゆる分野の流行ものを探そうと思っているので、毎週いろいろな飲食店やアパレルショップを回るようにしている。」
それぞれが得意分野をとことん突きつめる。それがUSJのヒットを支える原動力だ。
「僕らは物を売っているのではなく、“感動”を売っている。だから、どんな感動を提供すればいいのか、消費者目線にならないと分からない。開発者(マーケター)は、何でも自分でやってみないといけない。」
(村上氏)
「ヒットを見極めるのは勘なのか?」
「全く館には頼らない。全て数字で裏付けられることなので、「狙った集客数が達成できる確率の高いブランドは?」と全て逆算して調べるので、もちろん消費者理解のためにゲームもやり込むし、「進撃の巨人」もDVDが出たら誰よりも早く買って見ているが、それは私が消費者を理解するためで、どのブランドがヒットするかの判断を個人の勘では絶対にやってはいけない。」
(村上氏)
「本当に一番最初の直感は無いのか?」
「それはある。これは当たるだろうという仮説は。私はマンガやアニメが極めて好きなので、個人の嗜好が入り込む余地が大きい。好きであればあるほど。だからがゆえに、強く熱い思いをきちんと制御できるだけの、それと同等の冷徹さや合理性を持たなくてはならない。情緒は関係なく、非常に冷徹で、合理的な意思決定を会社としてしている。」
■ チャレンジ社員が急増中! 失敗してもOKの驚き制度
USJにはチャレンジ精神が旺盛な社員を育てる仕組みがある。年に4回行われる「スイング・ザ・バット賞」と呼ばれる、失敗を恐れずに挑戦した社員を表彰する制度だ。この賞を生み出したのには狙いがある。
「もっと驚くようなアイデアが出てきてほしい。いい意味でのリスクを取り、成功率が下がってもいいから、巨大なホームランを打ってくれる、打ちに行くことを奨励したい。」
フードサービス部の東口さんと高田さんの二人は思い切りバットを振り抜いた。高さが4mもあるありえないドリンク自動販売機をつくったのだ。お客はジャンプしたり、子供を肩車しないと、注文ボタンや取り出し口に背が届かないようになっている。なんでこんな自動販売機を考えたのか?
(高田さん)
「テーマパークなので、楽しさを提供したいし、お客の笑顔や雰囲気を盛り上げるためにやろうと。」
この「ありえない自動販売機」は製造コストはよけいにかかったのに、売上は通常の自動販売機とほぼ同じ。がっかりな結果だったが、これが受賞した。
受賞の理由は?
「喉が渇いたら飲むという自動販売機に、“飲みたい”ではなく、“買いたい”という付加価値をこの2人が創造したことで、自動販売機の価値がとても高まった。」
結果はともかく、チャレンジすることがUSJでは何より大切なのだ。
夏のUSJで大人気なのが、ウォーター・サプライズ・パーティ。客とスタッフが水を掛け合うイベントだ。これに参加するためには、イベントで使用する水鉄砲を買わなければならない。もっと盛り上げたいと考えた入社4年目の森澤さん。新兵器といて、バズーカ型の巨大水鉄砲だ。これを客に貸し出すという。
(村上氏)
「空振りするけど挑戦することはいいことだ、という価値観を全社員が共有する仕組みを作っていかなければならなくて、それは決して簡単ではないと思うんですけれど」
「USJで働く人間が備えておくべき項目として人事評価制度では、去年と同じことをやっていたら、評価は低くなる。新しいことをやれば、結果はどうであれ、その部分の評価は高くなる。これを会社のシステムとして取り組んでいる。もうひとつ、みんなの前で表彰することで、「バットを振ることは善である」と、「結果が出なくても頑張りは評価される」と、ショーとしてみんなに分かるように、実際に、評価システムと表彰の両方が必要だと思う。」
「挑戦する人材がUSJには必要。テーマパークビジネスは、同じことを続けていたらジリ貧になりやすい。新しいことに挑戦する精神が無くなったら、エンターテインメントは、すぐに飽きられる存在なので。「挑戦する姿勢」を大事にしなければと考えている。」
(村上氏)
「なぜ人間は、何を求めてテーマパークへ行くのか?」
「それが一番、深淵で重要なテーマだと思っていて、我々も、毎日そればかり考えている。今のところ、我々が思っているのは、人生は、つらいことや退屈なことがあって、人は発散する場所が無いと、心のバランスがとれなくなる宿命にある。その中でテーマパークが果たす役割があるんじゃないかと考えている。
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