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(エコノフォーカス)日本の製造業、為替の壁破る 生産国際化・輸出品の価値向上 - 為替マリーの効果発現と円貨決済と製品の高付加価値化の促進

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 日本の製造業の為替変動への耐性強化の原因を探る!

経営管理会計トピック

日本の製造業における利益の為替感応度が低下し、為替変動に対する耐性が強化されたとの分析記事がありました。一部、突っ込みが浅かったので補強説明したいと思います。

2018/6/25付 |日本経済新聞|朝刊 日本の製造業、為替の壁破る 生産国際化・輸出品の価値向上

「もう為替は怖くない――。日本の製造業が為替への耐久力を強めている。かつては円高になると輸出に大きな影響が出たが、日銀の分析ではついに「感応度」がゼロになった。後押しするのは輸出財の高付加価値化。つまり、価格によらず売れ続ける製品へのシフトだ。為替の壁をようやく乗り越えた日本の製造業だが、今また、さらに大きな別の課題も浮上してきた。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「輸出の為替感応度が急低下した」を引用)

20180625_輸出の為替感応度が急低下した_日本経済新聞朝刊

記事によりますと、日本企業の輸出が堅調に推移し、2015年を100とする輸出の指数(実質輸出)は4月115.4と、統計が始まった75年以降で最高となり、5月も111と高水準を維持しているとのこと。とうとう為替感応度は、「17年は0~マイナス0.1%になった。つまり「円高・円安と輸出の増減がほぼ無関係」という状態にまでなったのです。

その主な要因として3つ挙げられています。

(1)生産の現地化
(2)国際的な通貨管理
(3)輸出品の高付加価値化

(1)生産の現地化
「これまでの円高局面を経て、各社はアジアなどで現地生産の拡大や生産委託を進めた。」
とあります。これを同紙別記事で補強説明します。

2017/4/30付 |日本経済新聞|朝刊 円高でも最高益 前期上場企業、収益構造を変革 ホンダ・海外生産8割超に/ソニー・ドル建て部品調達

「企業業績が粘り腰をみせている。2017年3月期の上場企業の純利益は2年ぶりに最高を更新したようだ。08年の世界金融危機以来の逆風となる1ドルあたり12円の円高をはねのけた。内需企業の好調に加えて、輸出減を海外生産の拡大で補った製造業が踏ん張った。「業績は為替次第」といわれ続けてきた日本企業だが、その収益構造は着実に変わりつつある。」

海外現地生産を増やしたことにより、単純に円ベースでの生産比率(原価構成比)を低下させたことだけが完成品の輸出における為替耐性を強化できたわけではありません。なぜなら、進出先のアジア諸国の通貨が円よりドル・ユーロに対して一方的に弱くなることは考えられないからです。

(下記は同記事添付の「業績と為替の連動が崩れた」を引用)

20170430_業績と為替の連動が崩れた_日本経済新聞朝刊

① スマートファクトリー
海外工場ではロボや機械が人間の役割を代替し、人影の少ない工場内をアーム型ロボットや自動搬送装置が昼夜なく動き回るスマートファクトリー化が急伸しています。

日本電産の例を引くと、
「20年度までの5年で海外工場の従業員を8万人から4万人に半減させる計画。自動化によるコスト競争力を武器に為替変動にも動じない筋肉質の収益体質に磨きをかける。」

② 地産地消
何もものづくりの海外進出は部材にとどまらず、完成品にも及んでいます。ホンダの2017年3月末の海外生産比率は84%に達し、これは10年前から21ポイント高、米国内で販売する自動車の現地生産比率が米ゼネラル・モーターズ(GM)よりも高い水準。為替変動が営業利益に与える「為替感応度」も1ドルあたり1円の変動で120億円。10年前から60億円も下がった計算です。

ソニーは逆に対ドルで1円の円高が進むと営業利益が35億円増える計算に。スマートフォン部品の多くをドル建てで現地調達し、円高になれば調達費が浮く構造に変貌しました。現地生産でしかも現地調達比率を向上させ、この現地調達が現地通貨で行われれば、もともと採算性のある製品を出荷さえすれば、為替変動に関係なく利益を出すことができるのです。

(下記は同記事添付の「金融危機後に海外生産が加速」を引用)

20170430_金融危機後に海外生産が加速_日本経済新聞朝刊

 

■ 果たして「国際的な通貨管理」とは何を意味しているのか?

(2)国際的な通貨管理
冒頭の記事では、
「決済も海外通貨建てを増やし、財務省によるとドル建て輸出の比率は17年上半期で51%。ユーロや人民元の取引も増えている。」
とあります。これは単純に、輸入元の通貨建てで輸出しているとしか言明していません。これでは、仮に製造原価に円が含まれている(円ベースで部材生産や完成品組立した分の原価が含まれている)際の為替変動分のリスクに対する十分な説明にはなっていません。

2017/6/23付 |日本経済新聞|朝刊 (為替最前線を行く)(下)ソニー、銀行不要の機動力

(下記は同記事添付の「業績への為替影響額は低下」を引用)

20170623_業績への為替影響額は低下_日本経済新聞朝刊

「世界に約1300もの子会社を抱えるソニー。国内外の壁を取り払い、必要な資金をグループ内で融通するシステムを構築している。リアルタイムで資金の過不足を調整、無駄な資金を寝かせず運用する。
対象通貨は実に38。米ドル、ユーロは無論、クウェートディナールやウクライナ・フリブナなどエキゾチックな新興国通貨も含む。遠くの国の政変が通貨の変動を通じてソニーの業績に打撃を与えないとも限らない。SGTS(ソニーの金融子会社:ソニー・グローバル・トレジャリー・サービシーズ)が、いわば「社内銀行」として東京・ロンドンから世界中に目を配る。」

「国際的な通貨管理」とは、グループ内で行われる各国通貨による決済を集中管理をする、ソニーのSGTSのような動きができることを言い表すものと理解します。

「同時に進めてきたのがスマートフォン部品のドル建て調達拡大など、生産を通じて為替の影響を管理する試みだ。一般的なのは、輸出で得た外貨収入と輸入で生じる外貨の支払いを同じ通貨で相殺する「マリー(marry)」と呼ばれる手法。債権・債務が拮抗していれば、その部分の為替影響はゼロになる。」

このような「為替マリー」まで追求することができれば、現地生産の現地通貨による現地調達を包含して、完全に為替管理の主導権をグループ社内に取り込むことができるのです。

下記は、ソニーを含むそれ以外の企業の為替管理に挑む諸処の方策になります。

(下記は同記事添付の「主な為替変動リスク対策」を引用)

20170623_主な為替変動リスク対策_日本経済新聞朝刊

よく、「究極の為替管理は『円建て決済』だ」といわれます。海外でも円でやり取りすれば、為替リスクは先方が持つことになるという論法です。ただし、これには、高い製品競争力が必要といわれており、

円建て取引の代表例は、下記の通り。
・川崎重工業が建機部品を円建てで中国メーカーに輸出
・ファナックの工作機械向け数値制御装置
・いすゞ自動車の新興国向けトラック

 

■ 輸出品の高付加価値化がどうして為替耐性を持つのか?

(3)輸出品の高付加価値化
「経済財政白書などに使われる「高付加価値化指数」というデータがある。財務省が算出する「輸出価格」を、日銀の「輸出物価」で割ったもの。前者は単純な一単位あたりの輸出額を示し、後者は輸出品の質や中身で調整を加えている。この指数が右肩上がりで上昇し、付加価値の高い輸出比率が高まっている。」

冒頭の引用されたグラフにある「日本の輸出高付加価値化指数は上昇」が端的に日本の製造業の輸出品の高付加価値化を指し示しています。

内閣府によると、高付加価値財の輸出は電気計測機器、原動機、自動車といった日本を代表する産業で特に高まっているそうで、半導体製造装置、中でも、その品質を支えるのは薄膜加工や真空搬送などの作業を担当する装置で、大手の東京エレクトロンなどが輸出を拡大しています。また、原動機では航空機部品が伸びており、航空機の大手は米ボーイングや欧州エアバスなどの欧米勢だが、エンジン部品は日本勢が強く、川崎重工業などが勢いを強めています。

「かつては円安が進めば海外で値下げし、シェア拡大を急ぐのが常道だったが、最近は価格を据え置いて利幅を確保することが多い。価格競争力が高まっており、逆に円高の局面でも輸出量を減らさなくて済む。これが高付加価値化が為替の影響回避に効く理由だ。」

つまり、高付加価値品になれば、そして完成品へ組み込まれる基幹パーツとして存在感を示せば、どんなに高くなっても(為替変動で割高になっても)顧客は購入せざるを得ないということで。ということは、究極の為替対策は、製品の品質向上と他社の追随を許さない差別的な高機能な製品。月並みな結論が出てしまいました。はい。(^-^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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