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不適切会計の手段 -利益操作(4)一時的または持続不可能な活動による利益の増大

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 利益を誤認させるための財務諸表の見せ方 -財務諸表は見た目が9割!

会計(基礎編)

今回は、利益操作の目的のひとつである「利益の過大表示」そのものの手段を取り上げます。これまでは、収益(売上)をどうにかして大きく見せて利益を過大に見せるには? を説明してきましたが、とうとう最終目的のためには、手段を選ばなくなってきました。(^^;)

その前に、参考にしている図書の紹介から。

この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。

経営管理会計トピック_不適切会計の類型

では、「利益の過大表示」のための、先人の苦労(?)を解析していきます。

苦境に陥った企業の経営者は、顧客・サプライヤーとの取引への影響の懸念、金融機関からの資金調達への悪影響を考慮し、利益を水増しし、企業業績をできるだけ良く見せたいとの誘惑にかられることが多いと想像します。投資家にばれなければ、効果が一時的なカンフル剤を用いて、どうにか今回の決算発表を無事に乗り切りたい、との悪魔のささやきに負けた時、以下の見せかけの利益を作り出します。その方法、想像力たるや、もはや芸術の域に達しています。

 

(1)一時的な事象を使った利益の増大

まず、この種の常套手段となっているのが、事業の売却(時には買収も)と一般的な商取引による売買と一緒に、経常的な収益源として、財務諸表に計上する手段です。これらは、日米の一流有名企業で実際に用いられた手法の一部です。

● 事業の売却を経常的利益に加える
日米の会計基準は、事業の売却に伴う損益は、営業利益(加えて日本基準の場合は経常利益もあり)の算出では考慮しないのが常道です。そこは巧みに、事業売却益を、経常的な支出のマイナスとして紛れ込ませることで、販管費を圧縮して、営業利益を見かけ上、良く見せることができます。

● 事業の売買取引と商品の売上や仕入取引を組み合わせる
適正価格より、高く事業を買収する、安く事業を売却する、そういった商取引が行われる動機には何があるか、そしてそうした取引が財務諸表に与える影響とはどういうものがあるでしょうか? 下記に、代表的なパターンを書き出してみます。

1)顧客企業に事業を安く売却して、その分、通常より高い値段で商品を購入してもらう
2)サプライヤーから事業を高く買収して、その分、通常より安い値段で商品を販売してもらう

 

(2)誤認しやすい表示区分にして利益を増大する

損益計算書は、売上総利益→営業利益→(経常利益:日本基準→)税前利益→当期利益→包括利益、というふうに、いわゆる「段階利益」表示されています。通(ツウ)の投資家であれば、目を皿のようにして上から下まで、損益計算書を眺めるのが通常なので、被害がそれ程大きくはないのでしょうが、一般的には、損益計算書は上から眺めるので、途中の営業利益ぐらいまでで、その企業の業績を評価してしまうことが多いようです。逆に、経営者にはそこにつけ込まれてしまうのです。

経営者の常套手段は次の3つ。

① 「悪いもの」(すなわち、通常の営業費用)を営業外の区分にシフト
② 「良いもの」(すなわち、営業外収益または特別利益)を営業の区分にシフト
③ 悪いものを削除して、良いものを計上できるように、貸借対照表の区分を調整

● 営業費用を営業外へシフト
最も一般的なのは、在庫や工場、設備などの一時的な減損処理は関連する費用、売上原価や販管費を営業外の区分にもっていく作用があります。もしそれが経済実態的に適切な場合は、問題ないのですが、通常のリストラ費用を計上する際に、経常的なコストもそれに紛れ込ませて、リストラ費用を必要以上に膨らませて、営業利益を良く見せかける手立てがあります。これは、リストラ費用の計上が連続して毎期発生する企業の決算などを見る際には、内容を疑ってみる必要があります。
(日本企業で言及しておくと、最近では、一部の電機メーカーでは、、、)(^^;)

また、リストラ関係では、業績不振の事業を「廃止事業」と扱う場合、これは特に米国会計基準による表示方法なのですが、通常の営業利益からは廃止事業に関連する損益をはずさなければならないルールを悪利用し、継続事業の損失を廃止事業に付け替えることができます。企業内の共通固定費は、ある一定のルールで各事業に配分(配賦)していることが多いと思いますが、この配分ルールを変えるだけで、いともたやすく継続事業が負担すべき全社共通固定費を廃止事業につけ回すことができます。残念ながら、外部の会計監査人は、社内の共通固定費の配賦ルールの細かい仕様にまで、短い監査期間内ですべての適切性をチェックすることはできない可能性の方が高いですから。

● 営業外収益や特別利益を営業利益にシフトする
こちらは、個別にケースをご紹介。

まず、フランチャイズ経営をしている企業(フランチャイザー)が、加盟店(フランチャイジー)からの支払利息や様々な手数料(経営指導料やブランド使用料、その他もろもろ)を取り立てて、それらを売上高に含めてしまうケース。

次に、連結決算のルールを狡猾に利用するケース。厳密いうと、日米で連結範囲の定義が異なるので、その線引きが微妙なのですが、簡単には、議決権の過半数を持っていて、実質的に支配権を持っていれば、その企業は子会社として連結決算の仲間に入れる必要があります。その時、出資比率が51%(日本の場合は必ずしも50%を超えていなくても、、、そういう細かいことは別の回で)の会社をいっぱい所有していた時、そうした100%持分でない子会社の売上と営業利益も100%全額を連結決算上の売上と営業利益とすることができます。

損益計算書をずっと下まで見れば、そうした出資比率の調整は、「少数株主利益」という勘定科目で行われるのですが、登場するのが営業利益のずっと下ですから。。。

● 営業利益を増大させる貸借対照表の区分けを恣意的に行う
今度のケースも、連結会計のルールの狡猾な利用によるものです。おおよそ、議決権を20%~50%のレンジで保有している企業(出資先)は、「持分法損益」方式で、自社の連結決算に組み込む必要があります。この利益の計上先は、日米の会計基準で場所は違えども、日本基準的には少なくとも経常利益より上、つまり、通常のビジネスサイクルで生まれた損益としてみられます。

この利益は、先ほどの子会社の利益とは違って、出資比率に比例して計算されるものですが、赤字の場合は、マイナスの利益、すなわち損失が損益計算書に算入されてきます。そこで、悪知恵が働く財務担当者は、業績が悪化した出資先に対して、

① 議決権(所有権)を信託にすることで、連結外し行う
② ペーパー会社をたくさん作って、本体会社の出資先への出資比率を20%未満に

ちょっと②は補足説明が必要かもしれませんね。本体会社がペーパー会社をたくさん設立して、業績の悪化した出資先の株式を買いまくります。そうして本体会社の出資比率を20%未満にまで下げます。経済実態的には、業績が悪化した出資先への支配構造というか、連結決算への算入義務はなくなっていないのですが、表面的な形式ルール的には連結から外せるというわけ。

こうした操作を日米の一流企業が実際にやった手口と知った時、筆者は愕然とするとともに、担当者がとても可哀想になりました。こういう粉飾をして、ストックオプションやその他の経済的便宜を経営者は大いに享受して、事が公になっても、差っ引き、余裕で老後が暮らせるキャッシュが手元に残るのなら、そういう賭けに出ても、経営者はおつりが出ます。しかし、一会計担当者はそれでキャリアが終わりになりますから。。。




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