経営戦略概史(23)フォスターがリードしたマッキンゼーの「イノベーション戦略」 - イノベーション理論の始祖のシュンペーターまで遡って議論してみる

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■ 温故知新! シュンペーターの『イノベーション理論』をおさらいする

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。今回は、「イノベーション戦略」をコンサルタントサービスに仕立て上げたマッキンゼーのフォスターを取り上げます。

イノベーション理論は何といってもオーストリア出身のヨーゼフ・シュンペーター(1883~1950)抜きでは語れません。彼の後、ピーター・ドラッカー、破壊的イノベーション、イノベーションのジレンマで有名なクリステンセン、バリュー・イノベーション、ブルー・オーシャン戦略で有名なキム、モボルチュ、リバース・イノベーションで有名なゴビンダラジャンとイノベーション理論が進化・発展していくことになります。

20180114_ヨーゼフ・シュンペーター

シュンペーターは、「企業家の行う不断のイノベーションこそが経済を変動させる」と『経済発展の理論』(1912)で主張しました。彼は、レオン・ワルラスに師事し、一般均衡理論(多くの財をふくむ市場全体における価格と需給量の同時決定をあつかう理論)を学び、古典派が均衡を最適配分として捉えているのに対し、逆にシュンペーターは均衡を沈滞として捉えました。シュンペーターによれば、市場経済は、イノベーションによって不断に変化しているのであって、イノベーションがなければ、市場経済は均衡状態に陥っていき、企業者利潤は消滅し、利子はゼロになると考えました。その停滞を打破するために、企業家は、創造的破壊を起こし続けなければ、市場で生き残ることができない、と考えたのです。

シュンペーターのイノベーション理論の要点は次の4つ(本書P201)

① イノベーションの非連続性
イノベーションは大きな「軌道の変更」だけでなく「担当者の変更」を伴う。鉄道の建設者は郵便馬車の事業者ではなかった。

② イノベーションの類型化
イノベーションには5つのタイプがある。いずれも技術革新に頼るものではなく「業界では未知であった」ことで十分

③ 金融機能の重要性
イノベーションのためには大きな投資が必要で、それを銀行が貸し出し(信用の創造)、イノベーションの普及後は回収する(信用の縮小)ので景気が循環する

④ 企業家の役割
イノベーションを担うのは一般的な経営者ではなく、企業家(起業家を含むアントレプレナー)である

 

■ 温故知新! シュンペーターの『イノベーション理論』をおさらいするPART2

ここでは、「② イノベーションの類型化」「④ 企業家の役割」を深堀りします。

② イノベーションの類型化
シュンペーターは、著書『済発展の理論』の中では、「イノベーション」ではなく「新結合(neue Kombination)」という言葉を使っています。これは「一見、関係なさそうな事柄を結びつける思考」というクリステンセンの定義と符丁が合います。そうした新しい結び付けが起きる可能性のある領域を次の5つに分類します。

1.新しい財貨の生産
2.新しい生産方法の導入
3.新しい販売先の開拓
4.原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
5.新しい組織の実現(独占の形成やその打破)

④ 企業家の役割
イノベーションの実行者を「企業家・起業家(entrepreneur)」と呼称することが一般的です。ここでの企業家・起業家の語は、一定のルーチンをこなすだけの経営管理者(土地や労働を結合する)ではなく、まったく新しい組み合わせで生産要素を結合し、新たなビジネスを創造する人を指します。

典型的なイノベーターとして、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズが真っ先に頭に思い浮かぶのは筆者だけでしょうか。(^^;)

彼が言うイノベーションが起こせる人物の特徴は、

① 視界の鋭さ
② 偏狭さ
③ 独立独歩の能力
を特殊に結び付けられる能力を有している人なのだそうです。

筆者の好きな彼の言葉にこういうものがあります。

Innovation distinguishes between a leader and a follower.

イノベーションは、誰がリーダーで誰がフォロワーかをはっきりさせる。

⇒「スティーブ・ジョブズ(7)イノベーション

 

■ プロダクトライフサイクル(PLC)戦略とシュンペーターの「イノベーションの非連続性」を結合

社会学者であるエベレット・ロジャーズが、新しい概念・習慣・商品などがどうやって普及するかのプロセスを分析し、「イノベーター」「アーリーアドプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」「ラガード」の5層に分類されることを発見し、プロダクトライフサイクル(PLC)戦略が生まれました。

経営戦略(基礎編)_ロジャースのユーザー5分類

(参考)
⇒「経営戦略概史(12)コトラーによる「マーケティング・マネジメント」- STP・MM・PLC戦略を体系化

マッキンゼーのリチャード・フォスターは、このPLC曲線を援用しつつ、「2重のS字曲線」でシュンペーターの言う「イノベーションの非連続性」の存在を、当時の電子素子産業の業界分析から明らかにしました(本書P202)。

経営戦略(基礎編)フォスターの2重のS字曲線

フォスターの「2重のS字曲線」は、縦軸に成果、横軸に投入された労力や資金を取ります。あるイノベーション(真空管)が普及していくと、どこかで新しいイノベーション(トランジスター)が発生します。しかしそのイノベーションはこれまでより高い場所からスタートするため、古いイノベーションをやがて抜き去ることになることを証明したのです(本書P203)。

シュンペーターが唱えた「① イノベーションの非連続性」における「担当者の変更」がここで明らかになります。1955年時点の真空管市場上位3社は、同じ年のトランジスター市場の上位3社には1社も入っておらず、その10年後、そのトランジスター市場の誰も、半導体市場で生き残ってはいなかったのです(本書P203)。

こうして、シュンペーターがイノベーション理論を提唱した当時、経済学者でありながら、定式化・数式化できなかったイノベーション・景気循環理論は、約75年後、経営学の世界でその正しさが立証されることになります。フォスターの研究成果は、『イノベーション:限界突破の経営戦略』(1986)にまとめられ、大きな反響を呼ぶことになります(本書P203)。

 

■ 経営コンサルティング手法としては長続きはしなかった!

前章の「2重のS字曲線」理論は、市場分析としては秀逸なのですが、ひとつの企業に対する経営コンサルティングとしては、やや問題が残りました。なぜなら、この種のイノベーションは必然的に「担当者の変更」を前提にしており、同じ企業が永続的には生き残らないことを示していたからです。

フォスターは、

「守りつつ攻めよ」

「旧いイノベーションを守って儲けつつ、次の新しいイノベーションに向けて積極的に投資せよ、そのためには対話・観察・熟考の技術を組織として上げよ」

と唱えました。しかし、その投資をいつ行えばいいのか、新しいイノベーションの選別方法はどうすればいいのか、までは具体的に言及することがありませんでした。そのために経営コンサルティングビジネスとしては限定的でやがて終息を迎えます(本書P204)。イノベーション理論はその後、キャズム、ブルー・オーシャン、イノベーションのジレンマ、オープン・イノベーションと、次世代の論者がけん引していくこととなります。

ちなみに、上記のフォスターのセリフは、よくよく考えると、BCGの「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」に似通ってはいませんか?

経営戦略(基礎編)_企業全体でのお金の流れ

(参考)
⇒「経営戦略概史(13)ヘンダーソンによるBCGの誕生と3つの飛躍- PPM、経験曲線、持続可能な成長率

誰が先に行ったとか、どのファームが提唱したとか、細かいことに目くじらを立てているわけではなくて、手を変え品を変え、経営コンサルタント、戦略コンサルタントは様々な理論やフレームワークをクライアントに提示するのですが、用いられる言葉や名称のキレに惑わされることなく、本質を捉える思考訓練を積むと、こうした「朝三暮四」的なコンサルティングサービスの物言いに耐性ができるのではないかと愚考します。

もちろん、偉大な先人たちは、人知れず、血のにじむような努力をされた結果、いろいろなフレームワークを世に送り出していることは事実ですが、結構、経営の本質というものは、不易流行的なところが多いのだと、本稿を書いて再認識した次第です。(^^;)

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