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帝人、変動価格システム参入(1)ダイナミックプライシングとスマートサプライチェーン

経営管理会計トピック_アイキャッチテクノロジー
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■ 化繊メーカーの技術力でものにしたICタグによるデジタルサイネージシステム

経営管理会計トピック_アイキャッチ帝人は、秦逸三氏が久村清太氏と共に1915年(大正4年)に、米沢製糸場を買い取り、東工業米沢人造絹糸製造所として設立され、帝国人造絹絲株式会社(1918)に改組後、大阪に本社を移し、英国ICI社からポリエステル製造の技術を導入し、化学繊維メーカーとして成功を収めた企業です。

化繊企業がなぜ、RFID (Radio Frequency Identification)技術を活用し、電子タグを用いた商品の現物管理システムを手掛けているのか不思議に思われる方もいらっしゃると思います。素材メーカーの事業多角化の流れで理解されてもいいですし、また帝人の化繊に対する技術から、非常に優れたアンテナシートを作り出せたという点も決して見逃すことのできないポイントに違いありません。

2019/10/18 |日本経済新聞|朝刊 帝人、変動価格システム参入 小売店向け 薬品管理を応用

帝人は需給や競合状況によって価格を柔軟に変える「ダイナミックプライシング」に対応した小売店向けシステムに参入する。ICタグを使って病院の薬品在庫を管理するシステムを応用。消費期限が近づいた食品の在庫が多ければ、棚にある電子値札で値下げする機能などを持たせる。

(下記は、同記事添付の「レコピックを用いた陳列棚+デジタルサイネージ システム」を引用)

レコピックを用いた陳列棚+デジタルサイネージ システム

従来は、病院の薬品や工場の在庫などの管理で使われるシステム「レコピック」を応用して、ダイナミックプライシングを素早く可能にするデジタルサイネージとリンクさせます。陳列棚のデザインに対するイメージを新しくするものです。

(下記は、TEIJINホームページのレコピック小売・流通における導入事例より)

ICタグを用いた情報共有システムの実装実験

外部リンク Reco pick 導入事例 ICタグを用いた情報共有システムの実装実験|TEIJIN

■ダイナミックプライシングを可能にしたRFIDの高精度読取可能技術

冒頭の新聞記事では、TEIJINのこの技術を、次のように紹介しています。

システムは主に(1)陳列棚に敷く電波を受発信するシート(2)消費期限などの情報を書き込んで食品の包装材に貼り付けるRFID(無線自動識別)タグ――で構成。期限が近づくと電子値札の表示価格を自動で調整する。ローソンやウエルシアホールディングスが今年2月に試験導入しており、2022年度に20億円以上の売上高を目指す。

TEIJINホームページを元に、同社技術の何が画期的なのか、かいつまんでご紹介したいと思います。

外部リンク RFID棚管理システム|テイジンの技術力|TEIJIN

このシステムを機能させるには、まず物品管理をしたい個品にUHF帯ICタグを貼り付ける必要があります。バーコードと異なり、UHF帯ICタグには、①高速、②長距離、③同時、④複数の個品認識ができるのがメリットです。しかし、一定領域に存在するICタグだけを正確に認識することが克服すべき課題でした。

(同社ホームページより「素材とICTの技術を融合させたスマートソリューション」を引用)

素材とICTの技術を融合させたスマートソリューション

TEIJINの「レコピック」は、様々な物品に取り付けられたUHF帯ICタグ情報を、棚や壁や床などの平面に取り付けられたアンテナシートで、近接させた物品の所在を判別します。このアンテナシートの機能性が素晴らしく、ここが老舗素材メーカーとしての面目躍如といったところです。

(同社ホームページより「二次元通信シートと独自アルゴリズム」を引用)

二次元通信シートと独自アルゴリズム

アンテナシートは、面状に電波を局在化できる二次元通信シートで、

    1. 電波の伝搬特性を考慮した電波損失の少ない材料を選定
    2. 低誘電率素材で形成された誘電層を、一定以下の直流抵抗値の導電性素材で挟んだ三層構造
    3. 導電層は伝搬させる電波の周波数に対して最適化されたメッシュ形状の開口部を有している
    4. 開口部から出た電波はシート表面にのみ強く伝搬し、シートに近接した物品のみを正確に読み取ることを可能にする

一方で、アンテナシートで読み取られたICタグ情報の方はというと、

    1. 的確に読み取られたデータをフィルタリングする独自アルゴリズムでデータ処理を行う
    2. このアルゴリズムにより、所在管理や使用回数を可視化でき、自動化することでヒューマンエラーや管理コスト削減を可能にする
    3. 得られたデータ解析によってこれまで見えなかった無駄を顕在化させ、業務改善のヒントを得ることができる
    4. 二次元通信は電波を局在化させ利用できるため、一次元(配線)通信のような煩わしさがない

あらゆるものがインターネットにつながるIoT社会。将来は現在よりも桁違いに多くの機器やセンサが身の回りで機能し、お互いにつながり合い、もっとデータが行き交うことでしょう。現在は、5GやWi-Fi(無線LAN)のように、三次元(無線)通信を用いた商品開発が主体となっています。

しかし、三次元(無線)通信は、①信号の届く範囲が目に見えない、②通信範囲が不明瞭で認識しづらい、③信号の到達範囲の制御が困難、というような欠点もあります。そこで、有線と無線の長所を併せ持ち欠点を補完できるユニークな技術である二次元通信が、将来的には物品管理のみならず、生体センシングやワイヤレス給電など様々な分野でも活用できる可能性を秘めているのではないでしょうか。

■ 産学共同の研究成果 – スマートサプライチェーン

現代では、ソフトウェアのバージョンアップにより機能が追加できること、他と通信技術により接続機能を有するガジェットを総称して「スマート」の装飾語をつけるのが流行りですが、「スマートサプライチェーン」もその括りに入ることは間違いないでしょう。

参考記事 「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略 マイケル・ポーター(1) HBR 2015年4月号より

実は、TEIJINのレコピックは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とのICタグを用いた情報共有システムの実証実験により成果がまとめられたシステムといえます。

経済産業省、消費・流通政策課が音頭を取ったこの実証実験は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「IoTを活用した新産業モデル創出基盤整備事業(国内消費財サプライチェーンの効率化)」として執り行われました。

外部リンクスマートサプライチェーン実証実験 IoTを活用した新産業モデル創出基盤整備事業(国内消費財サプライチェーンの効率化)」(PDF)

以下、この資料よりスライドを引用させて頂き、補足説明します。

クプライシングと広告最適化

この実験では、電子タグが貼付された商品が入出荷される際に読取を行い、何の商品が、いつ、どこにあったかのログデータをサプライチェーン情報共有システムに蓄積することで、商品の流れを可視化できるかを検証することを目的として行われました。

と同時に、協力いただけるモニター家庭でも電子タグの読取をしていただき、家庭内での電子タグを用いたサービスや、プライバシーへの配慮の方法などについても検討を行うものでした。

今回この中から、ダイナミックプライシングの部分だけを取り出すと、この実証実験では、ダイナミックプライシングを技術的に有効化するために、2つの方法論が試されました。

実証実験 ダイナミックプライシング 
実証実験 ダイナミックプライシング ポイント還元型

はい、もう陳列棚という漢字をつかって呼ぶのではなく、「スマートシェルフ(Smart Shelf)」というんだそうです。^^;)

1. スマートシェルフを用いたダイナミックプライシング
・商品棚に実装されたレコピックで商品のICタグを読み取り
・陳列されている商品のうち消費期限が迫っている商品を認識し情報を共有
・この情報をもとに値引き、またはポイント還元を行う旨を実験参加者へ通知
・消費期限の近い商品の購買を促すことで食品ロスの削減をする仕組みに活用

2. スマートシェルフを用いた広告最適化(デジタルサイネージを活用
・来店者が棚から手に取った商品のICタグをレコピックが認識
・当該商品のサイネージをモニターに流し、来店者の購買を促す仕組みに活用

実証実験 広告最適化 デジタルサイネージ

下記リンクは、ダイナミックプライシングについて幅広い視点で解説している良記事です。是非、ご一読ください。

外部リンク 変動価格はスタンダードとなるか ダイナミックプライシングの現在と未来|ビジネスコラム|株式会社 日立ソリューションズ

■ (補足)誰がイノベーションを起こすのか?

前章で産学共同の実証実験があった背景まで言及したのには、理由があります。

本書は、そのキャッチーな題名の通り、イノベーションはどうやって起こすことはできるのか? 日本国(日本人、または日本企業)のイノベーション力は落ちたのか? 正しいイノベーションの起こし方、について書かれたものです。偶然にも、同書では、第9章の最後に「東洋紡の自己変革」として、TEIJINの同業者が触れられています。

また、同業者の東レの炭素繊維(トレカ)も同様なのですが、イノベーションは、近視眼的アプローチに陥り、手近な果実を得ようとせずに、ひたすらセレンディピティが舞い降りるのを待って忍耐強く努力した人(組織)のうえに到来すると強く信じています。

まだまだ強い日本の素材メーカーの底力。最近のノーベル賞受賞もそうした明治~昭和までの過去の遺産の上に輝く栄光です。そろそろ日本はポスドク問題を何とかしなければならない時期だと思うのですが。。。

さて、次回は、ダイナミックプライシングの経済学的な視点からの分析を試みたいと思います。こうした学際的なアプローチが筆者の真骨頂ですから。自分でいうな!^^;)

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(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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