■ 驚愕の親子「同時」上場
日本郵政グループが、日本郵政(ホールディングス)、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の金融子会社と共に、3社同時上場を発表しました。金融行政の機微や、郵政改革の迷走など、政治や業界、法務的な議論は他の専門家にお任せして、本ブログでは、親子上場の是非というか課題、郵政グループ内のお金の流れについて、なるべく他の人がコメントしないような情報をお伝えしようと思います。
2014/12/23付 |日本経済新聞|朝刊
日本郵政、来年9月上場 郵貯・簡保と3社同時 ドコモに匹敵、大型公開
「日本郵政グループの株式上場計画案が22日、明らかになった。持ち株会社の日本郵政と傘下の金融2社(ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)が2015年9月をメドに同時上場する。来年3月に東京証券取引所に上場の予備申請をする。国内市場では、上場時の時価総額が7兆円を超えた1998年のNTTドコモに匹敵する大型新規株式公開(IPO)となる見込みだ。郵政民営化を掲げた小泉改革から10年を経て、郵政株の売却がようやく始まる。」
■ 親子上場についての論点整理
親子上場の問題点は簡単に言うと、2つあります。
1.ガバナンス問題
2.バリュエーション問題
1.ガバナンス問題
親会社の少数株主からすると、上場子会社において、子会社の少数株主を含む意思決定に重大な瑕疵が発生すると、親会社(を含むグループ全体)の業績悪化のリスクを負うことになます。逆に、子会社の少数株主からすると、支配権を有する親会社の利益を優先した経営意思決定がなされると、子会社における自身の利益が損なわれてしまう恐れが生じます。
通常、こういった「利益相反」を排除するために、委員会設置会社になったり、社外取締役を増やしたり、事前事後の経営意思決定プロセスの定式化をしたりします。まあ、組織間調整と稟議書が横行すると、途端に、経営スピードは落ちることになるので、企業のパフォーマンスに対しては、あまりよくない傾向がある(その反対の事例も発表されていますが)とされています。
2.バリュエーション問題
子会社の企業価値(株主価値)が計算されて、子会社の株価が形成され、同時に、子会社の時価総額を加味して、親会社の企業価値(株主価値)が計算される二重計算が発生します。その場合、
① 親会社に支配されている子会社に資本参加する価値は、独立企業への投資価値より割り引かれるべき
② 子会社株式の株式市場における評価変動分(適正でないこともあるし、一過性のこともある)を即時に反映して、親会社株式の株主価値を試算することは難しい
と一般にされています。
■ 投資家の目をくらませる「同時」上場
一般論はこのくらいにして、郵政グループの親子3社同時上場の問題に切り込んでいきたいと思います。
まず、郵政グループの前期の連結B/S(FY13)をご確認ください。
ほとんど、金融機関の財務諸表になっています。借方には、金融資産(そのうち76%が国債)、貸方には、「貯金」「保険契約準備金」という負債名義の資金調達。
次に、各社の単体B/Sからさくっと、会社別の資産構成を割り出してみました。
「日本郵政」が上場する際の企業価値は、ほぼ金融子会社2社の資産価値が源泉であるといえます。
この時、同時に上場されてしまうと、株式市場において「日本郵政」の株価形成がスムーズにかつ適切に行われるか、微妙であると考えています。
下記に、親子上場を、「子会社上場」→「親会社上場」の順に、会社財産(B/S)の変化を順を追って説明してみたいと思います。
≪ステップ1≫
日本郵政の資産価値は、ほぼ金融子会社の資産価値とイコールなので、子会社の資産 = 親会社の資産、と一旦置きます。
≪ステップ2≫
子会社の資産が株式市場で時価評価されます。簿価との差額が「上場益」となり、借方では現金の増加、貸方では、純資産の増加となります。その際に、既存の純資産の一部が少数株主持分に振り替わります。
≪ステップ3≫
子会社の資産が時価評価されたことを考慮した親会社の資産価値を再評価し、今度は親会社株の時価評価の試算がなされます。借方の現金増と、貸方の純資産増と少数株主持分の発生はステップ2の繰り返し。
ちょっとこれおかしくないですか?
ステップ2で、めいいっぱい子会社資産を時価評価したので、ほぼ子会社の資産価値から構成される親会社にさらに新規に現金が流入したとしたら、お金の二重取りになってしまいます。だって、ステップ3の時価評価の増分はほぼゼロなので。
郵政グループの場合、実質赤字(このことは後の方で説明します)の「日本郵便」を抱えているので、逆に、親会社の資産価値の方が、ディスカウントを受けてしまいます。したがって、上述のチャートにある「現金2」はグループ全体に対して、純増となってはいけないのです。
「同時」上場の場合、どうやって金融子会社の資産の時価評価と親会社資産の時価評価が同時かつ適切に行うことができるのか?「同時」上場で目くらましをして、「「現金2」をむさぼろうとしか、見えないのであります。
■ 当局の認識を確認する
この点については、新聞記事でも触れられています。
2014/12/23付 |日本経済新聞|朝刊
郵政、完全民営化の道筋見えず 「親子上場」に批判も
「日本郵政は持ち株会社だけが単独で上場する方針を転換し、金融2社も含めた同時上場にかじを切る。上場スキームは過去に例がない巨額の「親子上場」となる。郵政グループの連結純資産のほとんどを占める金融2社が上場することで、持ち株会社と傘下の事業会社で二重に投資家から資金を集めているとの批判が出る可能性もある。」
また、財務省のホームページから、「財政制度等審議会第24回国有財産分科会」での配布資料が閲覧でき、そこでは、「日本郵政の親子上場は問題ない」と言い切っています。
⇒ 「東京証券取引所への上場について」
そこには、次のように記載されています。
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1.親子上場を認めていない取引所は、国際的にみても皆無。
欧州・アジアでは盛んに行われており、米国・英国ではスピンオフの前段階として行われることが一般的。東証では、現在322件の親子上場が存在。
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みんなやっているから、自分もやる!
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2.親子上場は、親会社にも子会社にも少数株主が存在することとなり、少数株主間での利益相反が避けられないため、上場時(上場審査時)には以下のとおり対応。
子会社の少数株主保護…子会社は、支配権を持つ親会社によって不当に利益を搾取されるおそれがあるため、子会社の親会社からの独立性を確認。
親会社の少数株主保護…親会社は、日常的な監視が行き届かない子会社の不祥事等により、不利益を被るおそれがあるため、企業集団としての内部管理体制が適切に機能していることを確認。
上場後は、株主の監視による未然防止を目的として、開示や内部統制に関する制度を整備。
⇒ 会社法制の見直しも進行中だが、社外取締役による監視の強化などガバナンスの充実を通じて、少数株主の利益を適切に保護することが重要。
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だから、内部管理ルールを厳しくしすぎると、意思決定に時間がかかるんだって。何で余計な手間暇をかけないといけないの?
こういうのを何て言うかご存知ですか?
「企業価値あるある詐欺」というんです。
同資料のP8の「中核的な子会社の上場について」で、「現金二重取りではない」とあえて言及しています。
こういうのは、「語るに落ちた」というのです。
■ 上場後の「利益相反」発生の原因になるかもしれないこと
下図は、FY13の郵政グループをとりまく、資金(お金)の流れを整理したものです。
ゆうちょ銀行は、「国民の税金」→「国債の利払い」→「貯金者への利息支払い」というサイクルに組み込まれているのが明白になっていることが分かります。それについての解説は、金融の専門家に任せるとして、筆者が問題視しているのは、「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」から「日本郵便」へ「窓販」の手数料が合計で9744億円支払われており、この収入で見かけ上、「日本郵便」は経常黒字になっていることです。
「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」の少数株主としては、この両者の利益が最大になることを通常は期待して株式を購入するはずです。しかし、親会社の「日本郵政」の意図により、この2社からの「日本郵便」への支払い手数料の料率が市場価格より高めに設定された場合、教科書通りの「利益相反」事象が発生することになります。
「東日本大震災の復興予算の資金源が必要」とか、「日本郵政の単独上場は、民業圧迫」とか、「郵政民営化のマイルストーン」など、大事な論点もありますが、ガバナンスとバリエーションの2点において、株式市場関係者が目くらましを食らわないことを心よりお祈りします。
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