親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(3)本当に株主に報いる財務戦略とは 少数株主との利益相反解消策まで考える

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■ 親子上場がグループ利益の流出を招くについて論点を再整理

経営管理会計トピック

前回、SBGの携帯事業会社ソフトバンクの親子上場の概要について説明しました。そこで、グループ外に利益が流出する、という論点について配当金と法人税を使って説明したのですが、いまいち分かりにくいという声を聞いたので、当初の予定(債券市場への飛び火の件)の前に、この論点を片付けたいと思います。

⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(2)ソフトバンク親子上場に伴うコーポレートガバンス問題とコングロマリット・ディスカウント問題を斬る!

経営管理会計トピック_親子上場による企業価値の流出とは

巷に流布している分かりやすい概念から順に説明します。

② 非支配株主に帰属する当期純利益/非支配株主持分(少数株主持分)
まず、各マスコミが目をつけるのは、子会社が上げた当期純利益。「親会社説」による連結理論がまだまだ一般的であると浸透しているため、SBGから見れば社外の少数株主のものとされる「非支配株主に帰属する当期純利益」の分だけ、SBG連結でのグループ連結当期純利益が減るという考えです。

⇒「企業会計の基本的構造を理解する(4)「会計主体論」会社は誰のモノで、会計は誰の数字か? - 連結概念の「親会社説」「経済的単一体説」の前座として

日本基準は「親会社説」。IFRSは「経済的単一体説」。連結決算報告は、誰から誰への説明かを考えさせる論点ではありませんか。複雑な資本支配構造を考えた時、「親会社説」による日本的な考え方による考察も捨てたもんじゃありません。

③ 配当金
次に、SBG連結外に資金流出するものとして、少数株主への配当金が挙げられます。特に、SBGにとってキャッシュ・カウ(cash cow) である携帯事業会社ソフトバンクが稼ぐキャッシュを吸い上げて、他の事業投資に回したいと考えるのが人情です。株主平等の原則から、親会社と少数株主には持ち分比率に応じて同率の配当を支払う必要があるので、持ち株会社が吸い上げたい資金は、少数株主の持ち株比率の分だけグループ外に流出してしまいます。

④ 法人税
配当金は、当期純利益から拠出されます。当期純利益は、法人税を支払った後の利益です。すなわち、配当金の金額を多くするために、当期純利益を増やす必要があります。当期純利益を増やすためには、実効税率が一定とすると、増益の必ず一定割合が政府(課税当局)に召し上げとなります。ここはまだ、世の中に浸透していない論点です。

中小企業の経営者にとってなじみのある考え方でも、一流の大企業における通説にならなには、おそらく、管理会計やビジネス設計する人から税務への距離感が遠いからだと推察します。今後、BEPS等も論点も商流設計やグループ内の組織設計で考慮するべき論点になるので、税務は税務担当者だけの問題にしておかない方がよいのではと思います。

といいつつ、税務会計の王道である、受取配当金の益金不算入をここで問題視しているわけではありません。念のため。(^^;)

 

■ 配当金と法人税は、株主の利益から一番遠いもの

そして、改めて本当に言いたい点がこれです。

① 事業再投資
もし、携帯事業会社ソフトバンクの株主として、自社の企業価値最大化のために施策を考えるとしたならば、法人税や配当金でいらぬキャッシュの社外流出を招くくらいなら、社内で事業再投資に回した方が、中長期視点で企業価値が最大化になるのです。すなわち、成長のための資金効率を最もよくする方法を採用するには、法人税と配当金のくびきから脱出する必要があるのです。

⇒「アマゾン77%減益 4~6月純利益 先行投資重視を強調 それがどうした。究極の経営は利益を上げないこと!

業績管理会計(入門編)_利益計上はキャッシュの社外流出をもたらす

この考え方をもっと進めると、配当性向なんてくそくらえ、TSRで株主との対話を進めるべき。これが筆者の持論となります。(^^;)

⇒「配当性向30% 横並び意識の強い日本企業への処方箋 ①単年度決算主義の呪縛からの解放と真の株主との対話を促進とは?
⇒「配当性向30% 横並び意識の強い日本企業への処方箋 ②株主との対話は株式益回りとPERからDOE、そしてTSRへ

 

■ 親子上場がコーポレートガバナンスの視点から問題とされる点を考察

前章の、「①事業再投資」と「③配当金」「④法人税」のセットと、どちらが上場予定の携帯事業会社ソフトバンクの株主利益に適う方策だとお考えになりますか? SBGが親子上場で、コングロマリット・ディスカウントを回避して、携帯事業会社ソフトバンクの生の企業価値から株式市場から資金調達したとして、その新規調達分は「5G」の設備投資に振り向けるのが株主利益に沿った財務戦略だと思います。

ましてや、子会社上場で新規調達した資金と、以後のビジネスのリターンとして手にする配当金を他の傘下事業へ投資することは、携帯事業会社ソフトバンクの少数株主の立場からすれば、噴飯ものです!

コーポレートガバナンス理論は、アクティビスト等の跋扈を許すものとして、使い方ひとつで悪手にもなり得るのですが、株主の中長期的な利益創出をいの一番にするべき、そして株主以外のステークホルダーの利益との調和を考えるべき、という企業経営の理想形も同時に示してくれています。コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)は一読の価値ありです。

⇒「取締役会評価、二の足 企業統治指針、実施4割どまり 課題発見で成果も -コーポレートガバナンス・コードを押しつけた弊害ここにあり!
⇒「中計、目標から公約へ 変わる位置づけ、株価も反応 企業統治指針の導入契機

親子上場は、親会社からすれば、コングロマリット・ディスカウントを回避して有利な資金調達ができる妙手である反面、少数株主との利益相反問題を構造的に発生させてしまいます。これは構造問題であるので、無くすことはできません。おっと、本当は過去にとりくんだ事例がありました。

それは、2001年6月に、ソニーが子会社ソニーコミュニケーションネットワーク(現:ソネット・エンタテイメント)を対象としたトラッキング・ストック(ソニー子会社連動株)を発行した事例です。

以下、WiKiからの引用です。
トラッキング・ストック(tracking stock、事業部門株とも)とは、企業全体の業績とは独立した利益配当の計算などを株式契約に組み込むことで、企業の特定の事業部門や子会社の業績に市場で形成された株価が連動するよう設計された株式の総称である。このうち、子会社の業績に連動するものを子会社連動株式(日本版トラッキング・ストック)ともいう。」

⇒「風速計 ベンチャー上場 もろ刃の種類株
⇒「トヨタ新型株に反対 議決権行使助言のISS 株主総会での賛否が焦点

今のところ、日本において実運用がうまくいってはいませんが、ソニー、伊藤園、トヨタの種類株式発行による大企業グループの中の特定事業にリンクされた株式市場からの資金調達手法の成熟を期待したいと思います。本当は、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)がその先にもっと成熟してくれば、大いにこの領域で活用されていくようになるのではと個人的には期待しているのですが。。。(^^;)

(連載)
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(1)親子上場のブーム再来の流れを中心にまずは株式市場の状況を確認する
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(2)ソフトバンク親子上場に伴うコーポレートガバナンス問題とコングロマリット・ディスカウント問題を斬る!
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(4)ソフトバンク債、子会社の連帯保証が東証の独立性審査の影響を受けること必至!?
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(5)鴻海の世界最適地上場は日本の電機メーカーの対極にあり!
(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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