親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(5)鴻海の世界最適地上場は日本の電機メーカーの対極にあり!

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■ 鴻海の親子上場という選択肢

経営管理会計トピック

前回までソフトバンクの親子上場への言及が続きました。筆者の舌鋒も鋭く? 厳しめのコメントが多かったのですが、鴻海精密工業の子会社上場は、日系の電機メーカーが次々と親子上場廃止に踏み切る中、対極の財務調達戦略として着目すべき事例と認識しています。

2018/1/24付 |日本経済新聞|朝刊 鴻海、iPhone部門上場検討 液晶投資へ資金調達 企業価値、数兆円の見方

「【台北=呉詠航、伊原健作】台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が米アップルのスマートフォン(スマホ)「iPhone」製造部門を中国・上海で上場させる検討に入った。主力子会社にスマホ製造部門を移管することで、企業価値は数兆円規模となる可能性がある。米中での工場建設で投資が膨らむなか、巨額の資金調達につなげる。」

(下記は同記事添付の「鴻海は多くの関連会社が上場する」を引用)

20180124_鴻海は多くの関連会社が上場する_日本経済新聞朝刊

今回の子会社上場構想は記事から察するに概要は以下の通り。

1)IoTの産業向け事業を手掛ける子会社「フォックスコン・インダストリアル・インターネット」(FII)を上海で上場する
2)本体が手掛けるiPhone製造部門のFIIへの事業移管も同時に検討されている
3)鴻海の2017年12月期の連結売上高:4兆7074億台湾ドル(18兆円弱)のうち5割超をアップル関連事業が占める
4) 親会社の鴻海はFII株式の85%は保有し、支配権は維持する

鴻海はシャープの経営権を握った後も日本市場での上場を維持し続け、今や一部に復帰しています。その経営方法は、どう評価されるべきで、どういう問題点があるというのでしょうか?

 

■ 鴻海の中国市場での親子上場という資金調達戦略について

鴻海精密工業自体は台湾で上場しています。今後、中国市場での上場ラッシュがあるかも、という点について、政治色抜きの視点から考察していきたいと思います。

記事によりますと、

まず、第1に、鴻海が中核事業の上場に動く背景には、世界各地で成長に向けた大型投資計画のための旺盛な資金需要があるからです。例えば、

1)中国・広州では1兆円規模を投じ、世界最大級の液晶パネル工場を建設中
2)17年9月には南京市政府と375億元(約6500億円)の投資協定を締結
3)米国ではウィスコンシン州のパネル工場で100億ドル(約1兆1千億円)を投資

第2に、今後も主力拠点を置き、資金調達の環境が良好な中国での関連会社の上場を目指すといいます。

「中国市場で調達する人民元建ての資金は現地での投資に充て、グループとして米国などへの投資に振り向ける資金余力を生み出す。」

つまり、資金需要があるところで資金調達するという調達コストを最小化する財務戦略に則っているという点が着目すべきなのです。

 

■ 鴻海の世界最適地資金調達戦略について

親子上場にもかかわらず、リスクと資金調達コストを最小化する戦略に着目すべきポイントは次の2点です。

(1)プロジェクト・ファイナンス的手法
世の中の資金調達は、企業が広範な使途(時には決まっていないこともある)で資金を調達するコーポレート・ファイナンスと、特定の事業やプロジェクトの資金を個別に調達するプロジェクト・ファイナンスがあります。鴻海は事業子会社の事業領域を特定させ、その事業が必要とする資金はその事業の信用度で最適な資本コストをかけて調達しようという思惑が見えます。

これは、子会社上場で得られた新規の資金を他事業に再投資しようとするスキームに比べて、子会社の少数株主との利益相反が起きにくくなります。

この手法を取れば、現地の株主に資本コストと事業利益率の説明を分かりやすく行うことができます。資本調達スキームが複雑になればなるほど、投資家からはリスクがブラックボックスになって分かりにくくなります。

また、グローバル市場という言葉が世の中に浸透してきましたが、まだ資本市場は政府による規制が色濃く残り、全世界で同一案件同一条件で資金調達することは叶いません。また、とある国の経済成長率とその国での利子率(資本調達コストの最たるもの)は、各国の金融市場内でなら、均衡が取れたバランスのとれたものに、よほどの市場介入がない限り、なっているはずです。

(2)為替リスクのヘッジ
筆者は常々、日系製造業の経営管理のコンサルティングサービスを行っている中で疑問に思っていることがありました。どうしてグループ連結業績を円貨建てで表示することにそんなにこだわるのか?

つまり、日系企業の理屈で言えば、日本円で日本の株式取引所から資本を調達します。商売はグローバル規模で実施しますが、最終的には資本主である株主からの出資に報いるために事業利益からリターンを返す必要があります。

それは現金配当だったり、自己株消却だったり、TSRを高めるための株主還元という形で行われます。海外機関投資家が大株主名簿に並んでいたとしても、そこでは日本円でのリターンの形で株主還元の実績を示せればいいわけです。

これは、日本円で調達した資本を、グローバル市場でさまざまな通貨で運用して、最後は日本円にして株主に返すことを意味しています。その株主に報いるための各種計数を算出するために、無理矢理、日本円で連結財務諸表を作成して、日本円ベースですべての株主に対して株主還元性向を説明しています。

そこには、企業内の経理担当者による通貨換算の手間暇と、通貨別リアルキャッシュで考えた真の株主還元性向が見えないという二重の資本コストへのマイナス要素を誰も声高にNOと言わないのが現状なのです。

鴻海は、日本での事業は円貨で資本調達し、中国での事業は人民元で資本調達することで、ファイナンシャル・キャッシュフローという視点では、為替リスクを最初から排除することを考えているのです。

同じ電機メーカーとしての日台企業の財務戦略に対する彼我の差に愕然としているのは筆者だけでしょうか。いいものを作れば売れる。売れれば企業業績が高まる。そういう現場力に長年依存してきた日系製造業。現場にIoT、AIがどんどん導入され、日本の製造業の高い現場力まで、競争優位を失ったら。。。

本当にうすら寒い思いをするばかり。形ばかりのコーポレートガバナンス理論を振りかざされて、親子上場を次々と解消する企業群と、プロジェクト・ファイナンスと為替リスク回避の視点から親子上場による積極的な資金調達を進める企業群。日系のものづくり企業の財務を含めた本社管理機能(コーポレート機能)はもっと頑張らねば!

そういう時は、是非、小職をご用命下さい。セールストークか!(^^;)

(連載)
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(1)親子上場のブーム再来の流れを中心にまずは株式市場の状況を確認する
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(2)ソフトバンク親子上場に伴うコーポレートガバナンス問題とコングロマリット・ディスカウント問題を斬る!
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(3)本当に株主に報いる財務戦略とは 少数株主との利益相反解消策まで考える
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(4)ソフトバンク債、子会社の連帯保証が東証の独立性審査の影響を受けること必至!?

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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