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コンサルタントの秘密 – 技術アドバイスの人間学(10)逆説的思考育成法 - 合理的であるな、妥当であれ

本レビュー
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■ コンサルタント業は逆理、パラドックス、ジレンマ、矛盾と上手に付き合う技なり

このシリーズは、G.W.ワインバーグ著『コンサルタントの秘密 - 技術アドバイスの人間学』の中から、筆者が実地で参考にしている法則・金言・原理を、私のつまらないコメントや経験談と共にご紹介するものです。

G.W.ワインバーグ氏の公式ホームページはこちら(英語)

一般的に、コンサルタントというものは、他の誰より論理的で真面目であるというイメージがあるかもしれません。しかし、そういった想像ほど、真実の姿から遠いものはありません。コンサルタント業というものは、逆理、パラドックス、ジレンマ、矛盾が満ち満ちており、そしてしばしばユーモラスなものに見えるからです。

というのは、コンサルタントの商売のタネは、「変化」だからです。大抵の場合、コンサルタントの依頼主がいるような会社は、長年その会社に勤めており、会社の内情や直面する市場圧力やコンペチタ―の状況に精通している人がたくさんいるものです。そして、大抵の場合、そういう人たちは、極めて論理的に振舞っているはずです。さらにここが大事な点なのですが、通常はコンサルタントなんて必要としないはずなのです。

それゆえ、コンサルタントを社外から招聘しようとする場合というものは、それまで会社内で通用してきた論理的なやり方そのものがうまくいっていない場合に限られるのです。論理的なやり方が通用しない状況に追い込まれ、社外から法外な(自分でいうな!)フィーでコンサルタントを迎えるなんて状況になっていること自体、すでに逆理やパラドックス、ジレンマ、矛盾に突き当たって、そこで突っかかって止まってしまっていることを証明しているのです!

 

■ コンサルタントにはどうして逆説的思考法が必要なのか?

この点について、ワインバーグ氏は自らのITコンサルタントとしての経験談を面白おかしく語ってくれています(P22)。

とある会社の給与計算システムが、最初に取り込んだ従業員の給与計算に取り掛かったとたんに停止して、うんともすんとも言わなくなりました。プログラマ達はそんなことは論理的には起こり得ないと口をそろえて論理的な理由を並べ立てていましたが、現実にはプログラムは停止して誰にも原因が分からないのです。

ワインバーグ氏はどんな手を打ってその危機から脱出することに成功したのでしょうか? 誰にも発見できなかったバグをものの見事に発見し、それを取り除くことに成功したのでしょうか? いいえ、違います。彼は、論理的な方法で、できる限りのことは、他のプログラマたちがやりつくしていたことを知っていました。そこで、彼は敢えて非論理的なことを始めたのです。

それは、アーロン・アーノルドバーグという架空の従業員データを捏造し、アーロンのデータを真っ先にプログラムに食わせるように従業員データを準備し、実際に投入したのです。結果ですか? ものの見事に、プログラムは何事もなかったかの様に、済々とデータ処理を正常に始めたのです。

ワインバーグ氏いわく、

いつも論理でうまくいくものなら、コンサルタントなど誰も必要としないだろう。だからコンサルタントは、絶えず矛盾にぶつかるのだ。だから私は、コンサルタント仲間にこう忠告する。

合理的であるな、妥当であれ。

ワインバーグ氏にも、なぜアーロンのデータを最初に投入すると給与計算システムが正常に稼働するのか、データ投入前に論理的説明を施すことができないそうです。しかし、彼はアーロンのデータを最初に投入し、問題を実際に解決したのです。それは、給与計算プログラムを正常に動かすということに対しては、間違いなく妥当的な所作だったのです。

 

■ 解決的思考は得てして非合理的で逆説的なものである

ここで、あなたは、

A)ロジックで完璧に説明できるが、50%の確率でしか問題解決できない方法
B)ロジックによる説明は一切できないが、100%の確率で問題解決できる方法

の2つを選ばなくてはならないとしたら、どちらを選択しますか?

結果にコミットするのなら、ここは迷わずBを選択すべきです。しかし、学究の道を志すならAを採るべきです。どちらかがいつも完璧に優れているわけではなくて、あなたが、問題解決か、真理の探究か、どっちを優先しているか、その判断基準が問われているだけのことなのです。私は、実業の中に身を置いて、職業としてコンサルタントをやっているわけなので、自分のやるべきことに忠実に、迷わずBを選択しているだけのことなのです。

 

■ 合理的思考はかえって問題解決には邪魔

私は、自分自身の事業会社時代の貴重な経験、過去プロジェクトの経験に基づく仮説検証と、参照できる事例パターンの多さ、試行錯誤するバリエーションの多さを、ほんのちょっと人より、本当にちょっと多く用意できるだけの、グレイヘアコンサルタントであることを自認しているので、なんでもロジックツリーで解決できるのだ、と豪語するファクトベースコンサルタント、もしくはロジックコンサルタントとはどうも馬が合いません。(^^;)

「だって、昔、同じ状況になった時、こうすれば問題が解決したからさあ。今度も同じようにやってみようよ」

しか、言いません。しかし、それでは依頼主、時にはプロジェクトメンバも納得してくれないので、仕方なく後付けで理由を見つけて、できるだけ論理的に振舞って説明することにしています。
(ああ、これを読んでくださっている現クライアントの人たちもいっぱいいるのに、ぶっちゃけました。。。)(^^)

ワインバーグ氏も、この本の後の部分には、パラドックスや逆説でしか説明されないことが多く登場するといっています。読者の方には、ワインバーグ氏(または私)がすべてを論理的に説明できないという理由で、逆説的なものに抵抗し、さらに熱烈に論理性に執着する人がいらっしゃるかもしれません。ワインバーグ氏に言わせれば、そういう人は、有能であるよりは正義の味方であることの方が好きなのだ。とても辛辣な表現ですね。

どうして、合理的であると自認するコンサルタントや依頼主は、相手が非論理的に振舞るとガクッと調子を崩されて、決まって機嫌が悪くなるのでしょうか?

それは、ワインバーグ氏によれば、

自分は何でも知っていると思っている人ほどだましやすいものはない

からだそうです。

私には、

何でもは知らないわよ。知ってることだけ
(by 羽川翼 from 物語シリーズ)

20171129_羽川翼

(出典:encrypted-tbn2.gstatic.com)

の方がしっくりきますが。(^^;)

パラドックスに満ちた実業の世界では、誰でも、論理的にだけ行動や思考をしていては、いつかは躓きます。なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、とトヨタ方式に倣って5回、「なぜ」を繰り返しすのもいいのですが、真理、せいぜい実業の世界で問題を解決するレベルなら、なぞなぞや、パラドックス、逆説的なコンテキストを通じてしか、説明できないものもあるのだと。その程度の理解でも許されるのだと。そうしたもやもやしたことに対面しても平然とした顔をしていられること、が問題解決のプロフェッショナルである(と思われている)コンサルタントには必要ではないかと思うのです。

そして、最後にワインバーグ氏のとっておきの、ユーモアに溢れ、そして皮肉的でかつ、十分にパラドックスと呼べる言葉で締めくくります。

命にかかわる仕事は、真面目にとるにはあまりにも重要だ。

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