■ 「らしく見せられている」ことはまっとうな表現に直すべし!
このシリーズは、G.W.ワインバーグ著『コンサルタントの秘密 - 技術アドバイスの人間学』の中から、著者が実地で参考にしている法則・金言・原理を、私のつまらないコメントや経験談と共にご紹介するものです。
本書(p53)には、正直者で有名なエイブラハム・リンカーンの逸話が紹介されています。彼が好んで用いたなぞなぞがあります。「もし尻尾を脚と呼ぶとすれば、犬には何本の脚があるでしょうか?」聴衆はこぞって、1本から5本までの答えを理由付きで答え始めます。リンカーンは最後、全ての回答を聞き終わった段でこう言います。「いいえ、答えは4本です。尻尾を脚と呼んでも脚にはなりません」
前回、「金ピカ法則」で、それらしく見せ方、言い方を都合の良いように変えるだけで、上手に相手への印象操作を行い、自分にとって好ましい状況を作るお話をしました。
⇒「コンサルタントの秘密 – 技術アドバイスの人間学(27)金ピカ法則 - 機能にできなかったら、それらしく見せてしまえ」
私たちは、コンサルタントにも、自分自身にも、見た通り、思った通り、「王様の耳はロバの耳」「王様は裸だ」と口に、文字に、改めて表現をし直す必要があるということです。
■ なんちゃってコンサルタントには耳が痛い「金ピカ法則」の事例はまだまだある
コンピュータプログラムのエラーを「バグ」と呼ぶことが慣習化しています。
⇒「プログラムのバグを修正することをなぜ「パッチ」を当てると言うのか? - 「パッチを当てる」の言い方は「馬から落馬」と同じ」
プログラミングミスを「バグ(虫)」と呼んでいる間は、プログラムエラーのことを虫が自発的に部屋に迷い込んでくるように、自然現象のごとく当たり前のように受け止め、バグが発生(虫がプログラムに飛び込んでくる)することに、プログラマーは責任を持たない(持てない、持つ必要が無い)ことを許容する空気感を生み出すことに成功するでしょう。
ワインバーグ氏は、依頼されたプロジェクトにおいて、「バグ」と呼ばれているプログラムミスを「誤り」とか「間違い」と呼び直すことをしつこく求めます。関係者が「バグ」を「誤り」「間違い」と呼び直すのが当たり前になったら、その問題は半分解決したのも同然とまで言っています。
また、「コスト・ベネフィット分析」という手法があります。多くの場合、この手法を用いて提案の効果分析を行う際、この手法は「コスト分析」のみを行うことを意味します。企図している計画が関係しているコストを全て書き出して、どんなにこの計画が金食い虫かをアピールするものなのです。大抵の場合、ベネフィットの方は見向きもされないものです。
もうひとつ、中途退職者の問題解決を議論する案件で、人事部のマネージャーが「融通性」という言葉を頻繁に使いたがるのです。その言葉の意味するところは、「嫌いなやつがいた時、または人件費をカットしたい時、選んだ人を馘にする自由」だったのです。この種の言葉をそういう含意で平然と使っている間は、この人事プロジェクトはうまくいきはしないでしょう。
我々がやるべきことは、「逆金ピカ法則」を適用することです。
何かが「らしく見せられている」とすれば、それはなおす必要がある
そうすれば、我々に、適切に言い直された言葉というものは、状況改善のための情報を与えてくれる強力な武器となるはずだから。
■ そうはいっても「金ピカコンサルタント」は存在する
ワインバーグ氏も、クライアントからの信頼を得るために、当初は、全く嘘をつかないものの、ワインバーグ氏がいかに有名で、どんなに多くの本を書いているかを、クライアントにアピールすることで、クライアントからの支持を得ようとしていたそうです。
そうしたワインバーグ氏の言動を嗜めた同業者がいたそうです。
「もしあなたがうそをついていると思われるとしたら、軽んじられて、提案を聞いてもらえなくなるでしょうし、もしあなたが本当のことをいっていると思われるとしたら、今度は向こうが自分たちを軽んじてしまってあなたの提案に従わなくなるでしょうからね。」
クライアントは、コンサルタントが嘘を吐ついたことを見破ると、コンサルタントが何かを隠していたと見当をつけます。嘘をついているような気配を漂わせただけでも、もう信頼は失墜するのです。コンサルタントの身分は不安定なものです。それゆえ、コンサルタントは自分の存在価値を誇張しがちです。それは、同時にクライアントの信頼を失う第一歩かもしれないのです。
正直になる。
本来の名前でものごとを呼ぶ。
これが、本当にクライアントから信頼されるコンサルタントになる一見遠回りに見えるけれど、本当は早道なのです。
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