■ 製造業だけの問題ではない「在庫」のお話し
今回から、「サプライチェーン管理」のお話をします。本シリーズでは、経営管理の領域として、
① 事業ポートフォリオ
② エンジニアリングチェーン
③ サプライチェーン
④ 組織
の4つがあるとお話しました。
各論として、「前回」まで①の「事業ポートフォリオ」のお話をしましたが、次は②を飛ばして③の「サプライチェーン」になります。基本形としては、お客様にお届けする「製商品」の「在庫」の在り方でパターン化してお話します。
まずは「製造業」を例にした一般論で概要をご理解頂きたいと思います。すると、「コンテンツ産業」「流通業」「サービス業」に興味関心がある方は、「在庫」すべき顧客への提供価値を体現するものが、物理的な実態がなく、デジタルデータだったり、同時消費性の強いサービス行為そのものだったりするので、業界実態にそぐわないとお感じになられるかもしれません。
しかし、「お客様に必要な時に必要な価値を提供する」行動には、共通的な考え方が必ず存在します。本シリーズではその基本概念を説明します。業界ごとの各論は、別シリーズで取り上げる予定です。
さらに、②を後回しにした理由は、③で「在庫」の持ち方が理解できてこそ、②で「商品・サービス」のスペック情報の管理手法の秘訣が理解できる、と筆者が考えているからです。
それでは、以降の章にて、サプライチェーン管理の概要のお話から始めたいと思います。
■ 「SCM」って何の呪文?
「SCM」とは「Supply Chain Management(サプライチェーン管理)」のことで、製造業を前提した説明としては、「原料の手配からお客様の手元に製品が届くまでのプロセスの効率化と全体最適化をはかること」と一般的に言われます。
分かりやすく図解すると、次のようになります。
1.SCMの目的
慢性的物不足で、高度経済成長下の旺盛な需要があった、作れば売れる時代は終焉を迎えました。有効需要の減少により、生産能力の方が慢性的に顧客需要より大きい現在、「ムダなく、顧客ニーズに対応して、利益を上げながらモノを供給する」ことの重要性が高まっています。
※ 「モノ」とは、有形物のみを意味していません。ユーザ(顧客)は、レビット風に言うと、「4分の1インチの電動ドリルを100万個も欲しかったわけではない。100万個の4分の1インチの穴を開けたかっただけだ」
電動ドリルを100万台売るのではなく、ユーザの自宅や工事現場に赴いて、ユーザの代わりに4分の1インチの穴を開けるDIY代行サービスを提供することでも顧客満足は満たされるわけです。
2.SCMの効果
① 顧客の視点
顧客からすれば、欲しい時に欲しいモノが手に入れば、顧客満足が得られます。この顧客満足を最大化すること、これが顧客視点からのSCMの効果です。
② 企業の視点
ここは、会計的に3つにブレイクダウンしました。
・販売機会を逃さない - 売上高の最大化(欠品を起こさない)
・コスト低減 - 廃棄されるムダな在庫を作らない、物流費を抑制する(カラのトラックを走らせない)、生産の平準化による単位あたり固定費を最小化する、ムダな倉庫を作らない(減価償却費・維持費の削減)
・資金滞留を最小化 - 在庫期間を最短化(原材料、仕掛品、製品すべて)
資金については、少々説明が必要なようです。顧客に製品をお届けするためには、まず原材料を仕入れ、製品化のために加工費を支出、そして製品在庫として倉庫に保管、ようやく売り上げた後、売掛金回収や手形が落ちるまで、材料費や加工費に対して支払った資金が回収できません。支出したお金がなかなか回収できないということは、別の用途でお金が必要になった際、その資金調達のために、銀行から借り入れを行い、またまた余計な支払利息が発生するかもしれません。ですので、企業が在庫を持っているのは、支払ったお金に利息も付けずに自社倉庫にしまっておくことと同義です。キャッシュフロー改善のためには在庫低減、在庫低減のためにはSCMの実践、という理屈なわけです。
③ サプライヤーの視点
サプライヤーも独立した企業なので、企業としてのSCMの効果に対する見方は、②企業の視点に含まれます。あえて、③を独立させたのは、本当にSCMの効果を最大限発揮させようとしたら、会社の壁をぶち壊して、原材料の調達から、エンドユーザの手元に配送するまで、関係する企業全体の問題としてひとつのSCMとして考える。そうすると、そのビジネスにかかわった企業全体が儲かりまっせ! ということを強調したいがためです。
関係企業の皆がWin-Winになるためには、お互いの情報を共有し、十分な準備時間を確保したうえで準備態勢を整えて、自社の番が来たら、最短の時間でかつ最小コストでサプライチェーン上の役目を果たす。そうなることが、SCMが一企業内で完結させず、企業間をつなぐチェーンとして機能する本来の意味となります。
■ 「在庫」が必要な時とはどんな時ですか?
前章であえて、小難しいSCMの定義を行いましたが、極言すると、SCMとは「在庫」を徹底的に無くすことです。本当は「ムダ」を無くす、と言いたいのですが、生産管理の分野では、「ムダ」にもいろいろ種類があるため、ここではその詳細をすべて解説するわけにはいかないので、簡単に「在庫」と言い換えています。
ということは、「在庫」が一切不要なビジネスモデルで商売をすれば、「ムダ」は最小限になる? 基本としてはその通りです。ではなぜ、現実には「在庫」が世の中に溢れかえっているでしょうか???
その理由は、「需要と供給のギャップを在庫で調整しているから」
需給ギャップにも、いろいろあります。ここはタイミング(時)だけ見てみましょう。
(SCMの目的チャートを確認してみてください。「時」「場所」「量」「モノ」「品質」とSCMが調整するべき要素は最低限で5つはあります)
「需要のリードタイム」と「供給のリードタイム」のギャップを埋めるのが「在庫」です。
サンドウィッチ:
あなたが、コンビニにサンドウィッチを買いに行ったとき、陳列棚にサンドイッチが無ければ欠品です。売り逃し、販売機会の喪失です。でも、コンビニチェーンは、あなたが、その時間にサンドイッチを買いに来ることが予想できません。そもそも何個、誰が買うのかわからない。でも一日3回の食事をとりそうな時間帯には、サンドイッチが大体何個ぐらい必要とされるのかある程度分かる。ならば、注文される前に見越しで作りだめしておいて、「在庫」として陳列棚に保管しておけばよろしい。あなたは、買いたいときに陳列棚に保管してあるサンドイッチを手に取るだけです。
「供給リードタイム > 需要リードタイム」 → 在庫が必要
クリスマスケーキ:
一方で、名前入りのクリスマスケーキの場合はどうでしょう? あなたは、かわいい子供のために、子供の名前が入ったアニメキャラで装飾されたクリスマスケーキを12月上旬に買いたくなったとして、早速コンビニに出かけて予約カードに必要事項を記入します。コンビニは、予約カードを受け取ってから、いそいそと小麦粉と生クリームを手配して、12月24日の受け渡し時間の17:00にあなたにお子さんのネーム入りのクリスマスケーキを手渡せばよいのです。あなたのお子さんの名前入りのクリスマスケーキを何個も作って陳列していても、よっぽど奇特な人以外、そんなケーキには目もくれないでしょうから、コンビニもそんなケーキを在庫しておく必然は無いのです。
「供給リードタイム < 需要リードタイム」 → 在庫が不要
今回は、「SCMと在庫は切っても切れない仲」の説明をしました。次回は、「在庫の持ち方によるビジネスモデルの分類」のお話をします。
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