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■ 事業ポートフォリオの組み替え手順

経営管理(基礎編)
これまで事業ポートフォリオ管理として、2回説明してきました。
⇒「事業ポートフォリオ管理(1)- 経営者が管理したがる理由
⇒「事業ポートフォリオ管理(2)- 分散投資に勝つ方法
今回は、「ポートフォリオ組み換え方法」と題して、どういう判断基準で経営者が事業ポートフォリオを入れ換えようとするのか、そのメカニズムを説明します。
その手順は、
① 企業成長の「時間軸」- 将来予測
② ターゲット市場における「競争状態」- 現状分析
③ 事業間の「資源配分」 - 組み換え実行
となります。
これは、1970年代にボストンコンサルティンググループ(BCG)が開発した手法です。約40年前の年代ものですが、基本的にこれを超克する汎用的手法は今のところ見当たりません(業界特化のものならいくつかあるのですが、、、)。この領域では、1980年代のM.ポーター様の競争戦略の登場前のものを語らざるを得ません。

■ 企業成長の「時間軸」の予測

まず、自社の利益成長の時間軸での将来予測ができないと、自社における事業の枠組みをこれからどうするか、考えることもできません。「こういう市場に、あと●●年、これくらいのシェアでとどまれば、利益が●●%位、年率で成長するか、もしくは利益額●●が達成できるのか」と、将来利益を定量的に予測する必要があります。
そのためのツールとして、「前回」登場したものに、「経験曲線(学習曲線)」があります。
<下記に再掲>
経営管理(基礎編)_経験曲線
このままの経験を積めば、●●年後に、単位当たりのコストが●●円だけ下がる。そうすると、●●年後に目標とする利益額に到達できる」と、将来稼得利益をある程度読めるようになります。
例として、「ムーアの法則」が挙げられます。インテル社の共同創業者であるゴードン・ムーア氏が1965年に「集積回路上のトランジスタ数は、毎年2倍になる。それにまつわるコストは半分になる」と論文発表しました。
(詳細については諸説あるので、各自検索サイトでお調べになることをお勧めします)
コスト削減率が毎年分かるなら、それに比例して、販売単価も下落し、それでも儲けるためには集積回路の微細化投資に毎年いくらまでならかけても儲けられるか、会社内で計算できるはずだ、という論法です。
次のステップとして、現在とどまっている市場、これから進出予定の市場の成長性を推し量る必要があります。前段で定量化した経験曲線を、進出・退出・維持市場の成長率(シェアはいったんそのままとして)で重みづけるのです。

経験曲線から得られる利益率 × 当該市場の成長率 = 当該市場で自社が享受できる利益成長率

では、検討対象市場の成長率はどのようにして推し量るのでしょうか?
こちらも確立した手法があって、ロジャース教授発案(1962年)のイノベーター理論による「プロダクトライフサイクル(PLC:Product Life Cycle)」のチャートで描画してみます。
経営管理(基礎編)_イノベーター理論によるPLC
この図が言いたいことは、どの市場でも似たような顧客層分布になるので、綿密に市場調査しておけば、5層に区分されたユーザ分布を丹念に追っていくことで、ひとつの市場の成長度が測定できるということです。
ちなみに、ちょっと名前が紛らわしいのですが、ジェフリー・A・ムーア氏が1991年に「キャズム理論」ということで、ハイテク産業においては、「アーリーアダプダー」と「アーリーマジョリティ」との間に、超えることが難しい「深い溝(キャズム:Chasm)」があるという説を唱えています。こういう風に、特定の産業ごとに応用編はありますので、そこは自社が相手をしている市場については、自社の観察により、市場成長率を予測する必要があります。
こうして、自社の経験曲線と顧客層分布から、ターゲット市場における自社の想定獲得利益額が読める、という理屈になるわけです。

■ ターゲット市場における「競争分析」

「経験曲線」から「相対的市場占有率(シェア)」を横軸に、
「PLC」から「市場成長率」を縦軸に、
2次元で描画すると、あの有名な「BCGマトリクス」が誕生します。2×2の組み合わせで、ターゲット市場を4つに分類します。
経営管理(基礎編)_BCGマトリックス
このチャート単独での使い道は、それぞれのクラスに分類された事業単位の当該市場における位置づけを明確にしたうえで、どう競合と戦うか、戦略を練る判断材料とするところです。具体的に、どう戦うかは、後に登場するM.ポーター教授の「競争戦略」で具体的な例示が1980年代になされますし、市場で自社を弱者と認めることができれば、「ランチェスターの法則」を使って、集中戦略を採用することもできます。その辺は別の機会に説明する予定です。
ここでは、従来の「入念な計画を立てさえすれば成功する」-「戦略経営」から、具体的に自社の競争状態を層別して、それぞれのクラスでどう戦えばよいか、を考える契機を与えてくれたところで良しとしておきます。

■ そして「経営資源」の配分を実行

前置きが長くなりましたが、「BCGマトリックス」を用いて、各クラスへ投下する経営資源の配分を合理的に行うことを「PPM:Product Portfolio Management(プロダクトポートフォリオ管理)」として、定式化することに成功しました。
経営管理(基礎編)_PPM
狭義のPPMというか、当初BCGが提唱したのは、経営資源の中でも最重要の「キャッシュ」の配分についてだけでした。
「金のなる木」:低成長市場の中で高シェアを維持できるだけの最低限の資金だけ残す
「スター」:金のなる木から高成長市場における競争資金を回してもらう
「問題児」:事業内容を厳選し、次世代の「スター」になる見込みのあるものだけに、金のなる木からのキャッシュを回す
「負け犬」:速やかに市場から撤退して、無駄な投資へのキャッシュアウトを止血する
最近は、「資金(キャッシュ)」だけでなく、有能な人材配置や、限られた社内設備の優先的使用権など、配分対象とする「経営資源」は何もお金に限った話ではなくなりました。
いかがでしたでしょうか?
最近の経営戦略の教科書や、戦略コンサルタントを名乗る人達は、「PLC」やら「経験曲線」の話にさかのぼって説明しないものだから、唐突に「BCGマトリックス」だけを見せられたクライアント企業は「へっ!?」となるはずなのですが、最近は、それで当たり前のようになってきています。「キャズム」「人的資源配置」「先行開発投資の余裕時間の計算」など、あらゆる応用を効かすためには、そもそもの根本の考え方を皆に理解しておいていただきたいものです。

■ 最後に運用面からのPPM活用に関する注意事項

1.中長期的先行投資の重要性
GEのジャック・ウェルチ氏がCEO就任時、「No1. No2. 以外の事業は売却する」と宣言したり、「負け犬」に分類された事業の売却・清算が押し進められたり、一度ダメ認定を受けた事業を何とかしようと創意工夫や努力がないがしろにされる傾向が大きくなると危険です。
実は、ウェルチ氏は、CEO就任時の事業ポートフォリオ大幅組み換えのために、ショッキングな言い回しをあえて使いましたが、CEO任期中、ずっとこのリストラを続けたわけではありません。
また、トヨタのHV車や、東レの炭素繊維など、何十年もの長期的投資が花開いてメイン事業になる事例は枚挙に暇がありません。
「何とかとハサミは使いよう」なので、この辺のアヤが、M.ポーター教授の「競争戦略」大隆盛後の、「ケイパビリティ派」の台頭につながっていくわけです。
2.事業入れ換え可能な環境整備
それに、ビジネス慣行の違いもあります。米国などは、事業ごとに「法人化」することが多く、「法人化した事業単位」そのものが、親会社から独立して資金調達したり、いざ撤退という時に、買い手が現れて幾ばくかの投資を回収できたりする環境が整っています。それは、人材の流動性が高いという労働市場の特性も、配分される経営資源がお金に限らないことから、もう少し注目を受けてもよい論点であります。
3.モチベーション低下と間違ったインセンティブ誘発の危険性
人材の視点からは、士気の維持や、業績評価への影響も考慮すべき論点となります。あなたが配属されている事業部門が「金のなる木」に認定されたので、明日から「スター」事業に資金提供してもらいます、と言われていい気がしますか? また、「負け犬」認定されて、明日から自分の事業を何とかしようと創意工夫をする気力が湧いてきますか?
「金のなる木」認定された事業部門の責任者は、もっと複雑です。高い業績を上げれば上げるほど、他の事業にお金を吸い取られるわけです。それなら、自事業内にある見込みの薄い新製品立ち上げプロジェクトにでも投資した方がまし、と動機づけられてしまうかもしれません。全社最適と部分最適が不整合を起こしてしまいかねません。
頭でっかちで理論やツールだけ振り回しても経営管理の現場は上手くいきませんよ!!!
経営管理(基礎編)_事業ポートフォリオ管理(3) - ポートフォリオ組み換え方法

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http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/b45c6b78158e31dff4b23863feb4ceac-e1428166901472.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/b45c6b78158e31dff4b23863feb4ceac-150x150.jpg小林 友昭経営管理(基礎編)■ 事業ポートフォリオの組み替え手順 これまで事業ポートフォリオ管理として、2回説明してきました。 ⇒「事業ポートフォリオ管理(1)- 経営者が管理したがる理由」 ⇒「事業ポートフォリオ管理(2)- 分散投資に勝つ方法」 今回は、「ポートフォリオ組み換え方法」と題して、どういう判断基準で経営者が事業ポートフォリオを入れ換えようとするのか、そのメカニズムを説明します。 その手順は、 ① 企業成長の「時間軸」- 将来予測 ② ターゲット市場における「競争状態」- 現状分析 ③ 事業間の「資源配分」 - 組み換え実行 となります。 これは、1970年代にボストンコンサルティンググループ(BCG)が開発した手法です。約40年前の年代ものですが、基本的にこれを超克する汎用的手法は今のところ見当たりません(業界特化のものならいくつかあるのですが、、、)。この領域では、1980年代のM.ポーター様の競争戦略の登場前のものを語らざるを得ません。 ■ 企業成長の「時間軸」の予測 まず、自社の利益成長の時間軸での将来予測ができないと、自社における事業の枠組みをこれからどうするか、考えることもできません。「こういう市場に、あと●●年、これくらいのシェアでとどまれば、利益が●●%位、年率で成長するか、もしくは利益額●●が達成できるのか」と、将来利益を定量的に予測する必要があります。 そのためのツールとして、「前回」登場したものに、「経験曲線(学習曲線)」があります。 <下記に再掲> このままの経験を積めば、●●年後に、単位当たりのコストが●●円だけ下がる。そうすると、●●年後に目標とする利益額に到達できる」と、将来稼得利益をある程度読めるようになります。 例として、「ムーアの法則」が挙げられます。インテル社の共同創業者であるゴードン・ムーア氏が1965年に「集積回路上のトランジスタ数は、毎年2倍になる。それにまつわるコストは半分になる」と論文発表しました。 (詳細については諸説あるので、各自検索サイトでお調べになることをお勧めします) コスト削減率が毎年分かるなら、それに比例して、販売単価も下落し、それでも儲けるためには集積回路の微細化投資に毎年いくらまでならかけても儲けられるか、会社内で計算できるはずだ、という論法です。 次のステップとして、現在とどまっている市場、これから進出予定の市場の成長性を推し量る必要があります。前段で定量化した経験曲線を、進出・退出・維持市場の成長率(シェアはいったんそのままとして)で重みづけるのです。 経験曲線から得られる利益率 × 当該市場の成長率 = 当該市場で自社が享受できる利益成長率 では、検討対象市場の成長率はどのようにして推し量るのでしょうか? こちらも確立した手法があって、ロジャース教授発案(1962年)のイノベーター理論による「プロダクトライフサイクル(PLC:Product Life Cycle)」のチャートで描画してみます。 この図が言いたいことは、どの市場でも似たような顧客層分布になるので、綿密に市場調査しておけば、5層に区分されたユーザ分布を丹念に追っていくことで、ひとつの市場の成長度が測定できるということです。 ちなみに、ちょっと名前が紛らわしいのですが、ジェフリー・A・ムーア氏が1991年に「キャズム理論」ということで、ハイテク産業においては、「アーリーアダプダー」と「アーリーマジョリティ」との間に、超えることが難しい「深い溝(キャズム:Chasm)」があるという説を唱えています。こういう風に、特定の産業ごとに応用編はありますので、そこは自社が相手をしている市場については、自社の観察により、市場成長率を予測する必要があります。 こうして、自社の経験曲線と顧客層分布から、ターゲット市場における自社の想定獲得利益額が読める、という理屈になるわけです。 ■ ターゲット市場における「競争分析」 「経験曲線」から「相対的市場占有率(シェア)」を横軸に、 「PLC」から「市場成長率」を縦軸に、 2次元で描画すると、あの有名な「BCGマトリクス」が誕生します。2×2の組み合わせで、ターゲット市場を4つに分類します。 このチャート単独での使い道は、それぞれのクラスに分類された事業単位の当該市場における位置づけを明確にしたうえで、どう競合と戦うか、戦略を練る判断材料とするところです。具体的に、どう戦うかは、後に登場するM.ポーター教授の「競争戦略」で具体的な例示が1980年代になされますし、市場で自社を弱者と認めることができれば、「ランチェスターの法則」を使って、集中戦略を採用することもできます。その辺は別の機会に説明する予定です。 ここでは、従来の「入念な計画を立てさえすれば成功する」-「戦略経営」から、具体的に自社の競争状態を層別して、それぞれのクラスでどう戦えばよいか、を考える契機を与えてくれたところで良しとしておきます。 ■ そして「経営資源」の配分を実行 前置きが長くなりましたが、「BCGマトリックス」を用いて、各クラスへ投下する経営資源の配分を合理的に行うことを「PPM:Product Portfolio Management(プロダクトポートフォリオ管理)」として、定式化することに成功しました。 狭義のPPMというか、当初BCGが提唱したのは、経営資源の中でも最重要の「キャッシュ」の配分についてだけでした。 「金のなる木」:低成長市場の中で高シェアを維持できるだけの最低限の資金だけ残す 「スター」:金のなる木から高成長市場における競争資金を回してもらう 「問題児」:事業内容を厳選し、次世代の「スター」になる見込みのあるものだけに、金のなる木からのキャッシュを回す 「負け犬」:速やかに市場から撤退して、無駄な投資へのキャッシュアウトを止血する 最近は、「資金(キャッシュ)」だけでなく、有能な人材配置や、限られた社内設備の優先的使用権など、配分対象とする「経営資源」は何もお金に限った話ではなくなりました。 いかがでしたでしょうか? 最近の経営戦略の教科書や、戦略コンサルタントを名乗る人達は、「PLC」やら「経験曲線」の話にさかのぼって説明しないものだから、唐突に「BCGマトリックス」だけを見せられたクライアント企業は「へっ!?」となるはずなのですが、最近は、それで当たり前のようになってきています。「キャズム」「人的資源配置」「先行開発投資の余裕時間の計算」など、あらゆる応用を効かすためには、そもそもの根本の考え方を皆に理解しておいていただきたいものです。 ■ 最後に運用面からのPPM活用に関する注意事項 1.中長期的先行投資の重要性 GEのジャック・ウェルチ氏がCEO就任時、「No1. No2. 以外の事業は売却する」と宣言したり、「負け犬」に分類された事業の売却・清算が押し進められたり、一度ダメ認定を受けた事業を何とかしようと創意工夫や努力がないがしろにされる傾向が大きくなると危険です。 実は、ウェルチ氏は、CEO就任時の事業ポートフォリオ大幅組み換えのために、ショッキングな言い回しをあえて使いましたが、CEO任期中、ずっとこのリストラを続けたわけではありません。 また、トヨタのHV車や、東レの炭素繊維など、何十年もの長期的投資が花開いてメイン事業になる事例は枚挙に暇がありません。 「何とかとハサミは使いよう」なので、この辺のアヤが、M.ポーター教授の「競争戦略」大隆盛後の、「ケイパビリティ派」の台頭につながっていくわけです。 2.事業入れ換え可能な環境整備 それに、ビジネス慣行の違いもあります。米国などは、事業ごとに「法人化」することが多く、「法人化した事業単位」そのものが、親会社から独立して資金調達したり、いざ撤退という時に、買い手が現れて幾ばくかの投資を回収できたりする環境が整っています。それは、人材の流動性が高いという労働市場の特性も、配分される経営資源がお金に限らないことから、もう少し注目を受けてもよい論点であります。 3.モチベーション低下と間違ったインセンティブ誘発の危険性 人材の視点からは、士気の維持や、業績評価への影響も考慮すべき論点となります。あなたが配属されている事業部門が「金のなる木」に認定されたので、明日から「スター」事業に資金提供してもらいます、と言われていい気がしますか? また、「負け犬」認定されて、明日から自分の事業を何とかしようと創意工夫をする気力が湧いてきますか? 「金のなる木」認定された事業部門の責任者は、もっと複雑です。高い業績を上げれば上げるほど、他の事業にお金を吸い取られるわけです。それなら、自事業内にある見込みの薄い新製品立ち上げプロジェクトにでも投資した方がまし、と動機づけられてしまうかもしれません。全社最適と部分最適が不整合を起こしてしまいかねません。 頭でっかちで理論やツールだけ振り回しても経営管理の現場は上手くいきませんよ!!!現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します