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事業部別業績管理

管理会計(基礎)
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■ 「業績管理」は「評価者」と「評価対象者」間の「コミュニケーション」

管理会計(基礎編)
(イントロダクション)-『管理会計』またの名を『戦略会計』」にて、管理会計の領域を3つに大別しました。その時に使用したチャートを下記に再掲します。
管理会計(基礎編)_管理会計の道具仕立て
今回から、「1.モチベーション管理」の領域に記載してある「業績管理」を説明することにします。ここでは、「業績管理」に3つの意味を込めています。

  1. 予算(目標)と実績を対比させて、差異が発生した原因を分析する
  2. 差異原因を明らかにして、差異を埋めるための施策を実行する
  3. 上記2つを管理担当者に能動的に実践させるため、予算達成度で人事評価する

ここに、一連の共通認識(お約束ごと)があります。

  1. 「評価者」がいて「評価対象者」がいる
  2. 「評価者」は、「評価権限(目標設定権、人事任命権、給与決定権)」を有している
  3. 「評価対象者」は、自身の「評価」をよくするため、行動する

この「評価」を通じた「評価者」と「評価対象者」のコミュニケーションのツールとして「業績管理指標」が存在しています。「評価対象者」は、「業績管理指標」を良くすることで、己の「業績評価点」を上げ、「ポスト・処遇」と「給与」について希望する処置を得ようとするのです。
筆者は、経理部・経営企画部およびコンサルタントとしての経験から、「分析」と「管理」の間にはグランド・キャニオンほどの大きな隔たりがあると思っています。「業績管理」は、「業績」を誰かが「管理」している。「分析」は誰も「管理」していない(することをそもそも期待されていない)。「管理」とは「目標管理」。「目標管理」とは「目標(予算)と実績の差異管理」。「差異管理」とは、「差異を無くす行動を起こすこと」。つまり、「管理」には「ヒト」がいなければならないのです。
筆者は、「業績管理システム」の構築や「業績管理指標」の設定を依頼される(コンサルタントとしても、事業会社にいた時も)ことが多くありました。その時に、最も留意しているのは、

  • 「誰が評価者・評価対象者で、評価対象者にどういう行動を期待しているか」

ということです。この点を曖昧にしておくと、必ず「業績管理」は「業績分析」になります。「分析」になった瞬間に他人事になり、せっかく設定した「業績管理指標」はただの数字になります。そして放置、、、

 

■ (ケース)とあるコンサルティングファームの事業部別業績管理

今回のケースでは、事業部別の業績管理を扱います。

  • 「評価者」:社長
  • 「評価対象者」:事業部長/本部長
  • 「業績管理指標」:事業部別利益率の予算達成度
※ 利益率 = 売上高利益率(ROS:Return On Sales)

それでは、早速ケースを見てください。
管理会計(基礎編)_事業部別業績管理_間接費配賦前
コンサルティングファームの損益構造は、発生するコストはコンサルタントの人件費がほとんど。売上と人件費は事業部ごとに把握できます。ケースを簡略化するために、直接費(部門ごとにいくら発生するかが分かっているコスト)として人件費、間接費(部門ごとにいくら発生するかわからないが全社で発生しているコスト)として、家賃のみを扱います。
また、事業部名が「製造業事業部」というのは、クライアントになる会社が「製造業」に属しているコンサルティングサービスを実施しているために「製造業事業部」とネーミングしているだけです。どういう区分で「事業部」を定義するのか、これまた筆者の大好物な論点のひとつです。この論点は別の機会に説明します。
ここで初心者向け説明を追加します。
業績管理対象がこのケースでは「部門」即ち「事業部」や「経営管理本部」となります。
業績管理対象の単位(部門)で発生することが分かるか分からないかで「直接費」と「間接費」を区別しています。何が管理対象かによって、「直接-間接」概念は流動的になります。
例えば、米国販社の営業費用は、「米国市場」という採算管理単位にとっては直接費。ここで、米国販社が取り扱っている商品として、「缶詰」と「乾物」があるとします。「缶詰」という商品別の業績管理をしようとすると、米国販社の営業費用は「缶詰採算」という単位にとっては「間接費」となります。
管理会計(基礎編)_事業部別業績管理_直接費と間接費
初心者向け説明終わり。

 

■ 事業部別業績管理の見方

上記のケースの業績管理方法の問題点として、何かお気づきの点はありましたか?
社長は、全社を挙げて、ROS②:25%を目標にして、会社経営をしています。ROS②:25%の達成のためのあくまで手段として、事業部別のROS①を「業績管理指標」と設定しました。2人の事業部長は、自分が統括している事業部のROS①の目標達成を道標(みちしるべ)として、それぞれの事業部の運営にあたることになります。
事業部長に与えられた「業績管理指標」は事業部別の「ROS①」。社長が達成したい目標は全社の「ROS②」。①と②の違いは、「経営管理本部」に集められたコスト(間接費)になります。
このケースでは、「評価者」としての社長は、自身の目標達成のために、3人の部下に次の「業績管理指標」を分け与えました。

  • 製造業事業部長 - ROS①:50%
  • 流通小売事業部長 - ROS①:50%
  • 経営管理本部長 - 部門コスト:120

これに対して実績(目標達成度)はどうなったでしょうか?

  • 製造業事業部は、ROS①:48%で目標未達
  • 流通小売事業部は、ROS①:50%で目標達成
  • 経営管理本部は、部門コスト:120で目標達成

この結果、全社目標としたROS②が目標:25%だったところ、実績:20%として未達だった犯人は、製造業事業部長ということになります。
このままだと、予算未達の悪者は製造業事業部長ということになります。では、製造業事業部長は、あとどれくらい努力が不足していたのでしょうか?
既に、製造業事業部は、利益額については、予算:100に対して、実績:120と20%も超過達成しています。少なくとも目標(予算)設定時点で想定していた利益額以上に全社利益に貢献している模様です。
チョッとしたことですが、そもそもの目標設定に工夫が足りなかったようです。

  1. 業績管理指標の使い方として、「率」を選択すると、「量」の適切な評価ができなくなる
  2. 間接費がそのままになっているので、事業部の全社に対する利益貢献度が「率」でも「量」でも測定することができない

このままですと、「製造業事業部」は「率」を守るために、目標の利益率より悪い案件の受注を辞退してしまいかねません。目標の「率」を守れない受注ならば、お断りしてもよいのではないかとお考えの方はいらっしゃいますか?
この問いかけに対する筆者なりの解は、次回、ご説明したいと思います。
ここまで、「事業部別業績管理」を説明しました。
管理会計(基礎編)_事業部別業績管理

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