企業成長手段の賢い選択とは アンハイザー・ブッシュ・インベフとカルソニックカンセイの例からM&Aか内部成長かの二者択一問題について(2)ケイレツの外販促進と100%子会社 (ビジネスTODAY)日産、次世代車シフトで系列解体 カルソニック売却発表 トヨタと別の道

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■ カルソニックカンセイを手放す決断をしたゴーン流の判断基準とは?

経営管理会計トピック

グループ経営を実践する場で、「モノ」「カネ」「ヒト」の3大経営資源をどのように有効活用すれば、企業価値が最大になるのか、世の経営者は皆、この本質的でかつ根源的な課題に日々取り組んでいるものです。そのひとつの判断を、ルノー・日産のカルロス・ゴーンのカルソニックカンセイの売却を事例に、見ていきたいと思います。

2016/11/23付 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)日産、次世代車シフトで系列解体 カルソニック売却発表 トヨタと別の道

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「日産自動車は22日、系列最大の自動車部品メーカー、カルソニックカンセイを米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に売却すると正式発表した。仏ルノーから1999年に日産に乗り込んで以来、「系列解体」の大なたを振るうカルロス・ゴーン社長が中核部品メーカーまで手放す。自動運転や電気自動車(EV)の技術開発に向けた決断は、系列とともに新技術へと向かうトヨタ自動車と一線を画している。」

カルソニックカンセイは、日産がその41%の株式を有し、経営者派遣があることから、決算上の連結子会社扱いとなっています。また、日産のケイレツに位置する部品供給会社で、コックピットモジュール、ラジエーター、エアコン、コンプレッサー、排気システム(マフラー)を開発製造しています。その約8割以上が日産グループを売り先としており、日産が持つ世界に点在するグローバル主要工場の全てに直接収めています。

それゆえ、日産グループの中核中の中核ケイレツ部品会社とも言える存在なのですが、EV車の普及をにらむと、カルソニックカンセイで培われてきた熱交換器や排気部品の市場縮小が予想よりも早く到来するとルノー・日産首脳陣が見込み、早め早めにカルソニックカンセイの企業価値が毀損する前の売却による新技術開発(EVや自動運転など)のための原資を手に入れようと算段した模様です。

製造業というのは、技術(製品技術と生産技術の両方)の塊で、それば知財権という無形資産として保有されているだけでなく、そこで働く従業員の暗黙知、言い換えると「組織知」の形で保持されています。それは、漸進的なカイゼンには強靭なものの、なかなか創造的破壊的な技術進歩にいち早く追いつくには不向きなものです。その見解はあくまで相対的なものなのですが、新技術を人の知恵または知財権で持っている企業をM&Aで取得してきたほうが、てっとり早いというのが、昨今のビジネス流儀として当たり前の風景となってきました。

 

■ ケイレツよりメガサプライヤーからの部品調達戦略を選んだゴーン流の選球眼

「「サプライヤーの潜在能力を生かす巧拙が競争力を左右する」。日産の西川広人共同最高経営責任者(CEO)は話す。カルソニックを手放す一方、自動運転をにらんで独ボッシュや独コンチネンタルなど「メガサプライヤー」と呼ばれる欧米部品大手との連携を強める方針。彼らの先端技術に日産のノウハウを加え、効率的で競争力のあるクルマづくりを目指す。」

(下記は、同記事添付の「カルロス・ゴーン社長は中核会社の売却を決めた(10月の記者会見、東京都港区)」を引用)

20161123_カルロス・ゴーン社長は中核会社の売却を決めた(10月の記者会見、東京都港区)_日本経済新聞朝刊

ルノー・日産は、金と人を内部で抱え込み、「ケイレツ」という形で内部リソースを有効活用して新技術(EVや自動運転)の競争を乗り越えることより、外部のサプライヤーにそこは割り切って頼り、カルソニックカンセイ売却資金で、先端技術を買うことを選択しました。

一方で、ライバルとなるトヨタ自動車の動きはどうなのでしょうか。

「日産向け売上高比率が8割超のカルソニックと対照的なのがトヨタ自動車系部品会社だ。デンソーはトヨタグループ以外への比率が半分を超える。トヨタは他流試合も奨励して系列メーカーの収益力を高め、自動運転など先進分野への投資を促そうとしている。
かつてのトヨタはグループ内で利害対立が表面化することもあったが、近年は連携を強めようとする動きが目立つ。愛知県蒲郡市にグループの研修施設を置き、各社の新任役員が互いの歴史を学ぶ機会を設ける。12月に新設するEVの企画開発組織にはデンソーなど主要3社の社員も加わる。」

(下記は、同記事添付の「車部品2社の収益力には差がある」を引用)

20161123_クルマ部品2社の収益力には差がある_日本経済新聞朝刊

トヨタは、デンソーというケイレツを含む内部リソースで、新技術競争に打ち勝つ方針を採用し、ルノー・日産連合とは、真逆のケイレツ戦略をとっています。どちらが正しいかは、現時点では軽々に軍配を明らかにすることはできませんが、ここでは、ケイレツを有効活用するに至った判断ポイントを簡単に2つ、筆者独断で挙げさせて頂くと、

① デンソーは、外販比率も高く、資本関係だけケイレツ扱いだが、そもそもメガサプライヤーの資格を兼ね備えている
② 新技術開発は中長期にわたる営みであることから、資本的に同じグル―プに入り、中長期的な人間関係の基礎の上に、技術もすり合わせていく創発的な研究開発を用意するには、ケイレツは格好の場である

ということで、デンソーは、ケイレツのいい点と、メガサプライヤーのいい点のいいどこ取りをしていると思われます。それゆえ、単純に、ルノー・日産連合とトヨタが正反対のケイレツ戦略を採っていると言えるほど、コントラストが強い比較分析にはならない。これが筆者の見解です。

では、そう考える筆者の頭の中にあるケイレツを含む、グループ企業運営の軸はどうなっているのか。次章でご紹介したいと思います。

 

■ “ケイレツ”と一括りでは語れない。グループ運営戦略は、7つの子会社を使い分けることから

下図は、縦軸に資本関係、横軸に子会社の販売先(相手にしている市場)をとって、子会社を7分類、子会社に入らないパートナー企業をいれると8分類に、したマトリックスになります。

経営管理会計トピック_グループ企業の市場と資本の選択問題

1.完全支配
資本も販売先も全てグループ内で抱え込む戦略。子会社が有する経営資源(従業員の暗黙知や組織値など)を保持したまま有効活用して、親会社のビジネスに100%使い切ることがグループで最も賢いやり方と考えらえた時に採用します。

2.資金調達
これは、子会社の有する経営資源のほぼ全量を使い切りたいのですが、お金がない場合に、外部資金を、エクイティファイナンスで調達した場合に採られる形態です。この選択を採る理由は2つ。

上場子会社の場合、コーポレートガバナンスが非公開会社より強く働くので、それを良しとする場合はメリットとなります。また、親会社が資金不足の場合は、株式市場から資金を調達する必然性がある場合もこの策が採られます。上場企業である知名度で優秀な従業員を採用する狙いもあったりします。

ただし、副作用もあります。外部資本が入るということは、その子会社が稼得した利益の一部は、外部株主に配分する必要があること。仮に、100%出資子会社だった場合、極論ですが、内部留保や内部留保になる前の、税金を払う前の親会社との営業取引の中で、親会社の自由になるお金(余剰)が、親会社の裁量で次の開発投資に回せます。しかし、航海会社となり、外部株主がいた場合、その少数株主にも利益還元せねばならず、さすれば株式市場から資金調達しているのが本当に賢い選択なのか、怪しくなるところです。

3.外部支配
これは、ケイレツや子会社とった資本関係はないのですが、その企業にとっての最大顧客(場合によっては唯一の顧客)である優越的地位を利用して、ほぼその企業の運営について主導権を握ってしまうケースを意味します。親会社(最大顧客主)のメリットは、上記1.2.と同じ。ただ、資金を投下していないので、ROE等の投資収益性指標でみると、抜群の投資効率を示すであろうと思われますが、その一方で、外部支配していた会社が他所にスポンサーを見つけたら、それで有利な立場は一瞬で失われるリスクも同時にはらんでいることは忘れてはいけません。

4.親孝行
このカテゴライズに入る子会社は、ここに分類されるともれなく「親孝行」と呼ばれるのではありません。100%親会社のお金でグループ貢献のためにお仕事をするのですが、それでも余剰資源が生まれてしまう。その余剰資源を親会社とは別の顧客に活かして、グループ収益力最大化に貢献して初めて、「親孝行」と呼べます。大概は、親会社と共同開発した技術を元に、外販ビジネスも行い、多額の先行開発投資の回収を早める、経営資源(知的資産等)の多重利用をする、というケースでこの形態を採るメリットが最大化されます。

5.外部利用
上述のデンソーがここにカテゴライズされるかもしれません。ビジネスの元になる資本も外部市場から調達し、通常ビジネスの稼得もグループ外から稼得する。一見して、どうしてグループ内に居なくてはいけないのか、一番議論が巻き起こる難しいポジションには違いありません。一番中途半端だからこそ、少ないお金で外貨を稼ぎ、同時にグループのために、技術と人的リソースを共同利用する。いいとこどりの戦略です。これは、グループ経営の選択肢の中でも、難易度が最も高いが同時に効果も抜群の選択肢とも言えます。これを採用して、かつ成功しているトヨタグループのグループ統治能力には脱帽です。

6.外貨獲得
この形態は、親会社から見れば、資本(お金)を出して、勝手にビジネスで稼いでもらって、上りはもらう。そういうイメージの子会社管理となります。比較的、その子会社がやっているビジネスは親会社のビジネスとか無関係なことが多く、いつでもスピンアウトや売却対象となる可能性が高いとも言えます。しかし、親会社(資本主)が余剰資金をかかえているので、その有効利用として買収した企業だとか、ソフトバンクの孫氏のように、非関連事業への投資でグループ成長を加速するといった狙いがある場合だとか、積極的に採用されることも多い選択肢です。

ただ言っておきます。凡人の経営者では、この種の展開は非常にリスクが高い。筆者としてはあまりお勧めできない選択肢であることは間違いありません。

7.内部資源活用
地道な内部研究活動により、親会社の本業には関係ないのだけれど、ものになるビジネスのタネがグループ内で生まれた。じゃあ、そのネタを活かさないわけにはいかないよね。というパターンです。子会社の中で眠っていた異端児がいきなり花開いて、親会社ビジネスにはない新しい事業の元を創ってしまった。だけど、親会社の株主を説得して、お金を出し続けるわけにもいかない。得てしてそういう新規ビジネスはリスクが高く、既存株主は嫌がるものです。そこで、新規に株式市場から一部資金を調達して、内部のリソースを使って一丁やってみるか。これはそういう選択肢です。

上記の6.とはビジネスの性質は似ていますが、異なる点は、内発的であること。そして、過渡的であること。この選択肢も、やがては、スピンアウトや事業売却の対象となり得ます。親会社のビジネスが立ち行かなくなり、グループがこぞってこの新事業にシフトしない限りは。。。

8.外部パートナー
この分類は資本関係がなく、取引も独占的ではないので、グループ経営における子会社管理の類型には入りません。ファーストリテーリングと東レの共同開発など、中長期的なアライアンスも採り得ますので、いつでも不安定で都度的とは言いませんが、その傾向は一番強く、グループ経営の外にあるものと考えても差し支えありません。

「1.完全支配」が最も「求心力」が高く、「7.内部資源活用」さらには、「8.外部パートナー」が最も「遠心力」が高い管理形態となります。どれが最も賢い選択か、それは、そのグループが対峙した市場、経営者の資質によるところが多く、ここではこういう整理方法があるよ、という筆者の経営コンサルティングから来る知見をご紹介するにとどまらさせて頂きます。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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