キャッシュフロー経営(1)(決算番付)(2)自動車4社で5兆円増 手元資金残高 景気拡大、5年間で厚み 還元圧力強まる可能性

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■ 過ぎたるは及ばざるが如し。キャッシュリッチ企業が批判される理由とは?

経営管理会計トピック

2014年前後から、株高演出のためのアベノミクス政策の一環から、海外機関投資家の日本株式市場への呼び込みのための株主還元強化のドライブがきつくなっている昨今、さらに「カネ余り決算」に対する批判的な記事が一段と多く目につきます。

そもそもの「キャッシュフロー経営」など、不易流行としたい経営管理会計の要諦としたいポイントについて、あまり学術的・専門的にならず、日本経済新聞の読みやすい記事を題材に順次取り上げていきたいと思います。

2017/11/22付 |日本経済新聞|朝刊 (決算番付)(2)自動車4社で5兆円増 手元資金残高 景気拡大、5年間で厚み 還元圧力強まる可能性

「2012年12月に始まった景気回復局面が、57カ月続いた「いざなぎ景気」を抜いて戦後2番目の長さになった。この間の約5年間に企業収益は上向き、主要上場企業の手元資金も厚みを増した。好景気の下での手元資金増加額をランキングすると、残高が2倍以上になった企業も珍しくない。必要以上に現金をため込んでいると株主から判断されれば、還元圧力などが強まりそうだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「手元資金を増やした主な企業」を引用)

20171122_手元資金を増やした主な企業_日本経済新聞朝刊

まずはこの表に対する記事本文の解説を以下に要約します。

本表の調査対象は、金融を除く東証1部企業で、「手元流動性」の定義は、現預金に短期保有の有価証券などを加えたもので、2017年9月末の残高を2012年9月末と比べた5年累計増加額ランキングになっています。

個別分析に対するコメント:
(1)業種として増加が目立つのは、首位のトヨタ自動車を筆頭とする自動車大手。世界景気の長期拡大による世界販売台数の増加と円安進行により収益力が高まった
(2)JR東海は、巨額投資に備えた資金調達で手元資金が増えた。リニア中央新幹線の建設費にあてるため、財政投融資を活用した3兆円の借入の影響に言及
(3)ソフトバンクグループは社債発行などの財務資金調達を主要因とする

本記事では、

「手元資金の積み上がり方が過剰かどうかを判断するには、本業で稼ぎ出した現金(営業キャッシュフロー)の累計額と比べるのが目安になる。」

として、上表の「稼いだ現金に対する比率」と手元資金の割合に着目。

「トヨタは5年間で3兆円弱の手元資金を積み上げたが、この間に稼ぎ出した現金に対する比率は2割に満たない。一方、ネクソンは稼いだ現金の8割以上、SMCは6割が手元資金に回った計算。資金を有効活用しているとは言い難い。」

というふうに、この比率の高い企業が稼いだ分をきちんと株主還元または次の事業投資に回さずに、いたずらにB/Sの左側では手元資金を積み上げている、と同時にB/Sの右側では内部留保を貯め込んでいるという批判を暗に示しています。

ただし、楽天やトヨタについて、金融事業を営んでいる企業は保有現金比率が元々高まる傾向にあるとして、本表では異常値になっている楽天の同「6.1倍」については問題なしと断じています。

 

■ もういちど、貸借対照表(B/S)の左右に現れるキャッシュフローの違いをおさらい

キャッシュフローは、キャッシュフロー計算書に掲載されているから、それを眺めていれば良し、という向きもあるかもしれませんが、どうせなら財務管理のみならず、事業運営にどう相互影響を及ぼし合っているかを理解した方がいいに決まっています。

(参考)
⇒「ソフトバンクのレバレッジ経営、アーム・ホールディングス買収を2重のキャッシュフローで読み解く!

経営管理会計トピック_2重のキャッシュフロー

企業活動というものを、貸借対照表(B/S)の左右両面で見ることができます。筆者は、事業の二面性と捉えており、

① ファイナンシャル・キャッシュフロー(FC)
企業活動を行うために資金を調達し、事業活動によりキャッシュを生み出し、資金の出し手にリターンを返す財務的な面におけるお金の流れ

② ビジネス・キャッシュフロー(BC)
調達されたお金を事業に投資(ヒト、モノ、知識などの経営リソースを購入)し、顧客に価値提供した見返りに、代金を頂く事業的な面におけるお金の流れ

が、企業内部に発生する2種類のキャッシュフローになります。これは、従来の公表用財務諸表のひとつである「キャッシュフロー計算書(C/S)(C/F)」の表面的な形式(書式)に囚われていると、なかなかイメージすることができない性質のものです。残念ながら、ちょっと響きがかっこいい「フリーキャッシュフロー(FCF)」という概念・定義をこねこねしてみても、この2重のキャッシュフローは決して炙り出されてくることは決してないでしょう。

この2つのキャッシュフローはどちらかが過重になって、バランスを欠くことは企業経営の失敗につながります。

<ケース1> BC > FC
貸借対照表(B/S)の借方(左側)に現預金がたんまりと溜まり、アクティビストの格好の餌食になります。B/Sの貸方(右側)では、おそらく「利益剰余金」が膨らみ、昨今注目されている「ROE」計算式の分母を大きくすることで、株式市場での評価を落とします。

<ケース2> BC < FC
事業に投下した資本がうまく現金となって起業まで戻ってこない、BCが滞留している状態になります。この事態に陥ったら、いわゆる「資金ショート」「資金繰りの悪化」ということになり、有利子負債の返済が滞り、デフォルト、銀行取引停止(いわゆる倒産)、破産と呼ばれる状態になります。自己資本(資本金)による資金調達の場合でも、株価下落、通俗的に呼ばれている債務超過(自己資本または純資産がマイナス状態)になります。いずれ、経営破たん(会社更生法適用、破産法適用、会社清算、民事再生法適用など)となります。

 

■ もういちど、本記事添付の手元資金を増やした企業リストの解析を試みる!

冒頭の記事添付の表を筆者の方で下記のように列を追加(手元資金5年間増加幅)しました。

20171220_手元資金を増やした主な企業_表

次に、5年間の手元資金の増分(倍率)と、営業キャッシュフローの5年間の累積額のバランスを次のように見ることで、もう少し日本経済新聞の記者の表したかったことを、ビジュアライズできたのではと思いますがいかがでしょう?

縦軸:手元資金に占める営業CF比率
横軸:5年間の手元資金の伸び幅
バブルの大きさ:2017年9月時点の手元資金の額

20171220_手元資金を増やした主な企業_グラフ1

楽天は稼いだ現金をそのまま内部に留保しています。まあ、この新聞記事が出た後の、フリーテル買収など、これから投資資金の調達にひと汗かく必要があることを了解すれば、だれも、稼いだ現金をそのまま企業内に留めておくことについて後ろ指を指すこともないでしょう。

JR東海も、財政投融資で3兆円調達したことで右下方に外れ値としてなっていますが、これも既に解説済みで本記事の批判ターゲット外として問題視していないようです。

この2社の外れ値を除外して、残りの18社の分布を眺めてみましょう。

20171220_手元資金を増やした主な企業_グラフ2

トヨタはもとより、ソフトバンクのバブルの大きさ(手元資金の大きさ)に改めて凄みを感じさせるものですが、5年間で3倍に膨れ上がった手元資金の45%は、現金収入によるものです。これには携帯電話ビジネスのキャッシュ貢献度の高さを物語るもので、楽天が第4のキャリアになりたい理由の一つとされています。

本グラフのより上方に位置すれば、営業キャッシュフローが社内に積みあがっている比率が高いと言えます。その視点でいけば、ネクソン(82%)、SMC(61%)、大成建設(48%)、信越化学(46%)あたりが、次の議論の的になりそうです。

しかし、これらの企業群は、本当に批判に値するだけの資金非効率会社と言えるのでしょうか? 営業キャッシュフローだけを見て、投資キャッシュフローを考慮した通説であるフリー・キャッシュフロー(FCF)の影響額をきちんと精査する必要がありそうです。

それらの論点は次回に回したいと思います。続きをお楽しみに。(^^)

⇒「キャッシュフロー経営(2)カネ余り 日本企業を解く(1)現金「使う力」追い付かず 「稼ぐ力」は10年
⇒「 キャッシュフロー経営(3)カネ余り 日本企業を解く(2)危機の記憶、守りを優先 負債で還元 潮目変化も - ペッキングオーダー理論による財務戦略まで見てみよう!
⇒「キャッシュフロー計算書を斬る
⇒「第3の刺客 キャッシュフロー計算書 登場

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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