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(読み解き現代消費)「応援買い」 売り手との関係性重視 - 新しいカスタマー・インティマシーの訴求方法とは

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 「モノ」から「コト」へ。売り手と買い手のリレーションで商売をする!

経営管理会計トピック

トレーシーとウィアセーマは1995年に『ナンバーワン企業の法則』で、企業が顧客に対して、どういうフォーマットで「バリュープロボシション(value proposition)」を訴求するかを次の3つの類型で示しました。

① 業務の卓越性(オペレーショナル・エクセレンス)
② 製品リーダーシップ(プロダクト・イノベーション)
③ 顧客との信頼性・親密性構築(カスタマー・インティマシー)

有名な本著はいろいろと実業界でも研究が進み、「①業務の卓越性」は、ポーターのポジショニング競争戦略と結びつけられて、「コストリーダーシップ」とも理解されています。今日は、「③ 顧客との信頼性・親密性構築(カスタマー・インティマシー)」のお話です。

2017/5/18付 |日本経済新聞|夕刊 (読み解き現代消費)「応援買い」 売り手との関係性重視

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「「欲しいものが減った」と感じる生活者が増えている。伊藤忠ファッションシステム(東京・港)の調査でも、こうした声は5割を超えた。節約志向が強まったとか、多すぎる情報を見ているだけで満足という見方もあるが、単純に、モノだけでは魅力を感じなくなったという意識の変化がありそうだ。」

ヴィンテージや古着を扱う新しいスタイルのフリーマーケットの東京・青山で月1回開催される「RAW TOKYO」が人気を集めているそうです。

(下記は同記事添付の「ヴィンテージや古着などを扱うフリーマーケット「RAW TOKYO」」を引用)

20170518_ヴィンテージや古着などを扱うフリーマーケット「RAW TOKYO」_日本経済新聞夕刊

同記事によりますと、このフリーマーケットに来場した顧客(男子高校生)が、「店員さんはホームページで分かることしか言わなかったね」。わざわざ訪ねたスニーカーショップで、事前にインプットしておいた情報以外新しい発見がなかったことに落胆した様子が記されていました。接客に応じた店員は、ネットで感じた「いいかも?」を「欲しい!」にまで引き上げることができなかったということです。

■ (再考)言い古されたクリック&モルタル、ショールーミング化の意味とは?

ECが流行してきた90年代以降、ネットを絡めた物の売り方は下記の様に整理されてきました。

1.ブリック&モルタル 【 Brick and mortar 】
日本語に訳すと、「煉瓦(レンガ)としっくい」という意味で、従来の歴史が長い伝統的なリアル店舗による販売、もしくはそれを生業としている企業を指して言います。これは、従来からそう呼ばれていたのではなくて、インターネットの発展により、オンライン販売(eコマース、EC:Electronic Commerce、電子商取引)を始めたリアル店舗を持った新興企業を「クリック&モルタル」と呼んだことから、逆に歴史をさかのぼって定義された呼び名です。

2.クリック&モルタル 【 Click and mortar 】
インターネットと現実の店舗や流通機構を組み合わせるネットビジネスの手法、またはそれを営む企業のことを指します。伝統的な小売企業が、インターネットを活用して台頭する新興オンライン専門企業に対抗するため、インターネット(クリック)の良さと現実の店舗網など(モルタル)の良さを組み合わせて構築したビジネス手法の総称でもあります。こうした企業は、別名「マルチチャネル企業」と呼ばれることもあります。

3.ピュアプレーヤー 【 Pure player 】
「クリック&モルタル」に対して、オンライン専業の通常のドットコム企業は「ピュアプレーヤー」と呼ばれています。これまでの一般的な見方では、クリック&モルタルの旧式の組織構造ではインターネット業界のスピードにはついていけないと思われていましたが、最近では両者の立場が入れ替わりつつあり、むしろピュアプレーヤーの販売シェアが伸び悩んでいます。

(参考)
⇒「(グローバルBiz)アマゾンが実店舗網 書店など 顧客との接点増やす -これを機会に「クリック&モルタル」「オムニチャネル」など、マーケティング基本用語を整理してみよう!

一時、リアル店舗で欲しいものを物色し、実際には価格の安いECサイトで注文するという「ショールーミング化」による店舗売上の伸び悩みに苦しんでいるBtoC企業、という切り込みがありました。今や、消費者の情報収集方法を逆手にとって、ネットやスマホと連動させて情報連携を密にして物販するという形を積極的に採るようになり(いわゆる「オムニチャネル」)、顧客との接点を多様化させて客を呼び込むようになりました。

上記の記事は、「オムニチャネル」でとどまるのではなく、店員と顧客の間に、昔ながらの「御用聞き」のような人間関係を構築することによって物販に結びつける「③ 顧客との信頼性・親密性構築(カスタマー・インティマシー)」の進化が見て取れます。

■ 進化した「カスタマー・インティマシー」。推しメンとカリスマ店員が表すもの

同記事から、
「マーケットの発案者である川辺恭造さん(Aquvii代表)は、スタッフには「お客さんを笑顔にすること」「自分自身も楽しむこと」を教え、マーケットの出店者は「仲良くなれそうかどうか」で決める。お客さんに、何となくつながれそうだと思わせるような雰囲気を醸し出すことを第一に考えている。「今のお客さんは、モノそのものにフォーカスして買うわけではない。買うことで作り手や売り手を応援し、フォローしている」という。」

まるで、どこかのアイドルユニットのいわゆる「推しメン」の総合評価順位を上げるために、関連グッズを買い求める消費活動に似ています。最近視聴したTV番組では、原宿のカリスマ店員を取り上げていました。何と、消費者と同じ感性を売りにして、カリスマ店員のお勧めで商品を買ってもらうためには、とことん、ターゲットとする顧客と感性を同調させる必要があります。そこで、24歳定年制を採っているのです。カリスマ店員の一人がつぶやいていたのがとても印象的でした。「カリスマと呼ばれるのも旬があるので」。

「モノそのもの以上に作り手や店主、販売員ら人が介在しているからこそ放たれる魅力や面白さがある。それがあって初めて、買い手は触手を伸ばす。応援し続けたくなるような関係性をいかにつくるかが課題になりそうだ。」

単純な接客による物販の現場では、AIを搭載したロボットに人間が職を奪われる可能性は、50%と言われています。さらに、そのAIにも感情回路を搭載しようと研究が進んでいます。人間関係で物販をするというビジネスモデルもその内、感情回路を積んだAIにとって代わられるかもしれません。そうなると、センスや感性を磨いて、ファッション性やスタイル、全体コーディネートを売りにしているカリスマ店員も、そのスキルや経験だけではAIに負けてしまうかもしれません。ますます、高度な社会的な人間関係を築いた上での物販でないと、生身の人間による接客業は今後、成立していかないでしょう。

■ 「売り方」だけではない。「売り物」も変わらざるを得ない。

今や、どの市場でも豊富に「モノ」が溢れています。物資不足だった時代とは違って、飽和社会では、市場で認知される「商品」の価値も「意味的価値」にシフトしていっているようです。

1)米コロンビア大学のB・シュミット教授
「経験価値:商品やサービスの仕様よりも、顧客の経験・体験こそが重要だ」

2)認知科学が専門のD・ノーマン・カリフォルニア大名誉教授
1990年代のアップル勤務時代に「ユーザーエクスペリエンス(顧客経験価値)」の概念を提唱し、気持ちよく使える価値を強調
・「ユーザーインターフェース(商品との接点)」「ユーザー中心設計」から発展した概念
・当時の製造業にとって大きな示唆となった

3)「モノからコトへ」という現在の日本では一般的になった表現
「商品自体の価値よりも、顧客が使用する際の経験価値が鍵を握る」
→生産財において、ソリューションやサービスの重要性が強調されているのも、発想は同じ

4)米IDEOのT・ブラウンらが提唱した「デザイン思考」
経験価値を創り出すプロセスについての考察。
デザイン思考とは、「顧客の一挙手一投足を観察し、商品を使う際の微妙なフィーリングまで理解し、人間中心設計を徹底するプロセス」
「経験価値は暗黙的で言葉や数字で表すことが難しいため、プロトタイプを作って検証する作業が必須」となる

5)C・K・プラハラードの「共創」
「顧客が求める価値が暗黙的で伝わりにくい場合、顧客と作り手が価値を「共創」する必要」がある。「価値とは企業ではなく、消費者と企業が共に創るものという考え方」

⇒「(やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション (1)消費財も生産財も「機能的価値」+「意味的価値」=「統合的価値」を顧客は買うのだ!

売り方が変わっていくのなら、商材として売られる「モノ」もその持つ性質を変容させる必要があるということです。

経営管理会計トピック_「顧客価値」と「付加価値」の関係

顧客がその価格で買いたいと思う「顧客価値」と、それを提供する企業が手にする付加価値の関係は下図の通り。顧客が買ってもいいと思う「価値」と、企業が提供する「価格」の差額が、本当の「顧客価値(顧客付加価値)」だと思います。それは、単に、売られている商材のハードウェアとしての機能的なものだけに求められるのではなく、売られ方(店員とのコミュニケーションなど)や、その商品を消費者が持つ意味(使用価値)も含めた商品価値を考える必要があるということです。

下図は、「顧客価値」の内容を分類したものです。

経営管理会計トピック_顧客価値の考え方

最初に紹介した古着のフリーマーケットで売られるヴィンテージものは、「機能付加価値」は小さいですが、「使用付加価値」が大きいものでなければなりません。その経験価値は、使用している間に得られるものではなく、店頭でその商材を手に取るところから、店員とのやり取りから既に、価値を作り込んでいく必要があること、それが「カスタマー・インティマシー」であるということを再認識させてくれる記事なのでした。

(参考)
⇒「日立、営業2万人増員 コンサル重視へ転換 AIなど駆使、課題解決(後編)- ハードウェアを持ったままでコンサルティングサービスが可能か?

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