(やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション (1)消費財も生産財も「機能的価値」+「意味的価値」=「統合的価値」を顧客は買うのだ!

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■ 本論に入る前に、延岡健太郎 一橋大学教授を紹介します

経営管理会計トピック

研究者プロフィール 延岡健太郎|一橋大学イノベーション研究センター研究スタッフ紹介 より

20170327_延岡健太郎_一橋大学イノベーション研究センター研究スタッフ紹介

のべおか・けんたろう 米MIT経営学博士
戦略・組織マネジメント、技術経営
1959年生

【最近取り組んでいるテーマ】
国際企業の技術・商品開発における戦略と組織の研究

 

(1)顧客の求める価値が「暗黙化」

本稿は、日本経済新聞に2017/3/8~21まで連載された記事を元に構成しています。全10回という本コラム連載においてはいささか長い方の部類に入ります。読みごたえがあるというものです。(^^;)

20173/8付 |日本経済新聞|朝刊 (やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション(1)顧客の求める価値が「暗黙化」 一橋大学教授 延岡健太郎

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

近年のイノベーションに関わる大きな変化として顧客にとっての商品価値(顧客価値)が「暗黙化」してきた点があります。日本の製造業がそれにうまく対応できていないのが一因です。「暗黙知」といえば、日本型製造業の強みである「すりあわせ型」製品の生産・開発に適合した組織内コミュニケーションを代表する言葉ですが、延岡教授によると、これが逆に、日本の製造業のモノづくりが利益や付加価値などに結びつきにくくなっている原因と分析されています。

その理由は、「顧客価値として、客観的に測定できる商品の機能や仕様よりも、使用する際の主観的な評価や感性に訴える価値が重視される」ようになったからです。

消費財については、米アップルの「iPhone」の成功が象徴するように、目に見える商品仕様よりも、ユーザーエクスペリエンス(顧客経験価値)の重要性が高まってきたからです。

生産財については、ソリューション提案が必要になってきたからです。というのも、「顧客企業へ販売する部品や製造機器の仕様・機能だけではなく、それを企業が使って実際に享受できる価値(コスト削減や売り上げ増)の提案が求められる」ようになったからです。

このような消費財および生産財における暗黙的な顧客価値は、その昔は訴求されてはいなかったのでしょうか? 教授によれば、この20年間、重要性が高まり続けているそうです。その理由とは?

(1)供給側(企業)の事情
世界中からの競争が厳しくなったため、企業がちょっとした差別化をしても、カタログに示せる価値ではすぐに模倣されてしまうようになったから
・市場での機能差別化競争の激化
・テクノロジーや研究開発手法(リバースエンジニアリング等)による模倣の容易さ

(2)需要側(顧客)の事情
消費者がより洗練された価値を求めるようになったから。モノでもサービスでも、価値が洗練されて高度になる程、単純な数字では表しにくくなる。
・機能や性能以上の価値や意味を求めるようになった

教授によれば、要点は次の3点。
「イノベーションもこうした新たな顧客価値の創造を目指すべきです」
「多くの日本企業は今でも新しい機能や高い性能を主目標にしていますが、そうした明示的価値に暗黙的価値を統合する必要があります」
「イノベーションとは新たな社会的な価値を生み出すことであり、現在は統合的な顧客価値を生み出す革新が求められているのです」

それでは、暗黙知的顧客価値を生み出すイノベーションのお話を掘っていきたいと思います。

 

(2)商品仕様より顧客の経験に価値

この章では、「顧客価値の暗黙化」に関し、先達の様々な議論を簡単に整理してみたいと思います。

1)米コロンビア大学のB・シュミット教授
「経験価値:商品やサービスの仕様よりも、顧客の経験・体験こそが重要だ」

2)認知科学が専門のD・ノーマン・カリフォルニア大名誉教授
1990年代のアップル勤務時代に「ユーザーエクスペリエンス(顧客経験価値)」の概念を提唱し、気持ちよく使える価値を強調
・「ユーザーインターフェース(商品との接点)」「ユーザー中心設計」から発展した概念
・当時の製造業にとって大きな示唆となった

3)「モノからコトへ」という現在の日本では一般的になった表現
「商品自体の価値よりも、顧客が使用する際の経験価値が鍵を握る」
→生産財において、ソリューションやサービスの重要性が強調されているのも、発想は同じ

4)米IDEOのT・ブラウンらが提唱した「デザイン思考」
経験価値を創り出すプロセスについての考察。
デザイン思考とは、「顧客の一挙手一投足を観察し、商品を使う際の微妙なフィーリングまで理解し、人間中心設計を徹底するプロセス」
「経験価値は暗黙的で言葉や数字で表すことが難しいため、プロトタイプを作って検証する作業が必須」となる

5)C・K・プラハラードの「共創」
「顧客が求める価値が暗黙的で伝わりにくい場合、顧客と作り手が価値を「共創」する必要」がある。「価値とは企業ではなく、消費者と企業が共に創るものという考え方」

『コ・イノベーション経営』

延岡教授によれば、顧客価値の暗黙化に関して様々に議論されてきたものの、未だ多くの日本企業では十分に理解されていないか、理解されても実践できていないという評価になっています。その理由は、「コンセンサス経営の日本企業では、数字や仕様を超えた暗黙的な価値に関して評価や意思決定が困難なのです。」と、日本的意思決定構造がこうした商品価値に暗黙知・経験価値を付加することを苦手とするという見解を示されています。

つまり、日本の製造業がすりあわせ型製品の生産・開発に長けていた、というのは、明示的な機能・性能に対する付加価値増殖の意識合わせは得意だったということを意味しています。また、暗にですが、90年代以降、徐々に日本のエレクトロニクス産業の競争力が失われていったこと、象徴的な言葉である「ガラパゴス現象」が発生したこと。これらを暗に指摘しているとも十分に読めるでしょう。

 

(3)機能的価値+「意味的価値」

前章まで暗黙的な価値の重要性を説明してきましたが、顧客価値を構成する要素をここで一旦整理してみたいと思います。

①「意味的価値」
・感性価値(消費財)
→気持ち良く楽しく使えるといった五感で感じる価値
・ソリューション(生産財)のような暗黙的な価値
 →顧客が実際に使用した際に、カタログ仕様を超えて享受できる経済的価値(コスト削減や生産性向上)
 →同じ部品でも顧客企業の使い方次第で経済的価値は全く異なる。したがって、カタログ上の機能・性能だけでは測ることができない
・顧客が主観的に意味付け、使用状況に依存するため、暗黙的な特性となる

②「機能的価値」
・カタログで客観的に数字や仕様で表せる顧客価値

それゆえ、
「機能的価値」+「意味的価値」=「統合的価値」
となり、
企業は「統合的価値」の最大化が求められるようになります。

それでは、消費財と生産財とで、この「統合的価値」を最大限発揮した事例を紹介します。

事例1)意味的価値を重要視したiPhone
iPhneは、競合端末の平均3倍近い価格で世界中の顧客が購入しています。iPhone最大の優位性は、
①ストレスを感じさせない使い勝手のよさ
②質感の高いクールなデザイン
であり、この種の意味的価値は単純に、カタログを眺めるだけではそれらの魅力はわかりません。

一方で、iPhoneでしかできない差別的機能は多くありません。ややもすると、ガラパゴス仕様と揶揄されがちな「テレビ機能」「非接触型ICカードを使ったレジでの支払いや駅の改札を通る機能」は、従来のiPhoneにはありませんでした。昨年発売のiPhone7にようやく非接触型ICカードが搭載されたことは、ますますiPhone以外の端末を使う帰納的意味が薄れたこと、また、そうした明示的な機能的価値はiPhone躍進の必要十分条件ではなかったことを証明して見せました。

事例2)顧客企業の経済的価値(利益・生産性)向上を目標にしたキーエンス
工場用センサーや計測機器で高い業績を上げる同社は、「売上高営業利益率は過去17年間40%を超え、2015年度は売上高3793億円に対し、営業利益は2013億円に達しています」。

キーエンスの営業担当者はカタログでわかる価値だけでは販売はしません。
「顧客の現場で実際に試して使いやすさなどを追求し、顧客の生産性が高まる設置方法や使い方を提案します。その結果、顧客企業は高価でも購入するのです。」

お客様の生産現場に入り込んで、共に汗を流し、提案・試供・改善プロセスを経てから、自社製品(モノ)を販売します。しかし、顧客は、キーエンス社の「モノ」を購入するのではなく、顧客自身の生産ラインにおける効率化・高生産性(歩留まり低下など)・省資源化などのソリューションを購入することになるのです。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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