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■ まず「期待ギャップ」と「二重責任の原則」について確認します。

経営管理会計トピック

会社法とか、そもそもの株式会社という機構そのものの考え方に対する世間の理解が不足しているのか、筆者が当たり前と思っていることがズレているのか、「会計監査」についての見方を少々議論していきたいと思います。

2015/12/2|日本経済新聞|朝刊 (わかる監査)不正に向き合う(1) 市場の期待とギャップ  見逃した「東芝隠蔽」 適正意見に責任問う声

「東芝の不適切会計問題が会計監査を大きく揺さぶっている。公認会計士は企業の損益や財務をチェックし、粉飾や不正を見抜く役割を期待されているのに、なぜ見抜けず、不正が繰り返されるのだろうか。監査の仕組みと不正を防ぐ取り組みを全5回で点検する。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

まず、新聞記事の説明の流れを追っていきます。記事では、会計監査のあらましを次のように説明しています。

「投資家にとって上場企業が作り、投資家に開示する財務諸表は投資判断に欠かせない資料だ。法定の開示資料である有価証券報告書に重大な虚偽の記載があると、刑事罰の対象になる。法律ではその正しさを企業から独立した第三者である監査人がチェックするように義務付けられている。監査人は専門知識と実務経験を備え、国家資格を持つ公認会計士が担う。」

会社法による様々な機関の設置の違いがあるのですが、一般的な大企業(上場企業)は、
① 上場先の取引場の要請
② 会社法による法定監査
③ 金融商品取引法による法定監査
により、監査法人からの会計監査を受ける立場にあります。

(下表は同新聞記事添付の上場企業開示資料例を転載)

20151202_上場会社が開示する決算関連資料_日本経済新聞朝刊

そして、投資家など、社会一般的な利害関係者は、会計監査を引き受けた監査法人に対し、次のような期待を持ちます。

「会計士は企業と契約し報酬と引き換えに財務諸表をチェックする。新日本が2015年3月期決算の監査で東芝から受け取った報酬は10億円だった。当然ながら投資家は「監査で不正を見つけるはず」と期待する。」

しかし、公認会計士の立場からすれば、次のように言わざるを得ません。

「「不正の摘発が監査の第一の目的ではない」
 会計士の言い分はこうだ。監査の目的は「経営者が作成した財務諸表が適法かつ適正かどうか」にある。正しい財務諸表を作る責任は企業経営者にあり、会計士は企業が提出した財務諸表の内容が十分かどうかチェックする役目を負う。
 提出された財務諸表に不正があれば一義的には「企業の責任」で、会計士は「開示が正しいかどうかを保証し、意見を表明する」(会計士協会)。世間が監査に求める姿と実態にすれ違いがあり、この差を「期待ギャップ」と呼んでいる。」

「期待ギャップ」というのは、カネボウ事件辺りから使用され始めた言葉で、公認会計士協会も自身のホームページで次のように言及しています。

⇒「日本公認会計士協会 期待ギャップ」
 (http://www.hp.jicpa.or.jp/ippan/cpainfo/student/ke_word/2007/04/post_46.html

「社会の監査に対する期待と、監査人が実際に行う監査の内容にギャップがあること。
最大のギャップは、監査の目的についてである。社会は、監査の目的は不正の摘発だと思っているところがあるが、公認会計士監査の目的は「保証」なのである。何を保証するのかというと、企業が作成する財務諸表が会計の基準に準拠して正しく表示され、なおかつ重要な虚偽の記載がされていないということについてである。したがって、然るべき監査手続がとれない場合や不正があると考えられる場合には、保証はできませんという意味の意見を表明する。
たとえば、「公認会計士が見ているから倒産はしない」という誤解もある。財務諸表が正しく公認会計士が適正意見を出していても、経営業績が芳しくなければ、倒産することもありうる。」

新聞記事では、この辺の「期待ギャップ」が発生し始めた経緯を年表にしていますので、これを下記に転載します。

20151202_主な会計不祥事と監査制度の変遷_日本経済新聞朝刊

実は、この世間が思っている不正摘発をしてくれるだろうという期待と、公認会計士は企業が提出した財務諸表が適正かどうかを保証するだけという自身の役割とのギャップは、そもそも、会計士の卵たち(というか、会計士試験受験者)が最初に学ぶ「監査論」に、「二重責任の原則」という立派な名前で、昔から語られています。

⇒「日本公認会計士協会 二重責任の原則」
 (http://www.hp.jicpa.or.jp/ippan/cpainfo/student/ke_word/2007/04/post_31.html

「財務諸表を作る責任は経営者(企業側)にあり、公認会計士にはそれを監査する責任がある。たとえば、継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)の注記は公認会計士が書くものではなく、会社が自ら情報を開示するものであり、公認会計士はその有無や内容の十分性に対して適正か否かを表明する。
ここでの公認会計士の責任は、会社の事業継続能力を判定したり、会社の存続を保証することではなく、当該注記が正しく開示されているかどうかを表明することにある。」

カネボウ事件・ライブドア事件の衝撃は日本の監査業界では、米国のエンロン事件並みに大きく、「継続企業の前提の注記」の記載が義務付けられたり、「監査基準」の改訂(2010年)に結びつきます。

『あなた(企業)、財務諸表をつくる人、わたし(監査人)、財務諸表を見る人』
(このフレーズが懐かしく感じる人は、相当古い人ですね!)

では、改訂された「監査基準」にある「第一 監査の目的」を見てみましょうか。

「財務諸表の監査の目的は、経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある。」

簡約すると、
『会社が作った財務諸表を、監査人が入手できる証拠だけを使って、適正な表示がなされているかについての意見を表明することが会計監査の目的である。』

ここでは、
① 財務諸表を作るのはあくまで会社側である
② 監査人は、入手できる証拠だけで、財務諸表が適正かどうか判断する
(暗に、会社が意図的に隠した資料まで入手できなくても免責されると言っている!!!)
③ 適正かどうかの「意見」を表明するだけで、不正を摘発する責任はない!

と言っているのです。そして、

「財務諸表の表示が適正である旨の監査人の意見は、財務諸表には、全体として重要な虚偽の表示がないということについて、合理的な保証を得たとの監査人の判断を含んでいる。」

と続け、「意見」表明は、
① 重要な虚偽記載が全体として無いことについて出される
② 証拠が無くても、監査人の判断で意見を出せる
と、宣言しているのです。

ここまでが、会計監査に対する一般的?な知識の紹介です。

法の世界からみた「会計監査」 ―弁護士と会計士のわかりあえないミゾを考える―

■ 監査コストは株主が自分で負担していますが、その自覚ありますか?

こういう議論をすると、必ずと言っていいほど、次のような意見が出されます。

「そもそも、会社から監査報酬をもらっている監査法人が、厳しく会社の粉飾を暴けるはずがない。自らの顧客に対してバツを付ける行為は、経済的に見て不合理。だから、本当に財務諸表が正しいかをチェックするには、会社からお金を直接もらわない、独立した第三者が行うべき」だと。

一見して、耳触りのよい「独立した第三者が行う会計監査」。これって、現実の問題として、実現するためには、ある一定の税金を企業に課して、その経済的負担をもって政府・公的機関が会計監査を行うことをイメージした意見であることが多いです。でもこれって、正しそうで、効果的なように見えて、実は問題もはらんでいるんです。

そもそも、会計監査人は誰が選任するんでしょう?

会社法:329条で、会計監査人は、株主総会で選任されます。
会社法:339条で、会計監査人は、株主総会で解任できます。
会社法:340条で、監査役は、会計監査人を解任できます。

つまり、会社法の機関設計上、そして株主会社制度の根幹である会社の持ち主である株主様が、会計監査人を選任し、株主総会または、株主総会で選任された監査役が会計監査人を解任することができるんです。自分の虎の子である貴重な財産を経営者(取締役)に託すにあたり、その執行責任を全うしているかチェックすることで、適正な財務諸表で経営者の受託責任を果たしているかを株主が監視できる体制を整える責任は株主自身が負っているんです。

自分で会計監査人を雇っておいて、会計監査人に経営者の粉飾を見抜く力量が無く、自らの投資をどぶに捨てることになる。全て投資家の自己責任、というのが今の株式会社制度なのですよ。

しかし、会計監査人に支払われる監査報酬の取り決めについては、若干おかしいです。

会社法:399条では、取締役が、監査役(監査役会、監査委員会)の同意を得て、監査報酬を決めることになっています。

これは、監査報酬を決めることは、業務執行行為ということで、取締役の権限の内としているんです。取締役や監査役の報酬は、会社法:361条や387条にあるように、株主総会決議事項になっているんですがね。中途半端に、取締役の権限に置いていますね。これは、会社法の改正に伴い、選任・解任については、取締役会からのくびきから独立させたのですが、経済的独立はまだ果たせていません。

誰を会計監査人にするか、選任した会計監査人への報酬をいくらにするか、せめて株式会社の機関設計上は、全て株主の権限としていただきたいものです。

ただし、個人投資家の手中に、会計監査人の選任と報酬を決める権限を収めたとしても、個人投資家が会計監査人の力量や、報酬の適切性について実務上判断することは難しいかもしれません。だから、お上にチェックしてもらおう、という発想になるのも自然かもしれません。

銀行は、金融庁の検査があり、徹底的にお上が厳しいチェックをします。
(半沢直樹の金融庁検査官:片岡愛之助さんの演技は凄かったですね!)
でも、それは、銀行が銀行法による免許制だからです。

業法に縛られない、一般の株式会社は、私的自治、つまりビジネスの自由が公序良俗に反しない範囲で許されています。だから、どういう経営者に対するチェック体制を敷こうが会社の持ち主である株主の自由裁量である、という経済的自由権を自らお上に返上しようというのは、17世紀の株式会社の歴史にまで逆行してしまう愚行ですよ(昔は女王からの勅許により営業が許されていました)。

自分が手腕を信じる経営者に、自分の虎の子の財産を託す。信頼を得た経営者が監査報酬も含めて冗費を節約して、株主利益最大化のために汗をかく。その結果、高配当と株価上昇(TSRの最大化)がもたらされ、さらに資金が集まる。この好循環のどこかに綻びが生ずれば、会社は破綻し、市場から退場するのみです。個人投資家も、お上とか、経営者のせいにして、投資金額を保護してもらおうなんて、厚顔無恥も甚だしい。

投資は自己責任ですよ、自己責任。信頼できる経営者を見つけ、自分で財務諸表の嘘を見抜く。その力量を自ら保持することを放棄してはいけません。筆者は、がっぽりお上に監査費用を一律獲られるぐらいなら、信用が置ける経営者&会計監査人を自ら選び、安価で信頼のおける財務諸表を手に入れる道を選びます。

まあ、皆さんも考えてみてください。

小説 会計監査 (幻冬舎文庫)



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(わかる監査)不正に向き合う(1) 市場の期待とギャップ  見逃した「東芝隠蔽」 適正意見に責任問う声http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読む二重責任の原則,会計監査,期待ギャップ,監査法人■ まず「期待ギャップ」と「二重責任の原則」について確認します。 会社法とか、そもそもの株式会社という機構そのものの考え方に対する世間の理解が不足しているのか、筆者が当たり前と思っていることがズレているのか、「会計監査」についての見方を少々議論していきたいと思います。 2015/12/2|日本経済新聞|朝刊 (わかる監査)不正に向き合う(1) 市場の期待とギャップ  見逃した「東芝隠蔽」 適正意見に責任問う声 「東芝の不適切会計問題が会計監査を大きく揺さぶっている。公認会計士は企業の損益や財務をチェックし、粉飾や不正を見抜く役割を期待されているのに、なぜ見抜けず、不正が繰り返されるのだろうか。監査の仕組みと不正を防ぐ取り組みを全5回で点検する。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます まず、新聞記事の説明の流れを追っていきます。記事では、会計監査のあらましを次のように説明しています。 「投資家にとって上場企業が作り、投資家に開示する財務諸表は投資判断に欠かせない資料だ。法定の開示資料である有価証券報告書に重大な虚偽の記載があると、刑事罰の対象になる。法律ではその正しさを企業から独立した第三者である監査人がチェックするように義務付けられている。監査人は専門知識と実務経験を備え、国家資格を持つ公認会計士が担う。」 会社法による様々な機関の設置の違いがあるのですが、一般的な大企業(上場企業)は、 ① 上場先の取引場の要請 ② 会社法による法定監査 ③ 金融商品取引法による法定監査 により、監査法人からの会計監査を受ける立場にあります。 (下表は同新聞記事添付の上場企業開示資料例を転載) そして、投資家など、社会一般的な利害関係者は、会計監査を引き受けた監査法人に対し、次のような期待を持ちます。 「会計士は企業と契約し報酬と引き換えに財務諸表をチェックする。新日本が2015年3月期決算の監査で東芝から受け取った報酬は10億円だった。当然ながら投資家は「監査で不正を見つけるはず」と期待する。」 しかし、公認会計士の立場からすれば、次のように言わざるを得ません。 「「不正の摘発が監査の第一の目的ではない」  会計士の言い分はこうだ。監査の目的は「経営者が作成した財務諸表が適法かつ適正かどうか」にある。正しい財務諸表を作る責任は企業経営者にあり、会計士は企業が提出した財務諸表の内容が十分かどうかチェックする役目を負う。  提出された財務諸表に不正があれば一義的には「企業の責任」で、会計士は「開示が正しいかどうかを保証し、意見を表明する」(会計士協会)。世間が監査に求める姿と実態にすれ違いがあり、この差を「期待ギャップ」と呼んでいる。」 「期待ギャップ」というのは、カネボウ事件辺りから使用され始めた言葉で、公認会計士協会も自身のホームページで次のように言及しています。 ⇒「日本公認会計士協会 期待ギャップ」  (http://www.hp.jicpa.or.jp/ippan/cpainfo/student/ke_word/2007/04/post_46.html) 「社会の監査に対する期待と、監査人が実際に行う監査の内容にギャップがあること。 最大のギャップは、監査の目的についてである。社会は、監査の目的は不正の摘発だと思っているところがあるが、公認会計士監査の目的は「保証」なのである。何を保証するのかというと、企業が作成する財務諸表が会計の基準に準拠して正しく表示され、なおかつ重要な虚偽の記載がされていないということについてである。したがって、然るべき監査手続がとれない場合や不正があると考えられる場合には、保証はできませんという意味の意見を表明する。 たとえば、「公認会計士が見ているから倒産はしない」という誤解もある。財務諸表が正しく公認会計士が適正意見を出していても、経営業績が芳しくなければ、倒産することもありうる。」 新聞記事では、この辺の「期待ギャップ」が発生し始めた経緯を年表にしていますので、これを下記に転載します。 実は、この世間が思っている不正摘発をしてくれるだろうという期待と、公認会計士は企業が提出した財務諸表が適正かどうかを保証するだけという自身の役割とのギャップは、そもそも、会計士の卵たち(というか、会計士試験受験者)が最初に学ぶ「監査論」に、「二重責任の原則」という立派な名前で、昔から語られています。 ⇒「日本公認会計士協会 二重責任の原則」  (http://www.hp.jicpa.or.jp/ippan/cpainfo/student/ke_word/2007/04/post_31.html) 「財務諸表を作る責任は経営者(企業側)にあり、公認会計士にはそれを監査する責任がある。たとえば、継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)の注記は公認会計士が書くものではなく、会社が自ら情報を開示するものであり、公認会計士はその有無や内容の十分性に対して適正か否かを表明する。 ここでの公認会計士の責任は、会社の事業継続能力を判定したり、会社の存続を保証することではなく、当該注記が正しく開示されているかどうかを表明することにある。」 カネボウ事件・ライブドア事件の衝撃は日本の監査業界では、米国のエンロン事件並みに大きく、「継続企業の前提の注記」の記載が義務付けられたり、「監査基準」の改訂(2010年)に結びつきます。 『あなた(企業)、財務諸表をつくる人、わたし(監査人)、財務諸表を見る人』 (このフレーズが懐かしく感じる人は、相当古い人ですね!) では、改訂された「監査基準」にある「第一 監査の目的」を見てみましょうか。 「財務諸表の監査の目的は、経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある。」 簡約すると、 『会社が作った財務諸表を、監査人が入手できる証拠だけを使って、適正な表示がなされているかについての意見を表明することが会計監査の目的である。』 ここでは、 ① 財務諸表を作るのはあくまで会社側である ② 監査人は、入手できる証拠だけで、財務諸表が適正かどうか判断する (暗に、会社が意図的に隠した資料まで入手できなくても免責されると言っている!!!) ③ 適正かどうかの「意見」を表明するだけで、不正を摘発する責任はない! と言っているのです。そして、 「財務諸表の表示が適正である旨の監査人の意見は、財務諸表には、全体として重要な虚偽の表示がないということについて、合理的な保証を得たとの監査人の判断を含んでいる。」 と続け、「意見」表明は、 ① 重要な虚偽記載が全体として無いことについて出される ② 証拠が無くても、監査人の判断で意見を出せる と、宣言しているのです。 ここまでが、会計監査に対する一般的?な知識の紹介です。 法の世界からみた「会計監査」 ―弁護士と会計士のわかりあえないミゾを考える― ■ 監査コストは株主が自分で負担していますが、その自覚ありますか? こういう議論をすると、必ずと言っていいほど、次のような意見が出されます。 「そもそも、会社から監査報酬をもらっている監査法人が、厳しく会社の粉飾を暴けるはずがない。自らの顧客に対してバツを付ける行為は、経済的に見て不合理。だから、本当に財務諸表が正しいかをチェックするには、会社からお金を直接もらわない、独立した第三者が行うべき」だと。 一見して、耳触りのよい「独立した第三者が行う会計監査」。これって、現実の問題として、実現するためには、ある一定の税金を企業に課して、その経済的負担をもって政府・公的機関が会計監査を行うことをイメージした意見であることが多いです。でもこれって、正しそうで、効果的なように見えて、実は問題もはらんでいるんです。 そもそも、会計監査人は誰が選任するんでしょう? 会社法:329条で、会計監査人は、株主総会で選任されます。 会社法:339条で、会計監査人は、株主総会で解任できます。 会社法:340条で、監査役は、会計監査人を解任できます。 つまり、会社法の機関設計上、そして株主会社制度の根幹である会社の持ち主である株主様が、会計監査人を選任し、株主総会または、株主総会で選任された監査役が会計監査人を解任することができるんです。自分の虎の子である貴重な財産を経営者(取締役)に託すにあたり、その執行責任を全うしているかチェックすることで、適正な財務諸表で経営者の受託責任を果たしているかを株主が監視できる体制を整える責任は株主自身が負っているんです。 自分で会計監査人を雇っておいて、会計監査人に経営者の粉飾を見抜く力量が無く、自らの投資をどぶに捨てることになる。全て投資家の自己責任、というのが今の株式会社制度なのですよ。 しかし、会計監査人に支払われる監査報酬の取り決めについては、若干おかしいです。 会社法:399条では、取締役が、監査役(監査役会、監査委員会)の同意を得て、監査報酬を決めることになっています。 これは、監査報酬を決めることは、業務執行行為ということで、取締役の権限の内としているんです。取締役や監査役の報酬は、会社法:361条や387条にあるように、株主総会決議事項になっているんですがね。中途半端に、取締役の権限に置いていますね。これは、会社法の改正に伴い、選任・解任については、取締役会からのくびきから独立させたのですが、経済的独立はまだ果たせていません。 誰を会計監査人にするか、選任した会計監査人への報酬をいくらにするか、せめて株式会社の機関設計上は、全て株主の権限としていただきたいものです。 ただし、個人投資家の手中に、会計監査人の選任と報酬を決める権限を収めたとしても、個人投資家が会計監査人の力量や、報酬の適切性について実務上判断することは難しいかもしれません。だから、お上にチェックしてもらおう、という発想になるのも自然かもしれません。 銀行は、金融庁の検査があり、徹底的にお上が厳しいチェックをします。 (半沢直樹の金融庁検査官:片岡愛之助さんの演技は凄かったですね!) でも、それは、銀行が銀行法による免許制だからです。 業法に縛られない、一般の株式会社は、私的自治、つまりビジネスの自由が公序良俗に反しない範囲で許されています。だから、どういう経営者に対するチェック体制を敷こうが会社の持ち主である株主の自由裁量である、という経済的自由権を自らお上に返上しようというのは、17世紀の株式会社の歴史にまで逆行してしまう愚行ですよ(昔は女王からの勅許により営業が許されていました)。 自分が手腕を信じる経営者に、自分の虎の子の財産を託す。信頼を得た経営者が監査報酬も含めて冗費を節約して、株主利益最大化のために汗をかく。その結果、高配当と株価上昇(TSRの最大化)がもたらされ、さらに資金が集まる。この好循環のどこかに綻びが生ずれば、会社は破綻し、市場から退場するのみです。個人投資家も、お上とか、経営者のせいにして、投資金額を保護してもらおうなんて、厚顔無恥も甚だしい。 投資は自己責任ですよ、自己責任。信頼できる経営者を見つけ、自分で財務諸表の嘘を見抜く。その力量を自ら保持することを放棄してはいけません。筆者は、がっぽりお上に監査費用を一律獲られるぐらいなら、信用が置ける経営者&会計監査人を自ら選び、安価で信頼のおける財務諸表を手に入れる道を選びます。 まあ、皆さんも考えてみてください。 小説 会計監査 (幻冬舎文庫)現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します