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■ 経営成績、収益、利益、CFといった業績指標の過大表示のトリックを見る!

会計(基礎編)

前回の「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(1)企業財務分析者が気にすべき財務指標について」にて、経営者が財務指標を操作したくなる心理状態と、操作可能な財務指標の類型を説明しました。「1.業績指標」と「2.健全性指標」です。今回は、「1.業績指標」のトリックについて説明していきます。

本記事を書くのに参考にしている図書の紹介から。

この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。

経営管理会計トピック_不適切会計の類型

経営成績を過大表示する業績指標を提示するテクニックには次の3つがあります。
(1)誤認を招く収益の代替指標を強調する
(2)誤認を招く利益の代替指標を強調する
(3)誤認を招くキャッシュフローの代替指標を強調する

 

(1)誤認を招く収益の代替指標を強調する

多くの人は収益(売上)の増加は重要で、事業成長の直接的なモノサシであると考えます。企業もまた頻繁に収益を補足する追加的データを開示し、製品需要や価格支配力へのより深い考察を投資家に提供しようとします。一般論的には、投資家は、持続的なビジネスの成果をよりよく評価するため、このような追加的情報や補足的非GAAP(一般に公正妥当と認められる会計原則)収益指標の分析の機会を歓迎すべきです。

しかし、どんなところにも裏と表があります。そうした投資家への追加的情報サービスには、経営者が投資家が企業業績に対する評価を誤認させたい意図が隠されている場合が往々にしてあります。

● 既存店売上高

小売業や飲食店の収益の増加は、しばしば新規出店に影響されます。理論的に、企業が急速な店舗展開をしている最中では、前年よりも今年の店舗数の方が多くなりますので、巨額の収益増加がみられます。会社の収益合計の増加は、会社の規模についていくつかの示唆を与えてくれますが、個々の店舗の業績がよいかどうかについての情報は得られません。それゆえ、投資家は会社の店舗が実際にどれだけの業績を上げているかについての指標に、より注意深く関心を寄せる必要があるのです。

そこで、こうした業界に属する会社は、少なくとも1年以上開店している店舗についての収益の増加を報告することで、収益の増加を計算するために店舗の比較可能な対象範囲を設定し、本当の経営成績についてより実態に即した分析を可能にしようと努めます。

このような企業業績のインジケーターとしての「既存店売上高」「同一店舗売上高」が理論的で継続的な方法で公表されているのであれば、こうしたKPIは投資家にとって大変価値があるものといえます。しかしながら、既存店売上高は、GAAPのカバー範囲外であり、普遍的に認識される定義は存在せず、会社ごとに計算方法が異なることの方が多いのです。更に悪いことに、ある四半期における会社独自の既存店売上高の計算は、前期と同じである保証はないのです。だから、投資家は常に企業が開示する既存店売上高の定義が継続的に使用されているものかどうか、急に既存店売上高の情報を開示したり、非公開にしたり、継続的な開示姿勢を示しているか、について深く洞察をしないといけないのです。

● 既存店売上高指標の見方

1)既存店売上高と1店舗当たり売上高を比較する
継続して成長している企業の場合、既存店売上高は店舗ごとの平均売上高と一貫して上昇傾向にあるハズです。既存店売上高を1店舗当たり売上高(つまり、総売上高 ÷ 平均総店舗数)の増減額と比較することで、投資家は、事業がプラスかマイナスのいずれの成長を示しているのか、簡単にわかります。

会社の既存店売上増加額が、1店舗当たり売上増加額と常に相関していると仮定します。もしこのトレンドに大きな相違が突然生じ、既存店売上高が増加し、1店舗当たり売上高が減少していたら、投資家はこの企業の業績見通しについて留意しなければなりません。なぜなら、

A)会社の新店舗が苦戦している
店舗当たりを引き下げたが、既存店には含まれていないために既存店売上高には影響しない

B)会社は既存店売上の定義を変更した
既存店売上高の計算には影響するが、1店舗当たり売上高には影響しない

2)既存店売上高の定義の変更に注意する
企業は通常、既存店売上高をどのように定義しているかについても開示しているはずです。いったん定義が開示されると、投資家は毎期そのれをトレースすることが容易になります。しかし、企業は2つの方法で対象となる既存店の範囲を調節し、既存店売上高を操作することができます。

A)単純に店舗が対象となる前の開店期間を変更する
例えば、以前は12か月としていた開店期間を18か月ひつようなことにする

B)対象範囲に含める店舗のタイプを変更する
例えば、地域や規模、改装中など特定の店舗を突然除いたりする

3)企業買収による既存店売上高の水増しに注意する
既存店の対象範囲は、直接の営業活動に関係のない企業活動、買収(M&A)などによっても左右されます。例えば、2004年から2006年まで、米スターバックスの既存店売上高の集計対象範囲の店舗の領域は、毎四半期変化し続けていました。というのも、会社が次々と地域ライセンシーを買収し、それらを対象範囲へ加えていったからです。これではほとんど既存店売上高の前年比較など、ほとんど比較不可能は指標になってしまいます。スターバックスが業績好調なライセンシーを買収したなら、この買収活動は大いに既存店売上高の増加を示すでしょうから。

スターバックスの2006年の既存店売上高傾向は、1店舗当たり売上高傾向から乖離し始めました。そのギャップは2007年に入ってさらに広がり、2007年9月にスターバックスは初めてアメリカの取引量が減少したと報告せざるを得なくなりました。12月にアメリカにおける既存店売上高がマイナスに転じた時、「もはや既存店売上高は会社の業績の効率的な指標ではなくなった」と述べ、スターバックスは既存店売上高を開示しないことを発表しました。

<注意点>
企業がこれまで重要だと言っていた指標の開示を突然止めたときは慎重になる!

● 既存店売上高推移の実例 -日本マクドナルドホールディングス

日本マクドナルドHDは、ホームページで「セールス・財務データ」の開示をおこなっており、非GAAP情報である「月次セールスレポート」なるもので、前年同月比指標を、
 ①全店売上高
 ②既存店売上高
 ③既存店客数
 ④既存店客単価
の4つについて公表しています。

20160417_日本マクドナルド_月次セールスレポート

ホームページでは、既存店の定義を「少なくとも13ヶ月以上開店している店舗」として明言しています。今後ともこの定義が急に変わらぬことを願っています。

さて、全店売上高と既存店売上高のみを抜粋して、直近15か月の推移グラフを作ってみました。

20160417_日本マクドナルド_売上高前年同月比グラフ

昨年の10月から、全店売上高と既存店売上高の推移にギャップが大きくなっています。
この売上高推移のベース数値は、フランチャイズも含めた売上高なのか、直営店のみの売上高なのか、表記がないのですが、これは筆者の憶測ですが直営店のみのようです。フランチャイズを含めた売上高は、同サイトの別ページで次のように表記されています。

全店売上高(システムワイドセールス)

20160417_日本マクドナルド_全店売上高(システムワイドセールス)

このように、非GAAP指標は、その定義にいちいち留意するめんどくささがあります。

では、上記でも触れていた、積極的なフランチャイジーの買収による既存店売上高数字の作り込みの可能性はないのでしょうか。2015年度の決算短信に次のような「店舗投資の加速」の報告が掲載してありました。

20160417_日本マクドナルド_店舗投資の加速_2015年12月期決算短信

この積極的なスクラップ&ビルドおよび、フランチャイジーから直営店への移行が、前述の指標にどう影響しているか、どうも企業外部の利害関係者が読み解くには一筋縄ではいかないようです(まあ、筆者の分析能力の無さ、と言ったらそれでおしまいですが)。(^^;)

● 1ユーザー当り平均収益

同業者間で非GAAP指標を比較する際、その指標が同様の方法で計算されているかどうかは、比較可能性を担保する上でも大変重要な作業になります。たとえば、放送・通信業界で使用されている(いた)一般的な指標の「ARPU:Average Revenue per User(1ユーザー当たり平均収益)」は、総加入社収益 ÷ 平均加入者数 で算出されるものです。1加入者当たり平均収益の計算は、一見簡単に思えますが、異なるARPUの定義がたくさん存在します。

種本が米国産なので、まずはアメリカ企業の例で失礼します。

<シリウス・サテライト・スタジオ>
加入者(売上リベートとの相殺含む)からの収益、登録料収入および広告料収入をその期の日次加重平均加入者数で割り算

<XMサテライト・ラジオ・HD>
月額加入者収益から販促費やリベートをネットした合計額をその期の月次加重平均加入者数で割り算
→ つまり、広告料収入と登録料収入は含まれていない

● KDDIが「ARPU」から「ARPA」へ代表指標を変更した件

KDDIは、ユーザーの通信端末の所有形態の変化を考慮し、2015年度から、1人がスマートフォンとタブレットなど複数のデバイスを持つ「マルチデバイス推進フェーズ」に入るとし、端末1台当たりの売上高を表す指標として使っていた「ARPU」(Average Revenue Per User)を見直し、契約者数1人当たりの売上高を示す「ARPA」(Average Revenue Per Account)を導入することを、2014年度の決算発表の際に公表しました。

まずは、2014年度決算説明資料から、「ARPA」を使い始める理由解説ページをご紹介。

20160417_KDDI_ARPAの採用理由_2015年3月期決算説明資料

次に、直近の2015年第3四半期決算説明資料で、「ARPA」を使った業績説明を行っていますので、そちらを何枚かご紹介。

20160417_KDDI_総合ARPA収入の増収が牽引_2015年度第3四半期決算説明資料

20160417_KDDI_総合ARPA収入_2015年度第3四半期決算説明資料

20160417_KDDI_総合ARPA_2015年度第3四半期決算説明資料

ちなみに、同業のソフトバンクとNTTドコモは、各社各様の「ARPU」で業績説明を続けています。

ソフトバンク 2016年度第3四半期決算説明資料

20160417_ソフトバンク_ARPU_2015年度第3四半期決算説明資料

NTTドコモ 年度事業データ

20160417_NTTドコモ_新ARPU・MOU

寡占業界で定義がそろっていないと、横並び比較が難しいですね。いや、寡占業界だからこそ、各社とも単純比較されることを恐れているのでしょうか。

● 放送・通信・ゲーム業界だけでなく、ユーザー登録がベースとなるビジネスについて

加入者ベースのビジネスについては、前述の業界に加え、調査会社、新聞、フィットネスクラブや英会話クラスなど教育産業も、企業成長は新規加入者の増加に大きく依存しており。投資家がビジネスの最近の傾向をつかむためには、加入者の水準をモニタリングすることが早道です。論理的に、毎四半期の新規加入者数の増加は、収益につながる主要な指標となり得ます。

それと同時に、解約の水準も同ビジネスを評価する際に知るべき大事な指標です。もし会社が新規加入者の増加により堅調な加入者ベースを示していて、かつ解約数が減少していれば、ネット(純額)でユーザー増となり、企業の今後の大きな収益拡大が見込まれる前兆となります。その企業がそれらの指標を操作していない限り。

種本に記載のあるアメリカの例を引いてくると、

<AOLタイム・ワーナー>
AOLのオンライン・インターネット・サービス事業において、法人向け契約は大層なウェートを占めており、AOL加入権の売却方法の1つとして、会社が従業員へ加入権を支給する形態があります。AOLは当初、これらの法人向け契約は、実際に従業員が新規ユーザー登録画面でサインアップした時点で、正式に加入者数に加えていました。それが、2001年、AOLが加入者目標値を達成するのに苦労し始めると、法人向け契約の成約の段階で、契約に含まれる全従業員分を新規加入者に数えはじめました。

<アデルフィア・コミュニケーション>
この企業はケーブルテレビ事業者で、業績が伸び悩むと、以前は含めていなかった非連結の関連会社の加入者数を含めることによって、新規加入者数の水増しを意図的に行うようになりました。さらに、ケーブルテレビの加入者数に、インターネット・サービスへの加入者数も含めることを突然内部決定してしまいます。

この非連結の関連会社の数字を含める/含めない、というのは、日本の代表的な製造業のひとつである本田技研工業(ホンダ)の開示資料でも目にすることができます。ホンダの開示資料には、「Hondaグループ」の販売台数と、「連結」の売上台数という2つのセールス業績を表す数字が登場します。

「Hondaグループ」の方は、
① 持ち分法会社の完成車販売台数を含む
② IFRS上のオペレーティング・リース販売された台数を含む

という特徴があります。これも、2015年度第3四半期の決算説明資料から両者の規模感を比較できるスライドを抜粋してきましょう。

20160417_ホンダ_売上台数の状況_2015年度第3四半期決算説明資料

こうした定義は、決算説明資料には無いので、初見の人は説明が無いと、迷いが生じるでしょう。有価証券報告書をつぶさに読んでください。そこには「グループ」と「連結」の違いがきちんと記述してあるはずです。

<ペガサス・サテライト・コミュニケーションズ>
この衛星テレビ会社は、2004年に破産申請するまでの数年間、加入者データを操作し続けていました。通常、ペガサスの加入者請求システムは、54日支払い遅延となった顧客の加入者ベースは自動的に加入者数から除かれるようになっていました。しかし、解約水準を抑えて加入者数を水増しすることにしたペガサスは、加入者請求システムを改変してまで、加入者数から除かれるべきはずの54日期限を超えても有効な顧客としてカウントできるようにしたのです。

● 受注額と受注残額

多くの企業が、その期に引き受けた新しいビジネスの金額を表す、「受注」「オーダー」を四半期ごとに開示します。企業は同時に、取引の受注の未履行、換言すると、顧客から発注されたが、まだ自社が契約を履行していない(そして当然自社の収益として認識されていない)金額を本質的に表す「受注残高」も積極的に開示するところが多く存在します。「出荷受注比率(Book-to-Bill)」もまた一般的な開示項目となっており、当期の受注と当期の出荷を比較する指標で、受注額を出荷額で割り算することで算出されます。

しかし、これらの数字は当然、非GAAP指標なので、どのように会社が受注高や受注残高を定義し、開示しているのかは企業側に大きさ裁量の余地が残されます。

例えば、
・解約可能な受注
・購買する量が決まっていない受注
・長期請負契約や工事契約
・不確実性をともなう契約
・延長条項付の契約
・本業以外の業務の受注
などが挙げられます。

以外に、収益の代替指標だけでこれだけ紙面(画面、文字数)を取ってしまいました。利益やキャッシュフローについては次回以降に回すことにします。

注)今回取り上げた事例は、日本マクドナルドHD、KDDI、本田技研工業が恣意的に開示指標を操作しているという趣旨で取り上げたのではありません。飲食業、通信業、製造業それぞれで典型的に見られる公表された財務指標の読み取り方の好例として使用させて頂きました。それ以外の米国企業の事例は、上記の種本からの抜粋になります。

財務会計(入門編)_不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(2)経営成績を過大表示する指標の提示 - 収益の代替指標 日本マクドナルド、KDDIやホンダの事例を見る!

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不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(2)経営成績を過大表示する指標の提示 - 収益の代替指標 日本マクドナルド、KDDIやホンダの事例を見る!http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d291.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d291-150x150.jpg小林 友昭財務会計(入門編)ソフトバンク,不適切会計,ホンダ,スターバックス,キーメトリクス,財務指標,GAAP,既存店売上高,日本マクドナルドホールディングス,ARPU,ARPA,KDDI,NTTドコモ,受注,受注残■ 経営成績、収益、利益、CFといった業績指標の過大表示のトリックを見る! 前回の「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(1)企業財務分析者が気にすべき財務指標について」にて、経営者が財務指標を操作したくなる心理状態と、操作可能な財務指標の類型を説明しました。「1.業績指標」と「2.健全性指標」です。今回は、「1.業績指標」のトリックについて説明していきます。 本記事を書くのに参考にしている図書の紹介から。 この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。 経営成績を過大表示する業績指標を提示するテクニックには次の3つがあります。 (1)誤認を招く収益の代替指標を強調する (2)誤認を招く利益の代替指標を強調する (3)誤認を招くキャッシュフローの代替指標を強調する   (1)誤認を招く収益の代替指標を強調する 多くの人は収益(売上)の増加は重要で、事業成長の直接的なモノサシであると考えます。企業もまた頻繁に収益を補足する追加的データを開示し、製品需要や価格支配力へのより深い考察を投資家に提供しようとします。一般論的には、投資家は、持続的なビジネスの成果をよりよく評価するため、このような追加的情報や補足的非GAAP(一般に公正妥当と認められる会計原則)収益指標の分析の機会を歓迎すべきです。 しかし、どんなところにも裏と表があります。そうした投資家への追加的情報サービスには、経営者が投資家が企業業績に対する評価を誤認させたい意図が隠されている場合が往々にしてあります。 ● 既存店売上高 小売業や飲食店の収益の増加は、しばしば新規出店に影響されます。理論的に、企業が急速な店舗展開をしている最中では、前年よりも今年の店舗数の方が多くなりますので、巨額の収益増加がみられます。会社の収益合計の増加は、会社の規模についていくつかの示唆を与えてくれますが、個々の店舗の業績がよいかどうかについての情報は得られません。それゆえ、投資家は会社の店舗が実際にどれだけの業績を上げているかについての指標に、より注意深く関心を寄せる必要があるのです。 そこで、こうした業界に属する会社は、少なくとも1年以上開店している店舗についての収益の増加を報告することで、収益の増加を計算するために店舗の比較可能な対象範囲を設定し、本当の経営成績についてより実態に即した分析を可能にしようと努めます。 このような企業業績のインジケーターとしての「既存店売上高」「同一店舗売上高」が理論的で継続的な方法で公表されているのであれば、こうしたKPIは投資家にとって大変価値があるものといえます。しかしながら、既存店売上高は、GAAPのカバー範囲外であり、普遍的に認識される定義は存在せず、会社ごとに計算方法が異なることの方が多いのです。更に悪いことに、ある四半期における会社独自の既存店売上高の計算は、前期と同じである保証はないのです。だから、投資家は常に企業が開示する既存店売上高の定義が継続的に使用されているものかどうか、急に既存店売上高の情報を開示したり、非公開にしたり、継続的な開示姿勢を示しているか、について深く洞察をしないといけないのです。 ● 既存店売上高指標の見方 1)既存店売上高と1店舗当たり売上高を比較する 継続して成長している企業の場合、既存店売上高は店舗ごとの平均売上高と一貫して上昇傾向にあるハズです。既存店売上高を1店舗当たり売上高(つまり、総売上高 ÷ 平均総店舗数)の増減額と比較することで、投資家は、事業がプラスかマイナスのいずれの成長を示しているのか、簡単にわかります。 会社の既存店売上増加額が、1店舗当たり売上増加額と常に相関していると仮定します。もしこのトレンドに大きな相違が突然生じ、既存店売上高が増加し、1店舗当たり売上高が減少していたら、投資家はこの企業の業績見通しについて留意しなければなりません。なぜなら、 A)会社の新店舗が苦戦している 店舗当たりを引き下げたが、既存店には含まれていないために既存店売上高には影響しない B)会社は既存店売上の定義を変更した 既存店売上高の計算には影響するが、1店舗当たり売上高には影響しない 2)既存店売上高の定義の変更に注意する 企業は通常、既存店売上高をどのように定義しているかについても開示しているはずです。いったん定義が開示されると、投資家は毎期そのれをトレースすることが容易になります。しかし、企業は2つの方法で対象となる既存店の範囲を調節し、既存店売上高を操作することができます。 A)単純に店舗が対象となる前の開店期間を変更する 例えば、以前は12か月としていた開店期間を18か月ひつようなことにする B)対象範囲に含める店舗のタイプを変更する 例えば、地域や規模、改装中など特定の店舗を突然除いたりする 3)企業買収による既存店売上高の水増しに注意する 既存店の対象範囲は、直接の営業活動に関係のない企業活動、買収(M&A)などによっても左右されます。例えば、2004年から2006年まで、米スターバックスの既存店売上高の集計対象範囲の店舗の領域は、毎四半期変化し続けていました。というのも、会社が次々と地域ライセンシーを買収し、それらを対象範囲へ加えていったからです。これではほとんど既存店売上高の前年比較など、ほとんど比較不可能は指標になってしまいます。スターバックスが業績好調なライセンシーを買収したなら、この買収活動は大いに既存店売上高の増加を示すでしょうから。 スターバックスの2006年の既存店売上高傾向は、1店舗当たり売上高傾向から乖離し始めました。そのギャップは2007年に入ってさらに広がり、2007年9月にスターバックスは初めてアメリカの取引量が減少したと報告せざるを得なくなりました。12月にアメリカにおける既存店売上高がマイナスに転じた時、「もはや既存店売上高は会社の業績の効率的な指標ではなくなった」と述べ、スターバックスは既存店売上高を開示しないことを発表しました。 <注意点> 企業がこれまで重要だと言っていた指標の開示を突然止めたときは慎重になる! ● 既存店売上高推移の実例 -日本マクドナルドホールディングス 日本マクドナルドHDは、ホームページで「セールス・財務データ」の開示をおこなっており、非GAAP情報である「月次セールスレポート」なるもので、前年同月比指標を、  ①全店売上高  ②既存店売上高  ③既存店客数  ④既存店客単価 の4つについて公表しています。 ホームページでは、既存店の定義を「少なくとも13ヶ月以上開店している店舗」として明言しています。今後ともこの定義が急に変わらぬことを願っています。 さて、全店売上高と既存店売上高のみを抜粋して、直近15か月の推移グラフを作ってみました。 昨年の10月から、全店売上高と既存店売上高の推移にギャップが大きくなっています。 この売上高推移のベース数値は、フランチャイズも含めた売上高なのか、直営店のみの売上高なのか、表記がないのですが、これは筆者の憶測ですが直営店のみのようです。フランチャイズを含めた売上高は、同サイトの別ページで次のように表記されています。 「全店売上高(システムワイドセールス)」 このように、非GAAP指標は、その定義にいちいち留意するめんどくささがあります。 では、上記でも触れていた、積極的なフランチャイジーの買収による既存店売上高数字の作り込みの可能性はないのでしょうか。2015年度の決算短信に次のような「店舗投資の加速」の報告が掲載してありました。 この積極的なスクラップ&ビルドおよび、フランチャイジーから直営店への移行が、前述の指標にどう影響しているか、どうも企業外部の利害関係者が読み解くには一筋縄ではいかないようです(まあ、筆者の分析能力の無さ、と言ったらそれでおしまいですが)。(^^;) ● 1ユーザー当り平均収益 同業者間で非GAAP指標を比較する際、その指標が同様の方法で計算されているかどうかは、比較可能性を担保する上でも大変重要な作業になります。たとえば、放送・通信業界で使用されている(いた)一般的な指標の「ARPU:Average Revenue per User(1ユーザー当たり平均収益)」は、総加入社収益 ÷ 平均加入者数 で算出されるものです。1加入者当たり平均収益の計算は、一見簡単に思えますが、異なるARPUの定義がたくさん存在します。 種本が米国産なので、まずはアメリカ企業の例で失礼します。 <シリウス・サテライト・スタジオ> 加入者(売上リベートとの相殺含む)からの収益、登録料収入および広告料収入をその期の日次加重平均加入者数で割り算 <XMサテライト・ラジオ・HD> 月額加入者収益から販促費やリベートをネットした合計額をその期の月次加重平均加入者数で割り算 → つまり、広告料収入と登録料収入は含まれていない ● KDDIが「ARPU」から「ARPA」へ代表指標を変更した件 KDDIは、ユーザーの通信端末の所有形態の変化を考慮し、2015年度から、1人がスマートフォンとタブレットなど複数のデバイスを持つ「マルチデバイス推進フェーズ」に入るとし、端末1台当たりの売上高を表す指標として使っていた「ARPU」(Average Revenue Per User)を見直し、契約者数1人当たりの売上高を示す「ARPA」(Average Revenue Per Account)を導入することを、2014年度の決算発表の際に公表しました。 まずは、2014年度決算説明資料から、「ARPA」を使い始める理由解説ページをご紹介。 次に、直近の2015年第3四半期決算説明資料で、「ARPA」を使った業績説明を行っていますので、そちらを何枚かご紹介。 ちなみに、同業のソフトバンクとNTTドコモは、各社各様の「ARPU」で業績説明を続けています。 <ソフトバンク 2016年度第3四半期決算説明資料> <NTTドコモ 年度事業データ> 寡占業界で定義がそろっていないと、横並び比較が難しいですね。いや、寡占業界だからこそ、各社とも単純比較されることを恐れているのでしょうか。 ● 放送・通信・ゲーム業界だけでなく、ユーザー登録がベースとなるビジネスについて 加入者ベースのビジネスについては、前述の業界に加え、調査会社、新聞、フィットネスクラブや英会話クラスなど教育産業も、企業成長は新規加入者の増加に大きく依存しており。投資家がビジネスの最近の傾向をつかむためには、加入者の水準をモニタリングすることが早道です。論理的に、毎四半期の新規加入者数の増加は、収益につながる主要な指標となり得ます。 それと同時に、解約の水準も同ビジネスを評価する際に知るべき大事な指標です。もし会社が新規加入者の増加により堅調な加入者ベースを示していて、かつ解約数が減少していれば、ネット(純額)でユーザー増となり、企業の今後の大きな収益拡大が見込まれる前兆となります。その企業がそれらの指標を操作していない限り。 種本に記載のあるアメリカの例を引いてくると、 <AOLタイム・ワーナー> AOLのオンライン・インターネット・サービス事業において、法人向け契約は大層なウェートを占めており、AOL加入権の売却方法の1つとして、会社が従業員へ加入権を支給する形態があります。AOLは当初、これらの法人向け契約は、実際に従業員が新規ユーザー登録画面でサインアップした時点で、正式に加入者数に加えていました。それが、2001年、AOLが加入者目標値を達成するのに苦労し始めると、法人向け契約の成約の段階で、契約に含まれる全従業員分を新規加入者に数えはじめました。 <アデルフィア・コミュニケーション> この企業はケーブルテレビ事業者で、業績が伸び悩むと、以前は含めていなかった非連結の関連会社の加入者数を含めることによって、新規加入者数の水増しを意図的に行うようになりました。さらに、ケーブルテレビの加入者数に、インターネット・サービスへの加入者数も含めることを突然内部決定してしまいます。 この非連結の関連会社の数字を含める/含めない、というのは、日本の代表的な製造業のひとつである本田技研工業(ホンダ)の開示資料でも目にすることができます。ホンダの開示資料には、「Hondaグループ」の販売台数と、「連結」の売上台数という2つのセールス業績を表す数字が登場します。 「Hondaグループ」の方は、 ① 持ち分法会社の完成車販売台数を含む ② IFRS上のオペレーティング・リース販売された台数を含む という特徴があります。これも、2015年度第3四半期の決算説明資料から両者の規模感を比較できるスライドを抜粋してきましょう。 こうした定義は、決算説明資料には無いので、初見の人は説明が無いと、迷いが生じるでしょう。有価証券報告書をつぶさに読んでください。そこには「グループ」と「連結」の違いがきちんと記述してあるはずです。 <ペガサス・サテライト・コミュニケーションズ> この衛星テレビ会社は、2004年に破産申請するまでの数年間、加入者データを操作し続けていました。通常、ペガサスの加入者請求システムは、54日支払い遅延となった顧客の加入者ベースは自動的に加入者数から除かれるようになっていました。しかし、解約水準を抑えて加入者数を水増しすることにしたペガサスは、加入者請求システムを改変してまで、加入者数から除かれるべきはずの54日期限を超えても有効な顧客としてカウントできるようにしたのです。 ● 受注額と受注残額 多くの企業が、その期に引き受けた新しいビジネスの金額を表す、「受注」「オーダー」を四半期ごとに開示します。企業は同時に、取引の受注の未履行、換言すると、顧客から発注されたが、まだ自社が契約を履行していない(そして当然自社の収益として認識されていない)金額を本質的に表す「受注残高」も積極的に開示するところが多く存在します。「出荷受注比率(Book-to-Bill)」もまた一般的な開示項目となっており、当期の受注と当期の出荷を比較する指標で、受注額を出荷額で割り算することで算出されます。 しかし、これらの数字は当然、非GAAP指標なので、どのように会社が受注高や受注残高を定義し、開示しているのかは企業側に大きさ裁量の余地が残されます。 例えば、 ・解約可能な受注 ・購買する量が決まっていない受注 ・長期請負契約や工事契約 ・不確実性をともなう契約 ・延長条項付の契約 ・本業以外の業務の受注 ...現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します