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会計基準委「売上高計上」への意見公募 18年から新基準導入へ 取引内容ごとの影響例公表

経営管理会計トピック 実務で会計ルールをおさらい
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■ 売上高の定義が違うと、損益計算書のスタートが違ってきますからね!

経営管理会計トピック

日本の会計基準がIFRSとのコンバージェンス(収束、収斂、集中の意。会計基準の内容を合わせていくこと)を目的に、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」との合わせを行う準備作業に入りました。

2016/1/26付 |日本経済新聞|朝刊 会計基準委「売上高計上」への意見公募 18年から新基準導入へ 取引内容ごとの影響例公表

「日本の会計基準を作る企業会計基準委員会(ASBJ)は、2月に売上高の計上に関する新しい基準(収益認識基準)への意見公募を始める。国際会計基準(IFRS)や米国会計基準が2018年1月から新基準を導入するのに合わせ、日本で採用した場合、どのような影響が出るかをまとめた事例集を公表。企業などから幅広く意見を募った上で導入に向けた公開草案作りに反映させる。」

「新基準は幅広い業種に影響を及ぼす。ASBJは5月まで関連業界などから意見を募って公開草案を取りまとめる。18年1月からIFRSや米国会計基準と同時に導入したい考えだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

企業会計基準委員会がパブリックコメントを求める公開草案を作るための準備運動としてまず「事例集」を公開し、草案作成の意見を広く世間に求めようとしています。

「18年1月から欧米で導入される収益認識基準はIFRS第15号と呼ばれ、売上高計上に関する会計ルールを定める。世界で収益認識基準を統一する動きが広まるなか、ASBJも昨年3月に収益認識基準の導入を決め、議論を重ねてきた。
 事例集では、取引形態によって会計処理がどう変わるかを紹介している。商品納入やサービスの提供など取引の実態に即して売り上げ計上の時期や金額が変わってくるのが特徴だ。」

長文の事例集を読み込む忍耐力をお持ちとの自己評価を持つ方には、本物の事例集をどうぞ!! ちなみに、筆者は忍耐力不足で、このPDFで67ページにも及ぶ事例集を集中力も切らさずに全てについて精読することはできませんでした。(^^;)

●企業会計基準委員会 IFRS 第15号「顧客との契約から生じる収益」の概要及び生じ
る可能性がある主な論点の例示(PDF形式)
 (https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/minutes/20150710/20150710_14.pdf

さっくり概要を掴みたい方は、次章以降で筆者が本当にさっくり有名どころのサイトのページから引用してきてでも、概略把握に努めた解説をさせていただきます。

■ まずは、新聞記事に掲載のあった3つの事例について

同新聞記事には、典型的な日本基準とIFRSの収益認識の差異が発生する事例が3つ紹介されています。

(下表は同記事添付の日本基準とIFRSの主要な違い3例を転載)

20160126_日本基準にIFRSの新基準を導入すると_日本経済新聞朝刊

「例えばスポーツクラブなどの入会金は、実務上は入会時に一括で売上高に計上しているが、新ルールでは会員期間中に案分して計上する。書籍や通信販売など返品が見込まれる商取引の場合は、出荷時に全額を売り上げ計上せず、一定の返品を見込んだ額を計上する必要がある。その分、売上高は減少する。」

まずは、期間損益に与える収益認識の違いについて簡単にご説明します。

いずれも、2会計期間(FY15とFY16)で売上計上の仕訳がどうなるかについてみてみましょう。

1.書籍の販売
<FY15>
・書籍が出荷される(@10×10冊)
・返品率は10%と想定
・代金は現金で回収

「日本基準」
 現金 100 / 売上 100

「IFRS」
現金 100 / 売上 90
                  / 経過勘定 10

<FY16>
・実際に1冊だけ返品

「日本基準」
売上戻し 10 / 現金 10

「IFRS」
経過勘定 10 / 現金 10

・ここでのポイント!
日本基準は「総額主義」で、FY15に売上が100立って、FY16に売上がマイナス10されます。一方で、IFRSはFY15に90の売上が計上されておしまい。2会計期間の売上配分が異なってしまいます(ただし、2年トータルでは総売上金額は同じ)。

2.スポーツクラブの入会金
<FY15>
・2年間の利用を前提に、入会時に100の入会金を現金払い

「日本基準」
現金 100 / 売上 100

「IFRS」
現金 100 / 売上 50
        /  経過勘定 50

<FY16>
・去年から引き続きスポーツクラブを利用している

「日本基準」
(会計仕訳なし)

「IFRS」
経過勘定 50 / 売上 50

・ここでのポイント!
日本基準は「現金主義」で、FY15に売上が100立って、FY16は会計処理なし。一方で、IFRSは2年間のクラブ利用期間にわたって入会金を配分するので、FY15とFY16とに期間按分で50ずつの売上が立ちます。この取引についても、2会計期間の売上配分が異なってしまいます(ただし、2年トータルでは総売上金額は同じ)。

3.ポイント制度
<FY15>
・店頭で商品:100を現金販売し、ポイントを10付与。

「日本基準」
現金                100  / 売上 100
引当金繰入額  10 / 引当金 10

「IFRS」
現金 100 / 売上       90
        /  経過勘定 10

<FY16>
・店頭で正価:100の商品を現金販売し、顧客がポイント10を使用。

「日本基準」
現金     90 / 売上 100
引当金 10 /

「IFRS」
現金      90 / 売上 100
経過勘定 10 /

・ここでのポイント!
日本基準は「総額主義」で、FY15とFY16共に売上は100が立ちます。しかし、FY15にポイントを付与しているので、これは実質最初の販売に対する値引きと考えて、FY15に引当金を計上することで、10の費用を計上し、実質値引が期間損益に与える影響を処理しています。
一方で、IFRSは、ポイントの使用時点で、お店側の契約履行義務が発生(要はポイント使用分の商品の引き渡し義務が生じる)と考えるため、ポイント分は、FY16の売上として計上することになります。
この場合、「総額主義」-名目上の売上高も2年トータルしても違ってきますし、期間損益でポイント使用分が与える値引き効果を考慮に入れるタイミングがずれてきます。

まあ、経済紙にここまでの仕訳ベースでの解説を望むのは酷なのでしょう。でも、仕訳まで想起できないと、この3つの事例の違いが分かりませんね。皆さんも実際に数字を置いて理解する癖を付けられることをお勧めします。

■ じゃあ、日本基準とIFRSの違いを生じさせる理屈はどう違うんだ?

前章の3つの事例の内容は分かった。でもどういう理屈でそう言う違いが生じるんだ? 同じ人間社会で、欧州と日本という地理的差異だけで、経済・会計の見る目が違うのか? その違いの理由を調べないと気持ち悪い方もいらっしゃるかも。。。

ここからは、専門家のサイトから分かりやすいチャートを引用させて頂きます。
(非常にわかりやすい解説になっておりお勧めです!)

● ビジネスブレイン太田昭和
  「コラム「【IFRSコラム】IFRS新収益認識基準と日本企業への影響」」
  (http://www.bbs.co.jp/column/column012/1434508479.html

まず、日本基準とIFRS第15号の違いを、①計上単位、②認識、③測定、④表示、⑤開示の5点での比較表になります。

20160202_日本基準とIFRSの収益認識の違い

ここで豆知識。「認識」とは、「いつその会計取引を財務諸表に乗せるかのタイミングを決めること」で、「測定」とは、「いくらでその会計取引を財務諸表に乗せるかの金額を決めること」。前章の3つの事例で、FY15とFY16とで、売り上げの計上タイミングがずれたのは、「認識」基準のズレが要因になっています。そして、「3.ポイント制度」における2年間トータルの売上金額が異なるのは「測定」基準のズレが要因になっているのです。

ここまでで、冒頭の新聞記事の追加説明は終わりなのですが、このサイト解説を利用したうえで、さらにIFRS15号において筆者が大事と思っていることを2点、ご紹介しておきます。

その前に同サイトから下記チャートを転載させて頂きます。

20160202_IFRS15号における収益認識の5ステップ

これは、IFRS15号における「収益認識の5ステップ」を表したものです。企業会計基準委員会の事例集は、この5ステップに沿って記述されています。このステップ論が頭に入って入れは、PDFで67ページもある大著も最後まで読めるかもしれません。

この5ステップを図解したものが下記です。

20160202_IFRS15号の5ステップの図解

IFRS15号の大きな日本基準との違いは、「実現主義」である日本基準に対し、「契約履行」「履行義務」で認識と測定を行う所。まあ、教科書的には、法的権利義務の所在で収益計上を考えるのは、「広義の実現主義」と説明しているものもありますが。。。これが一つ目のポイント。

二つ目の言いたいことは、下記チャートに記述されています。

20160202_IFRS15号の5ステップの図解_機械の設置販売モデル

特に、製造業において、ハードウェア(機械設備、機器)の販売だけでなく、据付サービスや、販売後の使用期間(しかも複数年にわたる)におけるアフターサービスやワランティサービスの代」金を一括でお客に請求し、その代金を販売時点に一括して売上計上しているとした」ら、2つの観点で問題になります。

① ハード、サービス、ワランティ、各々の売上金額が不明になる(測定の問題)
② 販売時点から継続的にハード試用期間に渡って契約履行が実施される保証サービスビジネスの対価は、そのサービス期間に渡って適切に期間按分されないと、期間損益をゆがめる恐れがある(認識の問題)
 細かく言うと、ハード販売と据付サービスも実務的には会計期間をまたぐこともあり得ますしね。

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