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(やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション(4)製造業のサービス化に適応した組織作りとは?

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 本論に入る前に、延岡健太郎 一橋大学教授を紹介します

経営管理会計トピック

一橋大学イノベーション研究センター研究スタッフ紹介 より

20170327_延岡健太郎_一橋大学イノベーション研究センター研究スタッフ紹介

のべおか・けんたろう 米MIT経営学博士
戦略・組織マネジメント、技術経営
1959年生

【最近取り組んでいるテーマ】
国際企業の技術・商品開発における戦略と組織の研究

 

(9)製造業のサービス化に2種類

本稿は、日本経済新聞に2017/3/8~21まで連載された記事を元に構成しています。全10回という本コラム連載においてはいささか長い方の部類に入ります。読みごたえがあるというものです。(^^;)

20173/8付 |日本経済新聞|朝刊 (やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション(1)顧客の求める価値が「暗黙化」 一橋大学教授 延岡健太郎

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

顧客が商品を使用する際に生じる経験価値や使用価値による顧客価値が重視されていくにつれ、製造業のサービス化も進みました。厳密にいうと、このサービス化には2つあります。

(1)サービス事業化
(2)サービス価値化

(1)サービス事業化
・顧客が代金を支払う対象が商品からサービスに変わるビジネスモデルの変化
【例】
①オンプレミスの情報システムを構築したり、パッケージソフトウェアを購入したりする代わりに、クラウド上のサービス(SaaS等)の利用契約に対価を支払う
②車という商品を購入するのではなく、カーシェアリングという移動手段としてのサービスを使用時間比例で購入する
③商品販売の後に、保守サービスや消耗品の提供をネット販売で行う

こうしたサービス事業化の嚆矢となったのがルイス・ガートナー(1993年4月、IBM初となる外部招請の会長兼最高経営責任者(CEO)に就任)の下でサービス化に邁進して蘇った米IBMです。

「サービス化を先導した代表企業の米IBMはかつて売り上げの大半がハードウエアなどの商品でしたが、現在ではサービス事業が主体です。顧客に商品(ハードやソフト)を提供する場合でも、商品としてではなく、ソリューションの構成要素として提供する場合が増えました。ネットの進化にも後押しされ、消費財と生産財の両分野で、製造企業がサービス事業化し、新たな顧客価値に対応する事例が増えています。」

(2)サービス価値化
・提供される商品が顧客から認知される価値が「サービス価値」に変化
・「サービス価値とは、商品の価値を超え、顧客が商品を使用(経験)する際に、顧客との接点で生じる意味的価値」
【例】
・アップルが提供する商品(消費財)の顧客経験価値
・キーエンスがソリューション営業を通じて提供する商品(生産財)の経済的価値

この形態をとっても、顧客は商品に対して対価を支払います。つまり、商品が提供する価値の内容がサービス化しても、通常の製造業と同様、顧客は書品購入の代価を支払うというものです。

上記「(1」サービス事業化」と「(2)サービス価値化」の違いは、課金の形態が、サービス消費か商品購入かの違い。共通するところは、「提供する価値に多くの意味的価値やソリューションの価値が含まれること」です。

 

(10)組織の分業を見直す必要

顧客経験価値など統合的(機能的+意味的)価値がますます重要になってきた現在、製造業を中心に、いったんは広がった組織の分業体制が、今度は統合する方向で変革が進められています。従来は、規格品の大量生産・大量販売というビジネスモデルが通常でした。それゆえ、各機能部門が専門家利益を追求し、各部署でそれぞれのミッションを独自に追っていても、
①仕様:提供商品の形態が固定的
②業務プロセス:製品の受け渡しの方法やタイミングが安定的
であったため、バラバラで動いていても、最終的に一つの商品を顧客に提供することができ、会社組織として求心力が自然と働くようになっていました。

「(8)開発と営業が付加価値を共創」((やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション(3)BtoB企業・生産財企業はソリューション営業で経済的価値を訴求するのだ!で紹介)で触れたように、生産財企業では商品とソリューションの価値を開発と営業が共創する重要性が高まっていることが説明されました。

以下、消費財企業における顧客価値の創出を考察してみます。

(1)デザイン機能の商品開発への統合
従来は、デザイン部門が独立して活動していました。
・世界初は、1927年の米ゼネラル・モーターズ(GM)
・日本発は、1951年の松下電器産業(現パナソニック)
その理由は、急速に進む大量生産技術に対応するため、技術者が専門化した一方でデザイン(意匠)が重要になったからです。

しかし、顧客経験価値の創出のためには、デザインには意匠を超えた価値が求められ、また、3次元CADなど共創ツールも発達し、分業の必要性が低下してしまいました。ダイソンのようにデザインエンジニアリングの推進の成功は他社にとっても研究に値するでしょう。

(2)商品開発と生産技術の協働
これは、日本のものづくりの強みの一つであり、高品質な商品の提供を可能にしました。しかし今後は、

「商品開発がデザインや営業・マーケティングと共創することで、消費者が購入して使用するプロセス全体での経験価値の向上が求められます。この点で日本企業はアップルやダイソンに負けています。」

これは、意味的な商品的魅力を高めるという本稿のテーマだけに限らず、原価管理の世界にも共通して言えることです。「Design to Cost」または「原価企画」と呼ばれるものです。つまり、デザインを考える際に、コストダウンの視点を盛り込む、という狙いを重視するものです。商品価値を上げると同時にコストダウンも図るという一石二鳥なやり口で収益性を高めるのです。

閑話休題。

延岡教授によりますと、このような経営ニーズを受けて、各大学でもデザインとエンジニアリング、さらにビジネスを統合した教育が求められ、世界中で対応するプログラムが増えてきているそうです。日本も工学部でデザインやビジネスの教育を増やした方がよさそうですね。従来、建築学科で「SEDAモデル(Science, Engineering, Design, Art)」
の統合的価値が重要なので、デザインやアートも教えられてきたように、いまや他分野でも必要性が高まっているそうです。

(下記は、同記事添付の「SEDAモデル」を引用)

20170313_SEDAモデル_日本経済新聞朝刊

 

(3)垂直統合
組織の肥大化の悪例としてみなされてきた垂直統合も部分的に再評価すべきです。その好例が米アップルになります。アップルでは、

① CPU(中央演算処理装置)や独自OS(基本ソフト)の内部開発
高度な製造設備への莫大な投資
     ⇒「(やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション(2)SEDAモデルでデザイン思考を理解する!」:(5)エンジニアリングとデザインを統合で詳解
③ アップルストアの世界展開:アンテナショップ化した直販モデル

という垂直統合モデルを生かして成功を収めています。こうした統合的価値の実現には、意味的価値重視の顧客価値創造をするという意思と提供商品(サービス)への強い思い入れが必要で、全組織を挙げた統合的な取り組みの元で実現されるものであると筆者は考えます。如何でしょうか?(^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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