Pocket

■ 「白馬は馬に非ず」か「名は体を表す」か?

経営管理会計トピック

日経新聞の記事を目にして、久しぶりに、古代中国は春秋戦国時代の諸子百家から、「名家」と呼ばれた人達を思い出しました。

2015/9/18|日本経済新聞|朝刊 監査審査会会長 「東芝は粉飾決算」 担当の監査法人を検査へ

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「金融庁の傘下にある公認会計士・監査審査会の千代田邦夫会長は17日、決算で総額2248億円の利益を減額した東芝は「広い範囲で不正があり、明らかな粉飾決算にあたる」と日本経済新聞の取材で話した。月内にも監査を担当した新日本監査法人の検査に入る。手続きが適正だったかを見極め、検査結果によっては行政処分を検討する。」

そして、千代田会長は、
「粉飾決算と呼ぶ理由を「事実を虚偽表示するのが粉飾。意図的にやったかどうかが問題で(東芝の件は)明確に不正と結びついている」と説明した。」

とあります。

公認会計士協会が、この問題が発生する以前に、この種の「不適切会計」「粉飾」などといった用語について、定義・用法を定めている文書があります。

詳しくは、筆者の過去投稿記事をご参考下さい。
⇒「柔らかい言葉を使うこと 「不適切会計」とは?

同協会が公表済みの「監査・保証実務委員会研究報告第25 号」「監査基準委員会報告書第35号」をかいつまんで説明すると、

(1)財務諸表の虚偽記載の原因には、①不正、と②誤謬がある
(2)「①不正」とは意図的、「②誤謬」は意図的ではない
(3)「①不正」には、「①-1. 粉飾」と「①-2. 資産の流用」がある

つまり、
「意図的に財務諸表を虚偽記載すると、それは『粉飾』である」
ということになり、千代田会長はようやく、この定義を追認したことがこの記事で確認することができます。

そして、本記事には、その他の関係各所が本件をどのように呼称しているのかについても言及があります。

1)東芝の第三者委員会は調査報告書で「不適切会計」とした
2)東京証券取引所は東芝を特設注意市場銘柄に指定した際に「不正会計」と言及
3)東芝の株主弁護団は「粉飾決算」と呼ぶ

マスコミに本件が登場した際には、「不適切会計」、東京証券取引所が東芝を特設注意市場銘柄に指定した際に「不正会計」という名称を使用しています。そして、本日この記事が掲載されました。以後は、「粉飾決算」と呼称されるのでしょう。しかし、一般的なビジネスマンといえども、いちいち日本公認会計士協会が公表している全文書をそらんじているわけではないので、「不正会計」ではなく、「不適切会計」で、マスコミに登場した際には、そんなに違和感は無かったかもしれませんが、筆者はどうにも気持ち悪さが残っていました。それも、今日で解決です。

会計不正はこう見抜け

日本経済新聞では「不適切会計」なる用語をどのように説明しているでしょうか?

2015/7/2|日本経済新聞|朝刊 (きょうのことば)不適切会計 ルールに反した会計処理

「▽…ルールに反した会計処理で有価証券報告書などに事実と異なる数値を載せること。損失隠しや利益の水増しが組織的に行われ悪質性が高くなると「不正会計」、刑事告発されて事件になれば「粉飾」と呼ぶのが一般的だ。東芝が調査を委ねた第三者委員会は、調査報告書の要約版で「不適切会計」との文言を使っている。

▽…証券取引等監視委員会は金融商品取引法に基づいて検査・調査する。金額や悪質性などをみて、有価証券報告書など開示書類の虚偽記載にあたると判断すれば、金融庁に課徴金処分を勧告したり、検察に刑事告発したりする。特に悪質で刑事告発されると、法人は7億円以下の罰金、個人は10年以下の懲役か1000万円以下の罰金、またはその両方が科せられることがある。」

マスコミと公認会計士協会の定義は微妙に異なっていますね。

ちなみに、冒頭の諸子百家の「名家」の話を少しさせてもらうと、公孫竜という人がいて、「白馬非馬説」つまり、「白とは色の概念であり、馬とは動物の概念である。であるから、この二つが結びついた白馬という概念は馬という概念とは異なる」という主張をしました。他人事ならは、「詭弁だな」と、笑い話にもできるものですが、実際に、この頃の古代中国では、「白馬非馬説」を用いて馬の通行税を免れようとするものの、役人が頑として聞かず、結局は税を支払うという笑い話が、「韓非子」という「法家」(=始皇帝で有名なあの「秦」で採用されていた考え方)の書物に描かれています。

「不適切」とは言い得て妙で、この語を思いついた人は公孫竜にも劣らない修辞学の天才だと思います。

会計不正~平時における監査役の対応

■ さらにこぼれ話を。これは現代のお話

エビデンスを示さずに論理を展開するのは卑怯なので、以下のお話をするのに、元になる文書を示しておきます。

2015年7月21日公表
第三者委員会の調査報告書全文(プレスリリースより)」(PDF)

以下抜粋引用。

2.調査の前提
(4)本委員会の調査及び調査の結果は、東芝における調査対象に関する事実の確認と、調査対象たる会計処理が適切性を欠くと判断した場合において、東芝におけるその発生原因の究明と再発防止策の策定・評価のために用いられることを予定しているものであり、それ以外の目的のために用いられることを予定していない。
(5)本委員会の調査及び調査の結果は、東芝からの委嘱を受けて、東芝のためだけに行われたものである。このため、本委員会の調査の結果は、第三者に依拠されることを予定しておらず、いかなる意味においても、本委員会は第三者に対して責任を負わない。
(6)本報告書は日本語によって作成されている。このため、仮に本報告書の英訳版が作成される場合であっても、英訳版につき本委員会は何らの責任を負わない。

という断り書きがあるのはご存知でしょうか?これは、日本の株主代表訴訟はもとより、米国のクラスアクション(集団訴訟)での証拠には使わないでくださいね、もし使っても、内容に第三者委員会は責任持ちませんよ、というメッセージなのですよ。

いやはや、用語の定義方法だけでなく、報告書の出し方まで、いろいろ勉強させてもらった事案でした。(^^)/

企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか―「会計不正調査報告書」を読む




(Visited 493 times, 1 visits today)
Pocket

監査審査会会長 「東芝は粉飾決算」 担当の監査法人を検査へhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読む東芝,不適切会計,粉飾,クラスアクション,株主代表訴訟■ 「白馬は馬に非ず」か「名は体を表す」か? 日経新聞の記事を目にして、久しぶりに、古代中国は春秋戦国時代の諸子百家から、「名家」と呼ばれた人達を思い出しました。 2015/9/18|日本経済新聞|朝刊 監査審査会会長 「東芝は粉飾決算」 担当の監査法人を検査へ (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「金融庁の傘下にある公認会計士・監査審査会の千代田邦夫会長は17日、決算で総額2248億円の利益を減額した東芝は「広い範囲で不正があり、明らかな粉飾決算にあたる」と日本経済新聞の取材で話した。月内にも監査を担当した新日本監査法人の検査に入る。手続きが適正だったかを見極め、検査結果によっては行政処分を検討する。」 そして、千代田会長は、 「粉飾決算と呼ぶ理由を「事実を虚偽表示するのが粉飾。意図的にやったかどうかが問題で(東芝の件は)明確に不正と結びついている」と説明した。」 とあります。 公認会計士協会が、この問題が発生する以前に、この種の「不適切会計」「粉飾」などといった用語について、定義・用法を定めている文書があります。 詳しくは、筆者の過去投稿記事をご参考下さい。 ⇒「柔らかい言葉を使うこと 「不適切会計」とは?」 同協会が公表済みの「監査・保証実務委員会研究報告第25 号」「監査基準委員会報告書第35号」をかいつまんで説明すると、 (1)財務諸表の虚偽記載の原因には、①不正、と②誤謬がある (2)「①不正」とは意図的、「②誤謬」は意図的ではない (3)「①不正」には、「①-1. 粉飾」と「①-2. 資産の流用」がある つまり、 「意図的に財務諸表を虚偽記載すると、それは『粉飾』である」 ということになり、千代田会長はようやく、この定義を追認したことがこの記事で確認することができます。 そして、本記事には、その他の関係各所が本件をどのように呼称しているのかについても言及があります。 1)東芝の第三者委員会は調査報告書で「不適切会計」とした 2)東京証券取引所は東芝を特設注意市場銘柄に指定した際に「不正会計」と言及 3)東芝の株主弁護団は「粉飾決算」と呼ぶ マスコミに本件が登場した際には、「不適切会計」、東京証券取引所が東芝を特設注意市場銘柄に指定した際に「不正会計」という名称を使用しています。そして、本日この記事が掲載されました。以後は、「粉飾決算」と呼称されるのでしょう。しかし、一般的なビジネスマンといえども、いちいち日本公認会計士協会が公表している全文書をそらんじているわけではないので、「不正会計」ではなく、「不適切会計」で、マスコミに登場した際には、そんなに違和感は無かったかもしれませんが、筆者はどうにも気持ち悪さが残っていました。それも、今日で解決です。 会計不正はこう見抜け 日本経済新聞では「不適切会計」なる用語をどのように説明しているでしょうか? 2015/7/2|日本経済新聞|朝刊 (きょうのことば)不適切会計 ルールに反した会計処理 「▽…ルールに反した会計処理で有価証券報告書などに事実と異なる数値を載せること。損失隠しや利益の水増しが組織的に行われ悪質性が高くなると「不正会計」、刑事告発されて事件になれば「粉飾」と呼ぶのが一般的だ。東芝が調査を委ねた第三者委員会は、調査報告書の要約版で「不適切会計」との文言を使っている。 ▽…証券取引等監視委員会は金融商品取引法に基づいて検査・調査する。金額や悪質性などをみて、有価証券報告書など開示書類の虚偽記載にあたると判断すれば、金融庁に課徴金処分を勧告したり、検察に刑事告発したりする。特に悪質で刑事告発されると、法人は7億円以下の罰金、個人は10年以下の懲役か1000万円以下の罰金、またはその両方が科せられることがある。」 マスコミと公認会計士協会の定義は微妙に異なっていますね。 ちなみに、冒頭の諸子百家の「名家」の話を少しさせてもらうと、公孫竜という人がいて、「白馬非馬説」つまり、「白とは色の概念であり、馬とは動物の概念である。であるから、この二つが結びついた白馬という概念は馬という概念とは異なる」という主張をしました。他人事ならは、「詭弁だな」と、笑い話にもできるものですが、実際に、この頃の古代中国では、「白馬非馬説」を用いて馬の通行税を免れようとするものの、役人が頑として聞かず、結局は税を支払うという笑い話が、「韓非子」という「法家」(=始皇帝で有名なあの「秦」で採用されていた考え方)の書物に描かれています。 「不適切」とは言い得て妙で、この語を思いついた人は公孫竜にも劣らない修辞学の天才だと思います。 会計不正~平時における監査役の対応 ■ さらにこぼれ話を。これは現代のお話 エビデンスを示さずに論理を展開するのは卑怯なので、以下のお話をするのに、元になる文書を示しておきます。 2015年7月21日公表 「第三者委員会の調査報告書全文(プレスリリースより)」(PDF) 以下抜粋引用。 2.調査の前提 (4)本委員会の調査及び調査の結果は、東芝における調査対象に関する事実の確認と、調査対象たる会計処理が適切性を欠くと判断した場合において、東芝におけるその発生原因の究明と再発防止策の策定・評価のために用いられることを予定しているものであり、それ以外の目的のために用いられることを予定していない。 (5)本委員会の調査及び調査の結果は、東芝からの委嘱を受けて、東芝のためだけに行われたものである。このため、本委員会の調査の結果は、第三者に依拠されることを予定しておらず、いかなる意味においても、本委員会は第三者に対して責任を負わない。 (6)本報告書は日本語によって作成されている。このため、仮に本報告書の英訳版が作成される場合であっても、英訳版につき本委員会は何らの責任を負わない。 という断り書きがあるのはご存知でしょうか?これは、日本の株主代表訴訟はもとより、米国のクラスアクション(集団訴訟)での証拠には使わないでくださいね、もし使っても、内容に第三者委員会は責任持ちませんよ、というメッセージなのですよ。 いやはや、用語の定義方法だけでなく、報告書の出し方まで、いろいろ勉強させてもらった事案でした。(^^)/ 企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか―「会計不正調査報告書」を読む現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します