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■ 飛行機の“神業”職人 たたき上げの整備士

コンサルタントのつぶやき_アイキャッチ

およそ300人を運ぶジャンボジェット機。それを構成する部品は数百万点と言われている。人知れず、縁の下でジェット機の運航を支える職人たちがいる。2800人の職人たちの頂点に立ち、「親分」と慕われるトップマイスター、整備士・杉本好夫(59歳)。この道42年のたたき上げ。頑固一徹、乗客の命を背負い続けてきた。極限状態で日本の空を守れるか?

20160801_杉本好夫_プロフェッショナル

公式ホームページより)

杉本はこうと決めたら貫く。頑固な男だ。仕事場は成田空港に隣接する整備工場。工業高校を出てから工場一筋。上司は全員年下だが、杉本の腕は誰もが認めるNo.1だ。多くの整備士は機体の全体をチェックするが、杉本はエンジンだけを専門に担当するチームに属する。ジェット機のエンジンは全長7メートルの巨大な精密機械だ。大量の空気を取り込むファンから燃料を混ぜて燃焼させるタービンまで、3万点以上の部品から構成され、飛行機を時速900Kmで飛ばす。

「僕ら、直接本当に「お客様の命を預かっている」っていう意識を高めて、仕事を絶えずやらなきゃいけないって気はずっとしてますけど。」

エンジン専門の整備士はおよそ240人。その中でも担当が細かく分かれている。まずは分解チーム。定期メンテや不具合があると、本体からエンジンを外す。そして1cmの部品までエンジンをバラバラに分解していく。更に洗浄チームや検査チームがわずかな傷までチェック。そして少しでも異常が見つかれば最後の砦に任される。それが杉本たち精鋭ぞろいの修理屋だ。

20160801_7メートルの巨大エンジンをバラバラに分解_プロフェッショナル

(番組公式ページから転載)

この日は燃焼室付近の複雑な部品が持ち込まれた。素材は軽くて強いチタニウム合金。エンジンには特別な部品が多く、これも数百万円する代物だ。激しい振動に耐えきれず、穴のまわりが円形にすり減っている。部品にはわずかな傷でも交換が義務付けられているものと、修理できるものがある。出力を守るために修理するのも整備士の仕事だ。修理は溶接と研磨で。減った厚さは1mm以下。それを手探りで元に戻す。

「きれいに溶接で“肉盛り”をして、元の厚さに戻すっていう。」

20160801_わずか2ミリの玉を溶接。その腕は神業と呼ばれる。_プロフェッショナル

(番組公式ページから転載)

いつもは明るい杉本の顔が引き締まる。部品と同じ材質の溶接棒を熱で溶かし、本体と一体化させるというアーク溶接という“はんだ付け”とは全く異なる仕事だ。まず、削れた部分に熱を加え、本体が解け始めた瞬間に同じ材質からなる溶接棒を入れる。すると部品と溶接棒の両方が解けた状態でくっつき、一体化する。

「(削れた部分の)溶ける瞬間を分かんないといけないんですよ。」

タイミングが0.5秒でも早ければ、完全に一体にはならない。逆に遅すぎると部品が溶けすぎて変形してしまう。杉本は五感を集中し、その一瞬を捉える。作業開始から1時間。難しい場面に差しかかった。

「こっちはかなり薄いのと、広範囲なんで(溶接)棒の入れ具合とか見ながらやらないと、(削れた部分に)熱が加わっちゃって、穴が開いちゃったりとか。」

杉本はまず溶接範囲を狭くするように土手を作った。杉本の技術ならば広範囲の部分を一気に埋めることはできる。だがあえて手間をかけて少しずつ作業をしていく。ミスは決して許されない。

「確実な仕事をやらなきゃいけないというのが大前提にあるので、そこを絶えず考えながら、一歩踏み込んだ形で仕事っていうのが僕のずっと思っている気持ちなんです。」

作業時間は5時間。穴のまわりの窪みは見事消えた。他のチームから依頼され、部品を直す修理の仕事。しかし、杉本はそれだけでは満足しない。依頼された部分以外も研磨し、見落とされた傷が無いかチェックする。

20160801_頼まれていない箇所まで研磨_プロフェッショナル

(番組公式ページから転載)

「全部磨いてやって、ちょっとこれ少しだけど傷が深いから、ちょっとやっといて上げた方がいいかなっていうところは、僕はやるようにしちゃっているんですよね。」

杉本が毎日口にする言葉がある。

『作業者になるな、整備士であれ』

「作業者じゃなくて整備士になれと。言われた通りにやっていれば別に間違いじゃないんで、その方が楽ですよね。だけど整備士っていったら、やっぱりそこは、自分たちがやった仕事で不安が残るような仕事はしちゃいけなくて、やっぱり胸をドーンと張って、やってる仕事は完璧だよっていう仕事をやらないとね。」

杉本は後輩を厳しく指導する役目も負っている。この日はミスをどうやって減らすかという定例会議。杉本はトップマイスターとして毎回出席している。エンジン整備はそれぞれの部署の専門性が高いがゆえに、バラバラに動き、組織縦割りに陥りがちだ。杉本は自分の部署以外にもあえて厳しい口調で喝を入れる。安全のためなら憎まれ役もあえて買って出る。それが自分の役目だと思っている。

 

■ 空の安全の“最後の砦” トップ整備士の職人技

『修理チームは“最後の砦”』

杉本は休み時間、少し変わった作業をやる。廃棄部品を利用して様々な構造のオブジェを作る。退職者への贈呈品としている。様々な形状の廃品を組み合わせる。あらゆる修理に必要な臨機応変さが鍛えられるという。

20160801_廃棄部品を組み合わせたオブジェ_プロフェッショナル

(番組公式ページから転載)

「僕自身、仕事にもこういうのってつながると思うんで。うちの職場の仕事って。スキルだけではなかなかできない部分というのがあるんで。自分の持っている知識とか経験とか、いろいろと組み合わせてやらないと、仕事がうまくいかないっていうことがあるんで。」

杉本は良く他のチームから頼られる。この日は、分解チームからある部品が抜けなくなったという相談があった。トーションハーというパーツを支えているブラケットが抜けない状況。杉本はこれまでに経験したことが無い不具合が発生すると、その場で新たに作業に適した工具を自作する。作業が終わっても杉本はまだ満足しない。誰でも簡単に使える工具を改良していく。腕を頼られ、最後の砦と呼ばれている杉本のチーム。脈々と受け継がれている精神がある。

『“縁の下の”、誇り』

「プレッシャーは確かにあるんですけど、「できませんよ」っていうのは僕の中では許されないことだと。先輩からずっと受け継いでいるんで。それが結局、整備士としての誇りなんですよね。僕らの仕事って、一般的には縁の下の力持ちですよね。表に出ないだけ、自分たちの誇りだけで、そこは「やってやる!」っていう。」

20160801_防音用の耳栓は必需品_プロフェッショナル

(番組公式ページから転載)

 

■ 飛行機の“神業”職人 たたき上げの整備士 その2

4月のある日、まだ難しい仕事が舞い込んだ。ある極薄の部品。エンジンの振動によって先端部がすり減っていた。エンジンに空気を送り込む装置の中で留め具として使われている。もし割れると、エンジン内に破片が飛び散り、大事故につながる恐れがあった。部品の厚さは0.54mm。この薄さの部品を元通りに修理するのは簡単ではない。スゴ腕の杉本でも緊張を強いられる仕事だ。

「難しい仕事なんだけど、いかに集中力が長く続くとか、実際、集中力に欠けてくると、ミスにつながったりするわけですよね。」

まず表面をきれいに磨く。

「不純物なんかを全部取ってやらないと、不純物を巻き込むと、それがいたずらをして、クラック(ひび割れ)の原因になったりするので。」

基本に忠実にわずかな作業も漏らさずに仕事を進めていく。杉本は決して近道をしない。溶接部分に余分な力を加えないように溶接する部分をできるだけ小さくする。部品の摩耗具合に応じて微妙に溶接温度を調整していく。溶接作業中は呼吸も止める。僅かな動きもすべて排除する。やっと溶接を終えても気は抜けない。チタニウム合金の特性で、その場ですぐに割れないで時間が経ってから割れるという性質があるからだ。温度が十分に下がるまで、手を止めたままでガスを当て続けなければならない。緊張と重圧の中で一瞬たりとも気が抜けない。杉本はこんな仕事を42年間続けてきた。

「結構な長い時間、仕事。疲れますよ。ただ、「難しい仕事ができた」っていう。そこは何物にも代えられない部分があるので。やるからには他の人には負けない、自分なりにいいものを作るっていう、そういうことを絶えず持って仕事をやんないと、やっぱり楽しくもないし。」

最後の仕上げ。杉本はいつも手で研磨する。機械よりも自らの手の感覚を信じる。

「機械でできない所をきれいに仕上げるのが、仕上げの仕事なんで。誰が見ても「ここ修理したの?」「してないんじゃないの?」って言ってもらうぐらいの仕事を心掛けているんで。」

作業開始から4時間。完璧に仕事をやりきった。

仕事が終わった後の掃除も決して手を抜かない。

 

■ たたき上げから頂点へ 飛行機のスゴ腕整備士

やると決めたら最後までとことんやる! そうやって大きな重圧と戦ってきた。

『命を預かる重み』

生まれ故郷は山口県。頑固な性格は昔からだった。幼稚園に乗り物があって、自分の番でもないのに乗れないことに腹を立てて帰宅し、その日から全く幼稚園に通わなくなり、1週間で幼稚園をやめた程だ。家が裕福ではなかったため、手に職をつけようと工業高校に進んだ。優秀な成績を治め、大手航空会社(現JALエンジニアリング)に整備士として入社した。配属されたのは最先端の工場だった。エンジンの修理部門。研磨や溶接などのエキスパートの集まりだった。負けん気の強い杉本は先輩たちに追いつこうと必死になった。

「班長が「俺は日本一の面取り屋(仕上屋)になるんだ」と言ったんで、「僕、東洋一になりたい」と言って、一生懸命習って。」

入社から10年、腕に自信を持ち始めた頃だった。エンジンの圧縮機に使われる特殊な部品の溶接を任された。杉本はいつもの通りマニュアルに従って仕事を終えた。しかし、安全検査のさ中、その部品が突然真っ二つに割れた。特殊な構造で表からは見えない部分が劣化していたためだった。そのまま飛行していたらエンジンは停止していたかもしれない。ぞっとして足が震えた。

「すごいへこみましたよ。今までそんな大きなミスをしたことなかったし、自分自身ある程度、そういう仕事に対して、結構、自信も多少持ち始めた頃だったから。仕事自体も、結構難しい仕事をやらせてもらっていたというのもあったし、そういうところでそういうミスを起こしてしまったので、そりゃ、もうすごくへこみましたね。ずっと考えましたよ。」

それから1年、整備士という仕事の重圧に押しつぶされそうになっていた時、あの事故が起きた。1985年8月、御巣鷹の峰に日航ジャンボ機が墜落。520人以上が犠牲となる国内航空機事故史上、最大となる事故だった。主な原因はアメリカのメーカーの修理ミスとされた。しかし、杉本は仕事の重みを改めて痛感した。

「本当に、僕ら自身すごくショックで、絶対に航空機事故っていうのは起こしちゃいけないというのは第一に感じました。だからそれによって僕たちのやっている、自分自身もそうですけど、個々のやっている仕事を、やっぱりちゃんとした仕事をしないと、大きな事故につながると、そこで感じました。」

自分にできることは、目の前の仕事をひとつずつやり抜くことだけ。この部品はなぜその素材なのか。形にどんな意味があるのか。よりよい修理の仕方を模索し続けた。そしてマニュアルだけに頼るのではなく、小さなことも突き詰め、自分が納得いくまでやりきるようになった。それから42年、高みを目指し腕を磨く日々が続いた。

「「僕がやってダメだったら(修理は)誰もできないよね」「しょうがないよね」っていう整備士みたいのを、ずっと目標にしてきているんですけど、ずっと定年するまで、ずっと最後までそこは目指して、頑張んなきゃいけないと思うんですけど。」

今、59歳。定年まであと半年になっても、杉本は自分の仕事に満足していない。

 

■ 飛行機のトップ整備士 職人魂 1センチの攻防

5月中旬、急な仕事が舞い込んだ。LPTモジュール(タービン)のナットカットの仕事。エンジンの分解チームが杉本に助けを求めてきた。問題となっていたのは極めて小さな部品だった。僅か1cmのナットがボルトにくっつき、交換すべき部品が外れなくなっていた。10年に一度あるか無いかの事態に、分解チームは困り果てていた。無理やりナットを外すと、ボルトが折れてしまう可能性がある。そしてボルトの頭がタービンの中に落ちると、数千万円の費用をかけて部品を全て分解しなくてはならなくなる。飛行機の安全のためにどうしてもナットを外さなければならない。

自分の職場に戻り、考え得る全ての必要工具を準備する。現場に向かう途中、杉本はやけに明るく振る舞う。厳しい仕事になればなる程、重圧に対応できるように陽気に振る舞うのが杉本流。こうしたプレッシャーと長年戦ってきた。

「失敗しちゃったらどうしようかなっていう、やらかしちゃったら結局、あとは大きなことにつながるんで、プレッシャーは結構あるんですけど、僕らの職場は本当、最後の砦なんで。他のところが困ってできなくて、最終的に僕らのところに来るんで、考えてやるしかない。」

20160801_1センチのナットの上部を削る杉本_プロフェッショナル

(番組公式ページから転載)

修理の方法は一つしかなかった。ナットを削って、ボルトを締める力を弱くして、ナットを外す方法だ。ナットの上辺をボルトの溝の山が見えるか見えないかのギリギリまで研磨する。0.1ミリずれても失敗となる。ナットの削りかすがタービン内部に少しでも入り込まないように念入りにカバーをかける。エンジンの故障や不具合に繋がるリスク。それがどんなに小さなものでも徹底的につぶす。杉本は溶接の仕上げに使う目の粗い砥石を用意した。目が細かい砥石の方が繊細に作業できるが、ナットの材質が固いため、これしか使えない。その中でも髪の毛一本分の精度で削らなければならない。杉本が整備士になって40年余り。巨大な飛行機を守るため、息を詰める細かい作業を毎日続けてきた。頼れるのは自分の腕一本。

『“縁の下の”、誇り』

杉本は一瞬たりとも手元がぶれないよう呼吸を止めて作業する。砥石の回転数を落とし、精度を100分の1ミリに上げる。削りすぎるとボルトの山が使い物にならなくなる。かといって削り足りないとボルトが折れてしまう。特殊な溶剤でボルトの山を確認する。ナットはわずかな力で回った。しかし、杉本はその手をまだ休めない。新しいナットがスムーズに入るように、ボルトの山をひとつずつ手で磨く。

20160801_100分の1ミリの精度でナットを削った_プロフェッショナル

(番組公式ページから転載)

 

プロフェッショナルとは、

今、自分ができる仕事の出来栄えに、妥協・満足するのではなく、
明日よりもきょう、きょうよりもあすという風に
絶えず向上心を目指して頑張っている人が
僕にとってのプロフェッショナルです

——————
プロフェッショナル 仕事の流儀2016年8月1日の番組ホームページはこちら

JALエンジニアリングのホームページはこちら

→再放送8月8日(月)午後3時10分~午後3時59分 総合

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腕ひとつ、飛行機を守る親分 整備士・杉本好夫 2016年8月1日 NHK プロフェッショナル 仕事の流儀http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/f2dde0c815f506d35f39301dbbb486e4.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/f2dde0c815f506d35f39301dbbb486e4-150x150.jpg小林 友昭TV番組レビュープロフェッショナル,杉本好夫,整備士,JALエンジニアリング,日航■ 飛行機の“神業”職人 たたき上げの整備士 およそ300人を運ぶジャンボジェット機。それを構成する部品は数百万点と言われている。人知れず、縁の下でジェット機の運航を支える職人たちがいる。2800人の職人たちの頂点に立ち、「親分」と慕われるトップマイスター、整備士・杉本好夫(59歳)。この道42年のたたき上げ。頑固一徹、乗客の命を背負い続けてきた。極限状態で日本の空を守れるか? (公式ホームページより) 杉本はこうと決めたら貫く。頑固な男だ。仕事場は成田空港に隣接する整備工場。工業高校を出てから工場一筋。上司は全員年下だが、杉本の腕は誰もが認めるNo.1だ。多くの整備士は機体の全体をチェックするが、杉本はエンジンだけを専門に担当するチームに属する。ジェット機のエンジンは全長7メートルの巨大な精密機械だ。大量の空気を取り込むファンから燃料を混ぜて燃焼させるタービンまで、3万点以上の部品から構成され、飛行機を時速900Kmで飛ばす。 「僕ら、直接本当に「お客様の命を預かっている」っていう意識を高めて、仕事を絶えずやらなきゃいけないって気はずっとしてますけど。」 エンジン専門の整備士はおよそ240人。その中でも担当が細かく分かれている。まずは分解チーム。定期メンテや不具合があると、本体からエンジンを外す。そして1cmの部品までエンジンをバラバラに分解していく。更に洗浄チームや検査チームがわずかな傷までチェック。そして少しでも異常が見つかれば最後の砦に任される。それが杉本たち精鋭ぞろいの修理屋だ。 (番組公式ページから転載) この日は燃焼室付近の複雑な部品が持ち込まれた。素材は軽くて強いチタニウム合金。エンジンには特別な部品が多く、これも数百万円する代物だ。激しい振動に耐えきれず、穴のまわりが円形にすり減っている。部品にはわずかな傷でも交換が義務付けられているものと、修理できるものがある。出力を守るために修理するのも整備士の仕事だ。修理は溶接と研磨で。減った厚さは1mm以下。それを手探りで元に戻す。 「きれいに溶接で“肉盛り”をして、元の厚さに戻すっていう。」 (番組公式ページから転載) いつもは明るい杉本の顔が引き締まる。部品と同じ材質の溶接棒を熱で溶かし、本体と一体化させるというアーク溶接という“はんだ付け”とは全く異なる仕事だ。まず、削れた部分に熱を加え、本体が解け始めた瞬間に同じ材質からなる溶接棒を入れる。すると部品と溶接棒の両方が解けた状態でくっつき、一体化する。 「(削れた部分の)溶ける瞬間を分かんないといけないんですよ。」 タイミングが0.5秒でも早ければ、完全に一体にはならない。逆に遅すぎると部品が溶けすぎて変形してしまう。杉本は五感を集中し、その一瞬を捉える。作業開始から1時間。難しい場面に差しかかった。 「こっちはかなり薄いのと、広範囲なんで(溶接)棒の入れ具合とか見ながらやらないと、(削れた部分に)熱が加わっちゃって、穴が開いちゃったりとか。」 杉本はまず溶接範囲を狭くするように土手を作った。杉本の技術ならば広範囲の部分を一気に埋めることはできる。だがあえて手間をかけて少しずつ作業をしていく。ミスは決して許されない。 「確実な仕事をやらなきゃいけないというのが大前提にあるので、そこを絶えず考えながら、一歩踏み込んだ形で仕事っていうのが僕のずっと思っている気持ちなんです。」 作業時間は5時間。穴のまわりの窪みは見事消えた。他のチームから依頼され、部品を直す修理の仕事。しかし、杉本はそれだけでは満足しない。依頼された部分以外も研磨し、見落とされた傷が無いかチェックする。 (番組公式ページから転載) 「全部磨いてやって、ちょっとこれ少しだけど傷が深いから、ちょっとやっといて上げた方がいいかなっていうところは、僕はやるようにしちゃっているんですよね。」 杉本が毎日口にする言葉がある。 『作業者になるな、整備士であれ』 「作業者じゃなくて整備士になれと。言われた通りにやっていれば別に間違いじゃないんで、その方が楽ですよね。だけど整備士っていったら、やっぱりそこは、自分たちがやった仕事で不安が残るような仕事はしちゃいけなくて、やっぱり胸をドーンと張って、やってる仕事は完璧だよっていう仕事をやらないとね。」 杉本は後輩を厳しく指導する役目も負っている。この日はミスをどうやって減らすかという定例会議。杉本はトップマイスターとして毎回出席している。エンジン整備はそれぞれの部署の専門性が高いがゆえに、バラバラに動き、組織縦割りに陥りがちだ。杉本は自分の部署以外にもあえて厳しい口調で喝を入れる。安全のためなら憎まれ役もあえて買って出る。それが自分の役目だと思っている。   ■ 空の安全の“最後の砦” トップ整備士の職人技 『修理チームは“最後の砦”』 杉本は休み時間、少し変わった作業をやる。廃棄部品を利用して様々な構造のオブジェを作る。退職者への贈呈品としている。様々な形状の廃品を組み合わせる。あらゆる修理に必要な臨機応変さが鍛えられるという。 (番組公式ページから転載) 「僕自身、仕事にもこういうのってつながると思うんで。うちの職場の仕事って。スキルだけではなかなかできない部分というのがあるんで。自分の持っている知識とか経験とか、いろいろと組み合わせてやらないと、仕事がうまくいかないっていうことがあるんで。」 杉本は良く他のチームから頼られる。この日は、分解チームからある部品が抜けなくなったという相談があった。トーションハーというパーツを支えているブラケットが抜けない状況。杉本はこれまでに経験したことが無い不具合が発生すると、その場で新たに作業に適した工具を自作する。作業が終わっても杉本はまだ満足しない。誰でも簡単に使える工具を改良していく。腕を頼られ、最後の砦と呼ばれている杉本のチーム。脈々と受け継がれている精神がある。 『“縁の下の”、誇り』 「プレッシャーは確かにあるんですけど、「できませんよ」っていうのは僕の中では許されないことだと。先輩からずっと受け継いでいるんで。それが結局、整備士としての誇りなんですよね。僕らの仕事って、一般的には縁の下の力持ちですよね。表に出ないだけ、自分たちの誇りだけで、そこは「やってやる!」っていう。」 (番組公式ページから転載)   ■ 飛行機の“神業”職人 たたき上げの整備士 その2 4月のある日、まだ難しい仕事が舞い込んだ。ある極薄の部品。エンジンの振動によって先端部がすり減っていた。エンジンに空気を送り込む装置の中で留め具として使われている。もし割れると、エンジン内に破片が飛び散り、大事故につながる恐れがあった。部品の厚さは0.54mm。この薄さの部品を元通りに修理するのは簡単ではない。スゴ腕の杉本でも緊張を強いられる仕事だ。 「難しい仕事なんだけど、いかに集中力が長く続くとか、実際、集中力に欠けてくると、ミスにつながったりするわけですよね。」 まず表面をきれいに磨く。 「不純物なんかを全部取ってやらないと、不純物を巻き込むと、それがいたずらをして、クラック(ひび割れ)の原因になったりするので。」 基本に忠実にわずかな作業も漏らさずに仕事を進めていく。杉本は決して近道をしない。溶接部分に余分な力を加えないように溶接する部分をできるだけ小さくする。部品の摩耗具合に応じて微妙に溶接温度を調整していく。溶接作業中は呼吸も止める。僅かな動きもすべて排除する。やっと溶接を終えても気は抜けない。チタニウム合金の特性で、その場ですぐに割れないで時間が経ってから割れるという性質があるからだ。温度が十分に下がるまで、手を止めたままでガスを当て続けなければならない。緊張と重圧の中で一瞬たりとも気が抜けない。杉本はこんな仕事を42年間続けてきた。 「結構な長い時間、仕事。疲れますよ。ただ、「難しい仕事ができた」っていう。そこは何物にも代えられない部分があるので。やるからには他の人には負けない、自分なりにいいものを作るっていう、そういうことを絶えず持って仕事をやんないと、やっぱり楽しくもないし。」 最後の仕上げ。杉本はいつも手で研磨する。機械よりも自らの手の感覚を信じる。 「機械でできない所をきれいに仕上げるのが、仕上げの仕事なんで。誰が見ても「ここ修理したの?」「してないんじゃないの?」って言ってもらうぐらいの仕事を心掛けているんで。」 作業開始から4時間。完璧に仕事をやりきった。 仕事が終わった後の掃除も決して手を抜かない。   ■ たたき上げから頂点へ 飛行機のスゴ腕整備士 やると決めたら最後までとことんやる! そうやって大きな重圧と戦ってきた。 『命を預かる重み』 生まれ故郷は山口県。頑固な性格は昔からだった。幼稚園に乗り物があって、自分の番でもないのに乗れないことに腹を立てて帰宅し、その日から全く幼稚園に通わなくなり、1週間で幼稚園をやめた程だ。家が裕福ではなかったため、手に職をつけようと工業高校に進んだ。優秀な成績を治め、大手航空会社(現JALエンジニアリング)に整備士として入社した。配属されたのは最先端の工場だった。エンジンの修理部門。研磨や溶接などのエキスパートの集まりだった。負けん気の強い杉本は先輩たちに追いつこうと必死になった。 「班長が「俺は日本一の面取り屋(仕上屋)になるんだ」と言ったんで、「僕、東洋一になりたい」と言って、一生懸命習って。」 入社から10年、腕に自信を持ち始めた頃だった。エンジンの圧縮機に使われる特殊な部品の溶接を任された。杉本はいつもの通りマニュアルに従って仕事を終えた。しかし、安全検査のさ中、その部品が突然真っ二つに割れた。特殊な構造で表からは見えない部分が劣化していたためだった。そのまま飛行していたらエンジンは停止していたかもしれない。ぞっとして足が震えた。 「すごいへこみましたよ。今までそんな大きなミスをしたことなかったし、自分自身ある程度、そういう仕事に対して、結構、自信も多少持ち始めた頃だったから。仕事自体も、結構難しい仕事をやらせてもらっていたというのもあったし、そういうところでそういうミスを起こしてしまったので、そりゃ、もうすごくへこみましたね。ずっと考えましたよ。」 それから1年、整備士という仕事の重圧に押しつぶされそうになっていた時、あの事故が起きた。1985年8月、御巣鷹の峰に日航ジャンボ機が墜落。520人以上が犠牲となる国内航空機事故史上、最大となる事故だった。主な原因はアメリカのメーカーの修理ミスとされた。しかし、杉本は仕事の重みを改めて痛感した。 「本当に、僕ら自身すごくショックで、絶対に航空機事故っていうのは起こしちゃいけないというのは第一に感じました。だからそれによって僕たちのやっている、自分自身もそうですけど、個々のやっている仕事を、やっぱりちゃんとした仕事をしないと、大きな事故につながると、そこで感じました。」 自分にできることは、目の前の仕事をひとつずつやり抜くことだけ。この部品はなぜその素材なのか。形にどんな意味があるのか。よりよい修理の仕方を模索し続けた。そしてマニュアルだけに頼るのではなく、小さなことも突き詰め、自分が納得いくまでやりきるようになった。それから42年、高みを目指し腕を磨く日々が続いた。 「「僕がやってダメだったら(修理は)誰もできないよね」「しょうがないよね」っていう整備士みたいのを、ずっと目標にしてきているんですけど、ずっと定年するまで、ずっと最後までそこは目指して、頑張んなきゃいけないと思うんですけど。」 今、59歳。定年まであと半年になっても、杉本は自分の仕事に満足していない。   ■ 飛行機のトップ整備士 職人魂 1センチの攻防 5月中旬、急な仕事が舞い込んだ。LPTモジュール(タービン)のナットカットの仕事。エンジンの分解チームが杉本に助けを求めてきた。問題となっていたのは極めて小さな部品だった。僅か1cmのナットがボルトにくっつき、交換すべき部品が外れなくなっていた。10年に一度あるか無いかの事態に、分解チームは困り果てていた。無理やりナットを外すと、ボルトが折れてしまう可能性がある。そしてボルトの頭がタービンの中に落ちると、数千万円の費用をかけて部品を全て分解しなくてはならなくなる。飛行機の安全のためにどうしてもナットを外さなければならない。 自分の職場に戻り、考え得る全ての必要工具を準備する。現場に向かう途中、杉本はやけに明るく振る舞う。厳しい仕事になればなる程、重圧に対応できるように陽気に振る舞うのが杉本流。こうしたプレッシャーと長年戦ってきた。 「失敗しちゃったらどうしようかなっていう、やらかしちゃったら結局、あとは大きなことにつながるんで、プレッシャーは結構あるんですけど、僕らの職場は本当、最後の砦なんで。他のところが困ってできなくて、最終的に僕らのところに来るんで、考えてやるしかない。」 (番組公式ページから転載) 修理の方法は一つしかなかった。ナットを削って、ボルトを締める力を弱くして、ナットを外す方法だ。ナットの上辺をボルトの溝の山が見えるか見えないかのギリギリまで研磨する。0.1ミリずれても失敗となる。ナットの削りかすがタービン内部に少しでも入り込まないように念入りにカバーをかける。エンジンの故障や不具合に繋がるリスク。それがどんなに小さなものでも徹底的につぶす。杉本は溶接の仕上げに使う目の粗い砥石を用意した。目が細かい砥石の方が繊細に作業できるが、ナットの材質が固いため、これしか使えない。その中でも髪の毛一本分の精度で削らなければならない。杉本が整備士になって40年余り。巨大な飛行機を守るため、息を詰める細かい作業を毎日続けてきた。頼れるのは自分の腕一本。 『“縁の下の”、誇り』 杉本は一瞬たりとも手元がぶれないよう呼吸を止めて作業する。砥石の回転数を落とし、精度を100分の1ミリに上げる。削りすぎるとボルトの山が使い物にならなくなる。かといって削り足りないとボルトが折れてしまう。特殊な溶剤でボルトの山を確認する。ナットはわずかな力で回った。しかし、杉本はその手をまだ休めない。新しいナットがスムーズに入るように、ボルトの山をひとつずつ手で磨く。 (番組公式ページから転載)   プロフェッショナルとは、 今、自分ができる仕事の出来栄えに、妥協・満足するのではなく、 明日よりもきょう、きょうよりもあすという風に 絶えず向上心を目指して頑張っている人が 僕にとってのプロフェッショナルです —————— プロフェッショナル 仕事の流儀2016年8月1日の番組ホームページはこちら JALエンジニアリングのホームページはこちら →再放送8月8日(月)午後3時10分~午後3時59分 総合現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します