■ 未公開トークスペシャル 岡村隆史×プロフェッショナル
『あの男再び』
前回(2015年10月26日)、岡村が300人を超えるプロフェッショナル達の中から教えを請うたのはこの三人。
・左官職人:挾土(はさど)秀平
・りんご農家:木村秋則
・歌舞伎役者:坂東玉三郎
未公開トークスペシャル。岡村の秘めた思いを紹介する。
(岡村)
「本当に満たされていたり、全てがうまくいっている人が、他人を笑顔にすることなんてでけへんのちゃうかなと思って。そういうなんか悲しみとかそういうんが、苦しみを知っている人の方が、笑顔にできんねんで、と思っています。」
岡村隆史、45歳。再びプロたちと向かい合う。
■ 未公開トークスペシャル 岡村隆史×挾土秀平
仕事には不安が付きまとう。プロフェッショナルは不安とはどう向き合っているのか。
岡村がまず尋ねたのは、飛騨高山の土壁を塗るプロ。見せてもらったのはこれまで手掛けてきた壁のデザインサンプルだ。左官職人:挾土(はさど)秀平。天然の土から壁を作りだす現代の匠。挾土を挾土たらしめている仕事の流儀がある。
『職人は臆病であれ』
「常に臆病な人間でないと成功は無い。失敗するんじゃないからと心配するから、念には念を入れて、でもまてよ、でもまてよ、となるでしょ。」
臆病に、臆病に、挾土はそう現場で繰り返す。「不安の中に成功はある」という挾土。
(岡村)
「全てが、全部うまく回っている時というのは、左程、テレビの向こう側の人を笑顔にできていないんじゃないかと思って。なんか背負っていないと、満たされてたらダメなんだろうなと。」
(挾土)
「それでもお笑いをやっていけているのは、間合いがいいから。面白いってこともあるし。邪魔にならないって部分もあるのかもしれないし。やっぱり間合いがいいんだよね。空気がいいってことだから。それはまさに芸の領域と言っていいんじゃない? つまり、どんな形であれ、間合いの悪いのは間合いが悪い。それは結局仕事がうまくいかない。職人であれ、芸人であれ、どんな職業でもそうなんじゃないかな。」
「僕の場合はね、すごいホテルのエントランスロビー任されたと。このホテルがこの壁で決まっちゃうみたいな。みんなは、「すごい仕事だと。俺たちでもわかる」と。朝から力んでいたんですよ。みんなは朝8時からコテとコテ板もってよし行くぞと。でも俺は、「どう、コーヒーでもいくか、朝一番から」っていうわけ。そして仕事に戻った時に、「何か失敗するような気がする、ちょっと休もう!」ってみんなのやる気をなくすわけ。それからみんなに仕事の指示を出すわけ。人って、諦めている時って、人の声って頭に入るのね。」
「やる気満々なの。それは落とし穴があるの。」
進化し続ける挾土の土壁。その才能は枯渇することはないのか?
『パクリからは、何も生まれない』
(挾土)
「左官に新鮮になれなくなったら引退するね。自分で許せない自分のパクリっていうのがあると思うから。自分で自分の過去の栄光にすがってするパクリね。そうなると今まで頑張ってきたのがちょっと嫌になるので。」
■ 未公開トークスペシャル 岡村隆史×木村秋則
次に岡村が向かったのは青森・弘前。壮絶な逆境を乗り越えたプロフェッショナルを訪ねた。りんご農家:木村秋則(66歳)。31年前に日本で初めて農薬や肥料を使わずにりんご栽培に成功した。
『人生をあきらめているあなたへ』
そのりんごを育てる男はとにかくよく笑う。りんごは病気や害虫に極めて弱い。木村は一切の農薬や肥料も使わずに、たわわにりんごを実らせる。常識はずれの木村のりんごづくり。それはただ、ひとつのことにこだわる。
(木村)
「何も施さないのによくこれほど大きくなるものですね。主人公はりんごの木なの。」
りんご栽培が成功するまで、実に8年の歳月を要した木村。その間、自ら命を絶つことを考えたほど、思い悩んだ日もあった。過酷な経験をして、なお明るい木村。
人は強くなれるのか?
(岡村)
「結果でりゃ、あれなんですけど、結果が出えへんというのが続いてきて、また大きな壁にバーンでぶつかるじゃないですか。そんなの繰り返しじゃないですか、生きていると。またそのドーンとぶつかった時の壁ってどうやって乗り越えていったらいいと思いますか?」
(木村)
「登山家が山があるから登るっていうけどもよ、私はよ、壁は自分が造っているものだと思うのよ。他人が造った壁は少ないと思うよ。ほとんどは自分が造っていると思う。」
(岡村)
「自分が造った壁だから、自分で乗り越えられると。」
(木村)
「だから、このりんごには数々の壁があったけど、必ず答えがあると、自分に言い聞かせて。自分に不安があると乗り越えられないよ。自分にもっと自信を持つべきだと思うんだ。乗り越えようとするからダメなんだ。何にもならないことで悩んでいるんだな。」
『馬鹿になれ』
(木村)
「私の馬鹿はよ、ひとつのことに“狂う”ってこと。例えばテントウムシを見ている時、テントウムシはアブラムシを食べる良い虫って小学校の時から言われてきたわけだ。アブラムシが発生した時、テントウムシがアブラムシをどれだけ食べているのか、誰も何匹食べるとか出していないわけだ。だから自分で何匹食べるか数えようとしたわけ。葉の裏を見る必要があるから、あおむけになって観察していたわけ。そしたら近所の農家がりんごがなってもいないのに、よく昼間から寝ていられるなというわけ。テントウムシは羽があって飛んで行ってしまうから、ご飯粒で羽を固定して、4日、5日、ずっとテントウムシだけを観察していた。」
(岡村)
「その監察結果はデータとしてりんご栽培に生かされているわけですね。その間、ずっと観察し続けている間は馬鹿になっていないといけないわけですね。」
(木村)
「俺の言う馬鹿はそういう馬鹿なのよ。誰もさ、人間って虚栄心があるから馬鹿になれないのよ。好きなことで、目的が無いと馬鹿にはなれない。」
(岡村)
「人が人生を生きていくうえで、一番必要、大事なことってなんだと思いますか?」
(木村)
「自分も大事だけど、他人が自分以外の人が喜ぶ生き方、喜びを与える生き方、もっと大事じゃないかと思うの。他人の幸せのためにも生きるってことな。どうしても私は百姓だから、食を通してな。自分の生産のために入ってくるお金も大事。だけども、それ以上に食べてくれる人の幸せ、笑顔のために頑張ろうと。だから続けているんじゃないかな。」
『笑顔は、最高の喜びと幸せを与える』
■ 未公開トークスペシャル 岡村隆史×坂東玉三郎
『その男の美しさは、奇跡』
奇跡の女形と呼ばれる一人の歌舞伎役者がいる。その美しさは30年以上、人々を魅了し続けてきた。しかし、役者としての道は決して平たんではなかった。女を演じるには背が高すぎた。幼いころに患った小児まひのため、右足に後遺症が残る。いくつもの困難を乗り越え、女形として頂点に上り詰めた。
歌舞伎役者 坂東玉三郎さん。
「舞台に生きる」ということ
(玉三郎)
「50年以上やっていても、お客様の前に出るときには怖かったり緊張したりしますね。でも、ある程度の緊張もなければやりがいもないんじゃない? 舞台からお客様の全体の様子っていうのは分かります。あとね、お天気にすごく左右されますね、お客さんは。役者もそうですけど、重い日と軽い日があるの。重い日は、重くならないように割と、微妙だけれど派手目に出ていったりとか。」
<2008年1月15日放送より>
(玉三郎)
「天から見られているっていうふうに思うんです。だから、天から見られていたら嘘を付けないので、技術の足りている所も足りない所も、そのままやる。生真面目にやって、生真面目に飛躍して。最後の拠り所になって、そうするとスッとできるようになる。」
(玉三郎)
「(天から見られていると)そう思うことは大事だと思っているし、僕にはそう思わなければならないと思ったことはないけど、その感覚がね、誰にもわからない所もちゃんとしてないとダメかなと思っていますね。バチが当たる。ちゃんとした自分がここまでと思った線がでなかったら、多分お客様もよく分かっていらっしゃると思うし。」
「年齢との戦いはずっと続いているの。例えばトレーニングすること自体に負担が来る年なんですね。だから維持もできなくなる時が来ると思いますね。」
(岡村)
「玉三郎さんが一番怖いものは?」
(玉三郎)
「足腰の弱り方でしょうね。思わぬ時によろけたりとか、じっと15分ぐらい座ってて、さっと立つべき時に立てないとか、そういうときに転ばないかな、というのが心配ですね。思考とは経験とかもあるので、まだまだ、経験積んだからわかるということも出てくる。これまたいずれ鈍ってくるんでしょうけれども。80まで生きていれば思考も鈍ってくるだろうし、体力は60ぐらいからどんどん落ちてくるので。でもね、それも悲劇的なことでもなんでもなくて、もう、この世に生を受けた人がみんなそうなるわけでしょ。でも怖いですよ。何が怖いかというと、何が来るのかが分からないから怖いんで、そのこと自体は仕方がないこと。」
(玉三郎)
「壁は乗り越えられない。時が過ごしてくれるだけ。」
『玉三郎の“お笑い論”』
(玉三郎)
「人の心を引き裂いてはいっていくみたいなことを、してるようにして面白がっていても、気遣いがあるかどうかは、番組見ててすぐわかりますね。気遣いさえあれば、すごく優しい番組になるじゃない。そうなれば、どこまでも踏み込んでいっていいんじゃないかしら。多分、番組のスタジオの中にいる人、あるいはゲストとか、一緒に共演している人に対する気遣いがあればいいんじゃない? 画面の向こう側の人にも、その気遣いは分かるし。で、気遣っていることを気付かれない、というのはよく見えますね。やっぱり、そういう意味では、回転が速くないとできないんでしょうね。それと気遣いの回転。気遣っていないように見せて気遣っているとか。それが優しさにつながるでしょうし、それが大事でしょうね。まるで気遣っていないように人をいじっているんだけど、気遣っていることでその相手の人がすごく輝いていくんじゃないかしら。」
「日本に喜劇は少ないんです。笑いを主にしている芝居はものすごく少ないんです。喜劇やりたくて脚本探すんですけど、無いんですなかなか。だから、普段人を笑わしています。ひょうきんなんですよ。ひょうきんじゃなきゃ他人になれないでしょ。」
3人との対談を終えて
「常に前に進んでいってはるという、そのなんか、強さみたいなんて、皆さんあるなって。別に臆病でもいいし、ひとりでもいいし、別にいいじゃないって言えるんですよね。ちゃんとなんか聞いたら、全部答えが返ってくるっていう、そういう分厚い感じですよね、はい。」
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番組ホームページはこちら
(http://www.nhk.or.jp/professional/2016/0111/index.html)
→再放送 1月16日(土)午前0時55分~午前2時6分(金曜深夜)総合
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