日本電産「買収で減損ゼロ」 53件目は独社 適正価格、経営関与、シナジー 電子部品大手5社の「のれん経営度」を比較する

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■ 日本電産のM&A戦略は、想定しているターゲット市場規模を読みに行く堅実性が売りである!

経営管理会計トピック

最近、日本企業の大型減損損失の発表が相次ぎ、日本企業のM&A下手が話題になっております。その中でも異彩を放っているのがM&Aで企業成長を遂げている日本電産です。

2017/4/25付 |日本経済新聞|朝刊 日本電産、独家電部品を買収 250億円、省エネ向け攻勢 白物、売上高2倍に

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「日本電産は独家電部品大手セコップグループを買収する。取得額は250億円前後とみられ、年内に全額出資子会社にする。冷蔵庫の中核部品であるコンプレッサーを手掛けており、日電産の高効率モーターと合わせ、環境規制強化で拡大する世界の省エネ家電需要を取り込む。買収を機に白物家電事業の売上高を現行の2倍の1000億円規模に拡大する。」

セコップは、売上高は約430億円で従業員は2000人強。デンマークのダンフォスグループから2010年に独投資ファンド傘下に入っていました。家庭用はエレクトロラックスなど欧州の家電大手、韓国サムスン電子、中国ハイアールなど大手に部品を供給する主要メーカーで、業務用冷蔵庫向けも生産しています。同社は、モーターを使って気体を圧縮して送り出すことで熱を奪うコンプレッサーと呼ばれる冷却部品に強みを持ち、主に欧州市場向けはスロバキア、アジア市場向けは中国で生産しています。

「冷蔵庫用コンプレッサーの市場は2億台弱とみられる。環境規制の強化が進んでおり、欧州やアジアで省エネタイプの冷蔵庫への切り替えが進む。年4%程度で成長が見込まれる。日本電産は白物家電では洗濯機や乾燥機向けモーターを生産してきたが、買収により冷蔵庫部品も加え、白物家電の世界展開をさらに本格化する。」

とあるように、日本電産は企業買収を判断する際に取り込める市場規模がどれくらいかを見極める姿勢を貫いています。それは、決算説明会資料においても、できるだけ自社が想定する市場成長規模を公表している姿勢に通じるものがあります。

2017年3月期 決算説明会(P20~26を参照)

これを受けての企業成長があるのですが、その売上高と利益成長は次のように同記事でも取り上げられています。

(下記は、同記事添付の「日本電産の連結業績は右肩上がり」を引用)

20170425_日本電産の連結業績は右肩上がり_日本経済新聞朝刊

もう少し詳細に見たい人は、2017年3月期の決算説明会資料もどうぞ。

20170428_日本電産_FY16決算発表_連結売上高・営業利益推移

 

■ 日本電産のM&A戦略は、伸ばしていきたい事業(技術)領域が絞り込まれている!

同記事で、日本電産の最近のM&A案件が紹介されています。

(下記は、同記事添付の「最近の日本電産の主要買収」を引用)

20170425_最近の日本電産の主要買収_日本経済新聞朝刊

「これまでハードディスク駆動装置(HDD)向け超小型モーターなどを主力製品としてきたが、パソコンの出荷減少などで中長期的には市場が頭打ちとなる懸念もある。産業・家電用の中大型モーターや、自動車関連事業を成長の柱と位置づけ、事業領域を広げる。」

HDD向け超小型モーター市場の成長鈍化を予想し、産業家電用や車載用市場の拡大を見込み、事業(技術)領域決め打ちで集中的にM&Aを仕掛けています。既存市場からシフトする必要があるので、当然、外部資源を買うことは時間を買うこと。急成長を買収で賄っているのですが、そこは市場成長と技術に対する目利き力が必要とされます。

「高効率モーターと組み合わせることで冷蔵庫の一段の省エネ化や小型化を進める。冬場の不必要な時に冷却を自動で調整して節電したり部品自体を小さくしたりして、小型でも大容量の冷蔵庫を作ることが可能になる。」

1960年代にアンゾフが事業の多角化を研究した以降、企業の成長戦略にM&Aが積極的に取り入れられましたが、既存の事業に全く関連の無い、経営者が無知である領域への進出は、「非関連事業」として、買収リスクの大きさが常に指摘されています。日本電産は、必ず技術シナジーのある「関連事業」への買収戦略を心掛けており、M&Aリスクの最小化に努めています。

補足として、こちらにも決算説明会資料を転載させて頂きます。

20170428_日本電産_FY16決算発表_製品グループ別業績推移

⇒「(ビジネスTODAY)日本電産のM&A「狙いは本塁打」 買収実績、1年なし 「永守流」転換、車載部品に的

 

■ 日本電産の永守会長兼社長のM&A戦略の成功の秘訣は3つ!

上記買収記事の翌日、永守会長兼社長のインタビュー記事が掲載されました。

2017/4/26付 |日本経済新聞|朝刊 日本電産「買収で減損ゼロ」 53件目は独社 適正価格、経営関与、シナジー

「日本電産は25日、独家電部品大手セコップグループを1億8500万ユーロ(約220億円)で買収すると正式発表した。日電産の企業買収は今回で53件目。東芝や日本郵便など海外買収に伴う巨額損失の発生が相次ぐなか、着々と買収による事業拡大を進める永守重信会長兼社長は「価格、経営への関与、相乗効果」の3つを買収戦略のポイントに挙げた。」

(下記は、同記事添付の「決算を発表する永守会長兼社長(25日、大阪取引所)」を引用)

20170426_決算を発表する永守会長兼社長(25日、大阪取引所)_日本経済新聞朝刊

続けて、永守氏のインタビューの詳細が記載されており、日本電産のM&Aの勝率について次のように語っています。

「永守氏は「52回の買収で一度も減損損失を計上していない」と自信をのぞかせ、「日本企業による海外のM&A(合併・買収)の88%は失敗している。10%は成功でも失敗でもどちらでもない。成功しているのは2%だけ」との見方を示した。」

おそらく、この言は、M&Aにつきものの「のれん」については減損損失を計上していないという限定条件下での発言で、実際には生産設備については過去に減損損失を計上していたはずでは???

⇒「日電産、大胆な会計処理に込めた車部品への本気 大阪経済部 上田志晃 -裁量的な減損損失の計上は許されるか?

(下記は、同記事添付の「日電産の主なM&A」を引用)

20170426_日電産の主なM&A_日本経済新聞朝刊

(1)高値づかみしない
「将来の収益力などを見込んで買収額を上乗せしている場合、期待通りにいかずに価値が下がると「のれん代」を損失に計上する必要がある。」

きちんと値踏みをし、適正価格で買収を進める。勢い、M&Aは経営支配権を購入することになるため、事業そのものの適正価格に上乗せして「支配権プレミアム」分、割高となることが多くなります。それゆえ、永守氏は別のインタビュー記事では、「割高と思ったら、魅力的な案件でも割り切って諦める」と断言されています。

⇒「(そこが知りたい)戦略2016(7) 大型M&Aどう進める 日本電産会長兼社長 永守重信氏に聞く 電機再編で国内に照準

(2)PMI(買収後の統合作業)と経営への関与
「買収は目利きと同じ。例えば工場の現場が汚い、社員教育がなっていない、といった会社は管理を見直せばもうかるようになる」

日本電産が買収対象とする企業(事業)は、それまでの経営者がうまく運営できなかったものが大半です。赤字のものをも多く、それゆえ割安で買収することもできるのですが、それと同時に、現場改善による収益性の回復の可能性も大きいとも言えます。

(3)買収のシナジー(相乗)効果
「日電産は主力のモーター技術を買収先の技術と組み合わせ、複合部品(モジュール)に仕立てて家電や自動車向けの需要を開拓している。例えば15年に買収したポンプメーカーも単品では業績が伸び悩んでいたが、中核部品のモーターを日電産が提供し顧客開拓につなげた。」

今回の家電用市場について、これまでのモーター単体市場から、技術シナジーを創出して、モジュール化したより複雑性を増す分、付加価値を高めてマージンも上乗せする勝算を持って事業買収に踏み切っていることが手に取るようにわかります。

下記は、2017年3月期決算説明会資料より

20170428_日本電産_FY16決算発表_家電・商業・産業用:家電用の戦略

 

■ 最後に日本電産のM&A戦略は、財務分析的にはどういう位置づけなのか?

それでは、日本電産のM&A戦略の巧拙を評価するために、M&Aにつきものの「のれん」の財務諸表に対する影響度を、電子部品大手5社で比較した結果をご紹介したいと思います。いくら、永守氏が適正価格で企業(事業)買収を行おうとも、必ず「支配権プレミアム」が発生してしまうので、どうしても真っ当に資産計上すべき金額と買収金額の差額を「のれん」としてB/S上に認識する必要があります。

20170501_電子部品大手5社_のれん活用度比較

大手5社の中でも断トツに「のれん」計上額が大きく、対総資産比率で15.5%、対株主資本比率で30.7%と、そのB/Sに占める構成比でも断トツに比重が大きくなっています。中でも筆者独自の指標として、のれんを当期利益で割った「のれん倍率」は2.33倍と、最小値である村田製作所と比べて、5.8倍の差が生じています。この「のれん倍率」は、適正株価評価のために参考にされる「EPR」のように使用し、税引後利益の何年分の「のれん」を計上しているかをしめすもので、仮に日本電産がのれんを一括償却(IFRS適用会社のため、実際には減損損失処理を意味する)した場合、ほぼ2年分の当期利益が吹っ飛ぶ計算になります。

実は、他業種でも積極的にM&Aを進めている企業で、減損損失で大型赤字決算を公表した企業に比べると、この「のれん倍率」は左程目立ったものではないのですが、同業他社比較では、ちょっと留意すべきポイントになろうかと思います。同じ収益規模の村田製作所と比べると、M&A戦略もしくは「のれん」計上に当たっての財務戦略について、好対照といえます。ROEは1.7ポイントの差をつけていますが、ROAとなると、村田製作所の方が、逆に2.8ポイント上回っています。高い株主資本比率(より経営は安定的といえる)で、オーガニックグロースで勝負する村田製作所と、積極的なM&Aで成長重視の日本電産。好対照な2社は、財務分析の格好の教材であると言えましょう。どちらが経営として優れているか、喧々諤々の意見交換があってもいい比較事例ではないでしょうか。

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