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■ M&Aで企業成長を成功させてきた熟達者に今年のM&Aを振り返ってもらう

経営管理会計トピック

M&Aは交渉相手やコンペチターの動向もあり、そうやすやすと、「採用すべきM&A戦略のこれから」を正直にマスコミに話してくれるはずがない、と考えているのですが、そこはM&Aによる企業成長も株価対策になることから、ある程度、手の内の見せてくれているようです。

2015/12/30|日本経済新聞|朝刊 (そこが知りたい)戦略2016(7) 大型M&Aどう進める 日本電産会長兼社長 永守重信氏に聞く 電機再編で国内に照準

「2015年は世界のM&A(合併・買収)の総額が500兆円を超え、過去最高となった。日本企業の海外M&Aも初めて10兆円の大台を突破。優良案件の奪い合いが激しくなり、買収コストも膨らんでいる。経営判断を誤れば巨額の損失を迫られかねない。16年のM&A市場でどう動くのか、日本電産の永守重信会長兼社長に聞いた。」

(日本電産会長兼社長 永守重信氏 同記事添付の写真を転載)

20151230_日本電産会長兼社長 永守重信_日本経済新聞朝刊

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

2015年のM&A市場を振り返って、永守氏は、
「日本企業のM&Aがある度に収益性を分析している。15年は数は多いが、いい買い物が少なかった感じだ。純資産に上乗せして払うのれんが買収額の大半を占めるほど高い製造業の例もあった。どうやって利益を出すのか首をかしげる」

と、他社の買収ケースをすべて客観的に収益性分析をしているとのことで、多額の「のれん」を計上する買収が今後、本当に採算ラインに乗ってくるのか、怪しいとのコメントを発しています。そうした他社のM&A実施の状況分析を次のようにして見せています。

1.同業者がM&Aをやってシェアの順位が変動することへの対抗策として実施している
2.株価が高水準のため、買収額が常時に比べて相対的に高めに設定されがちである

上記1.の意思決定の背中を押すのが、サラリーマン経営者にありがちな、業界での横並び意識が強く、タイミングをじっくり計って、安値で儲かる買収をするという意識は薄いと批評しています。また、上記2.については、今年の日本電産のM&A結果を引き合いに出し、「今年は高水準の株価に買収額が影響されにくい小さな企業を相対取引で7件買収した」と説明されています。「相対取引」ということで、非上場株式や上場株式でも、市場を通さない取得を行うことで、日米の中央銀行の金融緩和の影響もあり、過熱している株式市場から一歩身を引いた買収で、高値掴みを避けた、ということ。裏返せば、他社は足元の景気(本当は株価だけ)に影響され、高値掴みをして、「今は問題なくても、景気が悪化した時に巨額の減損損失に苦しむことになる」と永守氏に言わせしめています。

さらに、日本電産では、「PMI:Post Merger Integration(買収後の経営統合)」― 通常は100日プランと呼ばれている ― を推進するプロセスが確立されているようで、買収後の業績貢献の最大化・最短化のシナリオを常に用意していることを匂わし、

「M&Aは買収後が肝心だ。当社は3年以内に営業利益率を10%超にするなど基準がある。買収額が高いと業績を押し下げる。想定より3割高く買ったことがあるが苦労している。高値で買っていいのは、競合企業がいなくなるなど、よほどの相乗効果が見込める場合だけだ」

と表現しています。明確な基準・目標があることはさておき、高値で買っていい条件を出している所が興味深いものになっています。「競合企業がいなくなる」とは、

① 残存者利益を享受できる
② 高い参入障壁が築けることが、高いマージン率を保証する
③ その分野の専門家の集合知を結集し、業界最高の知識が手中にできる

ことを意味していると、思われます。こうしたケースだけ、プレミアムを付けても買収するに足る、という確固とした買収方針があるということです。しかも、定量評価基準が社内にあるのは想像に難くありません。

企業買収後の統合プロセス

■ M&Aで企業成長を成功させてきた熟達者に来年のM&A戦略を聞く

そして、新聞記事のインタビューは来年の日本電産の動きを聞きだそうとします。以下、永守氏の返しになります。

「海外企業は割高だが、国内が面白い。電機やIT(情報技術)業界の再編が起きつつあり、チャンスだ。M&Aを打診した際の反応がより真剣になっている印象で案件も増えている」

「東芝が巨額の最終赤字になる見通しが出たことで、国内大手の経営者が『不採算事業は早く処理しなければならない』という意識に変わり始めた。国内企業は海外より買収後の統合作業が早い。16年は国内のM&Aに注力するつもりだ」

2016年は、国内の電機やIT業界における売却物件が多数にのぼり、ディールがいくつか実現すると予告されています。ということは、交渉はほぼ15年中に仕上がっているということなのでしょう。

「現在検討中の大型M&Aが3件ぐらいある。車載部品分野などで、それぞれの会社の売上高は数千億円規模。うち1社を買えば、16年度にも売上高2兆円のメドが付く。財務では15年度内に純有利子負債がゼロになる見通し。大型買収への準備は整っている」

買収案件の出物も、それを買収する資金も準備万端、ということで、来年の新聞発表は派手なものになることは間違いありません。

「業界再編時代」のM&A戦略 ~・・1コンサルタントが導く「勝者の選択」~

■ M&Aに関わる数字を考える

上記の新聞記事で、インタビューに応えられる範囲で、M&A方針を考えるうえで、永守氏の中にある値ごろ感というか、定量的な指標が垣間見られたので、その「数字」について掘り下げたいと思います。記事中では、

① 15年に検討した海外買収案件は数十件、買収を実際に試みたものが8件だった
② それらを見送ったのは、許容できる買収額より平均5割は高いから
③ 3年以内に営業利益率を10%超にする社内基準がある

とあります。
①は、数十件が、80件と仮定したとしても、実際にディールに入るのはその10分の1。そして、15年はそのいずれも買収に至らなかったと、M&Aにかける工数の膨大さを示しています。これは、オーガニックグロースに比べて、M&Aによる規模の拡大が安直であるとの批判が的外れなことを示しています。

②は、2015年に経済紙を賑わした海外買収案件が、永守氏から見れば、通常の倍の値段で高値掴みをしたということです。ここで1件1件挙げることはしませんが、その後の推移(PMIの出来栄え)を見守ってみたいと思います。
(確かに、安易に海外市場の拡大を求めた現地法人の買収案件は、筆者から見ても、えっ、高すぎない!? というものが3件は少なくともありました)

③は、その企業独自の定量目標でいいということです。日本電産については、FY14の実績、FY15の見込み共に、売上高営業利益率は、11%超です。つまり、日本電産は、現在の売上高営業利益率の悪化を引き起こさない規模の拡大が当面のM&A戦略の基本線ということです。さらに、現中計で、2020年の売上高:2兆円、売上高営業利益率:15%を掲げていますので、現保有事業および買収済みで採算改善中の事業については、15%以上になっていないと計算が合いません。こうした数字は、その会社の置かれた市場や目標とする財務構成に依拠しますので、どの企業でも同じ数字にはなるはずはないのですが、目標の置き方のひとつの参考にはなると思います。

(日本電産ホームページより:(12/1)個人投資家向け説明プレゼンテーション資料P12)
http://www.nidec.com/~/media/nidec-com/ir/library/presentation/pdf/2015/151201.pdf

20151201_日本電産_個人投資家向け説明プレゼンテーション資料

規模の拡大は、従来のコア事業から遠心的に離れて、収益性の高い得意領域から、低収益性の周辺事業に拡大することが多く、全体として、収益率が低下することが経験則で分かっています。日本電産は、そのいずれでもないことを、今のところは証明しており、引き続きその結果による証明は続くものと、筆者は考えています(精密小型モータ(HDD用モータ)からパワステ用モータを含む車載電子部品市場へシフトは技術的相関を持ったままのシフトなのでね)。

M&Aを成功に導くPMI――事例に学ぶ経営統合のマネジメント



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