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■ オープンイノベーション戦略のメリットを探る!

経営管理会計トピック

オープンイノベーション」とは、社内だけで研究開発を完結するクローズド・イノベーション(自前主義)の対義語であり、企業内部と外部のアイデアを組み合わせることで、革新的で新しい価値を創り出す」ことを目的としています。ヘンリー・チェスブロー博士によって提唱されたこの考えは、外部の開発力やアイデアを活用することで自社の課題を解決し、これまでにない価値を生み出すことを意味しています。そして、オープンイノベーションがもたらす最大のメリットは、これまで自社単独で進めていた研究開発を迅速かつ効率的に行えるということ。近年、企業の研究開発では、オープンイノベーションの重要性が求められており、自社の努力では解決できない研究開発上の課題に対して、社外から解決策を見つけ、研究開発を効率化するという動きが広がっています。

● 研究開発のスピードアップ
● 自社では揃えられない研究リソースの活用

一方で、条件が整っていれば、従来通りのクローズ戦略もアリ、ということになります。

2015/12/21付 |日本経済新聞|朝刊 「オープン&クローズ」日本勢出遅れ 知財、管理部門ではダメ

「企業に優れた技術があっても事業に育つとは限らない。知財を含めた効果的な仕掛けを作れるかが岐路になる。
 1997年5月、日立製作所の米国法人から米特許商標庁に1件の特許が出願された。病院の電子カルテに使う検索技術で、発明者はセルゲイ・ブリン氏ら。2001年に特許になったが、事業化されなかった。
 当時、ブリン氏は日立の米国現法で働きながら、米スタンフォード大学に通っていた。その後、同大のラリー・ペイジ氏とグーグルを設立。創業時からオープン&クローズ戦略を推し進め、大成功を収めた。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

日本企業は、コツコツと自前の研究開発部門での研究を積みかねて、技術的優位性で市場における競争優位を築くことを勝利の方程式としてきました。この技術的優位性というのは、

1)先進的な製品固有のテクノロジーで、新奇性の高い製品を世にいち早く送り出す
2)生産技術を磨き、より安価で、相対的付加価値(機能価値÷製造コスト)を高める

ことで、企業業績に貢献するものです。

「戦後に「安くて良い製品をつくる」ことで成功した日本企業は同戦略が苦手。トヨタ自動車が燃料電池車の関連特許を無償開放した事例が目立つ程度だ。
 キヤノンで知財戦略を統括する長沢健一取締役は「知財担当役員を置く日本企業は珍しい」と嘆く。日本企業全体の国際競争力という観点からだ。日本で知財部門は長年、戦略部門ではなく管理部門とされてきた。
 米国では知財担当役員が最高経営責任者(CEO)と会議に同席して戦略立案に携わる。こうした経営層や、戦略を提言できる中堅リーダー層が不足しており、人材の育成が急務だ。」

(下記は、同記事添付の日米の知財・事業戦略の違いイメージ図を転載)

20151221_日米の知財・事業戦略の違い_日本経済新聞朝刊

この記事では、要は、知財権を製品開発戦略、ひいては事業戦略に結びつける人材が日本企業には少ない、欧米を見習え、という筋書きで語られています。欧米企業がわざわざ知財権のオープン&クローズを語る必要があるのは、

1)研究開発部門の人材を含め、転職することが前提となっている雇用形態である
2)職務発明に対する権利関係が明確になっている
  米国の場合)
  ・特許法では、発明者個人に権利が帰属する
  ・判例法および雇用契約で使用者側への帰属とでき、対価支払も制度化されている

ことから、知財権そのものが商材として独立して管理されることが常態化しているからです。一方で、日本でも特許法の改正があり、職務発明における権利帰属について最初から使用者側への帰属とすることができる旨が定められましたが、従来は、研究者も含めて労使慣行上、終身雇用が前提で、研究開発者を生涯抱えることが通常であったため、オープンかクローズかすら問う必要にない状態での技術開発競争環境にありました。

研究開発担当者の転職やそれに伴う知識・スキルの社外流出が最近のイノベーティブな企業における一つの大きな課題となっています。

職務発明に関する最近の日本の法制度の改正状況については、下記リンクが分かりやすいと思いますのでご参考に、どうぞ!

(参考)
職務発明制度について | 経済産業省 特許庁

 

■ 知財権のオープン&クローズ戦略は、一筋縄ではいかない

前章で紹介した記事でも触れられていたトヨタの燃料電池車の特許一部公開は、新聞報道でも大々的に報じられていました。

2015/1/19付 |日本経済新聞|朝刊 トヨタ、燃料電池車特許を無償提供 普及加速と業界標準狙う 非公開技術の守り重要

2015/1/18付 |日本経済新聞|朝刊 (真相深層)無償公開、トヨタの計算 燃料電池車の全特許一斉開放 「秘中の秘」特許外、まず普及

このケースでは、トヨタ1社が燃料電池車の技術を抱えていても、トヨタが水素ステーションのインフラ整備をトヨタだけで賄うことはできない、さすれば、コア技術ではなく、水素ステーションのインフラ整備への参加意欲を掻き立てるにふさわしいだけの関連技術をオープンにして、トヨタ単独では難しい燃料電池車の市場拡大にビジネスチャンスを見出してもらいたい、という意図によるオープン戦略となります。トヨタは、コアである燃料電池車の製造技術はうまいこと抱え込み、インフラ整備部分だけオープンにして、水素ステーションへの設備投資を促し、燃料電池をキーテクノロジーとする「エコシステム」を形成して、燃料電池車ビジネスモデルを確立したいという訳です。

そう意味からも、ビックピクチャーを描いた上での「オープン&クローズ」を取捨選択することが肝要となります。

 

■ 知財戦略は産学共同で。国際競争に打ち勝つことができる事業のために!

引き続き、知財戦略の動向を見ていきましょう。直近の盛り上がり状況を理解するために、1年ちょっと前の各社の危機感を伝える新聞記事の紹介から入りたいと思います。

2015/12/21付 |日本経済新聞|朝刊 強い事業づくり 知財戦略から 有力企業、東大と中堅社員を育成 国際競争で危機感

「日立製作所など有力企業が、知的財産戦略を事業に生かす中堅リーダーを育て始めた。舞台は東京大学の養成プログラム。単なる勉強ではなく、会社で抱える課題の解決を講師や他社の人々と一緒に考える独特の内容だ。欧米企業では常識となった、知財と事業の「オープン&クローズ戦略」の習得が目標だ。」

(下記は、同記事添付の東大養成プログラムの様子写真を転載)

20151221_養成プログラムでは、企業の中堅社員たちが活発に討論した(東京都文京区の東大キャンパス)_日本経済新聞朝刊

「「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」。日立製作所の主任技師、小幡昇氏は3カ月前、職場の横浜事業所で若手技術者ら約40人を前に講義した。日本の電機メーカーが置かれている厳しい現状、欧米企業が進めた改革、自分たちはどうすべきかを討議した。
 実は、この内容は小幡氏自身が5月から9月にかけて学んだ授業の「受け売り」だ。東大が今年始めた「知的資産経営戦略タスクフォースリーダー養成プログラム」。有力企業約20社が1人約100万円の授業料を払って、課長級約30人を送り込んだ。」

(下記は、同記事添付の養成プログラムに社員を派遣した会社リストを転載)

20151221_2015年に東大プログラムに社員を送り込んだ主な企業_日本経済新聞朝刊

各社から派遣された技術者の声から。

● 日立製作所
「各参加者は会社から具体的な任務を与えられ、授業に臨んでいる。講師も主宰者の渡部俊也教授(TOTO出身)をはじめ、妹尾堅一郎氏(旧富士写真フイルム出身)、小川紘一氏(富士通出身)など企業出身者が多い。座学だけでなく、チーム単位で課題解決を討議したりする。
 日立の小幡氏は「いかに日本企業の知財戦略が欧米企業に遅れているか」を授業で知り、衝撃を受けた。日本企業で新製品や新サービスを考えるのは主として開発部門や事業部門。知財部門は新製品の概要が決まってから有利な特許を取る工夫をしてきたにすぎない。
 「強い欧米企業は違う。会社の事業そのものに緻密な知財戦略を組み込みスタートする」(小川氏)。例えば米アップルのスマートフォン(スマホ)「iPhone(アイフォーン)」だ。端末の製造情報は外部に無償開放し、他社に中国での製造を委託している。一方、付加価値の高い心臓部の基本ソフト(OS)は知財で徹底的に守り、模倣は絶対に許さない。
 グーグルは逆にスマホ用OS「アンドロイド」を他社に無償供給し、自らは多彩なスマホ向け事業で収益を上げる。こうしたオープン&クローズ戦略を自社のクラウド事業に組み込むことが、日立の小幡氏の任務。同戦略に精通した同志を育てるため社内講演を始めたというわけだ。」

 

■ オープン&クローズ戦略の神髄とは?

『部門利益捨てる』

オープン&クローズ戦略の神髄は一部門の利益を捨て去ることで全社の利益を最大化することです。そのためならば、一部門をリストラしたり、管理職を減らしたりする必要も出てきます。そうした欧米企業のようなトップダウンか、全社合意を取り付けるプロジェクトチームを創出が必要となり、そうしたことを進めることができる中心人物を育てるのが、上記東大プログラムの目的となっています。

このプログラムに啓発されて、

「「これからは新規事業で、もうける仕組みを提案する」。帝人から参加した山田浩一氏は知財部の特許開発室長。これまでは「強い特許」を得ることを考えてきたが、プログラムを経て意識は一変した。今後は「強い事業」を考える会議にも出席、口を出すという。
 例えば異業種と組むビッグデータ事業。どんな相手と提携し、どんなオープン&クローズ戦略を練るのかといった検討が極めて重要だ。山田氏は「知財部が主導し、新事業を検討する全社横断組織を2017年度中に立ち上げたい」と話す。」

こうした産学協同の取り組みを、東大は2016年度以降も続け、「日本企業のオープン&クローズ戦略を担える人材を継続的に生み出していく」(渡部教授)そうです。

ここまで、日本の知財権戦略としての、「オープン&クローズ戦略」の萌芽の様子をみてきました。後編では、最近の各社の動向を事例から見ていきましょう。

⇒「オープンイノベーション、脱自前主義ビジネスモデルのメリットとは? -(後編)ダイキン、ソニー、仏トタル、アマゾン、バンダイナムコの事例を見る!

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オープンイノベーション、脱自前主義ビジネスモデルのメリットとは? -(前編) 知財権のオープン&クローズ戦略の復習。トヨタと日立の事例からhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読むトヨタ,日立製作所,オープンイノベーション,知財権,オープン&クローズ戦略,キヤノン■ オープンイノベーション戦略のメリットを探る! 「オープンイノベーション」とは、社内だけで研究開発を完結するクローズド・イノベーション(自前主義)の対義語であり、企業内部と外部のアイデアを組み合わせることで、革新的で新しい価値を創り出す」ことを目的としています。ヘンリー・チェスブロー博士によって提唱されたこの考えは、外部の開発力やアイデアを活用することで自社の課題を解決し、これまでにない価値を生み出すことを意味しています。そして、オープンイノベーションがもたらす最大のメリットは、これまで自社単独で進めていた研究開発を迅速かつ効率的に行えるということ。近年、企業の研究開発では、オープンイノベーションの重要性が求められており、自社の努力では解決できない研究開発上の課題に対して、社外から解決策を見つけ、研究開発を効率化するという動きが広がっています。 ● 研究開発のスピードアップ ● 自社では揃えられない研究リソースの活用 一方で、条件が整っていれば、従来通りのクローズ戦略もアリ、ということになります。 2015/12/21付 |日本経済新聞|朝刊 「オープン&クローズ」日本勢出遅れ 知財、管理部門ではダメ 「企業に優れた技術があっても事業に育つとは限らない。知財を含めた効果的な仕掛けを作れるかが岐路になる。  1997年5月、日立製作所の米国法人から米特許商標庁に1件の特許が出願された。病院の電子カルテに使う検索技術で、発明者はセルゲイ・ブリン氏ら。2001年に特許になったが、事業化されなかった。  当時、ブリン氏は日立の米国現法で働きながら、米スタンフォード大学に通っていた。その後、同大のラリー・ペイジ氏とグーグルを設立。創業時からオープン&クローズ戦略を推し進め、大成功を収めた。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 日本企業は、コツコツと自前の研究開発部門での研究を積みかねて、技術的優位性で市場における競争優位を築くことを勝利の方程式としてきました。この技術的優位性というのは、 1)先進的な製品固有のテクノロジーで、新奇性の高い製品を世にいち早く送り出す 2)生産技術を磨き、より安価で、相対的付加価値(機能価値÷製造コスト)を高める ことで、企業業績に貢献するものです。 「戦後に「安くて良い製品をつくる」ことで成功した日本企業は同戦略が苦手。トヨタ自動車が燃料電池車の関連特許を無償開放した事例が目立つ程度だ。  キヤノンで知財戦略を統括する長沢健一取締役は「知財担当役員を置く日本企業は珍しい」と嘆く。日本企業全体の国際競争力という観点からだ。日本で知財部門は長年、戦略部門ではなく管理部門とされてきた。  米国では知財担当役員が最高経営責任者(CEO)と会議に同席して戦略立案に携わる。こうした経営層や、戦略を提言できる中堅リーダー層が不足しており、人材の育成が急務だ。」 (下記は、同記事添付の日米の知財・事業戦略の違いイメージ図を転載) この記事では、要は、知財権を製品開発戦略、ひいては事業戦略に結びつける人材が日本企業には少ない、欧米を見習え、という筋書きで語られています。欧米企業がわざわざ知財権のオープン&クローズを語る必要があるのは、 1)研究開発部門の人材を含め、転職することが前提となっている雇用形態である 2)職務発明に対する権利関係が明確になっている   米国の場合)   ・特許法では、発明者個人に権利が帰属する   ・判例法および雇用契約で使用者側への帰属とでき、対価支払も制度化されている ことから、知財権そのものが商材として独立して管理されることが常態化しているからです。一方で、日本でも特許法の改正があり、職務発明における権利帰属について最初から使用者側への帰属とすることができる旨が定められましたが、従来は、研究者も含めて労使慣行上、終身雇用が前提で、研究開発者を生涯抱えることが通常であったため、オープンかクローズかすら問う必要にない状態での技術開発競争環境にありました。 研究開発担当者の転職やそれに伴う知識・スキルの社外流出が最近のイノベーティブな企業における一つの大きな課題となっています。 職務発明に関する最近の日本の法制度の改正状況については、下記リンクが分かりやすいと思いますのでご参考に、どうぞ! (参考) ● 職務発明制度について | 経済産業省 特許庁   ■ 知財権のオープン&クローズ戦略は、一筋縄ではいかない 前章で紹介した記事でも触れられていたトヨタの燃料電池車の特許一部公開は、新聞報道でも大々的に報じられていました。 2015/1/19付 |日本経済新聞|朝刊 トヨタ、燃料電池車特許を無償提供 普及加速と業界標準狙う 非公開技術の守り重要 2015/1/18付 |日本経済新聞|朝刊 (真相深層)無償公開、トヨタの計算 燃料電池車の全特許一斉開放 「秘中の秘」特許外、まず普及 このケースでは、トヨタ1社が燃料電池車の技術を抱えていても、トヨタが水素ステーションのインフラ整備をトヨタだけで賄うことはできない、さすれば、コア技術ではなく、水素ステーションのインフラ整備への参加意欲を掻き立てるにふさわしいだけの関連技術をオープンにして、トヨタ単独では難しい燃料電池車の市場拡大にビジネスチャンスを見出してもらいたい、という意図によるオープン戦略となります。トヨタは、コアである燃料電池車の製造技術はうまいこと抱え込み、インフラ整備部分だけオープンにして、水素ステーションへの設備投資を促し、燃料電池をキーテクノロジーとする「エコシステム」を形成して、燃料電池車ビジネスモデルを確立したいという訳です。 そう意味からも、ビックピクチャーを描いた上での「オープン&クローズ」を取捨選択することが肝要となります。   ■ 知財戦略は産学共同で。国際競争に打ち勝つことができる事業のために! 引き続き、知財戦略の動向を見ていきましょう。直近の盛り上がり状況を理解するために、1年ちょっと前の各社の危機感を伝える新聞記事の紹介から入りたいと思います。 2015/12/21付 |日本経済新聞|朝刊 強い事業づくり 知財戦略から 有力企業、東大と中堅社員を育成 国際競争で危機感 「日立製作所など有力企業が、知的財産戦略を事業に生かす中堅リーダーを育て始めた。舞台は東京大学の養成プログラム。単なる勉強ではなく、会社で抱える課題の解決を講師や他社の人々と一緒に考える独特の内容だ。欧米企業では常識となった、知財と事業の「オープン&クローズ戦略」の習得が目標だ。」 (下記は、同記事添付の東大養成プログラムの様子写真を転載) 「「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」。日立製作所の主任技師、小幡昇氏は3カ月前、職場の横浜事業所で若手技術者ら約40人を前に講義した。日本の電機メーカーが置かれている厳しい現状、欧米企業が進めた改革、自分たちはどうすべきかを討議した。  実は、この内容は小幡氏自身が5月から9月にかけて学んだ授業の「受け売り」だ。東大が今年始めた「知的資産経営戦略タスクフォースリーダー養成プログラム」。有力企業約20社が1人約100万円の授業料を払って、課長級約30人を送り込んだ。」 (下記は、同記事添付の養成プログラムに社員を派遣した会社リストを転載) 各社から派遣された技術者の声から。 ● 日立製作所 「各参加者は会社から具体的な任務を与えられ、授業に臨んでいる。講師も主宰者の渡部俊也教授(TOTO出身)をはじめ、妹尾堅一郎氏(旧富士写真フイルム出身)、小川紘一氏(富士通出身)など企業出身者が多い。座学だけでなく、チーム単位で課題解決を討議したりする。  日立の小幡氏は「いかに日本企業の知財戦略が欧米企業に遅れているか」を授業で知り、衝撃を受けた。日本企業で新製品や新サービスを考えるのは主として開発部門や事業部門。知財部門は新製品の概要が決まってから有利な特許を取る工夫をしてきたにすぎない。  「強い欧米企業は違う。会社の事業そのものに緻密な知財戦略を組み込みスタートする」(小川氏)。例えば米アップルのスマートフォン(スマホ)「iPhone(アイフォーン)」だ。端末の製造情報は外部に無償開放し、他社に中国での製造を委託している。一方、付加価値の高い心臓部の基本ソフト(OS)は知財で徹底的に守り、模倣は絶対に許さない。  グーグルは逆にスマホ用OS「アンドロイド」を他社に無償供給し、自らは多彩なスマホ向け事業で収益を上げる。こうしたオープン&クローズ戦略を自社のクラウド事業に組み込むことが、日立の小幡氏の任務。同戦略に精通した同志を育てるため社内講演を始めたというわけだ。」   ■ オープン&クローズ戦略の神髄とは? 『部門利益捨てる』 オープン&クローズ戦略の神髄は一部門の利益を捨て去ることで全社の利益を最大化することです。そのためならば、一部門をリストラしたり、管理職を減らしたりする必要も出てきます。そうした欧米企業のようなトップダウンか、全社合意を取り付けるプロジェクトチームを創出が必要となり、そうしたことを進めることができる中心人物を育てるのが、上記東大プログラムの目的となっています。 このプログラムに啓発されて、 「「これからは新規事業で、もうける仕組みを提案する」。帝人から参加した山田浩一氏は知財部の特許開発室長。これまでは「強い特許」を得ることを考えてきたが、プログラムを経て意識は一変した。今後は「強い事業」を考える会議にも出席、口を出すという。  例えば異業種と組むビッグデータ事業。どんな相手と提携し、どんなオープン&クローズ戦略を練るのかといった検討が極めて重要だ。山田氏は「知財部が主導し、新事業を検討する全社横断組織を2017年度中に立ち上げたい」と話す。」 こうした産学協同の取り組みを、東大は2016年度以降も続け、「日本企業のオープン&クローズ戦略を担える人材を継続的に生み出していく」(渡部教授)そうです。 ここまで、日本の知財権戦略としての、「オープン&クローズ戦略」の萌芽の様子をみてきました。後編では、最近の各社の動向を事例から見ていきましょう。 ⇒「オープンイノベーション、脱自前主義ビジネスモデルのメリットとは? -(後編)ダイキン、ソニー、仏トタル、アマゾン、バンダイナムコの事例を見る!」現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します