■ オープンイノベーション戦略が求められるようになった理由とは?
「オープンイノベーション」とは、自社だけでなく他社や大学、地方自治体、社会起業家などが持つ技術やアイデア、サービスなどを組み合わせ、革新的なビジネスモデルや革新的な研究成果、製品開発、サービス開発につなげるイノベーションの方法論のことをいいます(Wiki)。
オープンイノベーションが求められるようになったのは、
1)技術開発および市場競争環境の激化
2)イノベーションの不確実性の拡大
3)研究開発費の高騰(→研究資金確保の困難性)
4)株主から求められる短期的業績(→研究開発には時間がかかる、、、)
という背景があり、そのため、イノベーティブな企業は、大学や他社の技術ライセンスを受けたり、外部から広くアイデアを募集したりするなど、社外との連携を積極活用するオープンイノベーションをとる企業が増えてきています。 一般的には秘密保持契約(NDA)を結んだ共同開発や情報交換から入り、クロスライセンス、そしてオープンイノベーションへとつながっていくことが多くなっています。
⇒「オープンイノベーション、脱自前主義ビジネスモデルのメリットとは? -(前編) 知財権のオープン&クローズ戦略の復習。トヨタと日立の事例から」
■ 産学協同でこれまで技術蓄積ができていなかった領域を強化 - ダイキン
能書きはこれくらいにして、後は淡々と事例を紹介していきます。
2015/11/26付 |日本経済新聞|朝刊 未来の空調、大学と創る ダイキンが新開発拠点 専業トップ、「孤独」に危機感
「空調で世界一を目指すダイキン工業が技術開発に磨きをかける。25日、大阪府摂津市に新たな研究開発拠点「テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)」を開設した。大阪大学の専用研究室を設けるなどTICでは産学の連携を一段と強化。競合する電機大手に水をあけられたICT(情報通信技術)など技術開発の欠けていたピースを穴埋めし、未来の製品づくりを加速する。」
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
ダイキンによるTICへの投資額は380億円。当初計画から80億円上積みしました。マイナス35度から60度まで世界各地の気候を再現できる装置や機械が発する電磁波を測定する「電波暗室」など最新鋭の設備をそろえました。こうしたダイキンが巨額の経営資源をTICに投じた背景には強い危機感がありました。
(下記は、同記事添付の電波暗室の写真を転載)
ダイキンの主力の業務用エアコンは、世界各地で米ユナイテッド・テクノロジーズや日立製作所などと競合しています。いずれも、エレベーターから照明までの幅広い事業分野を強みにビル全体の電力制御を得意とする重電メーカーで、家庭用エアコンで競り合うパナソニックなど家電大手は家全体の消費電力の抑制を前面に打ち出してきています。
磁石の最適な組み合わせが問われるモーター、モーターをセンサーなしで制御するインバーター技術など、ダイキンが持つ専業メーカーのコア技術は今のところ盤石。業務用エアコンの複雑な配管に適量・適温の冷媒を流す技術は「社内の暗黙知であり、トップ技術者を引き抜かれても他社にまねできない」とベテラン技術者は胸を張れる状況です。
しかし、
1)
空調専業ゆえに技術領域が限られたダイキンは「すべて自前主義では対応できない。コア技術に外部の技術を組み合わせ成果創出をスピードアップする」(十河社長)必要に迫られた。
2)
あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」への対応は空調機器でも不可避の課題だ。電機大手に先行されたこの分野について、十河社長は「リスクでもあり、チャンスでもある。新しい空調の使い方を提案することで巻き返す」と話す。
(下記は、同記事添付の代金が取り組む研究開発テーマリストを転載)
■ 試作品公開により外部の研究者に門戸を開く。資金集めも - ソニー
2016/3/4付 |日本経済新聞|朝刊 ソニー、試作品に外部の知恵 脱「自前主義」を加速 まずウエアラブル端末
「ソニーは開発初期段階の試作品を公開し、外部の研究者や企業と連携しながら商品化する取り組みを始める。技術の多様化と細分化が進む中、自社だけでは利用者の需要をくみ取りにくくなっている。研究開発に外部の異なる視点を取り入れ、携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」やゲーム機「プレイステーション」のような大型ヒット商品の開発につなげる。」
「「フューチャー・ラボ・プログラム」と呼ぶ名称で、外部との連携に乗り出す。オープンイノベーションの一種だが、ソニーが中・長期的な観点で基礎研究している要素技術を盛り込んだ試作品を公開するのは初めて。」
(下記は、同記事添付のソニーの初期段階からの外部知見を得ようとする取り組みイメージ図を転載)
ソニーは、自社だけで研究開発する手法は既に修正し、米投資育成ファンドのWiL(カリフォルニア州)と組みスマートフォン(スマホ)で開閉する鍵を開発・販売するなどの成果を出しています。今回は、既存技術を用いた連携にとどまらず、さらに上流での連携にまで踏み込む決断をしました。まず米テキサス州で今月中旬から開かれるビジネスイベントで開発中のウエアラブル端末の試作品を公開し、外部の企業や技術者、一般ユーザーからアイデアや技術協力を募るそうです。
「ソニーは年間4000億~5000億円規模の研究開発費を投じている。ただ、近年は大型のヒット商品が生まれにくくなっている。研究開発に外部の視点を積極的に取り入れることで、かつての勢いを取り戻す考えだ。」
(下記は、同記事添付のソニーの研究開発費推移グラフを転載)
さらに、研究開発資金の獲得に向けて、ソニーは、昨今流行の、
「ソニーは新規事業のアイデアを公開し、商品化の是非を消費者に問うクラウドファンディングサイトを昨年7月に立ち上げるなど、企業だけでなく個人との連携も進めている。」
クラウドファンディングによる個人からの小口の開発応援資金を募る手法にもトライしています。ソニーの先進性は技術だけでなく、こうした会計技法においてもいつも驚かされます。カンパニー制しかり、トラッキングストックしかり。畏敬の念を込めて、偉大なモルモット企業と呼ばさせて頂きます。(^^;)
■ 知的財産の二次利用開放もオープンイノベーションではないでしょうか? - バンダイナムコ
イノベーションというと、なにか、メカトロやエレキだけの世界というイメージがありますが、本質的には、やり方の先進性(=プロセス・イノベーション)や、知的財産の有効活用も広くその定義に入れてもよいのではないでしょうか?
2016/4/4付 |日本経済新聞|朝刊 ゲーム・コミック 二次利用どうぞ 許諾の門戸広く、戦略変化 バンダイナムコ 「創作」募集、対価得る
「コミックやゲームなど商業コンテンツの知的財産を利用許諾する手法に変化が生じている。共通するのは利用へのハードルを下げ、できるだけ多く使ってもらうことで有形無形の対価を得ようという戦略だ。わかりやすい利用規約づくりなど、いわゆる「開放」に伴うリスクコントロールにも知恵を絞る。」
(下記は、同記事添付のバンダイナムコの知財を使い、即興で二次創作ゲームを作るイベント写真を転載)
「バンダイナムコエンターテインメントは昨年4月、自社ゲームの知財を広く一般に開放する「カタログIPオープン化プロジェクト」を始めた。主な対象は「パックマン」や「ゼビウス」など1980年代の人気17タイトル。今年4月からは2000年代発売の4タイトルも追加した。スマートフォン(スマホ)向けアプリ(応用ソフト)や電子書籍などの「二次創作」に、ゲームのキャラクター、音楽、設定などを使えるようにした。」
ゲームはコミックやアニメ同様、ファンが原作の音楽や設定などを基に新たな作品を作る二次創作が盛んです。例えば、同人誌など、プロの漫画家(メジャー雑誌で連載を持っている人を指す)でも、並行して同人誌を出したりしています。インターネット上には、そうした作品が数多く無断公開されていますが、悪質でなければ黙認することが多く、「いっそのこと正式に開放したらどうか」(同プロジェクト責任者の桝井大輔氏)と思いついたそうです。
(下記は、同記事添付のバンダイナムコのビジネスモデル図を転載)
例えば、クリプトン・フューチャー・メディアから発売されている音声合成・デスクトップミュージック(DTM)用のボーカル音源、およびそのキャラクターである「初音 ミク」は、その世界(そうです、オタクのね!)で人気が非常に高く、二次創作物の頒布のため「ピアプロリンク[35]」という仕組みが提供されています、また、日本以外の利用者への対応のため、2012年12月に公式キャラクターイラストのクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのCC BY-NC 3.0(表示 – 非営利 3.0)でのライセンスも行われたほどです。
バンダイナムコの話題に戻ります。
「利用したい企業や個人は同社に申請する必要はあるが、公序良俗に反する内容でなければ原則、審査を通過する。ファンが無断で二次創作することをある程度抑止できるほか、ベンチャー企業など新規の需要も開拓できた。応募件数はすでに300件超という。
ゲームアプリなど約40作品が公開された。格闘ゲームを基に恋愛ゲームが作られるなど斬新な企画が続出。二次創作物が有料コンテンツなら売上高の12%、無料なら広告を付け、広告収入の50%を対価として徴収する。
利用規約も整えた。自社で制御できる余地を残すため、二次創作された作品の権利は全てバンダイナムコに帰属させる。同社が使う場合は二次創作者に報奨金を払う。規約にはルールを平易に説明した文章を冒頭に表示する配慮もした。」
■ コンペで自社用ロボ開発のアイデアを募る! - 仏トタル、米アマゾン
2016/4/5付 |日本経済新聞|朝刊 自社用ロボ開発、コンペで 実用化の時間・コスト圧縮 トタルは災害を最小に、アマゾンは商品の仕分け
「自社で使うロボットの開発・技術向上を競技会(コンペ)形式で進める欧米企業が増えている。石油大手の仏トタルは洋上基地の災害対応で、米アマゾン・ドット・コムは物流拠点の効率化を目的にそれぞれ年内に競技会を開く。特定メーカーに委ねず世界中から技術を集めることで、開発期間を短縮しコストも圧縮して実用化に結びつけるのが狙いだ。」
(下記は、同記事添付の米アマゾンが昨年初開催したロボット競技会の写真を転載)
● 仏トタル
「トタルは石油や天然ガスを掘削する洋上基地で、災害を最小限に食い止めるロボットの導入を目指している。火災などの発生時に可燃物質の漏洩部を探し、バルブを閉めるといった作業を担う。巨額の損失につながりかねない原油流出は、「初動が肝心だが人には危険なエリアが多い」(業界関係者)ためだ。」
(下記は、同記事添付の各社のコンペ実施状況を転載)
「既に審査が始まっており、今年中に競技会を複数回開き2017年初めまでに優勝者を決める。各チームには最大60万ユーロ(約7600万円)の予算のほか、優勝賞金50万ユーロが別途与えられる。」
「自動車や電気機械など量産現場のロボット技術は既に確立された。次世代のロボットは人のように柔軟に動き、人とともに働くものが求められている。機械工学から人工知能(AI)まで広範な知見が必要で単独での開発は難しくなっている。」
トタル は、フランスのパリに本部を置く民間の総合石油エネルギー企業。 国際石油資本であり、スーパーメジャーと呼ばれる6社の内の一社ですが、ロボット開発はさすがに門外漢。外に知見を求めようということ。抱えた従業員の力量で何とかしようとすると、時間がかかり、かつ雇用した人材は、ほぼ固定費ですからね。万が一の撤退時の撤退コストもバカにならないのです。こうした取り組みは、不確実性の高い事業化についての、初期投資コスト(改修されるべき固定費含む)を低減させるので、経済合理性にも適っています。
●米アマゾン
「ネット通販の巨人アマゾンもそうした壁にぶつかっている。同社は12年にロボットベンチャーの米キバ・システムズを買収、注文に応じて商品保管棚を発送作業場まで自動移動する仕組みを構築した。しかし、その先の複雑な仕分けは手作業のまま。そこで昨年5月に米シアトルで棚から商品を選び出す作業をテーマにロボットコンペを初めて開いた。米欧などの研究機関・企業の約30チームが参加、日本勢では三菱電機などが出場した。」
『基盤技術は公開』
「アマゾンはコンペで集まった技術を「オープンソース」として公開する。資金を投じて集めたノウハウをただで披露するのは、基盤技術として取り入れてもらい、次回の競技会のレベルを一気に高める狙いがある。」
ITの世界ではおなじみの「オープンソース化」。基盤技術を公開し、その上の業務(個別)アプリケーション開発に、多くの参加者を誘導する。するとそこに大きな経済圏(エコシステム)が誕生します。その基盤を握った企業、その基盤でサービスを展開し、広く消費者を呼び込みたい企業は、規模の利益を享受することができます。これは、前編でも触れた、トヨタの水素ステーションへのインフラ投資を促進し、自社の燃料電池車の市場を一気に拡大しようという意図と同一線上にある戦略となります。
「ロボットの競技会はこれまで学生向けの学術目的が主流だった。しかし、産業用などロボットメーカーに発注するより、世界の先端技術が広く、早く集まることから、実用化までの時間とコストを圧縮できる点に企業が目を付けた。積み上がった成果のうち現場に導入する際の自社特有の「味付け」にあたる技術は非公開にしたり、特許を取得したりすることで独自性も確保する。」
・研究開発のスピードアップ
・社外の研究リソースの有効活用
・自社に有利なエコシステムの構築
・不確実性・リスクの高い事業化のハードルを下げる など、
脱自前主義のメリットを享受するための各社各様の「オープンイノベーション」の事例を紹介いたしました。ご参考ください。
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