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■ 国際会計基準(IFRS)適用会社が100社を超えようとしています!

経営管理会計トピック

とうとうIFRS適用(予定含む)会社が、100社を超えました。新聞記事の分析を読み込み、また東証の発表から業種別の導入分布を確認し、導入理由を探ってみたいと思います。

2016/2/16付 |日本経済新聞|朝刊 国際会計基準の導入、100社超える

「日本企業で国際会計基準(IFRS)の導入が広がっている。住友ゴム工業、ダンロップスポーツ、アウトソーシングの3社が新たに導入を発表、導入済み企業と導入予定の企業を合わせて102社となり、100社を突破した。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「日本の会計基準には主に日本基準、米国会計基準、IFRSの3つがある。IFRSは10年3月期から可能となった。」

すみません。水を差すようで悪いんですが修正IFRSはどこに行ったんでしょうか?

2015/6/30付 |日本経済新聞|朝刊 企業会計基準委、修正国際基準を決議 16年3月期導入 「第4のルール」混乱も

修正国際基準公表 – 企業会計基準委員会:財務会計基準機構
https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/endorsement/jmis/20150630.shtml

全く、企業から相手にされていないようですね。

再び、上記記事に戻ります。

「国内の上場企業の9割超が現在も日本基準を採用しているが、「海外の同業と同じ基準で業績を比較できる」(電通の中本祥一副社長)などの理由で、グローバル企業を中心にIFRSも徐々に増えている。」

積極的な資金調達の意味合いが無く、グループ内の海外子会社を同列で評価できるという社内の管理会計目的で導入する是非については、次の過去投稿をご参考ください。

⇒「国際会計基準IFRSが変える(上)グループ経営のインフラに 共通モノサシ、内需企業も

同記事での導入理由として、
「M&A(合併・買収)の際に発生する「のれん」の償却費用が必要でないことも導入を後押ししている。」

そして導入業種の特徴として、
「商社や医薬品、サービスなどの業種で国際会計基準の採用が目立つ。規模の大きい会社が多く、採用企業の時価総額を合計すると株式市場全体の約2割を占めている。
 ただ業種別に見ると電力や銀行の採用が1社もなく、業種の広がりが今後の課題となりそうだ。」

つまりですね、M&Aを実施した場合に発生する多額の「のれん」を定期償却して、P/L上の費用にするのが惜しいと思う、M&A多用会社が多く属する業種でIFRS導入が多くみられるということらしいですね。

■ 国際会計基準(IFRS)適用会社を調べてみました

最新の適用会社一覧表を作成してみました。

IFRS適用済・適用決定会社一覧 | 日本取引所グループ
http://www.jpx.co.jp/listing/stocks/ifrs/

2016年2月現在のIFRS適用会社一覧

どうでしょうか。JTやファーストリテイリング、サントリー食品インターナショナルなど、海外M&Aを活発にしている企業や、総合商社などは当然リスト入りしています。日本での上場企業数は、3505社(2016年2月現在)ですので、そのうちの102社(予定含む)ということになりますと、導入比率は約2.9%。まだそんなに一般的になっているとは言い難い状況です。

日本では、当然①日本基準、②米国(SEC)基準、③IFRS、④修正IFRSが認められており、②の米国基準適用会社は、現在20数社で、そのうち数社はIFRS移行を表明しておりますので、ほとんどの企業はまだ日本基準でのディスクロージャーということになります。

それでは、業種別の分布をみてみましょう。

2016年2月現在のIFRS適用会社業種別リスト

導入会社数順ですと、
1位:電気機器 17社
2位:サービス業 10社
2位:医薬品 10社
4位:情報・通信業 9社
4位:輸送用機器 9社

となります。これだけでは、何のインサイトも得られません。そこで、業種別の海外売上高比率が高いと、マーケットも国外が中心であることから、

① 海外顧客からの注目・信用を集めることが大事である
② 海外の投資家からの資金調達もやりやすくすることを狙う

というグローバル企業のステレオタイプ的なペルソナを決めて、この仮説に基づいて、業種別のIFRS導入傾向に切り込んでみたいと思います。

下表は、海外売上高比率(2009年度)と、IFRS適用(予定)会社数(2016年2月)を一覧したものです。

20160225_業種別海外売上高比率とIFRS適用割合の比較

このままだと数字の羅列で、相対的なポジショニングが分かり肉と思われるので、これを散布図に展開してみました。ちなみに、「海外売上高比率」と「IFRS導入(予定)会社数」の相関係数をとってみましたが、結果は「0.173」とほぼ無相関となり、統計学的にはなんら法則性が無いとの結論になりました。

20160225_業種別海外売上高比率とIFRS適用割合の相関グラフ

とはいえ、漫然とでも散布図を眺めていると、なんとなく右肩上がりのようには見受けられます。まだサンプル数が少ないので、統計学的には有意な差が出ていないだけで、海外マーケット(財・サービス市場、労働市場、資本市場)へのアピールに、IFRSを適用しているというのは、効果があると思われているのかもしれません。

そして、どうしても異常値を確認することで、その傾向の裏にある真意を探るという分析手法をとらざるを得ません。そこで、海外比率が高い「海運業」「空運業」がなぜIFRS適用に積極的でないか、痛くもない腹を探ってみたいと思います。すぐに思いついたが、固定資産の減価償却方法。IFRSは、「定額法」と償却方法を明示はしていませんが、「定率法」を採用するときには、その経済合理的な説明を求めてきます。そこで、IFRSは「定率法」が嫌いというレッテルが貼られているのですが。。。日本航空、ANAホールディングス、日本郵船、商船三井の有価証券報告書を確認したところ、一部例外がありますが、主な航空機、船舶についてはほぼ「定額法」を採用しており、減価償却方法にこだわってのIFRS嫌いという仮説はここに棄却されます。

しかし、IFRSを採用すると、
① 耐用年数:税法基準ではなく、経済的耐用年数を採用すべし。しかも毎年見直す
② 取得後の測定:「原価モデル」と「再評価モデル」の選択適用で、後者の場合は、期末ごとに、公正価値評価(すなわち時価評価)をすることになる
③ 計算単位:日本基準ではジェット機まるごと取得単位でOKだが、ボデイ・内装部品・エンジンなどの構成要素に分解できるものはその要素ごとに経済的耐用年数を見積もる必要がある

という違いが生じます。だとすれば、①③あたりに、有形設備を多く有している「海運業」「空運業」が、IFRS適用にしり込みする理由があるのかもしれません。

では一方で、大きく情報乖離している「医薬品」はどうでしょうか。これはズバリ、IFRS適用になると、大きく2つの理由で、損益計算書(P/L)で表示される期間損益が大きく見せられることがその真因ではないかと簡単に推察できます。

IFRSを適用すると、
① M&A時に発生した「のれん」は定期償却せずに、期末ごとに減損テストにかける
② 研究開発費:将来の販売可能性など、一定の要件を満たした場合の開発費用について無形資産として貸借対照表に計上できる

という点から、日本基準と比べて圧倒的に期間損益を表示上大きく見せることができます。これは、「医薬品」が大型M&Aを積極的に行っていること、多額の研究開発費を負担していること、この業界特性にピタリと当てはまります。

(筆者もこの業界に属するクライアントのコンサルティングに入って、経営管理制度構築のお手伝いをしたことがありますが、管理会計用のP/L上の段階利益で、「のれん償却前利益」という項目が盛り込まれた管理帳票をデザインしたことがありました)

本ブログを続けて読んで頂いている読者にはすでにお分かりでしょうが、筆者の見解として、自家創設のれんの混入が回避できないこともあり、そして会計学の一学究の徒として、「保守主義の原則」「継続性の原則」の観点から、恣意性の入りやすい「減損テスト」の信頼性を低く評価していますので、なんでもB/S計上して、損失発生を先送りまたはなかったことにする会計処理には反対の立場です。

自社の実力を測定する基準自体を4つの中から選べる状態、これが正常な状態であるか、皆さんの常識に問いたいところです。健康診断や体力測定で、自分に有利な測定方法を選べるとしたら、、、そんな診断結果にどんな意味があるのでしょう???


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国際会計基準の導入、100社超える -ここで業種別の分布からIFRS導入の傾向を探ってみる!http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭実務で会計ルールをおさらいM&A,IFRS,国際会計基準,継続性の原則,のれん,減損テスト,修正国際基準,自家創設のれん,保守主義の原則■ 国際会計基準(IFRS)適用会社が100社を超えようとしています! とうとうIFRS適用(予定含む)会社が、100社を超えました。新聞記事の分析を読み込み、また東証の発表から業種別の導入分布を確認し、導入理由を探ってみたいと思います。 2016/2/16付 |日本経済新聞|朝刊 国際会計基準の導入、100社超える 「日本企業で国際会計基準(IFRS)の導入が広がっている。住友ゴム工業、ダンロップスポーツ、アウトソーシングの3社が新たに導入を発表、導入済み企業と導入予定の企業を合わせて102社となり、100社を突破した。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「日本の会計基準には主に日本基準、米国会計基準、IFRSの3つがある。IFRSは10年3月期から可能となった。」 すみません。水を差すようで悪いんですが修正IFRSはどこに行ったんでしょうか? 2015/6/30付 |日本経済新聞|朝刊 企業会計基準委、修正国際基準を決議 16年3月期導入 「第4のルール」混乱も ● 修正国際基準公表 - 企業会計基準委員会:財務会計基準機構 (https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/endorsement/jmis/20150630.shtml) 全く、企業から相手にされていないようですね。 再び、上記記事に戻ります。 「国内の上場企業の9割超が現在も日本基準を採用しているが、「海外の同業と同じ基準で業績を比較できる」(電通の中本祥一副社長)などの理由で、グローバル企業を中心にIFRSも徐々に増えている。」 積極的な資金調達の意味合いが無く、グループ内の海外子会社を同列で評価できるという社内の管理会計目的で導入する是非については、次の過去投稿をご参考ください。 ⇒「国際会計基準IFRSが変える(上)グループ経営のインフラに 共通モノサシ、内需企業も」 同記事での導入理由として、 「M&A(合併・買収)の際に発生する「のれん」の償却費用が必要でないことも導入を後押ししている。」 そして導入業種の特徴として、 「商社や医薬品、サービスなどの業種で国際会計基準の採用が目立つ。規模の大きい会社が多く、採用企業の時価総額を合計すると株式市場全体の約2割を占めている。  ただ業種別に見ると電力や銀行の採用が1社もなく、業種の広がりが今後の課題となりそうだ。」 つまりですね、M&Aを実施した場合に発生する多額の「のれん」を定期償却して、P/L上の費用にするのが惜しいと思う、M&A多用会社が多く属する業種でIFRS導入が多くみられるということらしいですね。 ■ 国際会計基準(IFRS)適用会社を調べてみました 最新の適用会社一覧表を作成してみました。 ● IFRS適用済・適用決定会社一覧 | 日本取引所グループ (http://www.jpx.co.jp/listing/stocks/ifrs/) どうでしょうか。JTやファーストリテイリング、サントリー食品インターナショナルなど、海外M&Aを活発にしている企業や、総合商社などは当然リスト入りしています。日本での上場企業数は、3505社(2016年2月現在)ですので、そのうちの102社(予定含む)ということになりますと、導入比率は約2.9%。まだそんなに一般的になっているとは言い難い状況です。 日本では、当然①日本基準、②米国(SEC)基準、③IFRS、④修正IFRSが認められており、②の米国基準適用会社は、現在20数社で、そのうち数社はIFRS移行を表明しておりますので、ほとんどの企業はまだ日本基準でのディスクロージャーということになります。 それでは、業種別の分布をみてみましょう。 導入会社数順ですと、 1位:電気機器 17社 2位:サービス業 10社 2位:医薬品 10社 4位:情報・通信業 9社 4位:輸送用機器 9社 : となります。これだけでは、何のインサイトも得られません。そこで、業種別の海外売上高比率が高いと、マーケットも国外が中心であることから、 ① 海外顧客からの注目・信用を集めることが大事である ② 海外の投資家からの資金調達もやりやすくすることを狙う というグローバル企業のステレオタイプ的なペルソナを決めて、この仮説に基づいて、業種別のIFRS導入傾向に切り込んでみたいと思います。 下表は、海外売上高比率(2009年度)と、IFRS適用(予定)会社数(2016年2月)を一覧したものです。 このままだと数字の羅列で、相対的なポジショニングが分かり肉と思われるので、これを散布図に展開してみました。ちなみに、「海外売上高比率」と「IFRS導入(予定)会社数」の相関係数をとってみましたが、結果は「0.173」とほぼ無相関となり、統計学的にはなんら法則性が無いとの結論になりました。 とはいえ、漫然とでも散布図を眺めていると、なんとなく右肩上がりのようには見受けられます。まだサンプル数が少ないので、統計学的には有意な差が出ていないだけで、海外マーケット(財・サービス市場、労働市場、資本市場)へのアピールに、IFRSを適用しているというのは、効果があると思われているのかもしれません。 そして、どうしても異常値を確認することで、その傾向の裏にある真意を探るという分析手法をとらざるを得ません。そこで、海外比率が高い「海運業」「空運業」がなぜIFRS適用に積極的でないか、痛くもない腹を探ってみたいと思います。すぐに思いついたが、固定資産の減価償却方法。IFRSは、「定額法」と償却方法を明示はしていませんが、「定率法」を採用するときには、その経済合理的な説明を求めてきます。そこで、IFRSは「定率法」が嫌いというレッテルが貼られているのですが。。。日本航空、ANAホールディングス、日本郵船、商船三井の有価証券報告書を確認したところ、一部例外がありますが、主な航空機、船舶についてはほぼ「定額法」を採用しており、減価償却方法にこだわってのIFRS嫌いという仮説はここに棄却されます。 しかし、IFRSを採用すると、 ① 耐用年数:税法基準ではなく、経済的耐用年数を採用すべし。しかも毎年見直す ② 取得後の測定:「原価モデル」と「再評価モデル」の選択適用で、後者の場合は、期末ごとに、公正価値評価(すなわち時価評価)をすることになる ③ 計算単位:日本基準ではジェット機まるごと取得単位でOKだが、ボデイ・内装部品・エンジンなどの構成要素に分解できるものはその要素ごとに経済的耐用年数を見積もる必要がある という違いが生じます。だとすれば、①③あたりに、有形設備を多く有している「海運業」「空運業」が、IFRS適用にしり込みする理由があるのかもしれません。 では一方で、大きく情報乖離している「医薬品」はどうでしょうか。これはズバリ、IFRS適用になると、大きく2つの理由で、損益計算書(P/L)で表示される期間損益が大きく見せられることがその真因ではないかと簡単に推察できます。 IFRSを適用すると、 ① M&A時に発生した「のれん」は定期償却せずに、期末ごとに減損テストにかける ② 研究開発費:将来の販売可能性など、一定の要件を満たした場合の開発費用について無形資産として貸借対照表に計上できる という点から、日本基準と比べて圧倒的に期間損益を表示上大きく見せることができます。これは、「医薬品」が大型M&Aを積極的に行っていること、多額の研究開発費を負担していること、この業界特性にピタリと当てはまります。 (筆者もこの業界に属するクライアントのコンサルティングに入って、経営管理制度構築のお手伝いをしたことがありますが、管理会計用のP/L上の段階利益で、「のれん償却前利益」という項目が盛り込まれた管理帳票をデザインしたことがありました) 本ブログを続けて読んで頂いている読者にはすでにお分かりでしょうが、筆者の見解として、自家創設のれんの混入が回避できないこともあり、そして会計学の一学究の徒として、「保守主義の原則」「継続性の原則」の観点から、恣意性の入りやすい「減損テスト」の信頼性を低く評価していますので、なんでもB/S計上して、損失発生を先送りまたはなかったことにする会計処理には反対の立場です。 自社の実力を測定する基準自体を4つの中から選べる状態、これが正常な状態であるか、皆さんの常識に問いたいところです。健康診断や体力測定で、自分に有利な測定方法を選べるとしたら、、、そんな診断結果にどんな意味があるのでしょう???現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します