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国際会計基準IFRSが変える(上)グループ経営のインフラに 共通モノサシ、内需企業も

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 安易な管理基準の統一は逆に「臭いものに蓋」にならないように!

経営管理会計トピック

世間では、IFRS(国際会計基準)採用によるグローバルでの会計基準の統一で、グループ企業の管理がやりやすくなる、という声が標準となっています。グローバル製造業の管理会計に長年携わってきた筆者からひとつ注意事項を。

2015/10/9付 |日本経済新聞|朝刊 国際会計基準IFRSが変える(上)グループ経営のインフラに 共通モノサシ、内需企業も

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「経営を変える手立てとして企業が国際会計基準(IFRS)を使いこなし始めた。時価総額ベースで2割の日本企業が世界各地で同じルールを用いて、M&A(合併・買収)や業績管理の効率を引き上げようとしている。狙い通りの効果は得られているのか。変化の現場を追う。」

今さらながら、IFRSの定義が載っていたので、念のため確認します。

「▼IFRS(国際会計基準) International Financial Reporting Standardsの略。国際会計基準審議会(ロンドン)が定める会計基準。2005年に欧州連合(EU)が域内の上場企業に適用し、現在100カ国以上で使われている。日本では10年から任意で使えるようになった。」

というわけで、日本でもIFRS採用企業が増えてきています。
(下表は、新聞記事添付のチャート)

IFRSを採用する企業数_日本経済新聞朝刊_20151009

通常は、資本市場のグローバル化から、世界で共通の会計基準で財務報告をすることで、海外投資家からの資金調達を容易化するためのIFRS導入と思いきや、経営者の動機は少し違うところにあるようです。
(下表は、新聞記事添付のチャート)

IFRSを導入する理由_日本経済新聞朝刊_20151009

経営管理に役立つ(29社)、比べやすくなる(15社)、業績の適切な反映(6社)と、社内の経営管理目線での導入理由が50社、海外投資家に説明しやすい(6社)、資金調達の円滑化(5社)と、従来意識されていた導入理由は11社と、大きく、財務管理目線での理由が後れを取っている感があります。

■ 耐用年数の統一は、税務申告との差異を大きくするのですが、、、

記事では、「各国の耐用年数統一」が経営管理基準の統一施策の一例として、花王の例を引いて解説されています。

「「業績評価はどうなるのか」「予算は変わるのか」――。今夏に花王グループが世界各地を結んで開いた電話会議。海外子会社のトップから矢継ぎ早に質問が飛んだ。花王は2016年12月期からIFRSに替えるのを機に、各国でバラバラだった生産設備の耐用年数を統一する。この方針が波紋を呼んだ。
 企業は設備にかけた投資額を毎期、耐用年数に応じて費用(減価償却費)とする。短ければ毎期の費用負担は重く利益にはマイナス、長ければ軽くなり利益にプラスになる。花王では7~12年と幅があり、紙おむつや洗剤など品目によって違うこともあった。子会社にとっては利益計画に影響するだけに無関心ではいられない。
 基準は「原則、グループ内は同じルール」だが耐用年数の統一まで求めていない。それでも花王が踏み込むのは狙いがある。「コストの基準を一つにして各地の投資リターンを正確に測り、適切な経営判断につなげる」(青木和義執行役員)。グループ経営のインフラとして使う試みだ。」

この事例を読んで、読者の方は、本当にグループ各社を横並びでひとつの基準で比較可能になり、地域別の事業投資(いわゆる経営リソースの最適分配)に関する意思決定がより効果的に行うことができると自信をもって言うことができますか?

恐らく、期間損益計算のフレームワークの中で、特に「営業利益」までの段階利益で、投資意思決定をするのなら、耐用年数の統一(減価償却費の計上処理の統一)だけで用が済むのかもしれません。しかし、現実の世はそれを許してくれません。

■ 「損益」と「キャッシュフロー」のはざまで - 「税効果会計」もいるよ!

経営者は、損益計算書(P/L)のボトムラインまで見なくても、売上から営業利益まで、理解しやすい項目だけで、意思決定ができるようになるので、極めて分かりやすく、シンプルに考えることができます。したがって、このような費用収益の計上基準の統一を歓迎するのでしょう。

しかし、一言加えさせて頂くなら、事業への投資意思決定は、「キャッシュフロー」と「税務」を見逃していては、本当の採算は見えてきません。「グローバル経営に王道は無し」と、あえて強調させて頂きます。

というのは、結局、各国の税法で決められた耐用年数での償却を、税務申告上は必須で実施しなければならず、税務申告書の記載する各固定資産の減価償却額を、細かい事業管理用のセグメントや事業部ごとに再配分して、経営者にレポートすることは、実務上非常に困難になります。見かけ上、会計基準は統一し、発生主義で減価償却費を捉えても、キャッシュフロー(当期の法人税としての現金支払額)との差異を管理会計セグメントの粒度で認識する二重管理は、およそ、どんなに精勤な経理マンでも敬遠することになると思います。

これは、当然、設備投資をする会計期に、イニシャルなキャッシュアウトがある上、さらに後続の期間にわたっても、法人税というキャッシュアウトをずっと追っかけていく必要があることを指して言っています。

そもそも、中長期にわたる事業投資の採算性や回収可能性は、キャッシュベースで考えるべきで、その領域では、発生主義による期間損益フレームワークは、ある決まり事の中での結果しか示してくれません。「会計」と「税務」の間に横たわっている「税効果会計」を理解し、「当期純利益」(これでもまだ、包括利益の前ですよ!)ベースで、各国の事業を評価してほしいものです。

管理会計では、
① 発生主義による「期間損益計算」
② 税法による「所得計算」
③ 純現金収支による「キャッシュフロー計算」
の3つを縦横無尽に使い倒す必要があります。

その基本中の基本の考え方は、下記の過去投稿記事を参考にしてください。
⇒「管理会計的に『儲け』を測る(1)
⇒「管理会計的に『儲け』を測る(2)

■ B/Sには、「資産」の他に「資金調達コスト」もあるよ!

会計的支出(減価償却費)の計上基準を統一したところで、片手落ちであることも付け加えさせていただきます。当然、事業投資するには、お金が必要です。そのお金の調達コストはどうやって管理していますか? そもそも、通貨は何建てで銀行借入するのか、社債や株式で資金調達する市場は世界のどこなのか? いわゆる資本コストまで統一しないと、本当に、グループ内で各管理セグメントの採算性(この時は、資本採算性となる)は明らかになりません。

調達資金コストを上回る収益を上げてこそ、ビジネスは本当の意味で儲かったといえるのです。そこには、資金調達する市場における金利の違い、外国為替間の換算レートの変動、グローバルに事業採算管理するには、もっと多くのパラメータを管理する必要があります。耐用年数だけ揃えても、自己満足に終わるでしょう。

筆者には、「敵がやってきたら地面に首を突っ込んで、敵がいないものと思いこむダチョウ」と、このような会計基準の統一でグローバル経営ができると思い込んでいる経営者がダブって見えます。

(本当の学説では、ダチョウは、敵が近づくと、敵の様子をうかがうために、地面の振動を確認しようとして首を地面に着ける動作から、上記のようなバカにされる例の引き合いに出されるとのこと。ダチョウさん、可哀想!!)



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