役員報酬、広がる現物株 一定期間は「譲渡制限」/業績に連動も 株数算定透明化が課題

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■ 株主と役員の利益相反を防ぐために、役員も株主にしてしまおう!

経営管理会計トピック

株式会社は、株主が出資して会社を設立し、経営者を雇って実際の経営に当たらせるガバナンス形式を採っています。ここに、「プリンシパル・エージェント問題」(=委託者と受託者の利益相反問題)が構造的に株式会社経営で回避できない根源的な原因がありました。役員報酬に自社株を用いることで、この利益相反を回避しようと法整備がなされ、現物株支給が広がっている、そういう記事になります。

(同テーマの過去投稿記事)
⇒「自社株報酬制度の基礎(1)役員報酬を自社株で。その意義と日本企業を取り巻く経営環境を考える
⇒「自社株報酬制度の基礎(2)株式報酬高め役員挑戦促す 中長期の視野で成長狙う 欧米では社会貢献も評価
⇒「自社株報酬制度の基礎(3)ストックオプションと株式報酬制度の違い - プリンパル・エージェント問題にまで思いを馳せて
⇒「役員報酬、成長戦略に連動 資生堂は業績を時間差で評価 アステラス製薬、信託方式で動機付け
⇒「株で役員報酬、広がる 中長期の業績で評価 伊藤忠やリクルート、230社
⇒「厳密にはESOPでは無いけれど、株式所有や株価連動で従業員(役員含む)のモチベーション向上の具体策を見てみよう!
⇒「役員も従業員も報酬制度次第でモチベーションが変わります! 日本経済新聞より

主なものでこれだけ。いかに本テーマに筆者が関心を持っているのかを改めて実感しております。(^^;)

2017/4/3付 |日本経済新聞|朝刊 役員報酬、広がる現物株 一定期間は「譲渡制限」/業績に連動も 株数算定透明化が課題

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「役員報酬として現物株を支給する企業が増えている。「譲渡制限付き株式」が昨春解禁されたためだ。付与時点から株主の権利が得られるので、役員らの株価への意識を高め、中長期の業績を向上させる意欲を引き出しやすい。お手盛りの支給にならないよう、付与する株数の算定方式などを開示し、株主がチェックできるようにすることも必要だ。」

従来は、役員の自社株取得は何かと「インサイダー取引」禁止目的で縛りがきつく、開示制度や会社法、税法など、関連ルールもどちらかというと自社株報酬には消極的だったものが、2014年に始まったコーポレートガバナンス改革から一気に風向きが変わってきました。

 

■ 各社の自社株報酬制度のポイントを見てみよう!

同記事で紹介された事例を下記にまとめます。

● キリンホールディングス
・3月30日の株主総会で、役員報酬の改定が承認
・従来の役員報酬は固定額の基本報酬と、業績などに連動して増減する賞与で構成
・賞与は収益や株価に関する複数の指標で算出していたが、単年度の連結営業利益に担当業務の成果を加味して現金で支給
・同時に、中長期の業績向上意欲も高めるため、新たに株式報酬を導入。社長ら社内取締役に毎年、計2億5千万円分を上限に付与

賞与制度を単年度業績連動による現金支給と株式支給に大別したのは、「短期と中長期の指標が混在し狙いが明確でなかったので、大きく見直した」(指名・報酬諮問委員会メンバーとして携わった三好敏也取締役)ことが理由です。ここで支給される株式には譲渡制限がかかって、3年間は売却できないようにしてあります。さらに中期経営計画の進捗が遅れると、譲渡制限が解除された後に実際に受け取れる株数が減る仕組みになっており、役員の中長期の企業業績へのコミットメントを引き出す制度設計になるように工夫されています。

(下記は同記事添付の「キリンホールディングスは取締役に現物株を支給し、株価への意識付けを明確にする(3月30日の株主総会)」を引用)

20170403_キリンホールディングスは取締役に現物株を支給し、株価への意識付けを明確にする(3月30日の株主総会)_日本経済新聞朝刊

● 中外製薬
・2017年度から従来のストックオプションに代えて譲渡制限付き株式を導入
・取締役は毎年付与される株式のうち、半分は譲渡制限期間が終了すればすべて受け取れ、残り半分は期間中の株価次第で取り分が変動する
その詳細な配分制度設計は、
「期間中の株価上昇と配当額で株主がどれだけ利益を得たかを示す「株主総利回り」を指標に採用。ライバルである国内製薬各社と比較し、相対的に利回りが低ければ取り分が減り、株式は会社に返還される。「相対比較なので相場全体の動きに影響を受けづらく、株主の理解も得やすい」(武良順秘書部長)」

● 横河電機
・譲渡制限付き株式を2016年に導入
・制度内容の透明化を重視し、「お手盛りの制度でないことを示すのが重要」(片倉直取締役会室長)
①中期計画の最終年度となる2017年度の自己資本利益率(ROE)で最終的な取り分を決める
②事前付与した株数のうち何割を支給するかという仕組みも開示する
③ROEが8%以下だと取り分はゼロになる。

(下記は、同記事添付の「横河電機の株式報酬は業績に連動する」を引用)

20170403_横河電機の株式報酬は業績に連動する_日本経済新聞朝刊

 

■ 株式報酬制度の導入が広まってきた背景と各種制度比較を見る!

こうした役員報酬制度が見直されてきた背景には、2015年に導入されたコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が「中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべき」と要請したことが発端となっています。こうした動きを受け、各種の自社株報酬制度が提言された内、昨年4月に制度が整えられ、解禁されたのが譲渡制限付き株式ということになります。

「株式の無償発行は会社法で認められないため、役員にはまず金銭報酬債権を支給。それを会社に現物出資させたうえで、株式を交付するという手続きを取る。」

従来の株式報酬はストックオプション(株式購入権)や、信託銀行がポイントなどを使って管理する「信託型」が主流でした。どちらも中期計画など一定期間終了後にならないと現物株を取得できないため、取得前は当然に株主ではありません。これに対し、譲渡制限付き株式は付与時点から配当受け取りや議決権など株主の権利が得られる点が大きな違いとなっています。

(下記は、同記事添付の「株式報酬制度の比較」を引用)

20170403_株式報酬制度の比較_日本経済新聞朝刊

同記事に紹介されたデロイトトーマツコンサルティングによる昨年8~10月に調査では、譲渡制限付き株式の導入を「検討中」または「意向あり」とした企業数はストックオプションなどを上回った、ということです。ストックオプション制度が身近に感じるようになってから15年程度経ちますが、株式報酬制度にも流行り廃りがあります。当初は、豊富にキャッシュを持っていない起業直後のベンチャー企業が優秀な経営者を招聘するために、経営者の努力による成長後の株価伸長による後払い方式の報酬制度として、主に資金繰りの観点から開発された手法です。思うように株価が上がらなければ、その購入権(これがオプション)を放棄すればよいという分かりやすさと後払い方式という点から、スタートアップ企業だけでなく、本来はキャッシュリッチであるはずの大企業も続々と導入を始めました。

その後、一般的になったことから、会計制度もストックオプション発行費用をその期の会計的費用とみなすようになるなど、諸制度の方もキャッチアップしていきました。しかし、何といってもストックオプション制度の欠点は、株価の下方乖離には弱い、というものです。現物株ですと、株価が上昇すれば売却益が得られる一方で、株価が下落すれば含み損として、どちらも現物株を支給された経営者と株主の利益が一致します。一方、ストックオプションは、株価が上昇すればオプションを行使して株主としての利益を享受できますが、思いに反して株価が下落した時には、オプションを放棄すれば事足りるので、経営者と株主の利益が50%しか一致しないということになります。

また、ストックオプションは、そのオプション行使の基準株価をどのように設定するかについて、分かりにくい部分がありました。それゆえ、ここでは会社名は伏せますが、ストックオプション付与の基準日を経営者に有利になるように後決めし、必ず経営者へ高額の報酬を約束してしまう、いわゆる「お手盛り」手法が頻発することにもなりました。これが現物株支給となりますと、外部にもいくらで何株支給したのか明らかになりますので、透明性の高い報酬制度になると言えます。

「日本では役員報酬額の決定を社長の専権事項とするなど算出根拠が不明確との批判が絶えなかった。だがガバナンス改革の一環で社外取締役が主体の報酬委員会を置き、決定プロセスを透明化する動きが広がっている。ウイリス・タワーズワトソンの櫛笥(くしげ)隆亮氏は「踏み込んだ開示が広がれば、投資家との対話も深まる」と話す。」

「年1億円以上を得ている役員の個別開示が10年から義務付けられたこともあり「報酬の開示に対する日本企業の抵抗感は薄れつつある」(デロイトトーマツコンサルティングの村中靖執行役員)との見方もある。株式付与をきっかけに役員報酬の「見える化」がどこまで進むかも注目点だ。」

上記にある通り、報酬委員会で現物株支給数を決定したり、役員の個別報酬の開示制度が拡充したことにより、より透明性の高い役員報酬制度を設計できるようになりました。

 

やはり、株式報酬制度が広がるためには税法改正が効きました!

何といっても、配当金も役員報酬も、社外にキャッシュが流出するかしないかは、企業価値に大いに影響を及ぼします。キャッシュアウトでも最も着目すべきもののひとつが、支払いを遅延できない税金コストです。

2017/4/3付 |日本経済新聞|朝刊 一長一短、企業なお手探り 損金算入できないケースも

「3月27日成立した2017年度税制改正関連法では、中長期の業績に連動する役員報酬を支払った場合に企業が損金算入できるようになり、法人税負担が軽くなった。ただ譲渡制限付き株式を支給する方式では対象にならないケースもあり、注意が必要だ。主に3種類ある株式報酬制度には事務負担の面などでも一長一短があり、制度設計の試行錯誤は続きそうだ。」

従来の役員報酬の損金算入は単年度の利益連動だけが認められていました。2017年度からは損金算入できる範囲が広がり、業績連動指標として、株価や売上高を含むものも認められ、複数年度の指標との連動も可能になりました。

2015/9/28|日本経済新聞|朝刊 日本の固定報酬は59% 3類型は抜本改革を

(下表は、2015/9/28:同記事添付の役員報酬への税制の制約一覧表)

20150928_損金算入できる役員報酬は3類型に限定される_日本経済新聞朝刊

しかし、譲渡制限付き株式については、2017年度税制改正でも、業績に応じて最終的な取得株数が増減する場合は損金算入が認められませんでした。

「昨年導入した三菱地所の担当者は「税優遇が受けられる仕組みに見直すか、報酬委員会で議論が必要になるかもしれない」と話す。」

譲渡制限付き株式やストックオプション(株式購入権)を付与するタイプの株式報酬は、けっこう社内の管理負担もかかります。それゆえ、

「今年から信託型の役員報酬を導入した花王の杉山忠昭執行役員は「信託銀行に支払う手数料はかさむものの、社内の負担は軽く済む。信託銀に任せれば報酬制度の透明性が高まると判断した」という。」

ということで、損金不算入、事務コスト負担大という2点から、譲渡制限付き自社株報酬制度が定着するかどうかは、まだまだ不透明な点があるのかもしれません。しかしここまで来ると、歴史的な観点からすると、株式会社が巨大化するにあたり、プロ経営者を必要としたので、「所有と経営の分離」という原則が一般化したのじゃなかったかな、と、本件についていろいろと議論している有識者が株式会社の歴史をどれくらい意識しているか聞いてみたくなります。(^^;)

そんなに株主と経営者の利益相反を敵視するなら、現経営陣に「MBO(マネジメント・バイ・アウト)」してもらって、「所有と経営の一致」を目指せばいいのではと、横車を押したくなります。まあ、「クラウドレンディング」「クラウドファンディング」が進化することで、ファイナンス面でも現行の株式会社制度が不連続に進化して、全く新しい企業概念が生まれる、というのが筆者の最終的な見解です。その具体的な内容ですか? それを聞きたい人は有償サービスになります。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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