トランプ国境税(1)米国境調整は「究極の税」?(真相深層)グローバル企業の税逃れ防ぐ 世界の税制論議に一石

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■ トランプが主張する「国境税」は本当に保護主義政策の一環で、かつ愚かな税体系なのだろうか?

経営管理会計トピック

「アメリカファースト」を提唱するトランプ大統領は。イメージ先行でがりがりの保護主義で、提唱する法人税制の変更案も本当に荒唐無稽で独りよがりのものなのでしょうか? 実は、大統領本人の公約だった法人税制の改革案より、与党共和党が提唱している案に寄り添ったものが、あたかもトランプ原案として取り沙汰されているのは、実際には何がイメージ先行の「ポスト・トゥルース」なのか、真剣に考える必要があります。

2017/3/24付 |日本経済新聞|朝刊 米国境調整は「究極の税」?(真相深層)グローバル企業の税逃れ防ぐ 世界の税制論議に一石

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「輸入に課税、輸出は税を免除する――。米下院共和党が法人税改革の一環として示す「国境調整措置」が輸入業者らの強い反対にもかかわらず、消えずに残っている。
その理由は(1)輸入課税による税収増を法人税率引き下げの財源にあてこんでいる(2)トランプ政権は「輸入に高い税をかける」という選挙公約の実現と宣伝できる――ことにあるが、それだけではない。」

トランプが大統領に就任直後のニュースでは、「メキシコとの国境に壁を築く」「メキシコへの工場移転や進出は許さない」というアメリカファーストの言動に耳目が集まりました。法人税制改革についても、一部の国からの輸入品に関しては高い関税をかけると、仕向地別高関税政策であると第一報がありましたが、その本質は「関税」ではありませんでした。

⇒「「国境税」設計難しく トランプ氏、共和党案「複雑すぎる」 - 関税や米国法人税を含む包括的なトランプ課税政策を素人でもわかりやすく

「仕向地別・キャッシュフロー法人課税」がその本質であります。間接税である関税や消費税(付加価値税:VAT)ではなくあくまで直接税としての法人税の枠組みのものです。しかしながら、仕向地別に課税非課税をコントロールするなど、従来の消費税に近い性質のものになっています。次章では、記事での解説文をもっと簡単にサマリして、その本質に迫っていきたいと思います。

 

■ どうしてトランプが主張する「国境調整」の検討が米英で推進されているのか?

いえいえ、間違えました。米英の税制専門家や経済学者たちが、「経済活動をゆがめない究極の企業課税」として「国境調整」案を提唱してきたものに、トランプ大統領が乗っかっただけのことです。さすが気を見るに敏なビジネス出身者。誰が言い出したものでも「いい」と感じればその場で自分のものにする臨機応変さには感心するばかりです。

ブッシュ(子)政権で大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたマンキュー・ハーバード大教授(世界で最も読まれている経済学の教科書の著者とも呼ばれている!)も全面賛成する理由はどこにあるのでしょうか?

(下記は、同記事添付の「米下院共和党案は消費税導入と似た効果」を引用)

20170324_米下院共和党案は消費税導入と似た効果_日本経済新聞朝刊

【理由1】
「改革案は実質的には消費税の導入、法人税の撤廃、給与税の減税の3点セットに等しい」
【理由2】
「所得よりも消費に課税する方が(経済に)望ましいのは多くの研究が示すところだ」

共和党下院の提唱する(そしてトランプが乗っかった)法人税改革は、法人税改革と呼ばれながらも、課税対象が限りなく消費税に近いものになります。その相違点とは?

<共通点>
① 輸入品が課税対象となる一方、輸出が免税とされる
② 設備投資は全額控除(法人税制における設備投資の即時償却対応と効果は同じ)

<違う点>
③ 間接税の王者である「消費税」では賃金支払い分を課税対象からはずせないが、米下院共和党案は、法人税では損金扱いされているとおり、賃金支払い分が引き続き控除できる

マンキュー教授は、この3点をとらえて、「実質的な効果は消費税を導入するかわりに給与税を大幅減税するのと同じ」であると論じています。

さあ、中身は理解できました(よね?)。ならば、どうしてこの税制改革案が関係者から歓迎されるのか?

【理由1】
「経済の活力向上に加えて、経済のグローバル化で目立ってきた企業の税逃れを防ぐ効果も期待される」

共和党案の原型となる企業税制改革を唱えてきたアウエルバッハ・カリフォルニア大教授によりますと、
「海外で利益が生まれたようにみせかける操作をしても税の支払額は減らせなくなる。利益でなく国内売上額が課税対象になるからだ」
「各国で導入されれば、企業情報の共有など、20カ国・地域(G20)が税逃れ防止のために進めている協調も不要になる」

これまでの法人所得税の原則は、課税対象所得(利益)への源泉地課税。グローバル大企業がグループ内取引における移転価格を調整し、低税率国に立地する子会社に利益が溜まるようにすれば、グループ企業全体での課税負担を小さくすることができます。しかし、国境調整では、海外で利益をたんまり貯めておいて、薄利で米国内に輸入してきても、米国内の売上高ベースで課税されてしまいます。つまり、移転価格を調整して、海外に利益を貯めるインセンティブを消滅させる荒業なのです。

【理由2】
「本社の海外移転などで税負担を減らす動きの抑制にもなる」

「英国の抜本的な税制改革指針をまとめた2010年のマーリーズ・レビューでも、グローバル化時代に即した企業課税改革の選択肢の一つとして、共和党案と同じような税制への転換が提唱」されています。

これまでは、法人課税を源泉地課税とすることがグローバルスタンダードだったため、海外で稼いだ所得(利益)は、海外で納税すれば、本国に配当で還流させても非課税でした。その中でも、米国は「全世界所得課税方式」:海外での税引き後利益を配当として米国に還流させると、米国税率との差額を追加的に米国で課税、を採用しているため、ますますグローバル企業の本社まで海外流出を促す法人税体系でした。

(参考)
⇒「パナマ文書にもめげず米当局企業課税逃れに新規制、結果としてファイザー、アラガン買収断念 - 日本経済新聞まとめ
⇒「国際課税新ルール、日本企業でも適用 海外子会社の情報収集 本国との二重課税リスクも

輸入課税という一面だけみれば保護主義的に見える「国境調整」ですが、「経済のグローバル化に対応した法人課税のあり方を突き詰めると、消費税に近づくという考え方自体は決しておかしくない」(鈴木将覚・専修大教授)という意見がある通り、いともたやすく国境を越えてグローバルに活動する企業に対しては、所得(利益)の源泉地ではなく、消費地(売上地)での課税対応が、グローバル企業の経済活動そのものを歪めないし、グローバル企業に過剰な節税の手段を残させない(対策をさせない)防止効果もあるといえます。

 

■ それでは「国境調整」は欠点がない完全無欠な税制なのか?

米下院共和党が提唱し、トランプ大統領も乗っかった「国境調整」の問題点は、税制としての筋の善し悪しより、導入時の経済への影響が極めて大きい点や実務上の難しさが課題であると言えます。

<課題>
(1)米輸入業者の税負担が一気に膨らむ(税制の公平性の問題)
(2)価格転嫁が進めば消費にも悪影響が及ぶ(消費下押しのリスク)
(3)中国や日本企業をはじめ米国への輸出が多い世界の企業には業績悪化のリスクが大きい
(4)世界貿易機関(WTO)が消費税以外での国境調整は協定違反とする公算が大きい

フェルドシュタイン・ハーバード大教授等によれば、「国境調整の影響はドル高で帳消しにされるので、米国の貿易収支や競争条件、米国の輸出入企業の収益には影響を与えない」という意見もありますが、実際に影響を打ち消すだけのドル高が進むのかは憶測の範囲内ですし、ドル高が進めば新興国経済などに不測の大きな悪影響が及ぶことも考えられます。

また、(4)については、「2国間の租税協定の面でも課題がある」(財務省幹部)と記事中にもあります。これは、米国が一方的に国境調整を実施して、相手国が従来の源泉課税だと、グローバル企業にとって二重課税が発生する可能性があるし、課税当局間での調整も難しくなることが分かっています。

本件、日本の著名な経営者が異を唱えたニュースが波紋を呼んでおります。

2017/3/31付 |日本経済新聞|朝刊 ファストリ柳井氏の誤算 米国生産・国境税「あり得ない」

「衣料品店「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングが新たなリスクへの対処を迫られている。企業に対する米国生産の要求や輸入品への国境税の導入を掲げるトランプ政権の方針について、29日に会見した柳井正会長兼社長=写真は共同=は「あり得ない」と断言した。無用な刺激を避けようと日本企業が口をつぐむ中、トランプ氏へのけん制とも取れる発言をした柳井氏の真意は何か。」

(下記は本記事添付の「ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長」の写真を引用)

20170331_ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長_日本経済新聞朝刊

「「消費者にメリットあるコストでは提供できない。直接、我々に(米国生産を)求められたら撤退したいなと思います」。ユニクロが29日にニューヨークで開いた大規模な展示会。記者団から「米国第一」を掲げるトランプ政権が検討する国境税や米国生産の可能性について問われた柳井氏は、こう明言した。」

柳井氏が強面にこう主張するには、繊維産業の米国立地の難しさから。(同記事より)

(1)衣料品の縫製工場は今も人海戦術に頼り、ロボットなどによる自動化はなかなか進んでいない
  ・人件費が製造コストの多くを占め、低賃金国(中国やベトナム、バングラデシュ等)といった途上国へと生産移管の動きがいち早く広がった
(2)早くに繊維産業が衰退したため、直ちに米国内で大量生産できる経営基盤が無い
  ・経営にはヒト・モノ・カネが必要。高コスト賃金になることが必須の米国内操業が前提での労働者の確保、生産設備や原料確保のサプライチェーンなどのインフラ整備など、やるべきことがあまりに多すぎて即応不可!

「グローバルで、オープンな世界をぜひつくってほしい。トランプ氏はあまり政治に入らない方がよいのではないか」

柳井氏の憤りも理解できますが、一国の大統領に面と向かってケンカを売る勝算は果たしてあっての発言なのでしょうか? 少々、柳井氏のお立場を心配する気持ちで一杯の読後感となりました。(^^;)

(参考)
⇒「トランプ国境税(2)(経済教室)トランポノミクスの行方(上)国境調整税、各国税制に影響 海外移転促すゆがみ是正 星岳雄・スタンフォード大学教授東京財団理事長

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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