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OECDによる国際企業課税の新提案 - GAFA狙い撃ちの偏向制度か公正を期すための理想的な制度か?

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■ 法人税における国際税制が注目される理由

最近立て続けにグローバル企業に対する法人課税につき、どういう課税方法が国家間においては公正な税制か、産業競争の視点からは、市場競争において公平な税制か、議論が活発になってきています。ここ2、3年で取り上げられている国際課税に関する議論を再整理してみたいと思います。

2019/10/10 |日本経済新聞|朝刊 法人税収 各国に配分 OECD案、国際課税に新ルール

経済のデジタル化に対応してグローバル企業に適切な課税をするため、経済協力開発機構(OECD)は9日、新たな国際課税の枠組み案を公表した。利益のうち一部にかかる税を、その企業の国別の売上高に応じて各国で分け合う。拠点の有無にかかわらず、各国が課税できる仕組みだ。拠点ではなく消費地を起点とする法人税の仕組みを採用すれば、国際課税の大きな転換点となる。

(下記は同記事添付の「国際課税ルールのイメージ」を引用)

国際課税ルールのイメージ_日本経

本記事における論点を次のように要約します。

    1. 現在の国際課税ルールは、海外企業が国内に工場や支店など物理的な活動拠点「恒久的施設 PE:Permanent Establishment)」を有して場合に、課税することができる
    2.  このPEの定義がGAFAのようにEC、ソフトウェア(アプリ)やクラウドサービスを収益の柱とするビジネスの実態に適合しなくなってきた
    3.  代わりに、課税根拠として、消費者の居住地ベースで課税することで法人税収を確保する新ルールに賛成する国が増えた

日本人の感覚では、OECDとか国連が決めたことは、日本政府の上に位置付けられる「おかみ」が決めたこととして、これには従うべきという風潮・世論になりがちですが、つまるところ、OECD加盟国で発言権を持っているのは、欧州各国という現実があります。米国起源のGAFAからの税収を上げることに欧州各国が知恵を絞ることは彼らにとっては当然のことです。

ただし、これはゼロサムゲームなので、今回取り上げられている税制が導入されたとしても、税収の再配分のされ方が変わるだけで、あちらが100得すれば、こちらが100損することになっています。ちなみに、この時のプレイヤーは、GAFA自身、米国、GAFAの消費者が居住している国、GAFAが所得を退避させているタックスヘイブンの5つです。

■ 売上高利益率10%超過分を対象とする理屈

日本経済新聞にて取り上げられた続報も見ていきます。

2019/10/11 |日本経済新聞|朝刊 国際企業課税の新案 対象は… 売上高880億円以上/利益率10%超/消費者向けビジネス

経済のデジタル化に対応した国際課税の新ルールをめぐり、各国は具体的な枠組みの調整に入る。対象は世界での連結の売上高が7億5千万ユーロ(約880億円)を上回る企業とし、利益率でみて10%を超えた部分を各国に配る税収の原資にすることを軸に検討する。利益率10%超の高収益企業は限られ、世界的な法人税収の移転は小規模にとどまる可能性もある。大幅な税収増を求める新興国が容認するかは流動的で、最終決着は曲折が予想される。

(下記は同記事添付の「合意に向けた課題」を引用)

合意に向けた課題_日本経済新聞_20191011

ここに至るまでには、恒久的施設(PE)には、Amazon等ECビジネスの物流施設も含めるといった運用上の変更で徐々に課税対象を広げていく動きも観察されていました。ここにきて、その対応速度を一段と早めている風に見受けられます。

再び、この記事の要約から今回の施策の概要を確認してみます。

    1. 米巨大IT企業などが世界中で稼ぐ利益を各国に分配する仕組みは、GAFAに富が集中して、今後のAI・ロボットへの投資の健全な競争を確保するために必要である
    2.  GAFA狙い撃ちだが、課税対象は恒久的施設(PE)が上げた売上高利益率10%を超過した分で、すでに倉庫がPEとして認識されているAmazonは対象から外れる可能性大
    3.  売上高利益率の10%超過分は、ブランド力や知名度といった「無形資産」で全世界の消費者から稼いだ利益(超過利益)で、PEの経済効果の外にあるというのが根拠である

■ 国際課税をめぐる最近のトレンド

国家は、国境という地理的な制約の中で課税権を行使する一方で、企業の方はいとも簡単に国境を越えて経済活動を行い、昔は「多国籍企業」、現在は「グローバル企業」と呼称され、本社所在国での課税の網が十分に掛けられなくなりました。そこで、お互いに租税条約を締結しつつ、OECD租税委員会(1971)を中心に「帰属主義」を盾にして、PEを根拠に海外企業の自国内でのビジネスへの課税権を強めてきました。

関連記事(真相深層)「結局は増税?」企業警戒 国際課税新ルール、強まる懸念 主要国、はや足並み乱れ -国際税務の超入門

そこに来て、タックスヘイブンや過度のタックスプランニングで課税回避(タックスインバージョン)を常態化することで、次の将来投資の源泉にしてより強固な競争優位を築いているGAFAを例とするプラットフォーマーへの視線が厳しくなってきました。パナマ文書の衝撃はまだ記憶に新しいと思います。

参考記事税逃れ防止 OECDの京都会合のまとめ記事 - パナマ文書に端を発するタックスヘイブン規制の行方
参考記事(衝撃パナマ文書)租税回避地 多様な思惑 企業、二重課税リスク回避/富裕層、高利回りの資産運用
参考記事(衝撃 パナマ文書)納税ガラス張り 英で先行 租税回避行為へ強まる批判 - 管理会計屋が見る国際税務戦略
参考記事(経済教室)タックスヘイブン何が問題か 課税情報、本国当局から遮断 枠組み複雑化に狙い 渡辺智之 一橋大学教授

一方で、タックスヘイブンに流れる資金にタガをはめようと、「BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクト」、日本語に翻訳すると、「税源浸食と利益移転プロジェクト」
による国際課税ルールの整備が同じくOECD主導で進められているところです。

関連記事国際課税新ルール、日本企業でも適用 海外子会社の情報収集 本国との二重課税リスクも

■ 公平・中立・簡素が税制の基本原則

「公平の原則」とは、経済力が等しい主体間には等しい課税負担を求める「水平的公平」と、より経済力が大きい主体にはより多額の税負担をお願いする「垂直的公平」という考え方です。「中立の原則」とは、税制が個人や企業の経済活動における選択を歪めないようにするという考え方です。「簡素の原則」とは、税制の仕組みをできるだけ簡素にして、納税者に分かりやすいものにするという考え方です。

消費税10%上げにおける軽減税率や増税ポイント還元は「簡素の原則」に照らしてどうかと思うところはありますが、ここでは「中立の原則」について考えてみたいと思います。

ところで、マスコミは騒ぐ時と静かな時の落差が大きいのですが、数年前に、トランプ大統領が次のような国際課税ルールを提案していたことを覚えていらっしゃいますか?

関連記事トランプ国境税(2)(経済教室)トランポノミクスの行方(上)国境調整税、各国税制に影響 海外移転促すゆがみ是正 星岳雄・スタンフォード大学教授東京財団理事長
関連記事「国境税」設計難しく トランプ氏、共和党案「複雑すぎる」 - 関税や米国法人税を含む包括的なトランプ課税政策を素人でもわかりやすく

トランプ大統領の税務政策では、中国との関税戦争や二国間取引(FTA等)の方がキャッチーなので、そうした言動に注目されがちですが、「仕向地課税法人税」「国境調整課税」と呼ばれる税制の提案を過去にしていました(今での議論の遡上に乗っています)。

これは、生産の場所で課税対象が決まる「源泉地主義」とは異なり、財が消費される場所(国)で課税対象が決まるという「仕向地主義」に立脚し、実際に手元に入る売り上げから実際に支払われた費用を引いたキャッシュフローに課税するという「キャッシュフロー課税」という考え方に基づくものです。

この2つの特徴は、次のようなメリットを持っています。工場の立地(=課税根拠となるPEの立地)が課税額に影響しなくなるので、企業の工場や施設立地の自由裁量が増加する効果を持っています。巨額な設備投資にキャッシュアウトした時点で損金扱いになるので、投資促進の効果が期待できます。

このことから、実は毀誉褒貶が激しい無策のトランプ大統領というイメージが強いかもしれませんが、優秀なビジネスブレーン、産業界との強いパイプがあることから、ひとつひとつの政策は無論、富める者びいきであることは否めないものの、中身は見るべきところがあるものも少なからずあるのです。

■(まとめ)税制の話は全てポジショントーク

残念ながら、税制は大概、ゼロサムゲームとして提案されることが多く、メリットの裏にはデメリットが潜んでいる、主張している人には利害関係があることを忘れてはいけません。

OECDが提唱してきたからといって、「お上」からのお達しということで無批判に受け入れる義務はないのです。日本の税制の基本は、「総合主義」で、国内法人はもとより、外国法人(本店や支店)が獲得した日本の国内源泉所得に対して日本で課税を行う考え方を採っています。

欧米の思惑により、「帰属主義」へ徐々に調整することを強いられ、例えば日本法人のシンガポール支店が日本で得るシンガポール支店に帰属すべき所得についても国外源泉所得として認識することになりました。このため、シンガポール支店が獲得した日本での所得についても、外国税額控除の対象となりました。これは、日本企業が欧米市場に進出して大いに稼いだ分をどう分けるかについて、一本取られた歴史的事実です。

冒頭のOECDの動向は、PEの定義を拡大解釈することでAmazonに掣肘を加えた後、さらに、GAFAの残りのプラットフォーマー達に対して、欧州が発展途上国を味方にしながら、米国との駆け引きをしているに過ぎない、という見方を筆者はもっています。

税制もマスコミ(SNSを含む)も常に中立・公平であるかどうか、疑ってかかる必要があるようです。自分の頭で物事の本質を考える時代であることは間違いありません。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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