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日本の金融リテラシーにおける3つのガラパゴス化(1)毎月分配型投信、親子上場、官民ファンド

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毎月分配型投信の経済合理性はどこにあるか

今週、日本経済新聞を読んで違和感があったものをまとめてコメントします。お題は「日本の金融リテラシーにおける3つのガラパゴス化」と称していますが、別段、記事にある通りで、記者や対象者など、誰かをこき下ろすものではありません。

金融庁から「資産形成にそぐわない」と名指しされ、投資信託の中で存在感が低下していた毎月分配型ファンドにそろりと資金が戻っている。公的年金への不安から若年層を中心に資産形成がブームとなる中での復活は何を意味するのか。「業績悪化に苦しむ金融機関がまたぞろ売り始めたのか」と供給者側の事情から読み解こうとすると、本質を見誤る。

2019/11/19 |日本経済新聞|朝刊 (一目均衡)毎月分配型の「不都合な真実」 証券部 嶋田有

本記事にて取り上げられた、取材した大手証券の営業担当役員の声として、「結局、そこに強い需要があるからとしか言いようがない」という言葉にはうなずくしかありませんでした。

金融庁の前長官が、長期の資産形成にはそぐわないとして、「顧客本位ではない」と礼二してまで批判した毎月分配型ファンド。それから2年半が経ち、上場投資信託(ETF)を除く日本の公募投信の過半を占めてきた毎月分配型は、金融機関が金融庁の姿勢を忖度して、販売を控えたため残高が急減。直近ピークの2015年5月の43兆円から、足元は20兆円台前半まで縮小していました。

国内で公募される追加型投信(ETFを除く)のうち毎月分配型は、5月から4カ月連続で資金流入が流出を上回って純資産を増やした。8月末の純資産残高の上位10本のうち8本が毎月分配型だ。

2019/9/29 |日本経済新聞|マネー研究所| 人気回復する毎月分配型投信 実力を見極めるには?
純資産総額ランキング_日本経済新聞_20190929

2019/9/29 |日本経済新聞|マネー研究所| 人気回復する毎月分配型投信 実力を見極めるには? 同記事添付の「純資産総額ランキング」を引用

純資産残高トップ10の大半を毎月分配型が占めることになりました。これは、次の推移グラフでも戻りが顕著になっているのが分かります。

毎月分配型ファンドの資金流出入_日本経済新聞_20190929

2019/9/29 |日本経済新聞|マネー研究所| 人気回復する毎月分配型投信 実力を見極めるには? 同記事添付の「 毎月分配型ファンドの資金流出入 」を引用

一体、どういう理屈で、こうした毎月分配型投信が再び支持を集めるようになったのでしょうか。そこにはどういう経済合理性が働いているのでしょう?

投金融商品に期待するものは利殖だけではない!?

上記の9/29の記事では、純資産残高7657億円で1位の「ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(毎月分配型)」(通称グロイン)について、「世界の高利回りの公益株に投資するファンドだ。電力、ガスなど景気動向に左右されにくい「ディフェンシブ銘柄」が大半を占めるため、「不安定な相場の中、長期的にリターンが期待できる」(50代の男性会社員)との期待がある」と説明されています。

また、その運用設計については次のような説明もなされています。「追加型の投資信託は、運用で積み上げた利益だけでなく、それぞれ購入タイミングが異なる投資家間の公平を維持する目的の「収益調整金」も分配金に回せる。人気ファンドほど新しい投資家が多く入ってくるため、その元本の一部が収益調整金としてプールされ、高い分配金が出せるようになるわけだ。」

これらは、ディフェンシブ銘柄中心で組成しているから値動きも大きくならない。後から購入した人の出資分からも分配を受けられる。よって、分配金支払いの心配がない、という理屈になります。

ここまでくると、利殖目的の投資信託なのではなくて、老後資金を計画的に取り崩すための決済機能を、中心的な顧客層としてのシニア層が欲して購入している金融商品という位置づけで毎月分配型投信を再定義したほうがよいかもしれません。リフレーミングはマーケティングにおける常套手段です。

そういえば、筆者も、大学入学と同時に上京し、両親から仕送りをもらっていた時、両親は期日指定の定期預金を利用していました。可愛い我が子への仕送りは忘れることができないけれど、自分たちの仕事も大変なので、そういう場合、こういう決済手段は便利ということでした。^^)

この記事を書いている時点で、1年定期預金の金利は、0.2~0.01%のレンジにあります。3メガバンクは、0.01%で足並みが揃っていました。一方で、ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(毎月分配型)の2019年11月21日時点での年間パフォーマンスは、「基準価格+分配金」だと、12.32%です。

注)別途、買付手数料および管理費用(信託報酬含む):1.81%を所要することは忘れずに!

賢く貯めながら、散財できないように比較的拘束性のある形で資産を保持しつつ、確実に毎月の生活費分を使うための道具として、毎月分配型投信はリフレーミングされる必要があるのかもしれません。

貯蓄から投資への掛け声

昨今、日本政府や関係各所は、盛んに「貯蓄から投資へ」というスローガンで、国民を啓発しています。みなさんもNISA(ニーサ)やiDeCo(イデコ)という名前を聞いたり、目にしたりしたことがあるでしょう。

これらは、資産形成によって生じた利益を非課税にするというインセンティブを用いることで、預貯金から株式や投資信託へ金融商品の種類を変えましょう、という働きかけです。

NISAやiDeCoの口座を用いて、投資信託などによる資産形成を行えば、通常は負担すべき運用収益に対する20.315%の分離課税が一定の条件のもと、非課税になります。

冒頭の新聞記事には、こうあります。

「2000万円問題」の騒動を待たずとも、老後の資産形成が現役世代の課題であることは間違いない。しかし、長期の資産形成の本命である積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)は、昨年1月の開始から今年6月までの総買い付け額は約1780億円と中規模の投信1本分にとどまる。「貯蓄から投資」を支える柱になるには10年単位の時間が必要だ。

2019/9/29 |日本経済新聞|マネー研究所| 人気回復する毎月分配型投信 実力を見極めるには?

一方で、こういう記事もありました。

税制優遇が厚い一方、手数負担は重い。イデコの加入者は国基連に月105円、口座を維持する信託銀行に同66円払う。定期預金や投資信託ではこうした負担はない。加入者の1カ月あたり平均掛け金は1万円程度。運用を始めたばかりだと手数料として2%弱が差し引かれる計算だ。運用で2%超の利息を稼がないと「元本割れ」してしまう。「手数料の高さから加入をためらう人もいる」。九州地銀の営業担当者は明かす。

2019/11/13 |日本経済新聞|朝刊 イデコに月105円の壁 重い手数料負担「元本割れ」も

金融商品における商品設計の巧拙は担当者に、“どげんかせんといかん”と発奮して改良を施してもらうしかありません。

しかし、なぜ貯蓄から投資へという流れなのか、という本質は個別の商品設計の問題ではなく、マクロ経済のお話になります。

日本人の貯蓄好きは明治以降の政府の政策による

明治新政府が欧米列強に伍していくには、殖産興業・富国強兵政策を推し進める必要がありました。富国強兵のためには元手が必要なので、殖産興業が叫ばれました。殖産興業のためにも元手が必要になります。その必要なお金をどうやって集めて起業に充てればよいのでしょうか?

銀行制度の確立が資金集めのために企図されましたが、なかなかうまくいきませんでした。その辺は、今度一万円札の顔になる渋沢栄一の評伝に詳しくあります。産業育成のための資金集めに大きな役割を果たしたのは、明治8年(1875)から始まった郵便貯金制度です。

地方の名士を郵便局長にして、切手販売の利益から郵便貯金の奨励金までが一定の収入になり、家賃も身分も保障され優遇されます。あの名士の誰々がやっているから、というわけで、皆が名士の立場・地位を信用して貯金を始めたわけです。

さらに、日本政府(大蔵省)は、明治三十年代の松方財政と昭和初期の大不況以外は、積極的にインフレ政策を採ります。慢性的インフレ政策は、タンス預金されている現金の価値を大いに下げます。それゆえ、国民はこぞって貯金(預金)したくなるように仕向けられるのです。

日本政府が積極的にインフレ政策を採ると同時にケインズ的な赤字財政を作って財政投融資を回転させていきます。インフレで昔の借金の負担割合が減るのですから、次の借金をするのも容易です。このような積極財政が経済活動を刺激し、それが銀行や企業による資本形成を確固たるものにしていったわけです。

戦後も続けられた貯蓄奨励策

第二次世界大戦中、戦費調達のためにやたらに発行した国債に対して、戦後、多くの国民は一斉に換金に走ります。日銀はそのために紙幣を増刷して応えます。工場等の生産手段は米軍の空襲で破壊されていたので、お金はあってもモノがない状態になります。その結果、強力なインフレーションに陥ります。その市中にあふれたお金を回収するために、また貯蓄奨励が謳われたのです。

昭和20年「戦後ニ於ケル国民貯蓄増強方策」
昭和23年「こども銀行」設立
昭和26年「特別貯蓄運動」など

筆者も、小学生時代、毎月学校で集金があり、地元の信金に千円ずつ預けていました。^^)

元本保証の預貯金はリスクマネーとしてのリスクテイクに一定の制約がかかっています。歴史が証明しているのですが、強力なインフレーションがあってこそ、預貯金の集金パワーは発揮されます。そうです。現代はまれにみるデフレの時代。それゆえ、元本保証の預貯金ではなく、市中にリスクマネーを増やす必要があるので、「貯蓄から投資へ」というわけです。

国民の金融資産形成の裏には、殖産興業やインフラ整備のために必要な投資資金を用立てる必要性があるのです。経済も会計も、貸借対照になっています。資産の裏には負債(資本)あり。

日本人が全般的に国民として利殖という面における金融リテラシーに劣っているのか、国民性や人種の違いだけでアングロサクソンに負けているのではありません。歴史的に、政府主導による財政・経済政策のために、自分たちの金融資産を動員させられていたわけです。日本政府に日本国民を騙す意図があるとは思えません。そういう陰謀説には与しません。

ただ、歴史的事実として、財政金融政策をきちんと分析しておきたいだけです。そのうえで、国民一人一人が自主責任の元、利殖の点でも、賢い選択ができるように何ができるのかを考えることの大切さを訴えたいだけです。やっぱり、複利効果はゆめゆめ疎かにはできないと思うんですけれどね。^^;)

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(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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