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ROI: Return on Investment 投資利益率(2)

財務分析(入門)
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■ ROIが示す儲かり度合いの意味を知る!!

管理会計(基礎編)

前回」は、ROIで収益性分析する際の、最初歩の解説を試みました。今回は、もう少し、実務に近い、数字の作り方、解釈の仕方について説明をします。
実際に、2014年8月期のファーストリテイリング社の有価証券報告書を見てみましょう。

財務分析(入門編)_ファーストリテイリングのFY14のROE

同社は、国際会計基準(IFRS)を採用していますので、勘定科目名称が少々とっつきにくいかもしれません。ここではROIの代表選手として、ROEを例にとります。

念のためですが、
ROE: Return on Equity (自己資本利益率)= 当期利益 ÷ 自己資本 × 100

株主から出資してもらったお金でどれくらい儲けを出したか、その比率で投資効率を測ろうとする指標です。
すでに、上記の表にて、FY14のROEは「12.5%」と答えが出ているのですが、その計算式は分かりますでしょうか?

FY14の当期利益を自己資本で割るのだから、
74,546 ÷ 618,381 = 0.12055…
とやってしまうと、12.5%になりません。
正しい(と思われている)計算式は、
74,546 ÷ ( (570,428 + 618,381)÷ 2) = 0.12541…
となります。

実務として、ご存知の方も、なぜ分母が、前期末と今期末の自己資本を足して2で割るのか、その理由を問われて、正確に答えることができますでしょうか?

 

■ 「平残」は積分の考え方から

ファーストリテイリングが2014年8月に決算を締めたときに、当期利益として「74,546百万円」分稼いだことになりますが、その稼ぎのために、株主から集めたお金を使いました。では株主から集めたお金をいくら使って、今年1年間稼いだのか?実を言うと、厳密には、いくらつぎ込んだのかは分からないのです。

ビジネスは、毎日お金が動いています。同社の場合は、ユニクロ店舗にあるキャッシャーの中からおつりが出たり、お客様から支払いとして入金があったり、仕入れ業者からヒートテックの下着を買い付けたり、そういう商取引ひとつひとつに、株主から集めたお金をいちいちいくら使用したか、通常は解析不能です。

そこで、貸借対照表(B/S)では、少なくとも、今年始まった時に株主から集めておいたお金、今年終わるときに株主から集めたお金、それぞれはいくらだったかは分かります。そこで、FY14という会計期間の最初と最後の株主の持ち分(株主から集めたお金と、集めたお金から発生した儲け分)を足して2で割ることで、今年1年間平均して、ずっとどれくらいのお金を使っていたかを、類推しようとしているのです。

財務分析(入門編)_平残方式の図解

この類推法によると、
(570,428 + 618,381) ÷ 2 = 594,404.5百万円
5,944億円 ÷ 365日 = 16億円/日

ファーストリテイリング社は、FY14の1年間は、平均して5,944億円分を残高として株主から集めたお金をビジネスに費やしていたと類推でき、1日当たりでは、16億円分を使用していた、と類推することができます。
このやり方を、「平均残高」方式、略して「平残」といって、B/SとP/Lの数値を組み合わせて、各種財務指標を分析する際に、B/S側の数字を算出するやり方として、これまで一般的になっています。
ちなみに、あくまで論理モデルなのですが、きちんと積分しないと、1年間の使用資金量がちゃんと出ませんよ、ということを可視化するために、下表を掲載しておきます。

財務分析(入門編)_平残方式の限界と積分する必要性

会計分析の専門家の限界に挑むために、次のやり方をご紹介します。この積分思想による「平残」方式の緻密さをできるだけ追及する方法として、四半期決算情報を使うものがあります。
本当にExcelを使って積分する方法は別の回に説明するとして、今回は、簡便法として5つの残高の「算術平均法」で、この思想に迫りたいと思います。これでも「期首期末平残方式」よりぐっと実態に近づけられます。

財務分析(入門編)_四半期決算情報を使った自己資本の平残

四半期情報を使った自己資本平残
= (5,704 + 6,111 + 6,154 + 6,112 + 6,184) ÷ 5
= 6,053億円

 

■ 「ロイ」さんは「資本と利益の区別の原則」をご存じありません

もうひとつ、世の中で当然視されていることに対して異を唱えることになりますが、従来の「ROA」「ROE」「ROIC」の計算式では、分母のとり方にそもそもの問題があります。
もう一度、最初の章で提示した、ファーストリテイリングの有価証券報告書の抜粋の表を確認してみてください。ここで、「自己資本」とされている金額:6,184億円には、今期の儲けである当期利益:745億円がすでに含まれています。

これを、「前回」でも比喩で持ち出した定期預金の例で説明します。
あなたは、手元に100万円があります。1年物の定期預金にすると、1年後に利息が5万円
受け取ることができます。この時、あなたは、この定期預金のROIをどうやって計算しますか?

1年物の定期預金のROI = 5万円 ÷ 100万円 × 100 = 5%

これを次の式で表現したら、あなたはどういう印象を持ちますか?

1年物の定期預金のROI = 5万円 ÷ (100万円 + 5万円) × 100 = 4.76%

ちょっと違和感ありません?
でも、世の中で普通にはびこる「ROA」「ROE」「ROIC」はこのように、分母に利益(リターン)自身が含まれている計算式になっていますよ!

つまり、ROI系の指標では、「資本取引と損益取引の分別がなされていない」ということです。でもイメージでは会計をやっている人達って頭の良い印象ですよね。どうしてこういうおかしいことを放置しているんでしょう?
それは、「前回」の定期預金の比喩の際に、1年物定期預金を2回繰り返して2年物定期預金とのROIを比べたときに、こうせざるを得ない理屈が隠されているのです。

それは「複利」効果というやつです。
1年物定期に利率5%で100万円を預けたときに、1年後に元本と利息(元利という)合わせて、105万円が手元に戻ります。もう1回、1年物定期預金としてお金を預ける場合、今度は、100万円ではなく、手元にある105万円を預けます。この、1年目の利息の5万円に対して、2年目はさらに5%の利息(2,500円)がつくことになります。これが「複利」効果です。

前章で説明した通り、会社が株主から預かったお金を、ひとつひとつの商取引ごとにいくら分を使用したか分からない、でも、商売をしていると、日々儲かっているはず。だからといって、仕入れ先に仕入代金を100万円支払う際に、「95万円はもともとあった株主からの出資金、残り5万円分は、先月儲けたお金」という風に色を付けることは常識的に不可能なのです。

株主から見れば、会社というのは、いわば複利で利益を生む金融商品。決算日の当日ぎりぎりまで、投資したお金は、元金と利益合わせて、事業活動に使用されているのです。
ちなみに、ファイナンスをやっている人が、「企業価値評価(バリュエーション)」する際には、こういう元利含めた採算分析は通常行いません。きちんと、「期首残高」が期末までにいくらの利益(まあキャッシュフローの方が圧倒的に多いですが)を稼いでいるかを評価します。

従来の会計分析専門家とファイナンス専門家、それぞれの立場と業界常識が異なっているわけです。筆者の場合は、バリュエーションの計算式にきちんと「複利」計算が組み込まれていないとダメだと思いますので、ある程度の算式を組んで工夫はしていますが、、、それでも筆者は根っからの文系人間なので、自分でも限界を感じています。(^^;)
最後に、実際にあった笑い話。

80年代に、GEなどを見習って「ROI」を使って事業部の業績評価をやることが流行ったとき、ある日本人が、「おい、来月から『ロイ』って奴が業績評価するらしいぞ。お前知っているか?」「『ロイ』って人名ではなくて、Return on Investment という指標の略称で、、、」

お粗末様でした。

⇒「ROI: Return on Investment 投資利益率(1)

財務分析(入門編)_ROI Return on Investment 投資利益率(2)

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