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(ビジネスTODAY)「製造業革命」日本に焦り IoT活用、企業間連携で出遅れ ドイツ、国挙げ規格作り(1)

経営管理会計トピック テクノロジー
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■ 問題は「規格」ではない。ものづくりの「企画(考え方)」だ

経営管理会計トピック

ドイツでは、SAPやボッシュ、シーメンスを中心に、「インダストリー4.0」に取り組んでいます。なにか、「4.0」に関するネットワーク標準(プロトコル標準)規格づくりにドイツが勤しみ、新しい産業界でのデファクトスタンダードを握られたら、日本の製造業が置いてけぼりを食らう恐れあり、という論調になっています。本当のところはどうなのでしょうか?

インダストリー4.0については、次の過去記事もご参照ください
⇒「クラスター資本主義 v.s. 国家資本主義 v.s. 企業資本主義(1)

2015/4/17|日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)「製造業革命」日本に焦り IoT活用、企業間連携で出遅れ ドイツ、国挙げ規格作り

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「部品や生産装置などあらゆるモノをネットワーク化してデータを集め、生産効率を大幅に高めるドイツの「新・産業革命」に、日本企業が危機感を募らせている。ドイツで開かれた世界最大級の産業見本市では、開発期間短縮など国を挙げた技術開発の成果をアピール。同じ構想は描いていても企業がそれぞれ「独自の戦い」をしている日本とは対照的だ。」

(2015年4月17日:日本経済新聞朝刊より下表転載)

経営管理会計トピック_IoTを巡る日独企業の最近の動き_日本経済新聞朝刊2015年4月17日掲載

 

■ 本論に入る前に、ドイツ発「インダストリー4.0」の基礎知識を整理

以下、最近の新聞雑誌記事の中からエッセンスだけ抜粋し、「インダストリー4.0」取扱説明書をつくってみました。

【背景】
1)ドイツも、高い人件費とエネルギーコストの高騰から、製造業の空洞化が顕著である
2)従来のものづくりの延長では、アジアなどの新興国にやがてキャッチアップされて競争優位を失う
3)ドイツは日本と同様に多くの中小メーカーを抱えており、ITによるサプライチェーンの効率化を進めなければ、ドイツの産業競争力を維持できない
4)製造業における米国の復権への対応
・アップルなどが中国との間でインターネットを活用した生産分業体制を上手に構築
・ゼネラル・エレクトリック(GE)の「インダストリアル・インターネット」戦略
 →ジェットエンジンや発電所などの稼働状況をセンサーで捕捉し、そこから吸い上げた情報をビッグデータとして分析することで機器の効率や寿命などを引き上げる

【コンセプト】
「つながる工場」「Smart Factory」「オープンプラットフォーム」
インターネットなどの通信ネットワークを介して工場内外のモノやサービスと連携することで、
1)製品に今までにない価値を創造
2)新しいビジネスモデルを構築
3)さまざまな社会問題の解決

【ねらい】
1)リアルタイムで生産工程を最適化する極めて柔軟な生産ネットワーク
2)生産性の向上だけでなく、大量生産と同じコストで個別の製品をつくることが可能
  →究極の多品種少量生産、カスタマイズ生産の実現
3)工場のエネルギーや資源の消費量を削減し、地球環境的視点から持続可能な成長を実現
4)プラットフォームをドイツ仕様で統一
  →4.0を構成する自動化やロボット技術は日本のFAや工作機械、ロボットメーカーが強い分野。中国やインドをドイツ側に引き込んで、日本企業との競争に優位に立てる
  →ドイツ方式が世界中に浸透すれば、シーメンスやSAPは規格で覇権を握れる

【取り組み主体】
「産業団体」
1)ドイツ情報技術・通信・ニューメディア産業連合会(Bitkom)
2)ドイツ機械工業連盟(VDMA)
3)ドイツ電気・電子工業連盟(ZVEI)

「主要な参加企業」
1)ABB(重電)
2)ボッシュ(自動車部品)
3)ドイツテレコム(通信)
4)フェスト(製造装置)
5)トルンプ(工作機械)
6)HP(情報技術)
7)IBM(情報技術)
8)インフィニオン(半導体)
9)SAP(情報技術)
10)シーメンス(重電)
11)ティッセン・クルップ(機械・鉄鋼)
12)フエニックス・コンタクト(電子制御部品)
13)フォルクスワーゲン(自動車)
14)ヴィッテンスタイン(駆動部品)

【取り組み分野】
「インダストリー4.0プラットフォーム」が取り組む8つの優先分野
1)ネットワークの標準化と構造化
2)複雑な製造システムへの基盤構築
3)ブロードバンド通信のインフラ整備
4)統一的なセキュリティー技術の開発
5)労働者の能力開発と働き方の設計
6)専門教育と成功体験の共有化促進
7)データ保護などの法的枠組み作り
8)エネルギー消費効率の引き上げ

【実現方法】
1)ネットワークに接続された機器同士が自律的に協調動作する「M2M(Machine to Machine)」
2)ネットワークを介して得られるビッグデータの活用
3)生産系以外の開発/販売/ERP(Enterprise Resource Management)/PLM(Product Lifecycle Management)/SCM(Supply Chain Management)といった業務システムとの連携

【歴史】
2006年:ドイツ連邦政府がハイテク戦略実行のための諮問機関で、産業研究のアライアンスを始める
2006年:科学技術イノベーション基本計画「ハイテク戦略」策定
2011年:ドイツで開催された産業機器の展示会「Hannover Messe 2011」で内容発表
2013年:「Hannover Messe 2013」では、産官学の有識者から成るワーキンググループ(WG)による最終報告が発表
2013年:産業系3団体(VDMA、BITKOM、ZVEI)を事務局としたプラットフォーム設立
2013年:ドイツ技術科学アカデミー(AcaTech)がこのプロジェクトを推進するための戦略を提言
2014年:プラットフォームからホワイトペーパー(実施スケジュール)発表

 

■ 本論に入る前に、ドイツ以外の国の取り組みは?

それでは、ドイツ以外の国においては、同様の新しい産業(製造業)に対する施策にどのように取り組んでいるのでしょうか?

2015/4/14|日本経済新聞|朝刊 (GLOBAL EYE)IoT、製造業にどう生かす 独米中、競争と接近

「あらゆるモノをインターネットでつなぐ「IoT」を製造業にどう生かすか――。実用化に向け各国の「宣伝競争」が活発だ。ドイツが第4次産業革命を意味する「インダストリー4.0」を掲げれば、米国や中国も似た構想を打ち出した。次世代の製造業のルールづくりを巡る独米中三つどもえの主導権争いに映るが、実態はより複雑だ。」

【米国】
2014年にGEに加え、シスコシステムズやIBMなども含め「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)」が発足。

【中国】
「中国製造(メード・イン・チャイナ)2025」を掲げ10年でデジタル技術の活用などを通じ製造業の高度化を狙う。

「3つの構想はそれぞれ通信やセキュリティーの規格などの議論が進む見通し。だが、連携を探る動きも実は進んでいる。
 2月中旬のベルリン、IICの事務方トップ、リチャード・マーク・ソレイ氏はボッシュのイベントに出席。「ドイツと米国は競争と協調でIoTをけん引していける」と述べた。相互乗り入れは始まっている。4.0代表格のシーメンスやボッシュはIICに加盟し4.0の推進機関にはIBMや米HPも加わる。
 3月中旬にハノーバーで開かれた欧州最大のIT(情報技術)見本市「CeBIT」では、通信機器世界最大手の中国・華為技術(ファーウェイ)がSAPと4.0分野の提携を発表した。ドイツが製造業IoTという概念の輸出を狙った結果、米中が情報を求めドイツに接近する構図だ。」

米中独間で、次世代のものづくりのプラットフォーム構築に向けた、激しい「合従連衡」が繰り広げられている今、日本企業と政府はどのようなスタンスなのでしょうか?

「翻って日本は模様眺めの雰囲気が強い。ある日“突然”独米中が規格づくりで手を組む可能性もある。3月の日独首脳会議後に安倍首相は「日本とドイツで産業革命を起こしていく」と強調した。」

首相の言葉は勇ましいのですが、現実には、このコンソーシアムに寡聞にして日本企業が参加しているということは聞いていません。しかしながら、日本の産業界もただ茫然と事態を眺めているだけではありません。

「独立行政法人 科学技術振興機構研究開発戦略センター 永野博氏」が、2014年7月24日の「日本機械学会」にて、「インダストリー4.0」についてのレポートを公表しています。

⇒「ドイツ政府の第4次産業革命Industrie4.0ー日本のモノ作り産業へのインパクトー

日本の産業界もただ座して、何もしていないわけではないようです。世の中の動向に気付いているはずですが、今一歩、足が前に進まないようです。その辺の理由と、いたずらに「4.0」を恐れる必要もそれ程無いかもしれない、そういう話を次回にしたいと思います。

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