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ビッグデータとIoTのどこで儲けるか(6)

経営管理会計トピック テクノロジー
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■ IoTがもたらす新スマイルカーブとは?

経営管理会計トピック

従来から、電子電器機器産業で言われている「スマイルカーブ」、最上流の製品企画・マーケの利益率と、最下流のサービスの利益率が高く、中間の製造・組立工程は利益率が低いとされているものがあります。台湾のエイサー(宏碁電脳)社のスタン・シー会長がパソコンの各製造過程での付加価値の特徴を述べたのが始まりとされています(出典:RIETI モジュール化と中国の工業発展)。

(スマイルカーブの概念図:出典は同上

スマイルカーブの概念図

別段、筆者としては、それぞれの工程での戦い方があると思っていますし、それぞれの工程で実際に競争に打ち勝っている企業は存在しています。今回は、IoTに絡めて、このスマイルカーブの新解釈、新定義に基づき、3社の有名企業の動きをご紹介したいと思います。

2015/6/10|日本経済新聞|電子版 (ニュースの真相)インテル「2兆円買収」で手に入れる3つの未来 伊藤元昭 エンライト代表者

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「米Intel(インテル)は、FPGA(ハードウエアの再構成が可能なIC)メーカー大手の米Altera(アルテラ)を現金167億米ドルで買収する。1株当たり54米ドルという買収金額は、両社の交渉が初めて報じられた2015年3月27日の前日の株価である34.58米ドルよりも56%高い。かなり高評価での買収である。」

 

■ インテルを走らせた新スマイルカーブとは?

インテルに対して、アルテラを高評価での買収に走らせた理由がこの新スマイルカーブなのです。

(コンピューティングのスマイルカーブ:出典「同電子版記事」より)

コンピューティングのスマイルカーブ_日本経済新聞_電子版_20150610

スマイルカーブの変容は同記事に解説がありますので下記に転載します。

「「ムーアの法則」に沿ってマイクロプロセッサーの性能が伸び続けていた時代には、システムのダウンサイジング化の流れに乗って右へ右へと伸び、システムの価値は右肩上がりの曲線を描いていった。これがインターネットが普及した2000年代前半になると、サーバーを置くデータセンターの価値と個人保有の端末の価値が押し上げられた。そして、クラウドコンピューティングの時代となった今、片側にサーバーの集合体であるデータセンターを置き、もう片側にスマートフォン(スマホ)もしくはIoT(Internet of Things)関連の端末を置いたスマイルカーブを描くようになっている。」

このような認識に立ち、インテルは、比較的ブラックボックスの中に秘されているデータセンターで使用されている技術として、「FPGA」を主力製品にと考えているのです。

「マイクロプロセッサーとFPGAで電力当たりの性能を比較した場合、検索処理では約10倍、複雑な金融モデルの解析では実に約25倍もFPGAの方が性能が高い」

この流れは「ウィンテル連合」の一角である米Microsoft(マイクロソフト)の動向も大いに影響しています。

「2014年6月に自社のデータセンターにFPGAを導入すると表明し、業界関係者を驚かせた。同年10月のイベント「SICS SOFTWARE WEEK 2014」では、技術の詳細も発表した。
 ここでFPGAはマイクロプロセッサーをアシストするチップなどではなく、データセンターの中核チップであること、そしてその導入によってデータセンターのコストがおおまかに言って半分になる驚くべき効果を秘めていることを、世に知らしめた。」

一方で、新スマイルカーブの最下流での動きはどうなっているのでしょうか?

「FPGAはデータセンター向けマイクロプロセッサーを置き換えるだけではなく、組み込みシステムのマイコンも置き換えつつある。特に重要な点は、自動車向けマイコンでの置き換えが進む動きが見えてきたことだ。
 その応用先は広く、エンタテインメント、高度運転支援システム(ADAS)、電気自動車(EV)などのバッテリーやモーターの制御をカバーしている(図4)。Alteraは、ローコストの製品からハイエンドの製品まで、あらゆる品種で自動車用半導体の品質規格である「AEC-Q100」に対応した製品を既に提供している。自動車向け製品の累積出荷実績は4000万個以上に達し、採用の広がりが加速している。」

(FPGAの応用が想定されている自動車内の機能:出典「同電子版記事」より)

図4  FPGAの応用が想定されている自動車内の機能(出典:日本アルテラ)_日本経済新聞_電子版_20150610

つまり、FPGAで組み込みシステム向け市場も抑えようということです。自動車産業にとどまらず、インテルとしては、すでにアルテラ製のFPGAが携帯電話の基地局やテレコム機器、テレビなど家電製品に搭載されていることから、新スマイルカーブの両端をこのFPGAでさらに口角を上げようという訳です。

 

■ 同じ自動車部品業界で、ボッシュはどう動こうとしているか?

組み込みシステムの主戦場である自動車部品。ここにはドイツのボッシュという巨人が控えています。

2015/6/23|日本経済新聞|朝刊 ボッシュ、製造業の殻破る 車部品などネット接続で新サービス  ビッグデータを活用

「自動車部品の世界最大手、独ボッシュが製造業の殻を破り、サービス業への脱皮を急いでいる。自動車部品から電動工具、家電、センサーまで幅広い製品を持つが、これらすべてをインターネットとつなぐことで、新たなサービスを生み出そうというのだ。クルマがネットにつながる時代。その最大の受益者はボッシュかもしれない。」

モノをネットで結ぶ技術である「インターネット・オブ・シングス(IoT)」対応製品を使って、ボッシュは、コンサルティングサービスを展開しようとしています。

① 自社のブレーキシステムにセンサーを取り付け、ブレーキパッドの摩耗状況などをネットで監視。異常が見つかれば修理するよう推奨するサービス
② ボッシュのすべてのブレーキの稼働状況を集め、「ビッグデータ」として解析すれば世界中の交通状況をリアルタイムで把握することで、公共交通を制御するサービス
③ エンジン制御ユニット(ECU)など車の「走る、曲がる、止まる」にかかわる基幹部品からの稼働データを分析することで、ドライバーに渋滞や燃費改善の情報を提供したり、事故の多い場所に道路標識を設置するサービス

そうしたサービスに欠かせないシステム製品を作っていこう、それはハードとソフトの融合によるサービス提供ができる製品という訳です。

(ボッシュのIoT戦略:出典「同新聞記事」より)

ボッシュのIoT戦略_日本経済新聞_20150623

こうした動きをとらえ、経営者(デナー社長のインタビュー記事より)は、ボッシュの事業の定義と、これからの動きを次のように発信しています。

2015/6/23|日本経済新聞|朝刊 ハードとソフト融合 デナー社長に聞く 企業買収で人材獲得

<事業定義>
① 機械、家電製品、自動車部品などハードウエア
② すべてのハードをつなぐ強力なソフトウェア
③ (ハードとソフトを融合した)ビジネスモデル

――ビジネスモデルの具体例は。

 「ハードとソフトの融合サービスが大きな潮流になる。当社のセキュリティービデオカメラは、クラウドにつなぐことで遠隔監視ができるようになる。自動運転技術も将来重要な分野だ」

――米グーグルなどIT(情報技術)大手と事業面や人材獲得面で競争が起きています。

 「ものづくりの領域では優秀な人材を確保するという点で大きな問題はない。だがITやソフト分野は競合と比べると当社の規模は小さく、評価を一段と高める必要はある」
 「そのための手段が企業買収だ。機器間通信(M2M)ソフト開発の独プロジストの買収は好例だ。買収を通じて手薄だった分野に参入し、既存事業と組み合わせる。有能なIT人材も獲得できた。M2Mの技術はネット経由で他社と協力したり、異業種と組んだりする際にとても重要だ」

新たな事業定義をした。そうすると、新たな経営資源が必要になる。それは、外から調達してきます、ということです。

 

■ ボッシュといえば「インダストリー4.0」でした!

先の記事に戻り、ボッシュは、事業展開だけでなく、自社製品を製造する生産現場でも、IoTの可能性を120%引き出そうとしています。

「ものづくりにもIoTを採用する。子会社ボッシュ・レックスロスの独南西部の工場は、ドイツの官民が進める製造業版IoT「インダストリー4.0」のモデル工場だ。生産ラインにセンサーをつけ、稼働状況や在庫のデータを解析し業務を改善してきた。同社のカール・トラグル社長は「現時点で生産性は1割向上、在庫は3割減らせた」と胸を張る。」

(独南西部ホンブルクのモデル工場:同紙記事より)

ボッシュIoTモデル工場_日本経済新聞_20150623

M2Mで機器がつながる。「つながり」から最適稼働状況と在庫データをアルゴリズムで導き出す。そしてつくられた製品がまた世の中をつなぐ役割を果たす。いやあ、「つながる」世の中推進中ですね。

 

■ とりは日本企業「ルネサス」で!

では日本企業の動向も見ていきましょう。

2015/6/16|日本経済新聞|朝刊 ルネサス、半導体とソフト一括提供 機器のネット接続を支援 顧客のサービス開発費半減

「ルネサスエレクトロニクスはあらゆるモノがネットワークにつながる「インターネット・オブ・シングス(IoT)」分野で、半導体とソフトウェアをあらかじめ組み合わせて提供する事業を始める。独自のソフトを組み込んで納品することで、IoTを手掛ける顧客企業の開発期間とコストを半減する。半導体の単品販売から事業を転換し、ソフトやシステム設計を加えた開発支援サービスを収益の柱に育てる考えだ。」

同新聞記事には、図解がありましたので、下記に転載します。

ルネサスのIoT戦略に基づくビジネスモデルの転換_日本経済新聞_20150616

「IoTを活用した製品・サービスに必要な幅広い半導体のほか、実際に動くようにするためのソフト、製品開発ガイドラインを一括で提供するサービス「ルネサス・シナジー・プラットフォーム」を始める。米シリコンバレーの子会社が主導し、年内をメドにIoTを手掛ける世界のIT企業に提供を始める。」

前2社との相違はどこにあるのでしょうか?
インテルとは、ガチの勝負になります。BtoB企業(ITサービス業、またはITサービス業が使用するIoT製品メーカー)相手の商売です。そもそも、組み込みマイコンのビジネスは、特注というか、顧客の要望が多様で複雑なため、コスト高で採算が取れない、ということではなかったでしょうか?

勝負所としては、
① 個別仕様による設計コストの高騰を、ソフトウェア開発にもっていって、安く上げようとする
② 個別仕様による特注構造を、汎用的なソフトウェア開発で吸収する
という感じでしょうか?

新聞記事から、ルネサスの訴求ポイントは、
「ネットワークを活用した新しい家電製品などの開発に乗り出すベンチャー企業も世界的に増えており、ルネサスの新事業によってアイデアを迅速に事業化できる。ルネサスは「開発期間とコストを最大で5割削減できる」としている。
 通信やセキュリティー機能といった基本的なソフトをルネサスが用意し、顧客企業はそれらを組み合わせることで効率よく製品・サービスを開発できる。ソフト開発の作業が省けサービスの中身の立案に集中できる。
 半導体とソフトを別々に調達した場合、正常に機能するかという検証作業に手間がかかっていた。双方を一括提供することで機器間で通信する際の不具合が発生しにくくなるメリットがある。」

あくまで、IoT製品開発会社の支援ということ。従来は半導体(ハードウェア)の販売だけだったものに、新たにソフトウェアを付加しました、という足し算の事業展開。ということは、ソフト開発要員や開発環境など、プラスでリソース調達が必要になるということ。ルネサスにとって、新規投資額も大きくなります。ビジネスは入と出の差異(スプレットマージン)で儲けられるので、「出」の方の管理もしっかりやっていただきたいと思います。

一方で、「入」の方では、2つポイントがあります。

① 個々の製品・サービス開発会社がかかっているコスト・手間を、バリューチェーン全体で、ルネサスが肩代わりした方が削減できる、ということにならないと、この事業は採算が取れない

② ハード+ソフトの「組み込みシステム」として販売することで、これまで対象になっていなかった企業を新規顧客としてどれだけ呼び込むことができるか

ボッシュは、BtoC市場狙いなので、そもそも相手にする市場が違いますね。大きな意味では同じ分野なのでしょうが、相手にする客層が異なります。
(ここでは一概に、BtoB と BtoC のどちらが儲かるか、単純比較できないので、この視座からの比較はやりません)

最後に気になる一節を同記事から。
「ルネサスは自動車や産業機器分野でもソフトウェア開発会社と連携して自社製品とソフトの組み合わせ販売を始めている。IoTは新しい分野のため自らソフトを手掛けることで顧客の要請に即応し、販路を広げたい考え。米シリコンバレーの子会社がソフト技術者を数十人規模で採用して自社開発に乗り出した。」

インテルはアルテラを買収しました。ボッシュは、独プロジストを買収したうえで、グーグルと人材獲得競争を展開しています。一方で、ルネサスはシリコンバレー子会社でのソフト技術者の採用強化。

こういうものは、スピードと技術の新奇さが重要! いたずらにM&Aを推奨しませんが、外部リソースの早めの取り込みと、取り込む際の目利きが競争優位に立つポイントといえましょう。日本企業はそういうの、もともと得意でしたっけ???

ガチで勝負を挑むなら、正面突破か、ゲリラ戦。 ルネサスは正面突破策のようですが、この事業の成功を見守りたいと思います。

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