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ランキングで読む日本株式会社(4)薬・通信、効率よく現金稼ぐ 昨年度、投資や還元の原資に - キャッシュフローマージンの意味を再考する

財務分析(入門)
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■ これだから財務指標は難しい

通説では実しやかに分析の有効性が謳われているがそもそも数学的意味をなしていない財務指標で、筆者が槍玉に良く上げているのが、

① キャッシュフローマージン(売上高営業キャッシュフロー比率)
② 売上高経常利益率
③ EBITDAマージン または
④ EV/EBITDA倍率
⑤ ネットD/Eレシオ

そして、定量的な判断を示している、

⑤ D/Eレシオは「1倍」が目安
⑥ 流動比率(流動資産÷流動負債)は200%以上が安全圏

という定見のない財務指標と根拠のない通説。

⇒「4~6月期決算番付(4)効率よくもうけたのは キーエンス、自動化追い風 – 売上高純利益率が単独では無意味な理由

いくら、経済紙が取り上げていたり、MBAコースやそこで教鞭をとる教授が書いた教科書に掲載されていたとしても、経営分析の実務からすれば、いずれも切れないハサミと同じ価値しかありません。

2018年3月期の決算発表が続き、前期の財務分析を取り上げる記事が誌面やネットを騒がせていますが、看過できないため、ちょっとだけその指標の意味(使い方)について注意喚起をしておきます。

2018/5/25付 |日本経済新聞|朝刊 ランキングで読む日本株式会社(4)薬・通信、効率よく現金稼ぐ 昨年度、投資や還元の原資に

「多くの日本企業が2017年度に利益を伸ばした中で、企業を選ぶ視点の一つが現金を稼ぐ効率だ。将来に向けた投資や株主への利益還元の原資をいかに確保しているのか。売上高営業キャッシュフロー比率をみると、上位には医薬品や通信会社が並んだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「運輸や不動産は資産効率が良くなった効果が大きい」を引用)

20180527_運輸や不動産は資産効率が良くなった効果が大きい_日本経済新聞朝刊

 

■ 売上高営業キャッシュフロー比率(キャッシュフローマージン)の解説を読む

前章で取り上げた新聞記事でランキング表に掲載された企業についてなされたコメントを抜粋すると以下の通り。

● 塩野義製薬
「抗エイズウイルス(HIV)薬の製造・販売権を英社に与えている。売れ行きなどに応じたロイヤルティー収入が1035億円と前の期より4割増えたのが要因」

● NTTドコモ
「従来型の携帯電話からスマートフォンへの乗り換えが進んだうえ固定回線のセット売りも好調。顧客1人当たりの月間収入を増やした」

● JR東海
「訪日外国人や出張客が増えたことで、(中略)稼ぎ頭の東海道新幹線などの運輸収入が3%伸びた」

三菱地所
「東京・丸の内などのオフィスビルが人気で、3月末の空室率は1年前の2.9%から1.9%まで低下。フル稼働に近い状態だ」

● キーエンス
「工場を持たない「ファブレス経営」で、売上高営業利益率も56%と高水準。世界のメーカーが設備投資を増やしており、自動生産装置で使うセンサーやデータ計測器が好調だった効果も表れた」

以上、各社に対するコメントをご覧いただき、これがなぜ、売上高営業キャッシュフロー比率が高い値を示した要因分析になっているのかお分かりになられたでしょうか? いずれも、増収(売上増)とそれに伴う(規模の経済効果以外に憶測の域を出ない)増益しか想起させない分析になっているとここで勇気をもって断言します。

 

■ 営業キャッシュフローの中身を検証する

開口一番、割り算で示される財務指標は、分子と分母の意味がきちんと対応していなければなりません。例えば、「売上高営業利益率」は、

営業利益 = 売上高 - 総原価(売上原価と販管費の合計)

という等式で示されるので、売上高に占めるコスト割合、売上高に占めるマージン比率を知り、企業の1年間のビジネス(買って作って売るという正常営業循環)の収益性を知るのに適切な財務指標です。

しかし、営業キャッシュフローは、売上高だけがその源泉ではないため、分子分母が非対応。これではその商である比率を並べてみても、数字の大小以上の意味を見出すことはできないし、概ね、解説コメントも、「儲かったから」以上でも以下でもない無難なものになってしまいがちなのです。

例えば、経営成果がどのようにキャッシュフローの数値に現れるか、手前味噌になりますが、次のような分析をして頂ければ、まだ納得性もあるというものです。そのためには、ひと手間かける必要がありますが。

20171220_手元資金を増やした主な企業_グラフ2

⇒「キャッシュフロー経営(1)(決算番付)(2)自動車4社で5兆円増 手元資金残高 景気拡大、5年間で厚み 還元圧力強まる可能性

話を元に戻しますと、営業キャッシュフローの中身は、

① 税引前当期純利益
② 減価償却費
③ その他非現金損益取引

④ 持分法利益、受取配当金
⑤ 受取利息、支払利息
⑥ 法人税等

⑦ 売上債権増減
⑧ 在庫増減
⑨ 仕入債務増減

に要素分解されます。

会計(基礎編)_キャッシュフロー計算書_3分類の取引内容

⇒「キャッシュフロー計算書を斬る

①から⑥はP/L項目なので、従来の「売上高●●利益率」で十二分に表現され得るものです。その中でも、④から⑥は、売上高増減とは完全に直接的関係にないものであることは言及しておきます。これを分子分母の計算に算入すると売上比率の意味が、、、

さらに、⑦から⑨は、運転資金増減を意味し、これらも、増減金額を売上高で割っても、意味のある割り算の結果(商)になるとは思えません。むしろ、それぞれ日商(1日当たりの売上高)で割り算して、「回転日数」を算出することで、運転資金状況を知る、という分析手法が別に存在します。これをキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)といいます。

経営管理会計トピック_キャッシュ・コンバージョン・サイクル

⇒「花王、アジア資金効率改善 300億~400億円捻出、設備投資柔軟に

 

■ ランキング上位企業の営業キャッシュフローの中身を確認してみよう

理屈だけで四の五の言っていても仕方が無い(いまいちピンとこない)ので実際の数字を検証していきましょう。

まずは、上位三社(キーエンス、塩野義製薬、JR東海)の営業CF構成を数表で確認します。単位は百万円。

20180527_売上高営業キャッシュフロー比率_上位3社_数表

営業CFを生み出す取引群を要因別に下記の要に大別しました。

① 損益取引
② 営業投資取引
③ 資金取引
④ 運転資金取引
⑤ 税務取引

はい、数字が並んでも構成要素別の特徴が分かりにくいと思いますので、このまま絶対値でグラフ化してみました。

20180527_売上高営業キャッシュフロー比率_上位3社_グラフ_営業CF構成_絶対値

はいはい、それでも、営業CF全体に占める影響度をもっと分かりやすくするために、営業CFを100%とした場合の、各要素が占める割合を百分率で表現してみました。

20180527_売上高営業キャッシュフロー比率_上位3社_グラフ_営業CF構成_構成比

● 1位 キーエンス

損益取引だけで営業CFの147%を稼いでいます。これを、ビジネス規模拡大による運転資金需要:▲18%、儲けているのだから相応の負担として税金支出:▲31%で相殺されて営業CFの数字を形成しています。

● 2位 塩野義製薬

損益取引が営業CFの93%となり、減価償却費:12%と合わせてほぼ営業CFの値に近似します。受取配当金と利息取引:24%が税金支出:30%とほぼ見合いになり、運転資金増減の影響度が無い中で営業CFを通常営業収入で賄っている形となっています。

● 3位 JR東海

損益取引が104%でほぼ営業CFと同値。減価償却費:35%が、資金取引(支払利息負担):12%と税金負担:26%を吸収している形となっています。

このように、売上高が源泉ではないキャッシュ・イン・フロー(現金収入)、キャッシュ・アウト・フロー(現金支出)から構成される営業キャッシュフロー。売上高に対する比率を求めて、どんなインサイトが得られるのか、、、本当に摩訶不思議な財務分析指標と言わざるを得ません。(^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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