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日電産、自社株買い150万株超す 株安局面で積極化

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 「良い自社株買い」と「悪い自社株買い」

経営管理会計トピック

米国利上げ、中国経済の減速に原油安が重なり、日本の株式相場が年明けから乱高下を伴い下値を探っている状態です。当然、企業経営者もただ手をこまねいているはずもなく、機敏に市場の変化に対峙している方もいらっしゃいます。

2016/1/26付 |日本経済新聞|朝刊 日電産、自社株買い150万株超す 株安局面で積極化

「日本電産が年初からの株価下落局面で積極的な自社株買いを進めていることが分かった。25日までの取得株数は150万株を超え、26日に期限を迎える年間取得枠(400万株)の半数近くに達したようだ。将来の株式交換によるM&A(合併・買収)など機動的な資本政策に備える狙いがありそうだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

続けて日本電産の自社株買いの状況を。

「2015年1月に400万株、240億円を上限とする自社株取得枠を設定したが、昨年末時点では約26万株、21億円分の取得にとどまっていた。それが年初からの株安で同社株も一時、年末比2割近く下落したことで、割安と判断したようだ。」

自社株が割安な状態を好機として判断して自社株買いを進めるのが「良い」自社株買い。自社株が割安になったので、恐れを抱いて株価を維持するために自社株買いに走るのが「悪い」自社株買い。

筆者がこう断言するのは、「自社株買い ≡ 株価上昇」という恒等式が成立しないから。

株式時価総額 = 株価 × 発行済み株式数 は小学生でもわかる式。

めんどくさいので、有利子負債をいったん考慮外とします。この会社の利益(営業CFでもよい)を稼ぐのに金融市場から調達している資金総量が「株式時価総額」。この金額が固定だと思い込んでいると、「株価×株式数」の面積は不変なので、株式数が減った分だけ株価が上昇します。ですが、株主から集めたお金を株主に返却するのが自社株買い。自社株買いの原資が余資ならば、これまでの株価水準が間違って高くなっていただけで、適正価格に収斂するだけ。また、「リキャップCB」のように、低利の有利子負債に原資を求めるなら、資金源を移し替えるだけなので、従来の株式市場で調達していた資金の利回りは不変なので、PERも不変なので株価は自動的に上昇なぞしません。

この辺の詳細説明は過去投稿記事のこちら
⇒「(十字路)米国経済は万全か - 自社株買いは本当に株価を押し上げるのか?

「日電産が100万株を超える大規模な自社株買いに踏み切るのは13年以来。13年には130万株超の自社株を取得し、その後、グループ会社の完全子会社化や新株予約権付社債(転換社債=CB)の株式転換に活用した。今月21日には27日から1年間、300万株を上限とする新たな取得枠の設定を発表した。」

こちらの記述をみるに、日本電産は株価上昇を想起しての自社株買いではなく、豊富に所持している現預金の相応しい投資先を、あくまで投資利回りを見て、自社にしたとの判断によるものと思われます。だって、自社の投資利回りが15%だと思っているのに、一時的な株価低迷で、現状の投資利回りが15%未満だったら、他所に15%超の投資機会が無い場合、迷わず自社株を買い戻します。その買戻しは、15%の投資機会を買うのと同じ意味を持つからです。

そのうえ、コーポレートファイナンスのテクニカルなことですが、「リキャップCB」による低利の資金調達だったり、自社株の利回り分の金融商品でグループ会社の発行済み株式を購入(株式交換の形で)したりと、極めて、オーソドックスな財務戦略の一環としての自社株買い以外の何物でもありません。これが「良い」自社株買いの見本です。

■ その他の会社もこの株価軟調時に自社株買いを進めてきました

日本電産以外も、この好機を狙って、次々と自社株買いを実行しています。

2016/2/2付 |日本経済新聞|朝刊 自社株買い、株安で活発 1月実施額、38%増の2634億円 昨年は9年ぶり最高額に

「年初からの株安が上場企業の自社株買いを促している。株価が下がった局面を狙って日本電産やHOYAなどが買いに動き、1月の実施額は2634億円と前年同月に比べて38%増えた。資本効率の向上を迫られている日本企業は株主配分の手段として自社株買いを拡大しており、2015年年間の自社株買い実施額は4兆8千億円と9年ぶりに過去最高を更新した。」

(下グラフは、同記事添付の自社株買いのトレンドチャートを転載)

20160202_2015年の自社株買いは9年ぶり最高_日本経済新聞朝刊

 

(下表は、同記事添付の自社株買いを実行した会社一覧を転載)

20160202_最近自社株買いを実施した主な企業_日本経済新聞朝刊

 

「月間で日経平均株価が1515円下がった今年1月。日本電産は120億円(153万株、発行済み株式の0.5%)の自社株買いを実施した。」

●日本電産の概況は前章で触れた通り。
「ちょうど1年前に発行済み株式の1.4%にあたる400万株の取得を決議していたが、期間中に取得した178万株の9割は1月に取得。株価下落で「買い付けやすくなった」(財務部)という。同社は1月下旬、16年分として新たに300万株240億円(発行済み株式の1%)の取得枠設定も発表した。買い取った自社株はM&A(合併・買収)や成長投資に充てる。」

●HOYA
「HOYAも1月の取得額が多かった。約750万株、347億円相当と昨年10月に発表した枠(1400万株600億円)のうち半分強を買った。鈴木洋最高経営責任者(CEO)は「有効な投資機会がなければ株主還元に充てる」と話す。」

HOYAの2016/2/8現在のPERは、18.87倍。その逆数が株式益回りとなり、約5.3%。HOYAが、5.3%以上のリターンが見込める投資機会が無く、手元に現預金が手つかずで余資として眠っているのなら、即時の自社株買いが投資判断として合理的。

「企業統治指針が導入された15年、上場企業は株主配分の充実や資本効率の向上を狙い、自社株買いを積極的に増やした。アイ・エヌ情報センターによると、実施額は4兆8千億円と前年比54%増え、9年ぶりに最高を更新した。社数も200社増の787社だった。日本株を買い支えてきた外国人投資家が売り手に回り、自社株買いを増やした企業(事業法人)が最大の買い手となった。」

リーマンショック後、円安効果もあり、現預金を積み上げてきた日本企業。日銀が発表したマイナス金利効果もあり、巷の金融商品の利率もさらに低下中。どうせ利息が付かない現預金ならば、最も内実を知る自社に投資した方がまし。そう考える経営者がもっと増えてもいいはず。

この記事中に名前が挙がった残りの企業がすべてそうだとは言いませんが、一時的な株価上昇のために自社株を買うのは、「悪い」自社株買い。「良い」か「悪い」かは、大抵、自社株買いのプレスリリースを読めばわかります。株主還元とか資本効率の向上とか言っていると大抵はアウト! 次の投資機会を見つけられない、事業の目利きができないダメダメ経営者と自ら名乗っているのと同義だから。

ただし、記事には後ろ向きな記述も。
「メガバンクも持ち合い株の売却に動き始め、対応を迫られる企業も増えそうだ。野村証券の西山賢吾氏は「16年は銀行から放出された株を自社株買いで引き取る動きも広がる」と指摘している。」

いわゆる、コーポレートガバナンスコード順守の影響で、金融機関が保有している政策目的保有株式(持ち合い株式)放出の消化先となる様子。企業部門が放出した現預金が、銀行の自己勘定に戻る。そのお金の次の行く先は???? しょうもない企業へ融資して不良債権化させたくないし、そうなると国債を買いに行かざるを得ないのか?

自社株買いからマイナス金利、国債の利率(裏返せば価格)にまで思いが及んだ記事となりました。

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