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(スクランブル)動いた「ROEの山」  平均10%、広がる銘柄格差

経営管理会計トピック とことんROE
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■ 「PBR」と「ROE」の相関関係のグラフの見方

経営管理会計トピック

「ROE=8%」説から、逆算して足元の日経平均株価は2万円前後が適正。そういう株価説明がありましたので、その真偽はともかく、ROEを用いたロジックの検証をしてみたいと思います。繰り返しになりますが、本ブログでは無責任な投資指南記事は掲載しない方針ですので、今回も、あくまで財務指標としてのROEとその周辺の考え方の理解のための説明を行います。

ROE = 8% との観察事項に対する考察はこの投稿記事でも確認
⇒「(スクランブル)高ROE株、買い疲れ 投資家は改善度に注目

2015/4/17|日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)動いた「ROEの山」平均10%、広がる銘柄格差

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「今の日本株市場をROE(自己資本利益率)から読み解くと、隠れていた事実が見えてくる。日経平均株価が2万円の大台を前にして膠着感を強めているのは、ROEから逆算した適正水準に近づいているのが大きな理由だろう。企業の資本効率の改善が引っ張る相場全体の水準訂正は一段落ということになるが、個別銘柄に目を移せば新しい景色が姿を見せる。」

(2015年4月17日:日本経済新聞朝刊より下図転載)

経営管理会計トピック_ROEとPBRの相関_日本経済新聞朝刊2015年4月17日掲載

「今の相場がおおむね適正な水準にあることは、ROEから見て取れる。
 ROEとPBR(株価純資産倍率)には相関関係がある。上のグラフは2013年以降の月末時点の東証1部の平均ROEとPBRをプロットしたものだ。ROEが8%以下の水準ではPBRは1倍前後で推移し、ROEが8%を超えるとPBRが右肩上がりで上昇していることがわかる。」

縦軸の「PBR」とは、「Price Book-value Ratio(株価純資産倍率)」の略称で、

PBR = 株価 ÷ 1株あたりの純資産額  または
   = 時価総額 ÷ 純資産

で求められ、横軸の「ROE(自己資本利益率)」(純資産 ≒ 自己資本 が前提)とは、

PBR = ROE × PER(株価収益率)
   = (純利益 ÷ 純資産) × (時価総額 ÷ 純利益)

という式で関係付けることができます。

つまり、2つの変数はお互いに独立的関係にあるわけでなく、「PBR」という指標が内包する要素として「ROE」があるということになります。しかも、被説明変数である「PBR」を説明するためには、「ROE」と「PER」の2つの説明変数が必要になるため、「ROE」が同一水準でも、「PER」が動けば結果として「PBR」は動いてしまいます。

これで、あたかも「ROE」と「PBR」が正の相関関係にあると言い切ることは算数的には難しいでしょう。

 

■ 実物経済の観察から得られる法則に対する考察

このグラフから言えることは、「ROE=8%」を分水嶺にして、その閾値を超えると、「ROE」と「PBR」が正比例の関係(正の相関)にあることが、あくまで観察事項として得られる事実ということです。これは、経済学でいうところの「フィリップス曲線」と同じく、実物経済の観察から得られた2つの変数、「インフレ率」と「失業率」の反比例の相関関係が発見されたことと同じといえます。

(ブログ「酒焼け☆わんわん」より下記グラフ転載)

経営管理会計トピック_日本のフィリップス曲線

その後、この関係性には理論的に、「インフレ率が上昇すると、名目賃金には硬直性があるため、実質賃金が低下することで、完全雇用が実現していない短期では、雇用量が増大して失業率が下がる」という後講釈が付きました。一方で、フリードマンらに代表されるマネタリストは「期待」概念を導入し、実際インフレ率の水準に無関係に失業率は決まるとして、「自然失業率」の概念を提唱しています。

Wikipediaから、米国の60年代と90年代のフィリップス曲線を下記に転載します。

経営管理会計トピック_フィリップス曲線_米国_60年代経営管理会計トピック_フィリップス曲線_米国_90年代

並べて見てみると、90年代にこの法則性が崩れています。そして米国では、ITバブルがはじけるまで続いた90年代のこの状況を「ニューエコノミー」と称していました。つまり、ここでいったんはフィリップス曲線を否定したマネタリストのコンセプトを拝借して、不景気になったら、人々の「インフレ期待」水準も下がって、「実際インフレ率」と「失業率」が共に下がる状態(正の相関)(時計回りの変位)が実現する、と説明がなされました。

ここでの教訓。人は、与えられた状況が従来の解釈では不合理になった場合、新たな状況を説明するための理屈を見事に作り出す、ということです。「観察から得られた法則」というのは、与件が不変だった時にだけ部分的に有効なもののようです。

 

■ 再び「ROE」と「PBR」の相関グラフに話題を戻します

新聞記事では、
「野村証券によると、現時点の東証1部の今年度の予想ROEは9.9%。これをグラフに当てはめると適正なPBRは1.5倍程度となり、その場合の日経平均は2万円程度。「今の日経平均の水準は資本効率の引き上げによって平均ROEが約10%まで改善することを織り込んだ」。野村の松浦寿雄氏は指摘する。」

とあり、もうひとつのグラフを添付しています。

(2015年4月17日:日本経済新聞朝刊より下図転載)

経営管理会計トピック_ROEの山が動く_日本経済新聞朝刊2015年4月17日掲載

「グラフは東証1部企業のROEの水準別の分布を示したものだ。2年前には2.5~5%の企業が最多だったが、利益率の改善や株主還元の強化で全体的に位置が右側にシフト。日本企業の平均値が株主が求める最低水準である8%を超えた。
 だがこの「ROEの山」の右シフトを今の相場は織り込んでしまった。さらに株価が上昇するにはROEを一段と上げる新たな材料が必要だが、現時点で過度の期待は禁物だろう。「過去にもっと高い時期もあったが長続きしなかった。見極めが必要だ」。みさき投資の中神康議社長は言う。」

この種の説明は、フィリップス曲線が一度示した法則を墨守するために、曲線が期待インフレの変化により下方シフトし、見かけ上、時計回りに変化するように見えるのだ、と後から付けられた牽強付会的な後解釈の同類にすぎません。

もう一度、「PBR」と「ROE」の関係式を確認すると、

PBR = ROE × PER

(時価総額 ÷ 純資産)=(純利益 ÷ 純資産)×(時価総額 ÷ 純利益)

(株価 ÷ 1株あたり純資産)=(1株あたり純利益 ÷ 1株あたり純資産)×(株価 ÷ 1株あたり純利益)

(株価 ÷ BPS)=(EPS ÷ BPS)×(株価 ÷ EPS)

※ BPS:Book-value per Share
※ EPS:Earnings per Share

という風に要素分解でき、市場参加者が本当に知りたいのであろう「株価」が左辺にも右辺にも登場する関係式であることが分かると思います。こういう式は「恒等式」といって、必ず成立します。しかも、被説明変数にしたいはずの「株価」が説明されていない式。こういう式を取りあげて株価水準をあれこれ説明されても、説得力に欠けるとは思いませんか?

これは、「ROE」を「株価」の説明変数に無理やりこじつけたいがため、同じ「純資産」を計算要素に持つ「BPR」を持ち出して、「株価」の代理変数として用いているからです。

この辺の計算式の理解をさらに深めるにはこの投稿記事
⇒「一筋縄でない高ROE株  持続性と改善度に着目(1)

 

■ (まとめ)「ROE」と「PBR」の相関グラフに類するコメントを目にしたら

1.何が「被説明変数」で何が「説明変数」かを明確に意識する
2.被説明変数に説明変数が混入していたら、理屈がトートロジー(循環論)になっている
3.説明に「代理変数」を使っていたら、正当な代理か要注意!
4.「相関関係」と「因果関係」の違いを理解する

おっと、これはまだ説明していませんでした。

売上高 = f(来客数)

という関数が成り立っている時、「来客数」を「従属変数」、「売上高」を「独立変数」と呼び、「従属変数」たる「来客数」を何とか操作すると、因果関係で「独立変数」たる「売上高」をどうにかできる関係のことを、「因果関係」と呼びます。

原因 → 結果 

になっていること。

一方でもはや都市伝説となっている、「日曜夕方の時間帯に、「缶ビール」と「紙おむつ」が良く一緒に売れる」というやつの場合は、「缶ビールの売上高」と「紙おむつの売上高」は「正の相関関係」にあるにすぎず、どちらかの売上の変化が一方の売上の変化の原因にはなっていません。

2次元のグラフを眺めて、そのグラフが「因果関係」と「相関関係」のいずれを示したものか、そして付された説明がそれらを混同していないか、じっくり自分の頭で考えてから、そのグラフが示す関係性から得られる「インサイト(洞察)」を自分のものとしてください。

「ROE」を上げると「株価」は本当に上がるのか???

そして「ROE」と「PBR」の相関図からそれが分かるのか???

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