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米デルが再上場準備 グループの資本関係整理  - 正攻法での上場の道を選択したデルと種類株式の発行を許したシンガポール株式取引所

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 正攻法で親会社の再上場を目指すデル

経営管理会計トピック

種類株式の発行の是非と、まっとうなコーポレートガバナンス、そして公開市場に株式を公開(上場)することに対する経営者の心構え、に対する思いは人それぞれかもしれません。

2018/7/3付 |日本経済新聞|夕刊 米デルが再上場準備 グループの資本関係整理

「【シリコンバレー=佐藤浩実】米IT(情報技術)大手のデル・テクノロジーズは2日、ニューヨーク証券取引所に再上場する計画を発表した。同社は経営の自由度を高めるため、2013年にMBO(経営陣が参加する買収)によって非公開企業となっていた。「トラッキングストック」(子会社連動株)と呼ぶ種類の自社の株式取得を通じてグループの資本関係を整理し、株式市場に復帰する。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

トラッキングストックとは、企業全体の業績とは独立した利益配当の計算などを株式契約に組み込むことで、企業の特定の事業部門や子会社の業績に市場で形成された株価が連動するよう設計された株式の総称です。

デル・テクノロジーの場合は仮想化ソフトを手がける子会社ヴイエムウェア(VMware)の業績を反映させる「クラスV」と呼ぶ株式(ティッカーシンボルはDVMT)をニューヨーク証券取引所に上場させていました。今回のスキームは、現在約170億ドル(約1兆8800億円)と評価されているクラスV株式保有者に110億ドルの特別現金配当を支払い、デルは差を埋めるため追加の株式ないし現金を提供するものです。DVMT保有者は、デル・テクノロジーズのクラスC普通株と交換するか、1株当たり現金109ドルを受け取るかを選択することができます。デル・テクノロジーのクラスC普通株はニューヨーク証券取引所に上場することになります。

デルが再上場する方法は代表的なもので3つくらい考えられました。

1)VMwareのトラックングストックはそのままにしてデルの株式を証券取引所で上場する(いわゆる変形の親子上場)
2)トラッキングストック公開企業である子会社のVMwareにデルが買収される、いわゆる逆さ合併による上場
3)トラッキングストックとデルの株式交換でVMwareを完全プライベートにして親会社デルだけが上場する

今回、マイケル・デルは、正攻法の3番目の方法を選択しました。

コーポレートガバナンス的にも一番問題が小さいのですが、手続きが面倒な手段を選んだことに、まっとうな経営をして公開市場に戻りたいとするデルの姿勢を個人的には支持します。

ちなみに、日本で最初にトラッキングストックを発行したのは、ソニーでした。2001年6月に、ソニーが子会社ソニーコミュニケーションネットワーク(現:ソネット・エンタテイメント)を対象としたトラッキング・ストック(ソニー子会社連動株)を上場し、同年12月の商法改正により種類株式制度が整備され、発行が容易に行えるようになりました。

ソニーの行動が法律まで変える思い切った資本調達方法でしたが、その後このトラッキングストックはプレミアムをつけた上でソニー株式に転換されたため現在上場しているトラッキングストックは日本には存在しません。

⇒「風速計 ベンチャー上場 もろ刃の種類株
⇒「トヨタ新型株に反対 議決権行使助言のISS 株主総会での賛否が焦点
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(3)本当に株主に報いる財務戦略とは 少数株主との利益相反解消策まで考える

 

■ 種類株式の発行容認で上場企業誘致に走る取引所

2018/6/28付 |日本経済新聞|朝刊 種類株を解禁 上場誘致 シンガポール取引所 香港に対抗

「【シンガポール=谷繭子】シンガポール取引所(SGX)は26日、普通株より議決権の多い「種類株」の上場を解禁した。海外のIT(情報技術)系スタートアップなどの上場を呼び込む狙い。ライバルの香港取引所は4月に種類株を解禁済みで、成長企業の上場誘致を巡る取引所間の競争はいっそう激化しそうだ。」

種類株は新規株式公開(IPO)で、創業者などが事業戦略の決定権を維持しながら資金調達できるとして、IT起業家などから支持されている方式です。アルファベット(グーグルの持ち株会社)やフェイスブックは、公開企業ですが、議決権は創業者メンバが過半を持ち(いえいえ、特別決議も制せられるようになっています)、普通株式の保有者は会社の重要な事項に対する議決権が事実上行使できていない状況になっています。

そこまでくると、普通株式は、元本と一定額の利払いが保証されていないコンソール債のようなものです。ちょっと言いすぎでしょうか?(^^;)

おそらく、前章で取り上げたデル・テクノロジーも御多分に漏れず、創業者のマイケル・デル氏の議決権に対する優位は揺るがない種類株式の発行で会社の支配を続けるものと思われます。

「ただ種類株は「株主の権利の平等を損なう」という懸念が根強い。SGXは規則に、会社の清算や社外取締役の指名など重要事項の決定の際は種類株の議決権も普通株と同様に扱うなどの取り決めを盛り、懸念に対応した。SGXのロー・ブンチャイ最高経営責任者(CEO)は「SGXは企業の創業者や起業家に選ばれる世界の取引所に名を連ねた」と述べた。」

シンガポール取引所も、こうしたIT企業に多く見られる議決権における種類株式の濫用を見過ごせないとして、最低限の制限を課すことを発表しています。

よく、日本の市場は海外から理解されていない親子上場がまかり通る世界的に見て異常な市場だ、という論評を聞きますが、切って返す刀で、だとすれば、公開企業なのに、議決権を創業メンバ以外に渡さない海外企業とそれを許している取引所の方も以上といわざるを得ない、と声を大にして言いたいと思います。

シンガポール取引所のギリギリの調整は、全面的に賛成することはできないとしても、公正な議決権を歪ませる、これこそ企業統治(コーポレートガバナンス)に強い影響をもたらす種類株に対する一応の対策を打ったことは一定の評価がなされてもいいのではと思います。

2018/7/7投稿の「連続増配銘柄をもてはやす一方で毎月分配型投信をけなす愚とは? – 長期投資と複利効果から見れば同じ投資姿勢であるべき」のように、経済事象、経営事象は相反する見方と立場のせめぎ合いで成り立っています。できるだけ複数の情報ソースやニュースを組み合わせて、偏ることのない一定の見識を持ってものごとを分析する力を磨いていく必要があることを最後にお伝えしておきます。(^^)

⇒「(一目均衡)緩和競争に揺れる東証 証券部 川上穣(後編)インデックス投信が隆盛の市場に種類株は相応しくない?
⇒「(一目均衡)緩和競争に揺れる東証 証券部 川上穣 (前編)「種類株式」を上場することの意味と影響について
⇒「資金調達 新潮流(下) 種類株が生む新たな緊張
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(1)親子上場のブーム再来の流れを中心にまずは株式市場の状況を確認する
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(2)ソフトバンク親子上場に伴うコーポレートガバナンス問題とコングロマリット・ディスカウント問題を斬る!

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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