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親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(1)親子上場のブーム再来の流れを中心にまずは株式市場の状況を確認する

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ ブーム再来「親子上場」のトレンドを確認する

経営管理会計トピック

昨今の低金利と経済成長の好循環の中、株式市場での資金調達のハードルが下がり、一段と資金需要側(企業側)の財務戦略の潮目が変わってきました。それを受けて、取引所の上場企業誘致の流れも変容してきています。具体的に、ソフトバンクと鴻海のケースに入る前に、親子上場が歓迎され始めている最近の市場状況のおさらいから始めたいと思います。

2017/7/6付 |日本経済新聞|朝刊 親子上場、10年連続減 昨年度末、11社減の270社 経営関与強める狙いも

「親会社と子会社がともに株式市場に上場する「親子上場」が一段と縮小している。野村証券がまとめた2016年度末の親子上場社数は270社で、前年に比べ11社減った。減少は10年連続で、ピークの06年度末に比べると35%少ない。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「親子上場の企業数」を引用)

20170706_親子上場の企業数_日本経済新聞朝刊

つい半年前の記事にて、2016年度決算時点で10年連続で親子上場数は減り続けているとの報道があったばかり。記事内では上場子会社を持つ理由としては、

1)知名度向上(上場企業としてのパブリシティ効果)
2)資金調達(子会社株の公開→一般株主の購入)

が挙げられており、一方で上場子会社を減っている理由としては、

1)上場子会社の一般株主(少数株主)の保護
2)親会社から上場子会社への経営関与の強化による経営効率の向上

を挙げています。

「親子上場は00年代半ばまで、ほぼ右肩上がりで増加。知名度向上や資金調達を目的に子会社を上場させる例が相次ぎ、日本市場に特有な動きとして知られていた。ただ、海外投資家の批判が高まったことなどを背景に、00年代後半からは一転して減少が続いている。」

とあるように、特に上記1)の理由から、コーポレートガバナンスの透明化、親会社の利益優先で子会社経営されると、子会社株を保有している一般株主(少数株主)の利益が劣後されることから、特に、筋を通した、かつ透明性の高い分かりやすいガバナンス体制を好む海外投資家に受け入れられやすくするため、親子上場廃止の流れが確かに昨年まではあったのです。

また、親会社側も、2)の理由に基づき、トヨタ自動車によるダイハツ工業の完全子会社化など、親会社の経営関与を強めるために子会社を上場廃止した例が相次いでいたはずなのに、、、

※ 親子上場のメリット・デメリットについては、続編にて再整理する予定です。

 

■ 株高が財務規律を緩め、「親子上場」「種類株式」に対して大目に見る空気感になっている!?

まだ大勢は、「親子上場」現象トレンドなのですが、潮目が変わってきたのではないかという兆候が出始めてきました。

2018/1/24付 |日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)株高で緩む市場規律 大株主の意向広がる

「世界の株式市場で規律が緩み始めているとの懸念が浮上している。一人の大株主が過半の株を握ったり、特定の株主の権利を強くした「種類株」を活用したりするなど、少数株主の声が経営に反映しにくい企業の上場が世界中で広がっているからだ。市場では有力企業が株高を活用し少数株主の利益よりも資金調達を優先する動きを逆に評価する向きもある。この兆候は過去の相場高騰時とも重なり、先行きに危うさが漂っている。」

「種類株」もより慎重なコーポレートガバナンス体制を必要とする資金調達方法です。議決権は創業者等の手で必ず過半数を維持するように制度設計を行いつつ、株式市場から議決権以下(無し)の株式発行から資金調達する術です。

⇒「(一目均衡)緩和競争に揺れる東証 証券部 川上穣 (前編)「種類株式」を上場することの意味と影響について
⇒「(一目均衡)緩和競争に揺れる東証 証券部 川上穣(後編)インデックス投信が隆盛の市場に種類株は相応しくない?
⇒「風速計 ベンチャー上場 もろ刃の種類株

前章で引用したグラフと同様のグラフがこの記事でも使用されています。

(下記は同記事添付の「親子上場の企業数は減少傾向」を引用)

20180124_親子上場の企業数は減少傾向_日本経済新聞朝刊

そして、親子上場している子会社側の株価の動向も示されています。

(下記は同記事添付の「親子上場の子会社の株価は市場を下回るケースが目立つ」を引用)

20180124_親子上場の子会社の株価は市場を下回るケースが目立つ_日本経済新聞朝刊

「日本企業の親子上場は子会社の戦略が親会社の意向に左右されやすく、上石氏は「少数株主の声が届かない企業の株は買いにくい」と指摘する」

議決権行使について制約をつける種類株も、親子上場した子会社株式も、どちらも、十分な発言権(経営参加権、議決権)の裏付けがないため、いざというとき、経営者を掣肘する抑止力に欠けるため、株式市場における魅力度がその分落ちるため、買い意欲が平均に比べて劣ってしまうのだと思われます。それなのに、どうして市場では、「種類株」や「親子上場」を許してしまうのでしょうか?

 

■ 企業誘致の競争激化が緩い株式発行条件を誘発している!?

こうした企業に優しい政策は、何も日本取引所に限ったお話ではありません。シンガポール取引所(SGX)の動きが激しくてめまいがするほどです。(^^)

2018/1/12付 |日本経済新聞|朝刊 シンガポール取引所 決算、四半期開示見直し 世界の動き対応

「シンガポール取引所(SGX)は11日、上場企業に課している四半期決算の開示ルールの見直しを検討すると発表した。年4回の開示義務を年2回に軽減したり、開示が必要な項目を減らしたりする案を検討する。開示ルールを簡素化する世界の取引所の流れに対応する狙いだという。」

 

2018/1/23付 |日本経済新聞|朝刊 シンガポール取引所、種類株発行を容認 IT企業誘致広がる

「シンガポール取引所(SGX)は、普通株とは異なる議決権や配当の権利をもつ「種類株」を発行する企業の上場を認めると発表した。IT(情報技術)分野のスタートアップ企業を誘致する。昨年12月には香港取引所も同様の発表をしており、有望企業の上場を狙った取引所間の競争が激しくなっている。」

各取引所の動向もSGXの企業誘致策に負けず劣らず、企業に優しくなってきています。

「昨年12月には香港取引所も種類株を発行する企業の上場を2018年中にも解禁すると発表した。中国のインターネット大手アリババ集団が14年に種類株を容認するニューヨーク証券取引所への上場を選んだ経緯があり、解禁を検討していた。」

このように、世界規模で支配株主のいる企業の上場が増える兆しがあります。世界の株式市場が「ゴルディロックス相場(適温相場)」とも呼ばれる株高相場を謳歌する一方で、世界中の証券取引所による成長性の高い“目玉”企業の争奪戦が株式市場の規律を緩めていることも見逃せないのです。

 

■ お前もか、ニューヨーク証券取引所!

こうした動きは、世界の証券取引の中心地のニューヨークでも見られます。

2018/1/18付 |日本経済新聞|朝刊 スタートアップ大競争 進化か過熱か(中)余るカネ、緩む規律 熱狂の先 耐えられるか

「スウェーデンのスタートアップ企業が計画する異例の新規株式公開(IPO)計画が米ウォール街で話題を集めている。
音楽ストリーミング配信世界最大手のスポティファイが検討する「直接上場(ダイレクトリスティング)」。通常のIPOのように新株を発行せず、既存株主のみに売買機会を与える。」

直接上場(ダイレクトリスティング)は、従来の新規株式公開(IPO)ではなく、新たな資金調達をせずに、既に同社の株主になっている従業員や創業者、その他の関係者や出資者が所有する同社の株式を直接ニューヨーク証券取引所(NYSE)に登録することです。そうした上場前の株主が持分をニューヨーク証券取引所における取引価格(いわゆる時価)で現金化することができるようになります。

しかし、一部報道によると、スポティファイがダイレクトリスティングを希望するのは、未上場株式の所有者に報いるためというより、通常のIPOを行って、一般の機関投資家から評価額や技術的な質問攻めに苦労したフェイスブックの二の舞になることを恐れてということらしいです。

ダイレクトリスティングによれば、上場による知名度アップが手に入り、と同時にIPOに絡む機関投資家からの厳しい評価も避けることができる、上場企業においしいやり口になります。しかも、スポティファイは昨年3月、10億ドル(約1100億円)の借入れによる資金調達を行っています。そのため、現時点で急いで資金調達する必然性も低いと言われています。

上場親会社や種類株に発行に伴う強い議決権を持つ創業者など、強力な支配株主のいる企業は、押しなべて好調時には強めに評価されるものですが、いったん間違った経営をした際の対応策が問題となり、株価も平均以上に低迷する可能性も高くなるというのがこれまでの経験則です。

これまでも株式相場が過熱すると、企業が少数株主を軽視した資金調達を繰り返し、不況時(不調時)に、発行スキームを変える(TOB実施などで完全子会社化など)というサイクルを繰り返してきました。

しかし、これには発行企業にとっては経済合理性があると断じることができます。なぜなら、株式市場の過熱が元で、子会社株式が実力値以上の評価が得られると考えれば、その時点で一部だけ公開してしまって、実力値以上の資金調達をする好機と考えるのは道理だからです。

要は、何が適正価格かを決して見失わない観察眼を持つことが大事ということです。

ようやく、前座の株式市場の状況を確認することができました。次回は、具体的に、ソフトバンクと鴻海のケースを見ていきたいと思います

(連載)
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(2)ソフトバンク親子上場に伴うコーポレートガバナンス問題とコングロマリット・ディスカウント問題を斬る!
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(3)本当に株主に報いる財務戦略とは 少数株主との利益相反解消策まで考える
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(4)ソフトバンク債、子会社の連帯保証が東証の独立性審査の影響を受けること必至!?
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(5)鴻海の世界最適地上場は日本の電機メーカーの対極にあり!

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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