連続増配銘柄をもてはやす一方で毎月分配型投信をけなす愚とは? – 長期投資と複利効果から見れば同じ投資姿勢であるべき

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■ 個人も企業も投資家という意味では同じ土俵で勝負しています

経営管理会計トピック

個人投資家が株式に投資することも、事業会社が事業に投資するのも、社会貢献などの利他的な動機づけも存在していることは了解の上で、ひとつの共通点は、その投資からリターンを得ようとする投資経済計算に立脚した投資行動であることには間違いありません。

2018/7/5付 |日本経済新聞|朝刊 投信で損失、個人の半数 過度な分配金や短期の売買あだ 金融庁「成績比べる指標を」

「投資信託を保有する個人投資家の半数近くが損失を抱えている――。金融庁が投信を販売する銀行に実施した調査で、こんな実態が明らかになった。過度な分配金や短期の売買で十分な運用収益を得られず、長期の資産形成に結びついていない。販売会社も改革に動きつつあるが、事態を重く見た金融庁は運用成績の共通指標などで顧客本位の徹底を求める。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「投信保有者の半分近くが損失を抱える」を引用)

20180705_投信保有者の半分近くが損失を抱える_日本経済新聞朝刊

記事によりますと、都銀や地銀の計29行の2018年3月末時点の運用損益に対する金融庁の調べでは、損失を抱える顧客が46%と全体の半分近くに達し、損失率が10%以下の個人が全体の35%を占める結果となったそうです。

アベノミクスの進展により、海外機関投資家およびGPIF(世界最大の運用機関)からの緩和マネーの流入で株価が堅調に推移している中で、本来なら個人投資家が高い収益を得ていいはずなのですが、実態はそうはなっていません。

いろいろと、理由は思いつきそうですが、記事では日本固有の投信の構造があるとしています。

(理由1)銀行や証券会社はかねて自らの手数料収入を優先し、個人の短期売買を助長している
(理由2)「毎月分配型」など、過度な分配金を顧客に支払い、元本の取り崩しが常態化している

(下記は同記事添付の「当期保有ほど運用リターンを得やすい」を引用)

20180705_当期保有ほど運用リターンを得やすい_日本経済新聞朝刊

つまり、要約すると、「現金配当などせずに、buy and hold, 長期保有で複利効果の恩恵に浴した投資がリターンの大きさという意味で成功する」

ということに尽きる、と解釈することができます。

(参考)
⇒「投信成績分かりやすく 通算損益を通知・報告書に簡易版
⇒「自社株買い急減速 1~6月48%減2.2兆円 株主還元から投資に軸足 – 金融庁が嫌う毎月分配型投信との違いとは
⇒「ここがヘンだよ!日本の株”主”会社(3)(ゼロから解説)「複利」を投資の味方に 投信、毎月分配型は利点生かせず
⇒「ここがヘンだよ!日本の株”主”会社(2)日本株に優待バブル 裏技でタダ取り、株価高止まり… 機関投資家「配当を軽視」不満強める

 

■ 個人投資家に対する説明責任は「フィデューシャリー・デューティー」で

あわせて、投信を個人に販売する際の販売者側に対する説明責任については、

フィデューシャリー・デューティー(信認を受けた者が履行すべき義務、受託者責任)」
2014年に金融庁が「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」の中で初めて用いた言葉で、顧客本位の業務運営を指し、金融機関は資産を預けている顧客に対し、利益を最大限にすることを目標に利益に反する行為を行なってはならない

という言葉をよく耳にするようになりました。金融庁はさらに、銀行や証券会社など、投信の窓口販売者に対して、個人投資家が投信の成績を比較できる共通指標を設けて公表させることを考えています。

指標素案
(1)運用損益別でみた顧客の割合
(2)預かり残高上位20商品のコストとリターン
(3) 預かり残高上位20商品のリスクとリターン など

 

■ 一方で企業側に対する複利による投資効果を促す働きかけは十分か?

個人投資家の株式からのリターンの源泉は投資先企業が行う事業投資からのリターンと通常は直結しています。個人投資家に長期目線での複利効果によるレバレッジを効かせたリターンの恩恵を浴することを推進したいのなら、企業側にも長期目線での事業投資を働きかけ、投資家(=株主)から預かった資金を十分に有効活用して、目一杯運用成績を上げてもらわないといけないはずです。

2018/7/4付 |日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)連続増配銘柄の底力 「安心感」買われ資金流入

「3日の東京株式市場で日経平均株価は続落。米国の保護主義への警戒感や中国景気への不安などを背景に、相場には不透明感が広がっている。そんな中、投資家の資金の逃げ場になっているのが安定成長を続ける銘柄で、その判断基準として活用されているのが増配だ。経営者の先行きへの自信を示すだけに、配当が毎年増えている銘柄は安心感が強く、物色の対象となっている。」

(下記は同記事添付の「連続増配銘柄の指数は日経平均を上回って推移」を引用)

20180704_連続増配銘柄の指数は日経平均を上回って推移_日本経済新聞朝刊

上記のグラフは、単純な高配当銘柄は日経平均を基準にアンダーパフォームですが、連続増配銘柄はアウトパフォームの優良銘柄で買い推奨の様で記事中でも説明が付されていました。

(下記は同記事添付の「主な連続増配銘柄の騰落率」を引用)

20180704_主な連続増配銘柄の騰落率_日本経済新聞朝刊

しかし、こういう増配銘柄の買い推奨の姿勢と、冒頭の投信の長期的投資姿勢の推奨とは、何か矛盾していないでしょうか?

株価は、現金配当などのインカムゲインと、株価そのものの値上がりによるキャピタルゲインの双方からなる株主価値、TSR(Total Shareholders Return:株主総利回り)で決まるものと筆者は考えています。

⇒「配当性向30% 横並び意識の強い日本企業への処方箋 ②株主との対話は株式益回りとPERからDOE、そしてTSRへ

残念ながら、高配当や連続増配というインカムゲインだけに着目した株主価値(≒適正株価)の議論は不十分であると言わざるを得ません。好業績の結果として高配当や連続増配がもたらされるだけです。原因と結果を取り違えると、意思決定で決定的な間違いを犯しやすくなります。

と同時に、企業経営者側から見れば、今度は経営者が投資家の立場になって、内部留保を事業への再投資に回して複利効果を得るか、税負担というキャッシュの社外流出を伴う現金配当としていったん株主に分配(資金の返還)するかを判断しなければなりません。

⇒「アマゾン77%減益 4~6月純利益 先行投資重視を強調 それがどうした。究極の経営は利益を上げないこと!

株主からの配当圧力に負けて、それなりのリターンとしてお返しするか、自分の事業投資家としての目利き力を信頼してもらって事業へ再投資させて長期的な複利効果を狙うか、経営者としての資質が問われています。

投信販売者には「フィデューシャリー・デューティー」が課せられていますが、企業経営者には「コーポ―レートガバナンス・コード」内で、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資する行動をとり、それを株主との間で透明性の高い対話で相互理解を高める必要があります。

20180707_コーポレートガバナンス・コード_基本原則5

その一方で、投信を販売する証券・銀行(運用会社など)は、スチュワードシップ・コードにて、責任ある機関投資家として、投資先企業やその事業環境に関する深い理解に基づく建設的な「目的を持った対話(エンゲージメント)」を行うことが求められています。

一方で長期投資を呼びかけ、もう一方では分配(社外流出)を働きかける、というのはなんとまあ矛盾に満ちた姿勢なのでしょうか。誰かのお金を預かって運用するのに、投信販売者(運用者)も、彼らの投資先となる企業の経営者も同じ立場ではないのでしょうか?

(参考)
⇒「ADワークス、個人株主を調査 「配当を重視」87% - 配当崇拝の誤りを正す! 配当は企業価値を毀損し、株主の利得を減らすだけ
⇒「ナッジで人の心理に働きかける(5)2017年ノーベル経済学賞受賞のリチャード・セイラー教授の行動経済学
⇒「配当性向30% 横並び意識の強い日本企業への処方箋 ①単年度決算主義の呪縛からの解放と真の株主との対話を促進とは?
⇒「ジェフ・ベゾス(1)長期的に見れば、顧客の利益と株主の利益は必ず一致するはずなのですから

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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小林 友昭
小林 友昭
現役の経営コンサルタントです。経営管理の仕組み構築や経営戦略の立案、BIシステムを中心としたIT導入まで手掛けております。
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