■ 世界の証券取引所が「議決権制約株式」の上場を拒めない理由はカネ余りだった!
前編の概要をかいつまんでご説明すると、
① 機関投資家はインデックスファンドを中心的に購入している
② インデックスファンドは採用する株価指数に準拠して組み入れ銘柄を決定している
③ それゆえ、機関投資家が好ましいとは思わない個別銘柄がインデックスに含まれる
④ 機関投資家が好まない銘柄の特徴の一つに、「種類株式(議決権行使制約株式)」がある
⑤ カネ余りの経済状態で、世界の証券取引所は「種類株式」の上場に好意的になっている
ということになります。
そもそもの本議論の発端となった新聞記事は次の通り。
2017/5/9付 |日本経済新聞|朝刊 (一目均衡)緩和競争に揺れる東証 証券部 川上穣
特に米国のITベンチャー企業において、企業防衛や経営執行権の独立維持と、幅広い資金調達を両立させるために、「種類株(多議決権株式、無議決権株式、黄金株など)」の発行はよく見られる光景です。株式公開したら、会社は社会の公器となり、創業者の勝手にはならない、その代わりに創業者利益を得て満足してください、という硬直的な上場ストーリーは過去のものとなりました。
エクイティファイナンスについて、発行企業、証券取引所、機関投資家、投信ファンド、税務当局それぞれの立場で異なる見解について、筆者なりに論点整理をしてきました。後編では、主に投信ファンド、税務当局の立場を考察してみたいと思います。
■ 日本の株式市場におけるインデックスファンドが占める位置はそれはそれで独特のものがあった!
現下の日本市場でインデックスファンドの立ち位置はどのようになっているのでしょうか?
2017/5/9付 |日本経済新聞|夕刊 (マネー底流潮流)指数連動投資、個人は遅れ 編集委員 田村正之
「指数に連動した運用をするインデックス投資の勢力が世界的に増大している。2016年も米国はインデックス投信に5048億ドルが流入、運用者が銘柄を選別するアクティブ型からは逆に3401億ドルが流出した。」
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
またまた、署名コラム記事を取り上げるのは少々抵抗があるのですが、興味を惹く内容なのでこれは仕方がない、、、(^^;)
インデックスファンドが世界的に資金を集める背景にあるのは、アクティブファンドに対する相対的な成績の良さが要因。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス調べですが、各国のアクティブ型株式投信が昨年末まで5年間、類似の株価指数に負けた比率は米国で9割弱、日本・欧州で7割強。新興国もほぼ同じという結果が得られました。いまや世界の市場はプロ同士の熾烈な争いの場。多くのアクティブ型投信は、相対的に重いコスト負担を取り返すほどには運用成績そのもので有意差を付けることは難しいようです。
振り返って日本市場の動向を同記事の内容から見てみると、
・日本株の公募投信も上場投資信託(ETF)を含めると8割がインデックス型
・ETFは巨額の購入を続ける日銀と機関投資家などの保有が9割超
・個人投資家の動向は公募投信のうちETFを除いた数値でわかる。今年3月末のインデックス型の残高比率は28%にすぎず、5年前より5ポイント低い
「内外株式や債券を含めた公募投信全体では、インデックス投信の比率は4割で、ETFを除くとわずか16%(イボットソン・アソシエイツ・ジャパン調べ)。日本株に比べて純資産が大きい売れ筋の低格付け外債、海外不動産投資信託(REIT)などは大半がアクティブ型だからだ。」
(下記は同記事添付の「日本株投信に占めるインデックス型投信の残高比率」を引用)
金融庁のデータでは、昨年3月時点で日米両国の純資産上位5投信のうち米国は4本がインデックス型だが日本はすべて高コストのアクティブ型投信になっています。その結果、上位5投信で日本は信託報酬が平均1.53%と米国の5.5倍の水準を払わざるを得ない状況になっています。過去10年の平均収益率が米国に大きく劣るのは、株価格差だけの問題ではないことがわかります。
と、ここまでインデックスファンドの肩を持ってきましたが、金融リテラシーが最も高い国のひとつを思われる米国でも真っ向から意見が対立しています。
2017/5/9付 |日本経済新聞|夕刊 (ウォール街ラウンドアップ)指数連動投資、個人は遅れ 編集委員 田村正之
「バフェット氏は常々、投資家から手数料や成功報酬を受け取るヘッジファンドを強く批判している。こうした費用は「ドブに捨てるようなもの」と手厳しい。総会の場でも手数料が安いインデックスファンドを広めた米バンガードのジョン・ボーグル氏を「最も投資家に貢献した人物」と称賛した。」
と、バフェット自らは独自の目利きでこれはと思う企業に集中的に投資を行うのですが、一般向けの発言としては、インデックスファンドが有利であるという姿勢を持ち続けています。斜に構えて聞くと、自分(バフェット)以外のアクティブファンドは屑だ、といっているようにも聞こえますが、そう表現するのは皮肉がすぎるのかもしれません。(^^;)
■ 中小企業オーナーの事業継承にも使われる「種類株式」の経済価値とは?
これまでに日本市場の特徴をまとめると、
① 日銀と機関投資家が大量に保有しているのはインデックスファンドである
② 個人投資家が好んで保有しているのはアクティブファンドである
③ 東証は議決権に制約がある類の「種類株式」の上場に否定的である
ということが分かりました。
議決権行使が制約されている代わりに、優先的に配当と残余財産の分配権が付与されている「種類株式」の経済価値について、日本の関係者はどれくらいと考えているのでしょうか。純学問的にいえば、優先配当と優先残余財産請求権というオプション価値の分だけ、普通株式より割高になっていると、考えるのが妥当な線なのですが。。。
「無議決権株式」はその対価として、①優先配当権、②優先残余財産分配請求権が付与されていることが多く、以下の考察でも、このモデルを用います。
① 無議決権
経営参加権を有していないため、会社経営への意思決定参加を通じた自己保有株式の価値の維持・向上の手段を有しない分、経済価値(オプション価値)は減殺されると考えられます。
② 剰余金の配当
優先配当金が満額支払われない場合、翌期以降、不足する配当金が累積していく「累積型」とその都度リセットされてしまう「非累積型」の違い、優先配当支払い後の残余額に、普通株式と共に配当に与れる「参加型」とそうではない「非参加型」とでも、オプション評価額は異なってきます。
③ 残余財産の分配
普通株式に優先して残余財産の分配を請求できる請求権にオプション価値を認めることは通常です。
ここで、オプション価値算定といきたいとのですが、本稿の目的ではないので、割愛させて頂きます。ただし、ここで言えることは、②と③の優先株式としてのオプション価値は百家争鳴、様々なファイナンス理論の大家が価値算定式を公表しており、ファイナンス実務の世界でも不通に使用されています。
ただし、「無議決権」のマイナスと思われるオプション価値(無議決権にオプション価値という表現が適切かどうかわかりませんが)に対する研究はそれほど進んでいません。しかも、議決権行使にともなう保有株式の経済価値の増減に対する影響額を算定することは、何がどういうシーンで議決権行使がされるか、その採択結果が株価にどういう波及効果をもたらすか、事前に知ることは困難なことが通常です。
それゆえ、国税庁も、中小企業のオーナー継承という目下の少子高齢化時代に突入した日本産業界の愁眉の課題について、相続課税の観点から、「優先株式」と「無議決権株式」の価値算定に一定の考え方を表明しています。
(1)優先株式
① 類似業種比準方式
・比較対象とする企業における普通株式と配当優先株式の1株当たり配当額の差と純資産の比率を求めて自社の優先株式の株価の参考にする
② 純資産価額方式
・比較対象とする企業の1株当たり純資産の比率を自社の優先株式の株価の参考にする
(2)無議決権株式
・原則は、議決権ありの株式と同じ評価額とする
・選択適用:同族株主が相続または遺贈を受けた場合は、普通株式の95%に減価する
これが何を指しているかというと、国税庁が中小企業の事業継承において、経営権の相続・承継を意味する「無議決権」の移転について、「無議決権」部分には経済価値を原則認めない、ということなのです。
株式市場で真っ当に「無議決権株式」を流通させようと、株価算定にオプション理論を用いて、何とか値付けしようと努力する人もいれば、相続・事業継承の容易化の観点から、「無議決権」部分の経済価値は原則認めないとする立場の人もいるということです。
中小企業の事業継承のスキームとして、無議決権株式を活用することは有効化と思いますが、公開市場で「無議決権株式」を円滑に取引させようと、適正な価格を求めることは至難の業と言わざるを得ません。議決権行使が保有株式の価値をどれくらい上げるのか、下げるのか、事前に判定できない以上、これまでの日本市場で、優先株式があまり日の目を見ない事情の一端をご理解いただけたでしょうか?
⇒「(一目均衡)緩和競争に揺れる東証 証券部 川上穣 (前編)「種類株式」を上場することの意味と影響について 」
(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。
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