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経営戦略概史(14)グラッグによるマッキンゼーの逆襲! - 難解なGE・マッキンゼーマトリクスを武器に

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■ 異分子だったグラッグがマッキンゼーで天下を取るための秘策とは?

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「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。ヘンダーソンが、ボストン コンサルティング グループ(BCG)を立ち上げたのと前後して、フレッド・グラッグが1967年(32歳のとき)にマッキンゼーに入社しました。彼は、オペレーションズ・リサーチ(OR)の博士号をとった後、ベル研究所で弾道迎撃ミサイル開発のプログラムリーダーを務めた後の入社で、ビジネス経験が全くないため、誰からもプロジェクト参画のお声がかからず、社内失業状態で悶々とした日々を過ごしていました。

当時のマッキンゼーは、BCGやべインに追い上げられ、70年代はファームとして最も追い込まれた最悪の時期でした。時のトップから戦略サービス部門の責任者に任じられたグラッグは、戦略サービス(組織改革やオペレーション改革以外の企業・事業戦略)強化策を次々と取り、戦略ファームとしての業界での地位を築き上げました。

グラッグが手掛けた社内改革は、本書(P138)によりますと、
① 世界中から若手コンサルタントを30人集めて2日間の戦略合宿
② (大前研一氏を含む)6人のスーパーチーム結成
③ 全パートナーに1週間の社内セミナー合宿
④ 社外向けの「スタッフ・ペーパー」を発表

という教育プログラムの実践により、戦略コンサルタントの育成に力を注いだのです。その功績により、パートナー達による民主的な投票で1989年にトップに選ばれました。

 

■ 今でも難解だと言われている「GE・マッキンゼーマトリクス」とは?

当時、大流行した「BCGマトリクス」に対抗するため、マッキンゼーでも数々の戦略コンセプト、戦略ツールが開発されました。残念ながら、現在まで生き延びているツールはほとんどなく、グラッグですらあまりの複雑さに戸惑ったとされる「GE・マッキンゼーマトリクス(GEのビジネススクリーン、GEマトリクス)」がその中でも名が通ったものとして、かろうじて各種教科書で紹介されています。

経営戦略(基礎編)_「GEビジネススクリーン」の見方

ご多分に漏れず、この種のマトリクスは紹介されていくうちに、英訳のされ方の影響もあり、縦軸・横軸の命名が様々で、縦横が逆になって紹介されているものもあり、もはや原型をとどめずに世の中に広められました。本書でもチャートで紹介されていますが、ここは、それも参考に、筆者が数多くの紹介事例から一番自分がしっくりしたもの+自分好みに味付けして、下記に図示します。

まず、筆者は、「GEビジネススクリーン」という名称で記憶していました。これは、「事業(市場)の魅力度」と「その市場での自社のポジショニング」のマトリクスを構成し、構成要素ごとに、事業戦略を選択的に適用しようというものです。使用方法は、「BCGマトリクス」と同様で、複数事業を有するコングロマリットや多品種生産をしている製造業など、事業ポートフォリオ、製品ポートフォリオの意思決定のために活用することが前提の思考ツールです。

「BCGマトリクス」の後から登場しただけに、先行ツールを上回る意気込みの分、複雑で理解が難解な物となってしまいました。ビジネス界での知名度という点では、とうとう本家を乗り越えられなかったのではないかと感じていますが、ポートフォリオ管理のための思考実験・思考材料として、どういう要素について考察すべきかについては大変示唆ある情報を提供してくれているので、中身をじっくり見てみたいと思います。

「BCGマトリックス」は2×2のシンプルで分かりやすいフレームワークですが、それゆえの限界がありました。1つ1つの事業・製品単位を、単純にその時の「市場成長率」と「相対シェア」のみで捉えるため、分析時点の低シェア事業・製品について、追加投資を行って育成を図るべきか、思い切って損切りをして撤退をするべきか、という判断を誤る(その判断に資する情報を提供できていない)可能性がありました。

その一方で、「GEビジネススクリーン」は、長期的な市場(事業、業界)の魅力度を測定し、同時に、その市場における自社の競争的ポジションも定義づけを行い、その上で、自社が手掛けている事業の相対的市場シェアと市場の大きさも可視化するという4要素が盛り込まれた分析ツールになっています。これだけ参考指標が揃っていれば、事業投資判断を誤らないだろうというわけです。(^^;)

 

■ 「GEビジネススクリーン」上での戦略的判断のパターンには3つある

自社が手掛ける(またはこれから手掛けたいと考えている)事業・製品ポートフォリオをチャート化した上で、それぞれの戦略的意思決定単位について、

① 強化・増強(もっと投資して積極的にリターンを求める)
② 現状維持(新しいことは何もしない)
③ 撤退or利益回収(より悪い状態にならないように手を打つ)

という選択肢を提示します。

経営戦略(基礎編)_「GEビジネススクリーン」上の戦略的選択

「BCGマトリクス」を下記に再掲します。

経営戦略(基礎編)_企業全体でのお金の流れ

「BCGマトリクス」では、「問題児」「金のなる木」に該当する戦略的意思決定単位が、「GEビジネススクリーン」では、「撤退or利益回収」にカテゴライズされます。「BCGマトリクス」は静態的分析結果をもって、動態的に内部資金を「金のなる木」から「スター」や「問題児」に移行する判断を促します。その判断の間違い比率を決定的に減らすために、「GEビジネススクリーン」が提唱された、と一般的に解説されています。

しかし、筆者から見れば、「事業の魅力度」と「自社の強み」というのが抽象的すぎて、「GEビジネススクリーン」が動態的にポートフォリオの姿を写像していて、判断を間違いにくいとは決して思いません。

 

■「GEビジネススクリーン」の縦軸・横軸をどうやって定義するか?

この「GEビジネススクリーン」というツールが使いやすいものになるかどうか、分析結果が妥当なものになるかどうかは、抽象的に表現されている縦軸・横軸の意味づけ次第ということになります。そういう曖昧さが残り、かつ多義的で、具体化に知恵を絞る選択的判断が必要なツールであるからこそ、戦略コンサルティングファームのサービスメニューとしてクライアント企業に売れるのも事実なのですが、、、

ここでは、代表的な縦軸・横軸の意味づけの候補を紹介しておきます。

<縦軸:事業の魅力度>
・市場規模
・市場成長率
・市場平均利益率
・競争度合い
・マクロ環境(社会、政治、技術、経済)の影響
・参入障壁や撤退障壁となる規制や市場状況
・必要な技術要素の難易度
・必要資本量(参入障壁となる最小事業規模は?)
・機会や脅威の出現頻度予測

<横軸:自社の強み>
・相対的シェア
・シェア成長率
・コスト競争力
・技術力
・製品・サービスの差別化要因
・経営能力
・コア・コンピタンス
・ブランド力
・製造キャパシティ

さらに、縦横軸の決定方法についても、いくつか方法があります。上記に挙げた例から一つの要素のみを自社の都合に合わせて選び出して設定する方法と、いくつかの要素を組み合わせて、それぞれの要素に重みづけ(ウェイト付け)をして、指標化して、魅力度と自社ポジションを推測しようとするものです。

例)
1)市場の魅力度について、「市場規模」「市場平均利益率」「機会や脅威の出現頻度予測」の3要素を選択
2)重要度から、それぞれに重みづけを行う
   「市場規模」:50%
   「市場平均利益率」:30%
   「機会や脅威の出現頻度予測」:20%
3)各要素の採点を行う
   「市場規模」:5点
   「市場平均利益率」:1点
   「機会や脅威の出現頻度予測」:3点
4)評価基準の計算を行う
   「市場規模」:5点×50%=2.5点
   「市場平均利益率」:1点×30%=0.3点
   「機会や脅威の出現頻度予測」:3点×20%=0.6点
    合計:3.4点

絶対値として、この3.4点には意味はありません。比較すべき他の戦略的意思決定単位との相対評価でしか判断することができません。3.4点と比べて、2.1点は低いとか。

ここまで概略を説明しましたが、実務的には大変手間がかかるものであることがお分かり頂けたかと思います。それゆえ、シンプルで分かりやすい「BCGマトリクス」に比べて、この「GEビジネススクリーン」はそれほどビジネス界に浸透しなかったわけです。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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